あと今だから言いますがシカムの名前の由来は屍姦です。
レギエルAfter:仮面ライダーアスモデウス前編
黒田翼は、頻繁に面会や取り調べに応じる。目的も失敗し、「敗者」となった自分には、その誠実さが必要であるという彼オーディンなりの流儀のようだが。
明路は、いささか重苦しい視線を向ける。
「……つまり、お前の言う通りなら、売った相手はこれで全てという事か?」
「そうなるねえ。苦戦はしなかったかい?」
「キー無しでの、第二体の開放、聞こえは恐ろしいがシェイドほどの力もないからな……」
「あんま量産もできなかったからね、数で負けるなんてことも無かったろう?」
「ああ……だが、問題になるのは『まだ第二体の湧出の痕跡がある』こと……だと」
春子から軽く聞いた今の状況。……それは、シェイドを用いた犯罪の未根絶を指す。
「むむ……」
「知っているか?」
いささか威圧的な明路に対し、翼はゆっくり首を横に振る。
「……ひとまず信用する。お前はこの状況で嘘をつくようなヤツではない」
「ラグナロクはあきらめていないよ」
「だが今は無理と判断した、そうだな」
「まあ、ね!」
そうして、明路が立つ。翼への「信頼している」は相手を気分良くするリップサービスで、実際は大して彼のことを信じているわけではないのだが……。
そんな彼の背中に、翼が言葉を放つ。
「そういえば……盗まれたやつがあったかなぁ」
「何?」
「破棄予定の試作品、隠れ家から一個消えてたんだ」
「…………なんだと?」
「盗まれたかもな。指紋の調査でもしてみたらどうだい?」
「そうか。助かる」
去っていく、明路。守衛たちに送られながら、重い扉はずしんと面会の終わりをつげ。翼はどこか面白そうに笑む。
「……しかし、私達のことを知っていて、なおかつ盗むという選択を取る……シカムの関係者かな?」
「足で調べるなんて、いつの時代よ」
『仕方ないだろう、結局シェイドに関しては公には捜査がしづらいんだ』
「前は公安とか科捜研頼ったじゃない」
『今回もそうしてはいる……だが、手がかりが少なすぎる』
春子は電子タバコをいつ吸おうかといじりつつ、ため息をつく。実際得られた捜査の手掛かりは「この辺で変身したらしい」という、情報ぐらい。
結局のところ、明路も春子も出向くことになり、特に春子は装置を持っての科学捜査という役割である。
「……通常の抽出機じゃあない、わね」
『やっぱり?』
通信相手その2、留一。春子は「そーよ」と返し、調査を続ける。あれからアルカナキーは本人の預かり。通常の抽出機なら、起動することももしかしたらあるかもしれない。……基本的には、しないように言っているが。
だがこの痕跡はそうではない。黒田ふたりが最初に作った、キーなしのそれと同じ……というよりかは、近いもの。
……と、そこへ。
「……!」
「っち、避けられた!」
「ずいぶんエフェクトのかかった声、正体は隠したいってわけね?」
まさか、お出迎えが来るとは。まさに試作型抽出機で変身した、シェイドゼロそのものである。だが、どこかまがまがしい空気も纏う……。何も改良をしていないわけではないようだ。
『Taoism……Human power without god's hand』
「変身!」
『Fitting……OK. Five senses assist is ready』
仮面ライダータオ、その蹴り込み。明路と別行動をしている現状、二基あるタオイズムドライバーをそれぞれが持った方が良いという判断だ。
「だァ!」
大きく構えて放つ拳をかわされ、しかし春子の次は早い。そのまま蹴り上げ、かわした敵の頭を両のつま先でつかむ。
「っが」
「だァァ!!」
そしてそのまま引っ張り上げ、叩きつけ。すぐさま肘を落とす追撃! シェイドゼロの拳を簡単に流すと、至近距離でタオブラスターとゴスペルブラスターの連続射撃。
「っく……」
「待ちなさい!!」
一瞬シェイドゼロのシルエットがブレたかと思うと、現れたのは分身。それぞれ思いっきり蹴り込み撃ち込めば消えるが……本体からは逃げられた。
「くそッ!! ……ごめん明路、留一さん。逃げられたわ」
『いや、しかたない。私達も判断ができなかった。そもそも分身さえしなければ余裕だったし』
『声はエフェクターがかかっていたが、それでも特定の一因にはなるだろう』
「それはあいつが偶然来てくれたからよ。……一応、第二体の形質はキャッチ出来たけど」
『……あと、多分なんだけど』
「何?」
『タオに指紋ついてるよ』
「……そっか、シェイドゼロは前世の能力がないぶん、肉体の変化はほとんどない」
見た目は黒い怪物だが、それはあふれる『力』が人間の目にはそう見えるという話。実際に何か変化が及んでいるわけではない。
……まあ、顔が見えないという問題はあるが。
「……いったん戻るわ」
『そうだね……』
さて、尻尾が掴めないことが問題である敵だ。それは難航する……と、思われたが。
「指紋データベースに照合? ……犯罪歴がある?」
「どうやらな。……万引き常習犯『だった』」
「今は更生して、フツーの社会人」
「そいつがあたしに殴り掛かってきたってこと?」
「そうなるな」
「……なるほど」
名前は大城浩太。フツ~の一般人である。万引きはストレスの末にやってしまう、そういう精神の病の類の末のものようであった。……とりあえず、治療の記録はないが、もう万引きはしていない。
……今、ストレス発散をそこに求めている?
「オーディンから盗めるような大物には見えんがな」
「黒幕が居ると言っていいだろうね」
「どうする?令状出して突撃はたぶんできるけど……」
「会合の痕跡も欲しい。彼をしばらく張った方が良いんじゃないか」
「公安に任せる……のは、危険か」
「地獄側に頼む?」
「アモン、アスタロト、ベルゼブブ、モリガン……」
一瞬考える三人。出した結論は同じであるようで、「任せられるヤツはいない」。……一応アモンならできなくもないだろうが、しかし人当たりがあまりよろしくない。
「俺たちでやるほかないか……」
「やっぱり明路がやることになるかしら」
「だねえ……」
さて、行動開始である。
レギエルAfter
仮面ライダーアスモデウス
「……そこまでの話が、コレとどうつながるのです?」
「端的に言えば、対象は一切尻尾を出さない」
「ふむ……」
拘束具に固められたまま姿を見せたのは、更科桃色。……アスモデウスである。面会室、どうやら舌を噛み切ることはあきらめたのか口の拘束具は外れさたまま彼女が座っている。
明路はどこか辟易としたようなツラで、彼女に向き合う。
「端的に言えば……アスモデウス、お前の捜査力が要る」
「……更科桃色で結構」
「……。それで、」
「私へのリターンは?」
まっ白い長髪をゆらし、アスモデウスは笑む、妖しく笑む。それは、どこか皮肉めいて自嘲的でもある。
「沢黒マシロの遺体へ、触れる権利。」
「……え」
「それが……交換条件だ、いいか?」
「は、それ……って!」
立ち上がろうとして、防がれてジャラジャラと拘束具が鳴く。おちつくように腰を椅子に落とすが、それでも桃色は隠せていない。およぐ視線を……。
「なんというか……品のない話だが。まあ、そうだな。読み上げるのも気が引ける。この通りだ」
明路は、ガラス面へ紙を押し付ける。書かれていたのは、沢黒マシロの遺体の状況だ。
「……解凍後、血流を操作可能、腐敗させずに、体温を正常化可能。また、陰茎の勃」
「読み上げるな頼むから。」
「…………ははあ、なるほど……なるほど。」
「とはいえ、シェイド犯罪者の解放であり、能力を使うために第二体も部分的に扱う。……好き放題とはいかないぞ」
「……つまり?」
「タイムリミットは48時間。そこまでに解決に運べれば」
「マシロ君を屍姦できると」
「ああ。……はァ」
「そちらから持ち掛けた話でため息とは。……いささか、失礼では」
「ごちゃごちゃいうならこの話は終わりだ」
「すみません分かりました、ヤりますお願いします。」
明路はいち感情で物事をご破算にするタイプではない。今のやり取りも、彼女との交渉、特に「シカム」というエサなら揺さぶりを挟んだ方が良いという、黒田八千代ことスレイプニルからのアドバイスだった。
「交渉は?」
「成立です」
「……分かった。感謝する。これを期に、自殺もあきらめた方が良い」
「とっくに諦めていますよ。別に彼のところに行けるわけではないと気づいたので」
「そうか」
席を立った、明路。その肩に、細く桃色が声を吐く。
「その……雨野菜摘に会うのは、避けるようにはできませんか」
「……善処する」
「すみません。正当性や善悪は置いておいても、彼を見た時に、冷静でいられる自信はないので」
シカムの仇であるレギエルには会いたくない。当然と言えば、当然である。
たとえシカムの自業自得だったとしても、だ。
「解放は明日の朝6時。改めてこちらで指示するが、言っておくと内容は憑依による尾行だ」
「わかりました」
刑務所を出て、少し歩いて。コンビニでタバコを買った春子と会って、車に戻る。
「電子タバコ、どうだ?」
「思ったよりかはいける」
「そうか」
「やめろとは言わないのね?」
「それでストレスが溜まったら本末転倒だ。1日、吸うにしても数本だしな」
「そっか」
助手席の開いた窓から、春子が煙を吐き捨てる。数秒、静寂と車が風を切る音。
「沢黒マシロも、犯罪者でどうしようもないカスだったけど……人間としての権利がある。屍姦をさせるなんて、警視庁もどうかしてるわ」
「概ね同意だが、沢黒マシロはあらゆる臓器提供や治験、解剖などの意思表示を残していた。……それどころか、遺書で、「自分の体は好きにしろ」とした上で血判と印鑑まで押している」
「……予想してた、ってわけ?」
「おそらく。遺書は更科桃色の逮捕後、日向葵との逃走中に書かれたようだしな」
「ふぅん……愛、なのかしらね」
「さあな……人間の身体をぞんざいにしたい一心かもしれん」
「どっちだと思う?」
「……少なくとも、アスモデウスを愛していたのは確かだ」
「更科桃色、じゃなくて」
「アスモデウスだ」
タバコのにおい……というより電子タバコのどこか独特なにおいが、吹き込む風に流されていく。
さて、当日。
通勤路に、ごく普通にその男は現れた。
「……目標、確認しました」
『憑依してくれ。キーの突き立ては目立つから……』
「ええ、分かっています」
『アスモデウス』『デス』『融合解放』
第二体を再構成したばかりで、まだ体になじみ切っていない。……可能なら慣らす時間も欲しいが、むしろ抽出機を介させることで制御も容易にしたい。
『憑依能力に問題はないな?』
「知覚されなければ無制限です。体を乗っ取るとなるとさすがに気づかれますが、視覚を盗み見る分には問題ありません」
『テレパシーで喋ることはできるか?』
「すでにこれはテレパシーです。受信機は問題ありませんね」
『なら、作戦開始だ』
「了解」
シェイドデスのまま触れるとなると、さすがに難易度が高い。憑依済みの人員とぶつけることで、その隙に……という作戦だ。
まあ、相手は素人。念を入れて警視庁と無関係の自衛官に役者を任せたがその必要もないほどすんなりである。
「現在、都営浅草線三田駅で乗車。二番線です」
『了解』
「……言うまでもないですが、怪しいところはありません。今はスマホでニュースを……次はゲームアプリ。SNSはツイッターとディスコードのアプリケーションが入っています。内容が確認できたらそのタイミングで言います」
『どうも』
案外、というか非常にまじめに取り組んでいる。彼女としても、マシロの身体がかかっているがゆえだろう。
「現在浅草で降車……ああ、オフィスに入りました。………………業務、開始。メールのチェック・返信のようです」
『業務内容や、企業自体には違法性や不審要素はない。何か問題があれば報告は頼むが』
「分かっています」
とはいえ、やはりそこは警察の調査通り。……普通の、IT会社である。
「違法な様子はありません」
『だろうな……』
勤務時間、10:00~19:00。普通である。
結局昼休憩のあいだに見ていたツイッターも、フォロワー10人そこらのアカウントで愚痴をつぶやくのみ。仕事内容……というよりは人間関係とか、そういうの。
ゲームの話とか、VRの話とか……愚痴以外の内容も平凡である。いわゆる『オタク』という感じの人種だが、珍しくもない。
「……帰宅しました。お風呂と……ご飯を温めています」
『そうか』
帰ってからも、普通。
ゲームを遊んで、ダラダラとSNSを見て……それで、夜が過ぎる。
「就寝……の、前にオナニーですね。モノは」
『掘り下げなくていい……』
『次その話したらぶっ殺すわよ。……いやまあ異変があったら言ってほしいけどさ』
「本の趣味は悪くありませんよ」
『だから何なのよ』
『本当にやめてくれ……』
「分かりましたよ。おっと、入眠前にASMRを聴くようです」
男がデスクトップPCを操作し、ソフトを起動する。……だが、しかしその手に取ったのはイヤホンでもヘッドホンでもない。
VRゴーグルだ。
「映像を見……。いや、光の、明滅ですね」
『何?』
「入眠を促すとかでしょうか……聴覚に切り替えて、み……ま、したが。おお、なかなか、いい趣味を」
『……』
「いわゆる耳舐めなのですが、お姉さん物で」
『解説はいい。異常性はないか』
「ええ……まあ」
不審さは、拭えないが。
……出社と同時に、シェイドデスは離脱。自衛隊員から飛び出て、キーを抽出機から引っこ抜いて。車内で、桃色は明路・春子と合流した。
「お疲れさま。寝ても構わないぞ」
「『お疲れさま』、ですか。……48時間でしょう。寝てる暇はありませんよ」
「……そうだな」
「紙とペンを。いちおう、彼の聞いていたASMRのセリフは反芻して記憶しました。検索し異常性がないか調べてください」
「ああ。春子、そっちの収納にあるやつを」
「えェ?付箋しかないじゃない」
「構わないので早くいただけますか。忘れますよ」
「ほら、これ」
「どうも」
すらすらと書きだす、淫靡なセリフたち。……お姉さん物というだけあり、甘やかすような内容である。
「はい、以上です。土田春子、あなたはこれを検索してください」
「これを手で打てっての?」
「そうですが?」
「……検索履歴残んないようにしよ」
スマホをいじる春子、運転中の明路。外を眺める桃色を、春子は一瞥する。
「にしたってあんた、随分マジメにやるわね」
「言ったでしょう、抱きたい男がいると。……そもそも、言い出したのはあなた方ですし」
「……俺たちレイフとしても不本意だ」
「おや、では警視庁が」
「そうなるな」
「ふむ……」
シカムの書き残したことを、察してか否か。桃色はそれ以上はその話を続けることはなかった。
「……そういえば彼、……大城浩太でしたっけ?起動しているソフトが『VRチャット』だったんです」
「へえ」
「VRチャット……?」
「仮想空間で他者と戯れるSNSのようなものです。……変ですよね、これから寝るというのに」
「……ゴーグル内で、光を見たと言ったわね」
「赤い明滅です」
すこし、考え込む三人。そこに、通信中だった留一が割り込む。
『明晰夢……?』
「何?」
『いや、なんていうか、赤い光を見ることで、夢の中であることを知らせるみたいな』
「……夢の中での、会合か。あり得るな」
明路のつぶやきに、みな「それか」と電流を走らせる。
「これ、私が居なくてもわかったかもしれませんね」
『どうだろう、そうとう強力なプロテクトをかけてるだろうし、ぱっと見はただのVRチャットで……まあ、いちいちどういうワールド行ったとか行ってないとか、調べないだろうし』
「そうですか、ならいいのですが」
「……彼のVRチャットをはぎ取るか?」
「ゴーグルの事? 家に忍び込む?」
「尻尾きられて逃げられるだけでしょう」
「まあ、だろうな……」
「……」
さてどうするか、そんな作戦開始の空気の中、桃色が口を開く、
「彼の声になるボイチェンを作り、シンプルに寝る直前にぶちのめして機材を奪うんです。誰にも悟られぬよう隠密に」
「それは……いや、それ、は」
「どうせ探れば試作型抽出機は出るんです。口実はいくらでも用意できます」
「あたしは賛成」
『ボイチェン作るのってもしや私?』
「お願いできますか」
『……仕方ないなあ』
「決行は今夜でいいですね? 私が事前に取り憑いておき、入眠直前に飛び出し拘束、あとはあなた方で彼を見張りつつ、私が眠る。彼のことをよく知るのは私のはずですし」
「体を乗っ取るのではダメなのか?」
『シェイドアスモデウスならともかく、シェイドデスであればできて1分です』
「そうか……」
そうなれば、話は早い。車をとめ、桃色は降車。オフィスから出た社内の人間を伝って、大城の体に再び入る。
ひとまず、今回は聴覚……彼の会話を聴き、演じるための材料にするのだ。
「では、よろしくお願いします」
『ああ、聴覚の邪魔にならないよう通信は最低限で構わない』
「了解しました」
「作戦完了です」
べったりノビた大城の手を縛りながら、桃色は通信を飛ばす。その手には、VRゴーグル。
「セットアップも完了。皆さんもいますか?」
『俺が遠方から見守っている』
「了解しました」
『あんた詳しいのね、VRチャット』
「ああいうコンテンツは最新鋭の出会いの産み場ですので」
『あっ、そ…………』
「まあいわゆる『お砂糖』は」
『聞いたあたしが悪かったから。必要ない補足なら早く寝て』
「まあ待ってください。ホットミルクが飲みたいです。ちゃんと寝るには必須でして」
『刑務所でどうしてんのよ?』
「さあ。自慰か自殺を図って失敗して、気づいたら朝方に疲れて寝て朝に起こされるので」
『……どうする明路』
『遣いをやるのはリスキーだが、上手く入眠できないのもな。大城の家のものを使おう』
ひとこと了解と返すと、更科桃色、爪先立ちでミルクを電子レンジに。手袋をつけるあたり相応に警戒はしている。
「んく……終わりました。今から入眠します」
『了解した』
ゴーグルをつけ、音声を聞きながら……。
VRチャットにはMODのようなものが入っているらしく、また別のソフトも同時に立ち上がっている。ともあれ、じわじわとまどろむ感覚を覚えながら……。
「私、そのォ…………お姉さんものは、……趣味ではなく。メスは…………オスからの、屈服が……」
『……』
眠りかけなのはわかる声だ。知るかと言いたいところだが、それで目を覚まされても困る。
とにかく、見守られながら、口元にボイチェン用の装置をつけて、更科桃色、眠りへ。
「よ!」
声をかけてきたのは、動物の特徴を持った少女。
「よっすー」
「今日どうだった」
「クソ、相変わらず」
「やっぱり?」
演技もボイスチェンジもうまくいっている。更科桃色は、あまり普段と背格好の変わらないアバターで、交流開始。
甘やかされるならお姉さんだが、なるなら少女……そう言う男らしいとか分析しつつ。
「キャッスルさん昨日も荒れてたもんね」
「いや、それはごめん」
大城だからキャッスル。シンプルなハンドルネームだ。
「いいよいいよ、カストラさんはそういう人こそ必要としてるんだし」
「……だな」
「でも、反省はしたまえよ?」
突如、かかる声。名前は……castra。カストラとか言う奴の登場だ。
リーダー格だろうか。その姿は、穏やかそうな青年のアバター。
「すみません……」
「君が私の役に立ってくれようとしたのはわかるよ。次からは、落ち着いてくれればいい」
概ね、なんの話かはわかった。
「あの後、僕追われてますかね?」
「シェイドゼロは指紋も残る。君は昔、万引きもあったしねえ……追われるだろうさ」
「……」
「大丈夫さ、私がついている。君たちのような優しい人が苦しむ社会に鉄槌を下すんだ」
手を広げる彼は、聖母の、ような……。
そして、桃色はなるほどと納得する。女性アバターを使いがちなユーザーにこそ、この『包容性のある男』のビジュアルは来るものがあるのだろう。
個々人の性的嗜好にはよるが……性愛であれプラトニックな崇拝であれ、そのカリスマがこの男にはある。
「みんなも、苦しかったろう? 彼の焦りを責めてはいけない。私が全て受け止めるさ」
やさしく微笑めば、その声に他のユーザーたちが口々に応える。
更科桃色は、声色やフルトラッキング……要は全身の動きを拾う3Dモデル。それらで、察することができた。その愛や欲望が……。
2、30人は居る。信奉者……『愛人』と呼んでもいいが、ともかく、今日ワールドに訪れているそれらだけで、2、30人だ。
「ねえ、カストラさん!」
「聞いて、つらいことが……」
「その、僕今日実は家出しててさ、」
口々に話しかけられつつ、カストラはそれぞれに「私は聖徳太子ではないよ」とか言いながら、それに応えている。
やはり、カリスマ。
いわゆるハーレムのような光景だが、史実の……アラビア圏の後宮のように、その『愛人たち』も穏やかに過ごしている。
恋だけではなく、シンプルにカストラの思想への共感者もいるのだ。『そういう』仲同士らしき面々もいる。
「とはいえ、君が追われるなら対処はしなきゃいけないね。どうしようか」
そう言って、彼は大城のアバターへと歩み寄る。……好機だ。
「……そ、その、」
「どうした?」
「せっ、先制攻撃です! 僕たちで……お、オフで集まって、そして、準備を……」
「……ふむ、悪くないかもね」
食いついた。
「遅かれ早かれ、戦うことになっていたし……数は十分だ」
「……!」
「我々のようなインテリは肉体を捨てる……その前に成す、身体を使った仕事になるね。戦えそうかい?」
「できます!」
「うん、いい子」
カストラが、優しく笑む。
「サタンもきっと喜ぶ……もう通信も途絶えたが、どこかで見てくれるだろう」
「さた……」
あまりに、急な発言。通信の途絶えた、サタン? 代理のベルゼブブなわけがない。絶対にシカムだ。
そうか、抽出機の盗難はシカムの手引き……。だが、追求はできない。桃色は問い詰めたい気持ちを抑え、大城浩太としてふるまう。
「こっちの話さ。じゃあ、決行は……キャッスルちゃんはどう思う?」
「……明日の、明日の早朝、早い方がいいと思います」
「そうか。うん、ありがとう。相変わらずせっかちだが、今回はそれがいい。明日の、いや今日の6:00。今0:15で……みんなはできるかい?」
あなたが言うならと、他のユーザーたちが拳を突き上げる。
「うん。6:00に……国際フォーラムにいて。あまり集まろうとしなくていい。抽出機を通して連絡するから」
カストラはそう告げ、短いけど今は休むんだとひとこと。その、空間を閉じた。
「……カストラさん」
「さて、何か言いたいんだね」
残されたのは、彼とそのそばにいた1人のユーザー。
「キャッスル氏、怪しくありませんか」
「そうだね、警察に脅されてるのかな?」
「成り代わっている線は」
「んー、わかんないけどキャッスルちゃんっぽかったし。別人ってことはないんじゃない」
「まあ、そうですね」
「まあ、予定通りやろうか。彼はきっと警察に脅されている。私たちの愛で救ってあげなきゃいけない」
カストラは、余裕の笑みを浮かべる。