・・・
『絵姿美人!!』
とある別嬪な姿絵の女房、誰が彼女を手にするのか。
海底のごとき憂き目を晴らすは、旦那の演じる道化なり。
・・・
「う、うおおおおおおあああああ!!」
圧制剣が放つ圧により、既にサーキュラーとエスカリブルはその素肌に重みを感じていた。装甲が直ちに潰されていなくとも、圧に押された装甲そのものが中身の触覚を刺激しているのだ。そしてその圧迫感は秒刻みで増していく。このままの調子でも物理的に輪郭の原形を保っていられるのは5分が限度といったところだろうか。
「
「止せ燈華!」
重くなる体躯ごと車輪剣を振りかぶろうとするサーキュラーの腕をエスカリブルが掴む。
「状況に流されて安易な決断をするな!後悔したくないだろう!」
「…っでも他にどうすりゃいいんだ!俺一人の
「今ならまだ重圧から逃れられる。そして圧制の剣士を封印すれば倒さずとも被害を止められる!倒すのはチューリップ帽への対策を立ててからでも」
「既に殺られてる
エスカリブルの言葉が途切れる。こう返される事が予想外だったわけではない。むしろそこで立ち止まっていられないからこそ、環足燈華は車の剣士なのだとそらは痛感していた。
「…解った。確かにあの剣士は今すぐ倒すべきだ」
それでも…その覚悟と苦悩が過積載であり、突き進む先が自戒の末の自壊であることが見えているなら。
「だがお前には背負わせない」
振り向き様にラブリュスの胴に剣を振りかぶるエスカリブル。英雄剣は間合いの外であっても自身より大きな刃が相手を薙ぎ払う。不意打ちの遠距離攻撃というおおよそ英雄的とは言えない一撃に、ラブリュスもサーキュラーも目を見張った。
さらにもう一撃、今度はラブリュスの脳天に振り下ろさんとするエスカリブルを、サーキュラーに滑り込まされた足払いが制する。
「
よろめいたエスカリブルを追い越し、サーキュラーがラブリュスに車輪剣で薙がんと迫る。だが、即座に体勢を立て直したエスカリブルに掴まれて阻まれてしまう。
「断る!倒せば相手を死なせると分かって倒す罪悪感を、今のお前に背負わせられない!」
「
二人の若き剣士の相互妨害は、言葉とともに激しい打ち合いとなる。サーキュラーは心からの叫びを刃に乗せた。
「
だがそれがエスカリブルの怒りを滾らせた。
「…侮辱するな!!」
激情で振るった一撃はサーキュラーの体躯を震わす。徐々に増す重圧など蚊ほども問題にならないような、手心をかけぬ本気の剣だった。
「痛いのはお前だけだと?酷い戯れ言だな!お前が苦しんでいるのに俺の心が痛まないわけがないだろう!!」
サーキュラーは言い返せなかった。そんなこともわからなかったわけではない、むしろそれこそ痛いほどに、二人の心は同じだった。
「お前だけが罪に苛まれるくらいなら、俺は迷わない!躊躇わずに手を下す!」
それこそ酷い嘘だ。真にエスカリブルに迷いも躊躇いもないならば、今のサーキュラーが妨げ続けられる道理がない。尾上そらだって1人の命を斬り捨てられるほど非情ではないし、むしろこうして憤慨するほどには情に厚いのだ。
身体が重圧を思い出したと同時に、サーキュラーは自嘲してしまう。
「…ハッ、こんな
「先輩面くらいさせろ燈華。既に俺とお前は隣り合った、俺だってお前が動かす
「隣同士で同じ向きに
刹那、燈華の世界がカチリと音をたてて噛み合う。
微かに考えていた事があった。が、今やどうしようもないものだと諦めていた。しかし本当に世界を動かす資格があるなら、環足燈華にあるならば!
「先輩ならよ…
「…何か考え付いたな?言ってみろ」
「勝算はあんま
ブックゲートを解放して重圧地帯から一人逃れるサーキュラーだが、既に変身を解いた燈華のその様子をエスカリブルは咎めずただ見守る。
「5分の間
「…応ッ!任せとけ!!」
互いが互いを信じ期待する。ゆえにここからの5分間は、2人の若き剣士それぞれの正念場であった。
・・・
『ヒラメキング!!』
この砂中に潜みし体躯が、潮を見切り飛び出すは今。
長く待ちわびた好機に乗り、狭き間隙をすり抜ける。
・・・
「なーなーなぁー?虚仮にしてんのかこの俺をよー?転ばすわそっちで勝手にモメるわ一人帰るわ、挙げ句の果てに『5分倒すのを我慢しろ』だぁー?」
うつむき膝を立てて起き上がるラブリュスは、怒りのあまり全身という全身を震わせる。
「なめ腐りやがってよぉー!!5分後にテメーが腕一本でも上げられると思うな!!」
重圧の増加速度が格段に上がる。ラブリュス自身も背を伸ばしてはいられないような荷重が、エスカリブルにも当然襲い掛かる。先ほどまでは倒すに倒せない状態だったが、徐々に戦い方を覚えていく目の前の邪剣士は普通に倒すのが困難な相手へと変貌していきつつある。現時点で既に海底をもがくような動き難さの中、5分後の状態を考えると正直気はさらに重くなってしまいそうだった。
だが、エスカリブルはそんなことは問題にしない。
「ひとつ!光を見つけた後輩が…」
「ふたつ!不屈に駆けると言うのなら…」
「みっつ!見栄張ってでも…俺も応える!!」
普段に比べて格段にゆっくりとラブリュスに迫る。背を向けて逃げられれば厳しい速度だが、幸いにして激昂したラブリュスに撤退の意思は無い。あとはひたすら折れず、負けずに戦うのみ。
英雄剣と圧制剣がぶつかり合う。エスカリブルは鍔迫り合いで時間を稼ぐつもりだったが、ラブリュスの剣撃の予想外の強さにその戦法を封じられる。先ほどよりも斧剣の力が増しているのだ。
「…!なるほど、『重力』ではなく『重圧』というわけだ…っ!」
圧力というものは、面にかかる力。同じエネルギーを持つならば、掛ける範囲が狭まるほど圧力は強くなっていく。圧制剣の刀身もまた、強く敵対する相手に作用する圧力をかける機能を有している。タイマンでヘイトを買ったのは幸いであると同時に、膨大な圧がエスカリブルに集中して襲い掛かる不幸であった。
「となると、接近は不味いな」
ラブリュスと間合いを取る。すると僅かに身体の負荷が軽減された。重圧のフィールドが狭まれば力が集中してしまう。このフィールドが圧制剣を中心に同心円状に広がっているならば、間合いを取るという行動はとった距離以上に有効となる。
もっとも、鈍重にされた動きでは確保できる間合いもたかが知れており、ラブリュスも離れたままでは終わらせてはくれない。
「ツレねえなー、逃げんなよなぁー!!」
投げやりだった殺意を執拗に集中させて追撃するラブリュス。相手の動きも緩慢ではあるが、間合いを離さないだけならば事足りた。逃がさない為の戦闘が、いつの間にか追う者と追われる者の逆転が起こってしまっていた。
「だったら…こういう手もある!」
『ワン!リーディング!』
『カメレオンミッケ!』
『ツー!リーディング!』
『オウルクリアー!』
『ラウンドギフト!』
カメレオンの伝承の効果でエスカリブルの身体から色が失せ、フクロウの伝承の効果でエスカリブルから漏れる音が止み、ラブリュスの視聴覚から完全に消える。
「ぬぅー?どこに居やがるんだー?」
こちらの位置を気取られなければ、間合いを離すことが出来る。5歩ほど後ずさり、負荷の軽減を確認する。燈華との約束まで残り3分45秒、だがエスカリブルはこのまま隠れるだけでやり過ごすような悠長な真似はしない。更なる一手を打つ。
『英雄剣石英!』
『からの~』
『剣が変形!巨大な剣士が目を覚ます!キングオブアーサー!』
巨大な剣士・キングオブアーサーがカメレオンとフクロウの効果を伴って地に降り立つ。音を纏わぬ見えざる巨躯が、その右腕・ガラハンドを大きく開きラブリュスへと向ける。倒せないが逃がせない、ならば捕らえる。例え重圧が強まっても、巨体による拘束ならば寧ろ相手をより強く抑え込むアドバンテージとなる。はずだった。
「むうぅー、どぉこだぁー?…なんて、本気でやってると思ったか?」
ギョロリ、と、仮面の下の眼が鳴りそうなほどに、ラブリュスはエスカリブルのいる方向へと視線を向けた。
「何っ!?」
「ここらあたりはぜーんぶ王たる俺の国土だ。そんな馬鹿でかい不届き者が立ったのを感じねえわけがねえんだよなぁー!!」
変身する富川敦郎にも知るよしのないことだが、圧力を司る聖剣と『鋼の王様』の伝承の2つが結び付いたことで、重圧下の地面を「感圧」する機能がラブリュスの足に備わってしまったのだ。
そして顔だけがエスカリブルに向く捻った体勢から、圧制剣の投擲へと連鎖するのに時間はかからなかった。
「まさかこれは…!」
あることに気付き動揺するエスカリブル。迫り来る刀身そのものはキングオブアーサーの剣で叩き落としたが、その位置が良くなかった。エスカリブルの手がギリギリ届かない程度の間合いまで、
途端にかつてない重圧がエスカリブルの全身を覆う。
「重圧の中心は!聖剣の方か!」
考え直せば、聖剣の力が聖剣を中心に展開するのは至極当然の事である。しかしラブリュスの厚顔無恥かつ唯我独尊の態度が「自己中心」という概念をエスカリブルの無意識にまで浸透させていたのだ。
『重圧!』『版読撃!!』
更に駄目押しの必殺技の効果の上乗せ。急激な加重により、キングオブアーサーは大剣を取り零して背中を土埃で汚してしまう。後方の地響きを足元で感じとるエスカリブルさえも、ついに英雄剣を地に突き立てて身体を預けなけてなお膝を付かないことがやっとの状態まで追い詰められてしまった。
「まだ見えねーし聞こえねーが、感じるぜー?今のお前はぶっ倒れる手前の無様だってことはなぁー!?」
実際その通りである。こうなってしまえば自身は剣を振るえない。想定していた最悪の事態が、予想より2分も早く到来した。
「いやー肩が軽いぜー。ずーっと俺が一番重かったからよー。王たる俺が一番苦しいだなんて、道理に合わねーよなぁー?」
ギシギシと下卑た笑い声をたてるラブリュス。安全圏から高みの見物を決め込もうとするその様子を見て、エスカリブルは自身に掛かっていた伝承の効果を解く。
「やっと姿見せたなー?すっかり腰が曲がって、タッパのあるハンサムが詫びジジイさながらだなぁー」
下卑に下衆を重ねるような嘲笑に、エスカリブルは口を開く。
「お前の使っている『鋼の王様』、元が何の話か知っているか?」
「あぁー?そりゃ『裸の王様』だろー?見栄張って醜態を晒した、お前にこそピッタリな話だろうけどなぁー!」
「醜態…本当にそうかな」
「…何ぃー?」
訝しむラブリュスにふっと笑い、エスカリブルは言葉を続ける。
「いくら見えなくても、さすがに触れない服には騙されないだろう。俺は…王様は
「はぁー?何でそんなことするってんだー?」
「服を持って来た仕立て屋を、責めたくなかったんじゃないだろうか。無いなんてことになれば、罰は免れないからな…それほどまでに、慈悲深い王だったと、俺は思う。」
エスカリブルはありったけの力を捻り出して、ただ強く、まっすぐ立ち上がる。両足を踏み絞り英雄剣を突き立てて直立するその出で立ちは、紛うことなく纏う伝承の騎士王のそれであった。
「王とは!時に恥や苦しみを背負うことになる。それでも胸を張って、立ち続けてこそその資格がある!圧制の剣士よ…苦しみから逃げるお前に、裸の王様の資格すらあるか?」
ギシギシと、今度は歯軋りをたててラブリュスは震える。
「だ、だぁれにぃー…」
ラブリュスの八つ当たりのような一歩一歩が地面を強く叩き付ける。重圧が圧し掛かるのを構わず、怒りのままにエスカリブルに近づいていく。
「だぁれに物を言ってんだ若造がぁー!!」
今のエスカリブルが気合いでどうにか届く間合いまで、あともう少し…
「…なんてなー。挑発が見え見えなんだよなぁー」
ピタリと、圧制剣を挟んで4mほど向かいでラブリュスの歩みが止まった。
「かーなりムカついたがよぉー、イチャモンの付け方が三流だ、当たり屋相手に通じるかよ。約束の時間になっても手も足も出ねえお前の悔しそーなツラを、ここで眺めさせて貰うぜぇー!?」
最高潮にギシギシと煩く嘲笑うラブリュス。彼はもう二度とエスカリブルに接近することはないだろう。ここにエスカリブル自身が打てる手は出し尽くされてしまった。
「…最後にもうひとつだけ、王の逸話を語ろうか」
そして、5分が経過した。
「『ダモクレスの剣』を、知っているか?」
その瞬間、
「はぁ?…ぁぁぁぁあああああ!?」
ラブリュスはもはや手遅れの瞬間に気が付いた。頭上に浮かぶ巨大な剣、キングオブアーサーが携えていたはずのキングカリブルに。
透明化に加えて無音滞空。最後の重圧版読撃からずっと、これらの効果をエスカリブルは気合いで保ち続けていた。自身が気を緩めると同時に、剣の重量と
「即興必殺・
王の誇りも責任も慈悲もない、裸よりも恥ずべき圧制王は、玉座に吊られた剣によって断罪されたのだった。
・・・
同時に、空間の歪みが2つ同時に現れる。
ひとつは空を裂くようなひび割れ、もうひとつは開かれんとする巨大な本。そこから出るどちらもが、たった今変身を解除したラブリュスの変身者・富川に手を伸ばす。それを目撃するそらは既にエスカリブルの変身を保っていられず、ただ信じて見守るしかない。
「行け…!燈華!」
裂け目から伸びるチューリップ帽の腕と、本から伸びるサーキュラーの腕の速度は拮抗している。どちらが先に届いてもおかしくはない勢いだ。
「だったら…勿論あっしが先に届くんでさあ」
チューリップ帽の指先は、御影の時と同様に細く鋭い木の枝となって圧制剣のシェリフと富川の身体を貫く。富川の身体はみるみる痩せ細り、木の枝へと取り込まれていく。間に合わなかったのか?
「
普段は空っぽのサーキュラーのバックルのシェリフ、そこに逆転の一手が仕込まれていた。ライドインテグレターを押し込むことで、伝承の名が高らかに響き渡る。
『断頭キャンサー!』
するとバラバラになった車輪剣の部品と、断頭キャンサーWRBと、その中に遺されていた剣の残骸が噛み合っていく。力の抜けた聖剣が、車輪剣歯車を動力に再び形成される。ハンドルや双輪刀の代わりにサーキュラーの両手に握られていたのは、つい先日まで恐るべき脅威だったものだった。
『復刻装換!蟹鋏剣障蟹!!』
すかさず必殺技の構えに入る。紅いエネルギーが左右の鋏に集中する。命を刈り取る邪悪なギロチンとは違う、サーキュラーの蟹鋏剣は悲しみを断ち切る!
「
蟹鋏剣の概念を切り分ける刀身が枝の指を透過する。確かな手ごたえと共に、チューリップ帽の手から二人の男の身体が乖離した。一人は先ほど吸収されたパンチパーマの富川、もう一人は先日吸収された変身者・御影である。妙な体勢の着地で緩い悲鳴を上げる二人の男の無事と、クレーターが消え去った街を確認し、サーキュラーはスライディングガッツポーズで歓喜する。
「…こりゃ驚き。まさか罪が吸われた後に変身者だけ切り離すとはねぇ…」
「お前が言ったんだろ、『大いなる意味がある』って。だったら期待以上に
次の瞬間、燈華の変身が強制的に解除される。変身聖剣の急な改造ゆえに、変身機構にガタがきたのだろう。チューリップ帽に悪心あれば絶体絶命の窮地、だが、チューリップ帽の機嫌は有頂天だった。
「あっはっはっはっは!!あっしの見立てが外れて嬉しいなんてこたぁ初めてでさぁ!これなら『
高らかに笑うチューリップ帽の背後に亀裂が入る。今回はこの場を去るようだ。
「こんな良い日にあっしから渡せるものがそこのクズどもだけなのは忍びないねぇ。あっしの名前と耳寄りな話を教えてやるよぉ」
空間の割裂にも勝る笑顔で、彼の者は己が名を剣士たちに告げる。
「あっしはハバキリ。近々大いなる戦いがあんさん方を待ってるんで、気を付けてくだせぇよ~!健闘を祈ってやんす~!!」
不穏な忠告を空間の裂け目の外に置き去りにし、チューリップ帽の和装男・ハバキリは姿を隠していった。
《続》
燈華とそらの信頼も築かれ、世界を動かす運命を掴み、いよいよ第一章のクライマックスも近づいてきそうで。
1ヶ月に1回未満の遅筆ではありますが、今後とも応援よろしくお願い深罪。
この小説は私のTwitterで挙げてる装動オリジナル剣士を基に書いてます。良かったら下のリンクも見てね
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今回の挿絵代わり⇓
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