「おはよ〜!」
「んぁ……浅井さん……」
朝8:00。菜摘を揺すぶったのは浅井留一だ。1人で家に居るわけにもいかないということで、彼はレイフの応接室で寝ていた。仕事が仕事故仮眠でソファで寝るのはまあ慣れている。
「寝心地どーぉ?」
「まあ……ソファだなという感じです。北欧の家具ですか?」
「よく分かったね!デザイナー的にこのインテリア配置の評価をお願いしたい!」
「素敵な家具たちだと思います。……ちょっとコンセプトがとっ散らかってる気もしますけど」
「参考になったよ!いや私が配置担当でさ。今動かすけど気にしないでね」
浅井留一は案外力持ちなようだ。特に菜摘の手を借りずに動くその手はテキパキとしていた。
「そういえば!君を狙ってることを考慮して今日は家に帰るんだよね?迎撃っていうのかな」
「……っはい。明路さんと一緒に」
「私も同行していい?」
「え?構いませんが……大丈夫なんですか?」
「えっ何が?」
「いや開発中のものとか」
「あー大丈夫。もうこれだけでいけるからさ!」
トランクケースを2つ持ち、ニコニコしながら浅井は行くよと告げる。ただ急かすつもりはないようで、起きたばかりですと言いつつ準備する菜摘を、これまたニコニコ眺めていた。
「車お願いできるー?」
「いいですよー」
「ごめんねー!車内でちょっとメンテの続きやるからさ」
トランクケースを開き、中の銃型の装置にPCを繋ぐ後部座席。後ろのトランクルームにもう1つ入れつつ、留一はいつも通りのヘラヘラした態度だ。
第五話「青き道の弾丸」
「バン、貸してくれるんですねレイフから」
「そりゃ一応仕事だしねコレ。最近どう?精神的にいろいろ……さ」
「……この3年間、湖冬に見せたくないことばかり起きるなぁ、って。……親友、でした、日向さんは。割といろんなこと仲良い、明るい子でしたけど、僕たちとは仲良くて、特に」
「人生の先輩として助言でさッ」
「……はい」
「そういうのって、一緒に見てたら気にならないんだよね〜。ちゃんコフに見せたくないってよりはなんだろ。ちゃんコフ以外と見たくない、みたいな」
目を見開き、軽く頷く姿が車内のルームミラーとフロントガラスに映る。そしてつらそうに少し笑い、いつも通り冗談めかし。
「……ちゃんコフって呼んでたんですね」
「そだよ〜なっちゃん。彼女本当に頼りになったし!感謝してたのね。まーー、ちょっと理屈っぽい子だったけど」
「本当はどうでした?」
「めちゃくちゃ死ぬほど理屈っぽい。ま、だからこそミチくんはちゃんと自分のやることがわかってたし、無力感なんてのはなかったかな」
無力感。……今の明路を蝕むものだ。
「僕が……上手くできてないから」
「いや言い直す。顕在化しなかった……かな!爆発してたかもね〜。彼女の論理的な物言いも、君の優しく真っ直ぐな物言いも、多分どっちも必要ってこと」
「どっちも、ですか」
「……アキエルとしてだけじゃなく、地島湖冬って子の持つ個性がみんなに必要だったってこと。レイフで開発中のアレコレのデザインも噛んでは居るし〜?」
「……フフ」
「どしたの?」
「いや、劣等感とかなくて、なんか誇らしく思えて。ちゃんと僕が……湖冬が好きって改めてわかって嬉しくて」
惚気の如き一言。留一はそれを喜べる程度には、卑屈的でない者であるし悲観的でない者だ。
「ま、みんな、君に対しての接し方ほど深く関わっては居なかったよ〜。彼女自身を尊重するという姿勢でありたかったようだねえ」
「……」
「結果、煽りを受けたのは……いや、こういう言い方良くないかな」
「……まあ、気持ち良くはないです」
暗い空気の残るバンが、数十分ののち菜摘の家へ。案外丁寧に「お邪魔します」など言ったりしつつ、留一は上がり込んだ。
簡素である。生活感はまあ、なくはないという程度。
「……こ、」
「……?」
ここと言いそうになるが流石に良くないなと口を慎む留一が通り過ぎたのは湖冬の部屋。
一切の家具や道具がそのままになっていた。しかし埃ひとつ、ない。隣にある菜摘に部屋はいくらか物が散ってるし、多少なら埃は散見されそうだというのに。
「こちらに」
「広い机使っちゃっていいの〜!?」
「ええ。僕の仕事も今月が納期のものは終えてますから。休んでます」
「いちおー私の目が届く範囲にいてよォ? ってか早いね」
「仕事……少なめに取ってるだけです」
「なるほどね。すごぉい失礼を承知で聞くけどお金ダイジョブ?」
「まあ、結構溜めてましたし」
にこっと笑いながらテーブルに着く菜摘。機械をいじる留一を眺め、一応お互いの身の安全の把握なども兼ねた、雑談が始まった。
「見つけたぞ」
「……明路さん、でしたっけ」
「そこで止まりアルカナキーを置け」
「はぁい……」
鎮圧用のテーザーガンを向ける明路を前に葵はゆっくりしゃがみ込み、地面へと節制のキーを差し出す。
「よし、それで」
『サンファロエ』
地面へ置いた。……というよりは、「突き刺した」が近い。ついでに、「ひねる」。ドールたち召喚の合図だ。
「……何ッ」
「私急いでるのよ」
明路にまとわりつく土の人形。蹴飛ばしてしまえば押しのけることはできるがなかなかしぶとい。
「殺さないでね。私、人殺しになる気はないの」
ドールたちは分かってるのか分かってないのかいささか判断しかねる様相で明路を傷つけていく。
「……ッ!」
「……っって!!」
当たった。ドールをかき分けながら放った、一撃。テーザーガンは肌に突き刺さるワイヤーから電撃を流すもの。震えながら引っこ抜き、葵は膝をつきながらも振り返った。
「邪魔すぎるんだけど」『サンファロエ』
「君の邪魔が俺の仕事でな」
「じゃいいや、私の恋のスパイスになりなさい!」『テンパランス』
ずるずる移動しつつその腕へセット。融合解放と言い放たれ、その姿を表す、シェイドテンパランス。薄紅の体躯にマントが翻る怪物が、ライターの火を手で擦り付ける。
「行って」
火のドールたちが燃える体と共に明路にぶつかる。追い込まれ、膝をついてもなお向かう明路を、バイクの軌道が守った。
「大丈夫ですか!」
「雨野君……!」
「雨野くん!!」
まるで目にでもハートを浮かべるような声色。明路からドールどもを引き剥がすレギエルへ、シェイドはまるで忠犬か何かのように飛び込んだ。
「来るな!!」
「やーだっ」
レギエルの拳を喰らい、ふらつきながらも彼女は声を立てて笑う。体勢を立て直しながら彼女はペットボトルを潰し水を散らし。さらにちょうど吹いた風も追い風。ドールが増え続ける。
「……数がっ」
「見られてると興奮するタイプだったりする?だったらそれ次第で応えてあげるよ」
「君の……日向葵の口からそんな……言葉聞きたくない」
「これが私だし、その本質なのよ」
ドールを倒すことに気を取られる彼の腹へ、強く拳を滑らせた。
「っぐ、」
「捕らえちゃいなさい」
隙ができるだけだが十分すぎる。取り押さえ始めるドールたち。攻撃を加えレギエルを弱らせんとするシェイドの、その背に。弾丸が叩きつけられた。
「っっだ!!何よ!」
明路だ。拳銃を構え放つ1、2、3。全て弾かれるが、レギエルの脱出のために注意を逸らすには十分だった。
「殺しに興味ないのよ。させる気?」
「っぐあ!!」
首を掴み木に叩きつけ。血を吐く明路をぶん投げ、立ち上がろうとする彼の腹に蹴りをぶち込む。
「どーにかしといて、その人」
ライターを放り投げ落ち葉が燃え上がる。生まれる炎のドールも同じ勢いである。
「……明路さん!!」『ラミレシア』
『正義』『介入、開錠、解放……正義。その、均衡』
右腕が一瞬生身へ戻り、爆散。血と肉が消滅するかたわら、その手には大剣があった。
「っはァ!!」
振り回される正義の剣。シェイドジャスティスのものより幾分か小さいが十分だ。ドールたちを素早く薙ぎ倒し、レギエルは明路の元へ。炎のドールに直接触れずとも攻撃できるのが得だ。
「……こいつはダメか!」
水のドールは切っても戻るので拳の衝撃で散らさねばならないようだが。
「ねえ私にも構ってよ!」
「お望み通りにっ!」『第二体抑制解放・正義強制』
大きく振り下ろした剣、その流れのまま、クルンと一回転し拳を叩きつけた。
果たして彼女は倒せなかった。ドールが割り込んだのが原因だが、それでも一時撤退は選ばせることができた。菜摘は明路を連れ真っ直ぐレイフへと向かった。
呪いという類の怪我ではなく、火傷と打撲と擦り傷切り傷といった物理的なもの。病院ではなくレイフに向かったのは春子に診てもらうためだが、それを抜きにしても警察機関だけありレイフの医療体制は一級品だ。
「……む」
「あら、起きた」
「春子……」
「体調は?」
「……雨野君が気がかりだ」
起き上がりベッドから離れようとする明路。分かっていたよとばかりにため息をつきながら春子は押さえつけるように彼をベッドへと戻した。
「行かせてくれ」
「まず質問に答えなさい」
「体調は問題ない。気遣い有難い」
「そう。骨は折れてないけどぼろぼろなのは変わりないけどその辺どう?」
「骨が折れてないならいい。歩ける」
「怪我ってレベル制じゃないのよ。いいから寝てなさい」
「……しかし」
イラついた様子で、春子はタンブラーを机に叩きつけた。訝しげな明路を一瞥し、ため息。タバコを出しそうになるのを押さえ、脚を組み換え明路へ振り返る。
「雨野菜摘をアンタの無力感のダシにするな」
「……何を」
「自分を責める理由を外に探し続けてんのよアンタは。悦に入ってるのかただただ焦りがあるのか知らないけど。雨野は別に庇護対象じゃないでしょ」
「だが……いくら彼が戦えるからといって全てを押し付ける現状を俺は肯定したくない」
「で?だから何?今行って何ができんのよ。万全の時すらただ守られて怪我しただけのアンタが」
「……」
「出来ることを出来る時にする判断が大事って、地島も言ってたじゃないの。今できるのは待つことでしょ?」
「そう、だな……」
痛む体をベッドに預け、明路は天井を眺める。
ああ言って、なお「俺が強ければ」が振り払えない。
「大丈夫?」
「ええ、怪我は特に」
「精神的な話だよ。悪いね、何もできなくて〜っ、私が行っても邪魔だっただけだろうけど」
「……まあ、大丈夫です。っていうか、留一さんはすることがあるわけですし!僕にお構いなく……僕の家ですけど」
「そもそもお構いするためについてきてるんだし」
「……?」
「まあいずれ分かるさ」
コーヒーをすすりつつ、相変わらずPCの画面を叩く彼。タオシステムとやらの進捗は順調なようだ。
「少し、抉るようなこと聞いてもいーい?」
「抉る、ような?」
「一応知ってたほうがいいかなって、今回の事件的に。日向葵のこと」
「……ああ、そうですね。……中高の、同級生で。湖冬ともども……仲が良くて」
「そっか……気づいてたの?動機」
菜摘はかぶりを振る。シェイドテンパランスこと、日向葵の目的は菜摘と一緒になることである。
彼女なら何をしてでも襲って獄中で産むと言いかねない、それほどの気迫を感じた。
「君と……ちゃんコフに割り込むのは無理だろうしね。無自覚だったかもね」
「多分、そうです」
「次の襲撃も……すぐだろうねえ」
「一時撤退を選んだのは……多分立て直すためでしかなさそうですから」
戦うことに抵抗は?留一の問いに、菜摘の視点は下へ向かう。
「悪いね、デリカシーないこと聞いちゃったかナ」
「いえ、いいんです。どうあっても今の日向さんは犯罪者、ですし。……魔術師への足掛かりになるかもしれないので」
「魔術師の、ね」
ぴんぽーん。
2人の思考に割り込む甲高い音。2人暮らしのために少し無理しつつ買った家。広くはないが、インターホンはある。
「……驚いた」
「彼女かい?」
「はい」
「どうする?」
「背後に回って闇討ちします」『受胎告知』
「わお」
『解放。降臨……置換……変化……聖なる、開幕』
菜摘の肉体がドサリと部屋に残り、窓から飛び出るレギエル。霧散する菜摘を横目に、留一は携帯電話を取り出した。
『教皇。その、束縛」
腰が弾け飛ぶ。
糸を巧みに使いながら屋根の上へ。使い慣れていたシェイドほどではないにせよ扱える。まるで体の一部。……いや、「まるで」でもなんでもないが。
『正義。その、均衡』
『第二体抑制解放・正義強制』
背後に回る瞬間、地面から飛び出た土のドールが大剣を受け止める盾となった。使い捨ての盾だが。
「『わざわざ正面から戦う必要ないよ』『非効率だよ』。言いそうだよね。地島ちゃんは。似た、って感じ?」
「……黙って」
「嫌。ハッキリ言っちゃうとさ、親友でも他の女の軌跡見えるのもヤなのよ!!」
『テンパランス』『融合解放』
水のドールと風のドールが彼の元へ向かった。
「あたしの話聞いてた?」
「ああ」
「で、なんで立ってんの?」
ベッドから身を起こす明路に、春子が詰め寄る。そんな彼女に、明路はスマホの画面を見せた。
「俺ができることが『休む』だけではなくなったということだ」
「それが今である必要はあんの?」
「ああ。今やらなくては……俺はやる意味を、信念を失うんだ」
「その程度で失われる信念なんて失わせておきなさい!!無力感の発散でしょ!?」
「ああそうだ!!俺は今無力感のために立ち上がっている!それが悪いか。雨野君は正義のために戦っているが、その根幹に復讐がある。目的はなんだっていい、出来ることを必要な時にやらなくてはならない!」
立ち上がった明路を見て、春子はあまりにも大きな溜息。行きなさいよと小さく呟いた。
「あたしに止める権限は特にないわよ」
「……悪いな」
「中途半端に謝んないで。アンタが今行くことが『今出来る必要なこと』って証明しなさい。絶対に雨野の足手まといになるな」
「ああ、絶対に。彼が……雨野君が戦わなくて良い環境にする」
「っぐ……」
「はは、雨野くんってば強い!ねえ天使と悪魔って響き、やっぱり良いと思わない?背徳的で!」
斬撃はドールたちを減らすことには大きく寄与している。リーチや範囲という点で役立ってはいる。だが届かない。シェイドへは斬撃が入らない。
一度戦い手の内が読まれているのか。数で押されると負けはしないが技量で勝つのがいささか難しい。
「ほらほら、大丈夫?」
風のドールが繰り出すのは斬撃。レギエルの姿も当然肉体であり、悪魔によって傷がつけば当然痛い。
「……ていうか、天使の姿になっても指輪つけてるのよね。なんかムカつくわ」
「外すとでも?」
「外すっていうか外させるっていうか」
水のドールは強くはないがやはり生半可な攻撃だとすぐ再生するし、斬撃ならなおさら。こいつらに拘束されると面倒だ。
「私が直接外したげるわ」
「やめろッ!!」
「いやよ」
シェイドが手を伸ばす左手の薬指。シトリンが煌めく指輪がゆっくりと引っ張られていく。水のドールをぶち破り、シェイドに放つ頭の形を変えるが如き拳の連撃も、痩せ我慢で彼女は耐える。
左手は揺るがない。ぜったいに指輪をもぎ取る意志。そっと外されたそれを歪めようと力を入れるその瞬間。
「っぐぁ!!」
シェイドの体がぶっ飛ばされ、隙ができた。ドールを蹴散らし指輪を回収。距離をとりながらレギエルが見送る、その攻撃の主。地面に落ちた、木製の弾丸を放った者。
「待たせたな」
トランクケースを引く、磯羅明路だった。
「明路さんっ、怪我は」
「大したものではない」
その手に持つ、あまり大きくはない機械。中華風の模様が目立つその装置を見せるように持ち上げる。
訝しげな視線のレギエルをよそに、ネクタイを解きながらその装置を……「タオイズムドライバー」を腰に押し当てる。
「っわ、すごい!」
同時にベルトが飛び出、腰の後ろで合体。きゅるきゅる音を立ててゆっくり巻き上げられ、数秒ののちに明路の腰にフィットした。
同時にトランクケースの前面がいわゆる観音開き。放たれた4体のドローンが、明路の上へ。ドールを押し退けるレギエルを見つめる明路へ、レーザーを放つ。読み取られた体格や姿勢の情報。
『Taoism……Human power without god's hand』
「明路さん、一体ッ」
「すまない雨野君!持ちこたえてくれ!」
ベルトの側面を同時に押せば、指紋を読み取り認証。
トランクがさらに派手に開き、ドローンがその中身をワイヤーで明路の上へと引っ張り上げる。手のひらサイズの六角形の板をつなげあわせたというべきか。布のように翻りながらその「タオイズム・セーバー」は彼の体にゆるくかぶさる。
ぶしゅうっ、空気が抜けるような音と共にその体にフィットし、パワードスーツが成っていく。最後にドローンが持ち上げた銀の仮面をその手に。
「変身!!」
「へ、変身!?」
「変身……?」
『Fitting……OK. Five senses assist is ready』
顔に仮面を被せると同時に、後頭部を布が覆う。同時に顎を保護する、牙のような模様の装甲が追加。白かったハニカムが青く灯り、その目は緑に煌めく。
「仮面ライダー……タオ。覚えておけ、この姿の名だ!!」
「仮面、らいだー?たお?明路さん?」
「っはァ!!」
拳を放つ青の戦士、仮面ライダー。
ドールを怯ませ、迫るテンパランスを蹴りで押し退ける。
「なんなのよッ!!」
「ぐ、ゥあ……」
「なんだ案外弱いじゃない!」
反撃のヤクザ蹴りが沈み、退くタオへさらに接近。そんなシャドウの胸元に、ゴリっという感覚。なんだと思うまでもない、まさに先ほど食らった、銃だ。
「だだだだ!!」
「懐に入れすぎだ素人」
もう撃ち始めたらこちらの番。手を緩めさえしなければずっと怯むゲームのハメがごとき様相。当然それを許す敵でもない。
「ちょうどいいわ!障害が多いほど恋は燃えるのよ!」
放たれたのは炎のドール。近づかせはしない。的確に射撃でもって一体一体沈める。桃の木の弾丸を放つタオブラスターの狙いは正確だ。
「明路さん……!!」
シェイドの攻撃はレギエルが防ぐ。その大剣を使って防ぎ反撃の拳。ドールで動きを阻もうとするのは既に読めている。弾丸に打ち倒されるドールが、レギエルの動きを一瞬も止めさせない。
「ぐぁ!!」
頬に沈む重く重く重い拳。大剣のかちあげに吹っ飛ばされ、さらに空中でチャージした射撃を喰らい土の上を転げる。
「っはぁ、こんなはずじゃ、こんな……」
「もう諦めようよ。万に一つもないでしょ、これから何かが好転すること」
「うるさいっ!」
アルカナキーで余分に消耗しなくていいならそれに越したことはない。キーを引っこ抜き、はじけ飛んだそこにいつもの緑とステンドグラスの腕があった。やることは一つ。
『第二体抑制解放』
「はああああああ!!!!」
手をかざし、はじけるガラス。跳び上がり構えた右手。土のドールもろともシェイドをぶっ飛ばした。
「まだか……っ!」
「防壁代わりの人形が厄介だが……消耗を思えばもう耐えられることもないだろう」
『Confirmed and Authorized. As you know, it's HISSATSU』
タオブラスターをタオイズムドライバーにリード。全身の色が抜け、青い中華風の文様が腕に寄り集まる。腕を通し、手、そして銃。銃のモニターが青い光と模様を浮かべ、銃口が今かと構える。
「ドールッ!塞いで!」
「悪いがそのつもりはない」
そして土のドールが阻む瞬間。タオは銃を下げ、土くれを押しのけながら一気にシェイドに接近した。
「っな」
『
「ライダーショット!!」
腹に押し付けられて撃たれる。二度も三度も食らっていい技ではないが、彼女は素人だ。戸惑う前に爆風閃光衝撃。その場には、どさりと日向葵が倒れ込むのだった。
「なんで、なんで……なんでダメなのよ……」
手錠をかけられながら、葵はうつむく。話しかけても目を合わせずぶつぶつ。一瞬、菜摘の方を見て。
「……地島湖冬」
左手を見てまた俯く。
かける言葉が分からない菜摘は、ただ横目にキーを拾う明路を見つめるだけだった。振り切るしかない。頬を叩き、彼は立ち上がった。
「……仮面ライダー、って言うんです?」
「ああ、まあ昔……バイク乗りに助けられてからな。俺の中でヒーローはそういう感じだ」
「仮面ライダー、タオ……っていうか!変身って何です?」
「いや、やはり掛け声があると気が引き締まると思ってな。俺は今から仮面ライダーだ!という意識で」
「……仮面ライダーはよく分かりませんけど……掛け声真似していいです?」
「ああ、当然だろう」
昼過ぎの自宅周辺。明路は菜摘についていきながら彼の部屋へお邪魔する。
「お疲れ様~!」
「浅井さんこそ。俺は……彼の手助けができました」
「よかった」
こぼれ出るように微笑む留一。菜摘も、明路を心強く思う気持ちが一層強くあった。
反面、葵のことは自分でどうにかすべきだったのではと、そんな念に背を突かれる。
「今日はどうだった?」
「ああ、晴れだった。すごく気持ちのいい晴れ」
「そう……」
「大丈夫だ。俺はずっとお前の太陽だからな」
「ええ……兄さん」
次回、「陽光と山吹」