世界の歩みは加速して行っているとはよく耳にする。これは体感時間の問題でもあるが、人類の叡智が築き上げた成果でもある。先人が少しずつ切り拓いていった各分野の道が繋がり合い、それらが相乗効果を生みながら共に進化を加速させていった。今やほんの先の進化が数年前では想像もできない次元に行き着くのが常である。
ただしそれでも地球の公転や自転は未だ大きな変化を見せているわけではない。その変わらぬ速度相対的により一層文化の速度を際立たせるものかもしれないが。つまるところ…
この空間の本来の季節は春であった。しかし、大きな本によって外界と分断された街では、既に桜は散り、雨が降り、陽が照り、祭囃子が賑わい、霊が行き交い、月が満ち、葉が赤らみ、風が渦巻き、魍魎が這い寄り、雪が降り、鈴が鳴り、鬼が徘徊し、砂塵が舞い、そしてまた桜が咲く、といった季節の移ろいが、この数分間のうちにはや
『EVENTERASU!!』
『目を覚ませ…。季節を司る、シーズンメギド!!』
その顔は鬼のように赤く、角の代わりに紅葉や桜の木々、波飛沫が生え、日の出を頂き冠としている。身体も無秩序に季節行事を思わせる配色や装飾で毒々しくも華々しく彩られていた。その者が一度歩けば季節は一つ移り、剣を向ける先には唐突に季節飾りが現れる。一声かければ天候すらも意のままになり、この空間における混沌をより盛り上げてしまっていた。その正体は本の魔物『メギド』、それも、10年ほど前に世界を脅かした『黒い本棚』の3幹部に匹敵する存在、季節のジャンルを総括する魔人・イベンテラスだった。
「そんなものなのかね?君たちの賑わいは…」
イベンテラスの一瞥する先には、既に地に這いつくばる歴戦の剣士たちがいた。
「そんな…僕たちの技が通じない…!」
剣士の中でも特に優れた実力を持つ
「前夜祭は、お開きとしようか」
イベンテラスが地に長剣・サイレンケインを突き刺すと、四方からアスファルトを裂いて禍々しい樹が1本ずつ伸びていく、あるいは毒々しい花が咲き、あるいは鬱蒼と葉が茂り、あるいは血のように紅く染まり、あるいは死を想起させるほどに枯れ細っている。それらのいずれもが、際限なく魔の手のように天に向かって伸びようとしている。
「全ては
倫太郎や神代兄妹からしても、今この瞬間よりも取り返しのつかない何かが起ころうとしていることは肌で感じ取れた。止めようにも既に各々の脚と光剛剣は真っ先に邪悪な木の根に取り押さえられ、一歩どころか生命の維持すら苦しい。苦戦の報は既に送ったが、剣士たちの誰をもってしてもこの場に間に合う者の心当たりがない。
絶望が待つ先行きを…廻る刃が引き裂いた。
「何…?」
不意を突かれたイベンテラスに、真紅のバイクが突撃した。怪人の体躯が弾き飛ばされると、樹々はその生長を止めた
「未来は、俺が灯す!!」
エンジンの轟音を優に越す啖呵ととも着地した
「本日から
誰も知らない、未知の剣士。だがその手には剣は無く、代わりに伝説のバイク、ディアゴスピーディーのハンドルが握られている。シルバーとショッキングピンクのスーツに加えてたなびく真紅のマフラーを身に着け、迸る車輪の如きバイザーが敵の姿を捉えていた。
「車の…剣士だと?」
組織の中枢を担って長い時の剣士・デュランダル/神代凌牙ですら心当たりのない剣士の登場に、正義も悪も等しく困惑した。だが対剣士戦に絶対の自信を持ち、かつ自身のテンションの低さに反して騒動を好む性格上、新たな剣士の乱入を真っ先に歓迎した。
「丁度盛り上がりに欠けていたところだ…催しとしては悪くない」
そう言いつつも片手でやることが全エレメントを用いた波状天候攻撃である。基本的に舐めた態度で
だがそんな逆境を前に、サーキュラーは動じない、否、歓喜している!
「いい悪路だ、
アクセルを捻り、悪天候お構いなしにイベンテラスへと突っ込んでいく。迫りくる波や雷霆や竜巻を食らって無事で済む自身でもあるのか?全ての脅威を躱しきるテクニックがあるのか?否!あるのは
「ほう…もっと舞うがいい」
興に乗ったイベンテラスが天候攻撃と逆の手で繰り出したのは、季節の移ろいを利用した時間操作、更にそれを反転させた時戻しの異能である。これを用いてサーキュラーの駆るバイクを振り出しに戻そうとしたが…
「その手には乗らねえ!!」
『ディアゴスピーディー!増刊Go!』
「前進!『
必殺技の真紅のエネルギーを纏い、サーキュラーとディアゴスピーディーは更に加速していく。なんとアクセルを限界以上に蒸かすことで、逆流した時間を更に逆走してきたのだ。ディアゴシャープを起点としてただ真っ直ぐ、ひたすら真っ直ぐにイベンテラスの胴体に激突した。
「がふっ…っ!」
幹部級故に必殺技の一撃で仕留められることはないが、それでも稲穂と富士の山をあしらった胴体は火花を散らしている。ここにきてようやくイベンテラスはサーキュラーに対する脅威度の認識を改めた
「本祭の準備を怠っては…元も子もない」
盆やハロウィンや節分の権能を活かして魑魅魍魎のバリケードを敷き、元の儀式を行う時間稼ぎを試みる。都会の群衆もかくやという多勢の壁を築き上げたが、ただひたすらに走ることを決めたサーキュラーにとってもうとっくの昔に遅かった。
「
『ディアゴスピーディー!攻読撃!!』
「必殺前進!『
真紅の必殺エネルギーを両輪に溜め、サーキュラーは魑魅魍魎の壁の手前で前転回転を始めた。段々と一つの巨大な車輪と化した剣士とバイクが、バリケードお構いなしに進路上の何もかもをなぎ倒しながら逃げるイベンテラスに迫り、その背中を袈裟斬りで両断せしめた。
「く…悔やんでも…後の祭りか…」
悔恨の呪詛を零し、難敵・イベンテラスは花火の如く爆裂四散した。
「凄い!…彼は一体、」
解決の一部始終を見守っていた倫太郎たちは無力化された拘束を解き、此度の英雄を見やろうとしたが、そこには英雄の姿は無かった。
そこにあったのは…盛大に着地に失敗し、バイクから振り落とされてズッコケた無様な事故の当事者だけがいた。
「あー…
「…えーっと、大丈夫か?」
先ほどの活躍が余裕で霞むサーキュラーの醜態に、玲花ですら恐る恐る訪ねてみる。はて?この雰囲気は覚えがあるような…?
「大丈夫大丈夫、
「…え?」
「あ、
既視感の正体が掴めるか否かのところで、横転していたディアゴスピーディーが火花を挙げてバラバラになった。それと同時に、サーキュラーの変身も解けてしまう。
「…何故謹慎中の貴方が剣士になっているんです?」
「いやー…これはそのー」
「答えなさい、
「…ヘイ」
調子の高い声をすぼめて観念した変身者は、長袖シャツにツナギを腰で留め、赤い長髪を後ろ一本で束ねた少年だった。彼の名こそ
《続》
この小説は私のTwitterで挙げてる装動オリジナル剣士を基に書いてます。良かったら下のリンクも見てね
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今回の挿絵代わり⇓
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