ようこそホワイトルームが無くなった世界へ   作:好きjaなくないない無い

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第二章 裁判編
裁判編(1)


今日から6月だ。最近は春よりも雲の量が多くなり雨が降ることも多々あった。もうそろそろ本格的に梅雨になりそうだな。そんなこと思っていると後ろから一之瀬に声をかけられた。

 

「やっほー。綾小路くん。」

 

「おはよう、一之瀬。」

 

「おはよー。定期考査の時は本当にありがとうね。今度絶対にお返しするから。」

 

「お返しはありがたいが、いったいいつまで言うんだ?テスト自体はもう二週間前のことだぞ。」

 

にゃはは、と苦笑いする一之瀬。ここ二週間、彼女はオレに会うたびにそのことについてお礼を言ってきた。一度のお礼で十分なのにとも思ったが、おそらくコレが彼女の長所なのだろう。

 

「おはよー。一之瀬さん。」

 

並んで登校していると後ろから声をかけられた。あまり聞いたことのない声だ。振り向くとそこには制服を着ていない女性の姿があった。

 

「あ、おはようございます。星之宮先生。」

 

オレが戸惑っていると一之瀬が彼女に向け挨拶をした。彼女のクラスの担任だろうか。

 

「あ、綾小路くん。この人は私のクラスの担任の星之宮知恵先生。」

 

「そうだったのか。はじめまして、綾小路です。」

 

どう挨拶すればいいかわからないためひとまずお辞儀をする。

 

「あなたが綾小路くんだったのね。紗枝ちゃんのクラスの子でしょ!」

 

紗枝とは?誰のことかわからなくなり戸惑っていると、

 

「ああ、ごめんね。茶柱先生のこと。私達同期だから下の名前で呼び合ってるんだー。」

 

この言葉でオレは理解した。同期ということは年齢もかなり近いだろう。

 

「それよりもカッコいいね。綾小路くん。彼女いるの?」

 

「いいえ。出来たこともありません。」

 

「えーウッソだー!私だったら君みたいな子絶対見逃さないけどね。」

 

「はぁ。」

 

こういう先生をフレンドリーと呼ぶのだろうがオレは何故か苦手意識を持った。なんだろう。住む世界が違って見える。

 

「でも君みたいな生徒が何でDクラスに配属されたんだろうね?なんかやらかした?」

 

先生の表情が少し、いやかなり変わった。オレの表情から何か盗もうとしている。そんな目だ。おそらく彼女なりにオレのことを警戒しているのだろう。

 

「いえ、入試も面接もまずまずの成績でしたからそのせいだと思います。」

 

「....ふーん。ま、優秀かどうかはもうちょっと見ればわかるしね。じゃ、私朝のミーティングあるから急ぐね。じゃあねー。」

 

そう言って先生は俺たち2人を置いてやや小走りで校舎へと向かう。急いでいるならばなぜ俺たちに声をかけたのだろうかと、理由を考えようとしたがその暇をくれなかった。

 

「あれっ!一之瀬じゃん!ヤッホー!」

 

ビクッと体を震わせながら振り返る一之瀬。オレも振り返るとそこにはロン毛の男子が立っていた。髪は綺麗な黒色で男性にしては長い髪だ。ファッションについては皆無なので名前は分からない。

 

「あはは、おはようございます。吉田先輩。」

 

一之瀬は彼女らしくもない引き攣った笑顔で受け応える。どうやら彼のことをあまり好ましく思っていないらしい。

 

「....なぁ一之瀬。コイツ誰だよ?」

 

吉田先輩と呼ばれた彼は何やら面白くなさそうにつぶやく。

 

「ああ、友達の綾小路くんです。」

 

「へぇー。どうでもいいから一緒に登校しようぜ。」

 

彼はオレに目もくれず一之瀬と登校することを望んでいる。どうやら彼は一之瀬のことを異性として思っているのだろう。しかしそれもここまでいくらお人好しの一之瀬でも機嫌を損ねる。

 

「吉田先輩。私は今綾小路くんと話しているんです。邪魔をしないでください。」

 

いつものような笑顔だが、どこか怒りも混ざっているような笑顔に吉田先輩も身をひく。

 

「分かったよ一之瀬。また今度な。」

 

そう言って彼は俺たちの前を歩いて行った。その時に舌打ちをしながらオレの靴を踏んづけて行ったことは彼女の怒りを買うだろうから黙っておくことにした。

 

「......人気者も大変だな。」

 

こんな時どういう言葉をかければ良いのか分からず変な間を開けてしまった。

 

「いいの、気にしないで。前からしつこいと思ってはいたんだ。特にここ最近はすごく。遠回しに断ってるつもりなんだけど....やっぱりハッキリ言ったほうが良いのかなぁ〜?」

 

彼女の人気は今や学年で一番と言っても過言ではないだろう。そんな人気者にもこんな悩み事があるとわな。オレは心の中でそう思った。

 

 

____________________________________

 

 

 

「どうなってんだよ?」「ポイントまだ〜?」

 

クラス中にそんな騒がしい声が響き渡る。6月分のポイント振り込みが行われていないからだ。オレが教室に入ってくるとみんなが一斉にオレの元に来た。前回のこともあり困ってくれた時に頼りにしてくれるのは嬉しいがコミュ障のオレからするとちょっとキツい。

 

「あ!綾小路くん!」「綾小路!おせーぞ!」

 

池や山内を筆頭に、その他にも女子数名がオレの所に来る。

 

「どうしたんだ?そんなに急いで。」

 

「どうしたもこうしたもねーよ。ポイントが振り込まれてねぇーんだって!」

 

「何だって?」

 

オレはすぐに携帯を起動し、ポイント残高を見る。

 

30万ポイントと少し。

 

確かに振り込まれていない。オレも原因はわからない。考えていると既に登校していた平田がオレの元へやってきた。

 

「綾小路くん、何か知っていることは?」

 

「分からない。こればかりは先生に聞いて確かめるしかないだろう。」

 

オレの言葉にみんなが納得し各自それぞれの席へと加わる。茶柱先生が来たからだ。

 

「では朝のホームルームを始める。まず最初の連絡として君たちにはプライベートポイントが振り込まれていない。」

 

「何でですか!?」

 

池が恐れながら問いかける。彼のポイント残高は友達から借りた3000ポイントほど。今月生活するにはとてもじゃないが十分とは言えない。他の生徒もそうなのだろう。焦りが見える生徒がチラホラいる。4月に振り込まれた10万ポイント以来一回も振り込まれていないなら仕方ないだろう。

 

「理由は簡単だ。先日一年Cクラスから『暴力事件』があったと訴えがあった。被害者はCクラスの男子生徒3人。加害者はこのクラスの須藤だそうだ。しかし須藤はこの訴えを否認し現在事実確認を行っているんだ。その結果次第ではクラスポイントにも影響が出るため、しばらくまってほしい。」

 

先生の話の途中なのにクラス全員の視線が教室の廊下側、一番後ろの席に座っている須藤に向いていた。須藤はそんな視線を気にも留めず、

 

「だから、仕掛けたのはオレじゃねぇーってんだろ!向こうから仕掛けたんだから正当防衛だろ。」

 

「その証拠がない限り学校側としても判断しかねている。なんせお互いの言い分が違うのだからな。」

 

「チッ。」

 

須藤の舌打ちが無音の教室に鳴り響く。その後に口を開いたのは須藤でも茶柱先生でもなく篠原という女子生徒だ。

 

「須藤くんがイラついてどうすんの?まずは謝罪の一言くらいしなさいよ。あなたのせいでみんなに迷惑がかかってんの分からない?」

 

冷静さの欠ける須藤にとってその言葉は彼の堪忍袋の尾を切るには十分だった。

 

「テメェ...」

 

「!!ダメだよ、須藤くん. _______

 

「止めろ。須藤。」

 

須藤の未来を予測した平田が仲裁に入ろうとする前に平田よりも席が近かったオレが彼の前に立ち塞がった。

 

「何だよ、綾小路。オレはあいつに用があるんだよ。」

 

そう言ってオレの横を通り抜けようとする須藤だが、オレはそれを阻止する。

 

「いい加減自分で気付いたらどうだ?須藤。今回の事件でお前がクラスに迷惑をかけていることに。」

 

「何だよ!だからあれは正当防衛だって.....___

 

「正当防衛が何だ?お前はあいつらを殴ったんだろ?それは事実なんだろ?」

 

「えっ?そりゃ、そうだけど....」

 

「ならお前は暴力沙汰を起こした。いくら正当防衛でも少なからず罰を下されるのは分かるだろ。」

 

「それは.....」

 

「綾小路くんのいう通りね。あなたの罪は消えない。暴力沙汰なら少なからず停学処分になると思うわ。」

 

堀北の意外な援護で須藤は言葉に詰まった。

 

「でも.....でも...」

 

須藤はもはや立っていられず膝から崩れ落ちる。

 

「.......お前の言い分が正しいならあいつらは虚偽を述べている。もう一度聞くぞ。お前は本当に自分から手を出していないんだな。」

 

オレは蹲る須藤と同じ高さまでしゃがんで彼に問う。

 

「もしそうならまだ俺たちには勝機がある。あいつらが先に学校側に報告したが、まだひっくり返せるかもしれないんだ。どうなんだ?須藤。」

 

須藤が顔を上げる。その目にはもう先ほどまでの強気な目ではなく、正々堂々とした目になっていた。

 

「ああ、やってねぇ。あいつらからやったんだ。」

 

「.....分かった。なら絶対に証拠を見つけよう。」

 

「ああ、頼む。みんな、オレのせいですまねぇ。だけどオレは本当にやってねぇんだ。プライドなのか分からねぇけどここで折れたらオレはもう一生ダメになっちまう気がするんだ!オレの無罪を証明するために力を貸してくれ!!」

 

須藤がクラスのみんなに向かって頭を下げる。

 

「もちろんだよ。須藤くん。一緒に頑張ろう。」

 

「私も。ゼッタイに無実を証明するもん!」

 

「分かったわよ。」

 

「しゃねぇーなー。」

 

平田と櫛田が協力するなら、とクラス全体からの賛同が集まる。オレはその中で一つの視線に違和感を持つ。オレに向けられた怒りの視線。その先にいたのは堀北でも櫛田でもなく........

 

 

「話はまとまったか?」

 

話が盛り上がり存在感が薄れていた先生が咳払いをして注目を集める。

 

「お前たちが足掻くならわたしは見届けることにしよう。お前たちの悪あがき、せいぜい楽しみにしてるぞ。」

 

そう言って方向を追えた先生が教室を出る。

 

 

その日の昼休みから『須藤の無罪証明作戦』という名の作戦が始まった。

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