転生したらポケモン世界だった件。ただし人類は未実装のものとする(白目) 作:水代
ぐわんぐわん、酩酊したかのような、脳が揺さぶられたかのような感覚を覚えながら意識が半覚醒していく。
「……?」
「あ、おきたぁ~?」
つん、つん、と頬を突かれる感触にゆっくりと目を開くと、目の前に薄紫色をしたスライムのような物体がいた。
「夢?」
「夢じゃないねぇ~? まだ寝ぼけてる?」
徐々に感覚を得ていく体に、まだ薄ぼんやりとする頭を揺らしながらゆっくりと起き上がろうとして。
「……あれ?」
「どうかしたぁ~?」
全身の感覚に違和感を覚える。
なんというべきか、まるで自分の体が自分のものではないような……そう、他人の体のような違和感。
気になって自らの体へと視線を落とせば、そこにあったのは―――。
「え、なにこれ???」
「ん~?」
棒線みたいな水色の腕と上と下としか言いようのない指とも言えないような落書きみたいな手。
こんなのは明らかに自分の体では……では。
「えっと、あれ? 『ぼく』って誰だっけ?」
「どーゆーことぉ~?」
「えっと、えっと……分からない、何も思いだせない」
その瞬間になってようやく自分が『自分』に関する一切の記憶を持っていないことに気づいた。
ただ何となくこの体が自分のものではない、そんな違和感だけが残っていて。
「何がどうなってるんだろう」
「そ~れ~は~こっちの台詞ぅ~、みたいなぁ~?」
「いや、こっちの台詞だよ……って、え、誰?」
今更になって先ほどから語りかけてくる相手がいたことを思い出す。
改めて正面から見る。どう見ても薄紫色の
というか何かこう……見覚えのようなものが。
「ヌメラ?」
「そうだよぉ~?」
「ポケモン?」
「そうだけどぉ~?」
ヌメラ。ポケモン。頭の中に浮かんだ言葉を口にすればそれは目の前の軟体生物に肯定される。
咄嗟に出てきたその言葉の意味を頭の中で理解しようとして、脳裏に火花が弾けた。
「っつ!」
「だいじょーぶぅ~?」
「多分、大丈夫」
駆け巡る記憶……ならぬ記録。
それはポケモンという存在が架空とされる世界、いわば前世の記録とでもいうべきか。
記憶と呼べるほどの実感が持てず、けれど知識と呼ぶほど機械的でも無いそれは記録としか言い様がなく、その瞬間体の違和感の正体に気づく。
『ぼく』は元はこの体以外の体を動かしていた……恐らくニンゲンだったということ。
そして今は何故かこの水色の体……恐らくポケモンになっているということ。
そんなことを感覚的に理解し、ようやく違和感の正体がわかったからだろうか、徐々にその違和感が小さくなっていく。
今この体が自分の体であるということ、そして自分がポケモンであるという事実を実感する。
「一つ、聞いて良い?」
「なーにぃ~?」
「『ぼく』って一体、何のポケモンなの?」
そんな『ぼく』の問いに、目の前のヌメラが少し不思議そうに首を傾げ。
「メッソン、だよねぇ~?」
何の気なしにそう呟いた。
* * *
どうやら自分は自分では無い何かに生まれ変わったらしい。
死んだ記憶も無いので生まれ変わったと言えるのかは知らないが、けれど今の自分ではない自分だったという記録はあるので多分転生というやつなのだろう。
幸か不幸か、自分が生まれ変わったこのポケモンの世界を『ぼく』は記録、或いは知識として知っていた。
ポケモン……正式名称はポケットモンスター。
それは記録の中にある世界で発売されていたゲームの名前であり、ゲームの中に登場する架空の生物たちの名前でもあった。
ポケモンと共に旅をするポケモントレーナーとなってゲームの中の地方を駆け巡り、ライバルたちと戦い、最後には最強のトレーナーとなったり、その地方の伝説のポケモンを捕まえたりする。
ただその世界はゲームの中、つまり存在しないはずの世界であり、にも関わらず自分はこうしてそのポケモンの世界に存在しているということ。
一体何故、そんな疑問も沸いたが考えたところで疑問が解けるはずもなく、後回しとなる。
それに『ぼく』にはもっと直近、間近に迫る問題があった。
記憶は無いが多分前世の『ぼく』はニンゲンだった。
少なくとも記録の中の前世の世界でゲームなんて文明的な遊びをしているのは人間だけのはずだし、だから『ぼく』は人間だった、それは間違いないはずだ。
それが突然、目を覚ましたらポケモンになっていたなんてどんな冗談だろう。
いや、冗談だったら良かったのにけれどこれは紛れも無い現実で。
前世の世界において、ポケモンとはデータ上の存在だった。
決められたプログラムの中でしか行動できない存在。
決められたプログラム以上のことが起こり得ない存在。
だがこの世界においてポケモンとは紛れもなく現実に存在する生物なのだ。
* * *
「お腹空いた」
「お腹空いたねぇ~」
この世界においてポケモンとは紛れもなく現実に存在する生物だ。
故に生きているだけでお腹も空くし、お腹が空くということは何も食べなければいずれ餓死するのだろう。
生物である以上、生きるために行動する必要がある。
それは結局、どこの世界だろうと変わらない事実だ。
「メッソンって何を食べるの……?」
「さぁ~? 私には分からないけどぉ、きのみとかで良いんじゃないかなぁ~?」
「ヌメラって何食べるの?」
「さぁ~?」
「自分のことだよね?」
「昨日何食べたとかぁ、覚えてないからなぁ~」
「自分のことなのに???」
というかそもそもの話。
「当たり前みたいな顔して喋ってるけど、キミ何なの?」
「私はヌメラだよぉ~?」
「それは知ってるけど、もっとこう立ち位置的な話とか」
「ん~?」
「えーっと……何でここにいるの?」
「お昼寝してたんだよねぇ~」
「ここで?」
見渡す景色は一面の森。日差しすら届かない深い森の中だ。
そしてさらに見やれば視界の中に明らかに自然に出来たものとは思えないような破壊の爪痕。
折れた木々、めくれあがった土砂。陥没したような大地の跡。
「ブルドーザーかショベルカーでも通ったの?」
「なにそれぇ~?」
「いや、こっちの話。っていうか、明らかにやばいことがあったみたいな現場なんだけど、よくこんなところで昼寝してたね」
「キミだって寝てたよぉ~?」
「あ、うん。そうですね」
それを言われると痛いのだが、そもそも目を覚ます以前の記憶が無いので一体何でこんなところにいるのかそれすら『ぼく』には分からないのだ。
「そー言えばぁ? 群れが居なくなってるねぇ~?」
「群れ?」
「そーだよぉ~。私と同じ群れぇ~」
「同じ、ヌメラの群れってこと?」
「そうそぉ~」
まあ状況的に考えると、目の前の何だか『のんき』なヌメラが寝こけている間に群れが逃げ出すような何か……つまりあの破壊の爪痕が起こるようなことがあって群れは逃げ出したのに、このヌメラはそんなことにも気づかずにすっかり寝こけていた。というのが一番自然な話……自然?
「こんなことが起こったのによく寝こけてられたね。呑気だなあ」
「あははぁ~。よく言われるぅ、照れるなぁ~」
「褒めてないけどね」
なんて話している内に再びグーグーと腹の音が鳴る。
お腹空いた。とお腹……いまいち分かりづらいが多分お腹あたりを抑えてきょろきょろと周囲を見渡すが何か食べられそうなものは特にない。
頭の中の記録から使えそうな知識はないかと考えてみると、先ほどヌメラの言った『きのみ』のことを思い出す。
「そっか、ポケモンの世界なんだからきのみくらいあるか」
「おススメはぁ~オボンのみだねぇ~。とってもおいしーんだけどぉ? 競争率は高いよぉ~」
「と言ってもまずそれがどこにあるのか、という話」
「私知ってるからぁ、案内してあげようかぁ~?」
何だかなし崩しで動いてるなあ、と思わなくもないが、先ほどから鳴りっぱなしで自己主張の激しい腹の音を収まるためにも仕方ないか、と嘆息した。
おめでとう メッソンは てんせい した。
あたらしく ヌメラが なかまに なった。
たびのなかま
メッソン 『ぼく』 せいかく:きおくたりないけい
┗わざ:????
┗ここはどこ? 『ぼく』はメッソン?
ヌメラ ♀ せいかく:のんきなやつ
┗わざ:????
┗むらさきいろのなんたいせいぶつ。ごびがのびる。
旧作読者にちょっと質問。旧作と比べてどう?
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前のほうが良かった
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こちらのほうが良い。