ようこそホワイトルームが無くなった世界へ 作:好きjaなくないない無い
「綾小路くんはすごいねー。あんな短時間でこんな完璧な作戦を思いついちゃうんだから。」
特別棟の3階で待機していたオレに一之瀬が話しかけてきた。
「まぁ、今回ばかりは須藤も悪くはない。それに龍園にやられるのはいい気がしないからな。」
「...........。」
「どうしたんだ?」
オレは一之瀬の方を向く。らしくもなく彼女が黙っていたからだ。いや、どちらかと言ったら考え込んでいるように見える。しかしオレが見ているのに気づいて、
「ごめんごめん、綾小路くんについて考えてて、」
「いったい俺の何を考えていたんだ?」
「あー違う違う。変なことじゃないよ。ただ子供の頃とか中学生の時とかどんなふうに過ごしていたのかなーって。だって綾小路くん程のすごい人今まで見たことなかったから。」
確かにその通りだろう。自分で言うのも何だが、オレはホワイトルームで人間が一生をかけて学ぶものを15年で非人道的に教わった。その結果、この世界中を見ても大体のやつには知識、運動面で負けないだろう。だが、この話をするわけにはいかない。こんな非人道的な話を聞かされても信じれないだろうし、何より巻き込みたくない。彼らはオレの世界とは無縁の世界で生きてきたんだ。わざわざ住み心地の悪い世界を紹介する気はない。
「まぁ、親がちょっと厳しかったからな。娯楽もほとんどしたことが無かったし。」
オレは本当の事を限りなく濁して答えた。嘘は言っていないはずだ。
「え!娯楽行った事ないってカラオケとかボーリングも!」
「行った事ないな。意外か?」
一之瀬は首を大きく縦に振る。
「でもちょっと嬉しい共通点かも。私も家が貧乏だったからあまり遊びにいかなかったな。この高校を選んだのも学費免除のためだったし。」
「そうなのか。なら今度行ってみないか?」
「え?」
「初めてなんだろ。オレも初めてだしその方が都合がいい。」
「そうだね。そうしよっか。」
他愛のない話をしていると階段の方から男性の声が聞こえてきた。声色の種類は三つ。奴らだ。
「来たね。」
「ああ、じゃあ手筈通り一之瀬は向こうへ。」
「うん。」
短い打ち合わせの後オレと一之瀬は作戦の所定の位置についた。
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「なぁ、櫛田ちゃんがオレらに用って一体何なんだろうな?」
「ワンチャン告られるんじゃね?」
「バーカ、何で三人も呼ばれんだよ。」
今回の協議で被害者側であるCクラスの三人が階段を登りながら他愛のない話をしてやって来る。しかし、残念ながらそこにいるのは櫛田ではなくオレだがな。三人はオレを見ると空気を変え、オレを睨んできた。
「何だお前。何でここにいんだよ?」
先頭に立っていた石崎が威嚇するように話す。
「お前らには申し訳ないが櫛田は来ないぞ。なんせあいつの名前を使ってお前らを呼んだのはオレだからな。」
「何だと。そんな気持ちの悪いことまでして何の用だよ。」
「お前らに最後の警告をしようと思ってな。」
「警告。バカ言ってんじゃねぇよ。お前に警告されることなんざひとつもねぇ。」
「本当にそうか?俺の見立てではお前たちは最悪退学になるぞ。」
三人に動揺が走った。この学校でなくても退学になるかもしれないと聞けば誰もが驚くだろう。
「なんで俺たちが退学にならなきゃいけねぇんだよ。退学になるのはお前ら不良品クラスの須藤だけだよ。」
「その事件だが起きたのはここだよな。」
「そうだな。ここで俺たちは須藤に殴られた。それが事実だ。お前達に勝ち目はねぇよ。」
「ならなぜ学校側はこの協議を開いたんだ?」
「え?」
「確かにこの事件はお互いの証言だけで確実な証拠は一つもない。お前らが有利なのも先に被害届を出したからだ。」
「そうだ。俺達は殴られてすぐに訴えた。あそこまでやられたんだ。あいつはこの学校にふさわしくない。」
「しかしこの学校は証言という曖昧な証拠だけでここまで大きな協議を開いたんだ。そこにおかしさは感じないのか?」
「いや、そんなの生徒会が暇だったからに決まってんだろ。もういいか。こんなところでわかりやすい時間稼ぎしやがって。俺らはこれからその協議があるんだよ。」
馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの顔で彼らはこの場を去ろうとする。その彼らが俺の視界から消える前に話を続ける。
「少しは考えろよ。この学校の異常さを見れば生徒会がそんな曖昧な事件に首を突っ込もうとは思うはずもない。そうなると答えはひとつだ。
生徒会はこの事件の真相を知っている。」
彼らは足を止めて振り返る。
「バカを言うな。それこそなんで協議を開く必要があったんだ?」
「その理由を知るはずもないだろ。ただ俺達Dクラスは事件現場付近を徹底して調べた。そしたら頭上にこんなものがあったんだ。」
オレはあいつらにも見えるように指を刺した。彼らからは死角なので彼らは降り始めた階段を登り直して指の方向を見る。そこには小型だがこの学校で使用されている監視カメラがあった。
「....監視....カメラ?」
「ああ、そうだ。生徒会はこのカメラから出た映像を確認しているんだろうな。お前達が先に手をだしている映像を。その....」
オレが続きを言いかけると先頭にいた石崎がオレの胸ぐらを掴んだからだ。
「いいのか。この映像も記録されるぞ。」
注意するとすぐに離してくれた。
「テメェ...」
「言っただろう。最後の警告だ。ここで引かないとお前たちは退学の可能性が高い。」
「イヤだ。退学だけはイヤだよ。」
「おい、石崎。どうすんだよ?」
後ろの2人は戦意喪失したのか、顔を青くして石崎に頼み込む。石崎も予定外のトラブルに判断し損ねているな。
「これはオレからの提案だが、この事件を無かったことにするってのはどうだ?」
「は?」
「簡単なことだ。お前達が適当な理由をつけてこの事件を取り下げればいい。そうすればお前達の処分は免れるはずだ。」
「そうなんだな。なぁ石崎。そうしようぜ。」
2人は石崎に催促する。しかし石崎はまだオレを警戒している。しかし彼が決断するのは時間の問題だろう。
「待てお前ら。あいつはDクラスだぞ。そんなことしてテメェらに何のメリットがあるんだよ?」
「それは至ってシンプルだ。今回の事件、須藤は正当防衛と言ってはいるがあいつも手をあげた。それなら良くも悪くも停学になる。そうなるとクラスポイントの減少は避けられない。それを失くすためにもお前達に進言しているんだ。」
「石崎、そうしようぜ。退学なんてオレやだよ。」
「今ならまだ間に合うって。」
「.......」
他の2人が催促する中石崎は黙り込んだ。決断できないんだろう。おそらくこいつは龍園の取り巻きだ。いつも龍園が決断した道しか歩いていないんだろう。
「お前が決断し損ねているうちに時間がなくなるぞ。」
「ッ、分かってる。ただ、一本電話させてくれ。」
石崎はスマホを取り出し手慣れた手つきで11桁の番号を押す。しかし通話ボタンを押す前にスマホはひょこっと出てきた一之瀬に取り上げられた。
「テメェいつの間に?それに何すんだよ!返せ!」
「やっほー石崎くん。ごめんね。私は関係ないことだけどこのくらい龍園くんに頼らず自分で決めないと。」
「何だと?」
「じゃあもし龍園くんがこのまま続けろと言われたらそのまま従って退学になる?」
「なっ、」
「龍園くんはお世辞にも人がいいとは言えないよね。もしかしたらこんな小さな利益のために君達三人を切り捨てるかもしれない。そんな大事な選択を他人に任せないでほしいな。」
「..........」
かなり優しい言い方だが事実龍園はリスクを顧みない。下手すると本当にあいつらを見捨てるかもしれない。石崎もそれを分かったのだろう。
「...分かった。訴えを取り下げよう。」
ようやく重い腰を上げた石崎。
「それを聞いて安心した。時間を取らせたな。もう協議は始まっている。急いでくれ。」
この言葉に彼らは何も言うことなく去っていった。
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「...と言うのが一連の流れだな。何か質問あるか?」
一通り説明し終えると須藤くんが手を挙げた。
「いや、今の話を聞くに証拠の映像があったんだろ。それなら尚更何でこっちから訴えなかったんだ?」
確かに今の説明では彼がこの事件の全貌を明らかにすることはないだろう。だから私も説明することにした。
「よく見て、須藤くん。この部屋に監視カメラなんてある?」
「.......いや、ねぇけど。」
「さっき言ってた監視カメラは綾小路くんが個人で購入したものよ。それをこの階に設置。あたかも元々ここに監視カメラがあったような言い回しをすることで彼らを信じさせることができたのよ。」
「てことは...?」
まだピンと来ない須藤くんにイラついていた龍園くんは、
「そろそろ分かれよ単細胞。俺たちがでっち上げた嘘の報告にあいつらも嘘で対抗したってわけだ。」
「誰が単細胞だ!」
須藤くんの頭に少し血が昇る。本当に龍園くんは人をバカにするのが上手い。
「綾小路。よくもこんな作戦思いついたな。おかげで退学時に与えられるペナルティってやつを見ることが出来なかった。」
「そうだな。『眼には眼を、歯には歯を、嘘には嘘』だ。昔の知恵を使わせてもらった。」
さすがの龍園くんも綾小路くんをイラつかせることは難しいと見たのか、早々に現場を後にしようとする。
「言っておくぞ。お前を潰すのはオレだ。しくじって途中で負けてみろ。その時は息の根を止めるまでお前を追い詰めてやる。」
「オレが誰かに負けると思うか?」
「さぁな。なら逆に聞くがオレと戦って絶対に勝てると言い切れるのか?」
「そうだな。....お前の策が奇策であるほど勝てる可能性は低くなる。まぁ、今回のレベルの件だったら冷静に対処されることを覚えておいた方がいい。」
「ほぉ、優しいアドバイスもあるじゃねぇかよ。ククク....。」
綾小路くんの返答に少しばかり嬉しさが出来たのか、いや違う。今からもう彼をどうすれば倒せるか考えているのだろう。その思考回路に少しばかり怯えてしまった。龍園くんがいなくなると平田くんが綾小路くんに近づく。
「もしかしてだけど龍園君はまた今回みたいな事件を起こそうって考えてないだろうね。」
「可能性はなくはないが、今回の事件は生徒会が出るほどの結果になった。そんな事件を何回も起こすのもリスキーだからな。あいつならそれくらい分かるだろう。それに今回事件を起こしたのも須藤がいたからだ。」
「え?オレ?」
突然話に自分が入ってきてビックリしている。先程の会話で話について行こうと精一杯努力した結果今までキャパオーバーでボーッとしていた彼は自分の名前が出たことで現実に引き戻された。
「何でオレが関係あんだよ?」
「須藤、第一今回の嘘の事件でお前が加害者側に選ばれた理由は何だと思う?」
「え..?なんで.......?」
「一つ言うとここにいるオレと平田、堀北も答えは分かっている。」
「おいおい、答えを知ってるなら教えてくれよ。」
「それはな.....お前が一番あり得そうだったからだ。」
「は?」
「確かにそうね。入学時にも先輩と言い争いになっていたわ。この学年で一番喧嘩っ早いのはあなたと言っても過言ではないわ。」
「なんだと!」
須藤くんが私との距離を縮めてきた。私の言い方にイラついたのだろう。今反省しても仕方ないため取り敢えず彼を警戒し武道の構えを取る。須藤くんは構わず突っ込んでくるが綾小路くんが道を遮った。
「どけよ。綾小路。」
「須藤。そう言うところだぞ。オレが今止めなければ堀北に何をしていた。」
「!..それは....」
「綾小路くん。いいの。今のは私が悪かったわ。」
「確かに今の堀北の言い方には棘があった。須藤が怒るのも分かる。だけど先に手を出した方が負けなんだ。」
綾小路くんは須藤くんを見つめる。その眼には恐怖、憎悪、いやそんな次元では語れない何かが宿っていた。
「そうか。だからオレはあいつらに狙い撃ちされたってわけか。」
須藤くんは今まで自分がしてきたことを冷静に振り返る。そして自分の非を認め、落ち込む。
「そうだ。だが、お前は根は優しいやつだ。それはここ二ヶ月でオレや平田が感じたことだ。」
「え?」
「そうだよ。君は確かに喧嘩っ早い。だけどそこにはいつも理由があった。今回だって池くんや山内くん、堀北さんをバカにされたから手を出してしまった?違う?」
「何でそのことを知って...。」
須藤くんからしたらその事は少々恥ずかしい事だろう。平田くんが説明する。
「佐倉さんが僕達に話してくれたんだ。須藤くんは自分が煽られても手は出さなかった。だけど仲間をバカにするのは許せねぇって。須藤くんも不特定多数の人に知って欲しくないだろうからこの話はここだけにしてあるよ。」
「そうか。助かる。」
「お前が守りたかったのはよく分かる。だが決して暴力を使うな。暴力は確かに有効だ。自分の身を一番守れる。だけど使い方を間違えれば今回のように陥れられるんだ。そんなことになったら俺たちを頼れ。俺たちに話しずらかったら池でも山内でもいい。その時一番頼りたいやつを頼れ。絶対に問題の解決の為、お前の力になってくれる筈だ。」
「そうか、そうだな。もう暴力で解決しようとは思わねぇ。」
須藤くんの目にはもう迷いがなかった。あの時と一緒だ。私が兄さんの前ですくんでしまった時、綾小路くんは私を立ち直らせてくれた。一体どれだけの経験を踏めば彼と同じ極地に辿り着くのだろうか。
「ありがとな。綾小路。平田も堀北も。それからこれからも頼む。勉強面ではやっぱりオレは足を引っ張っちまう。だが絶対に弱音を吐いたりしねぇ。それに運動だったら力になれるはずだ。」
「そうだな。お前な.....」
話の途中に綾小路くんの携帯が鳴った。バイブの音からして電話だろう。彼は私達に出ていいか許可を取る。特に問題はない為手で進める。
「...もしもし....」
その時彼は何を聞いたのだろう。スピーカーではなかった為私や平田くん、須藤くんも分からなかった。しかし通話から10秒ほどで彼は駆け足で特別棟を後にした。
「えっ?綾小路くん?」
状況を理解できず平田くんが彼の背に声をかける。その声をも無視して彼は姿を消す。
「どうした?何があった?」
この状況が楽観視できるものではないと悟った須藤くんが訪ねる。
「分からない。けどあの焦りようは何かあったに違いない。僕達も行こう。」
平田くんは彼の跡を追おうとする。
「いいえ。それよりもクラスのみんなに報告するのが先よ。みんな心配して教室に残っているわ。須藤くんと平田くんはそっちに向かって。」
「え?でも....」
「綾小路くんの方は私に任せてちょうだい。彼のことなら大丈夫だと思うし、何かあったらすぐ連絡するから。」
「.....そう言うことなら分かったよ。何かあったら構わず連絡して。」
その言葉を聞いて私は彼の跡を追った。先程言ったが電話はスピーカーではなかったので聞こえなかった。ただ、彼の一番近くにいた私は聞こえてしまったのだ。彼女のSOSが______
もう少しで原作と違うルートを通ります。
ここで言うのもなんですが、この作品は出来ればみなさんと共に作り上げていきたいです。
なんか
「こういうイベントほしい!」とか、
「こんなオリキャラいたら面白そう!」、とか有れば是非コメントしてください!