ようこそホワイトルームが無くなった世界へ 作:好きjaなくないない無い
「イェーイ!」「やったぜ〜!」
翌日の朝のホームルーム後、Dクラスのみんなは一ヶ月ぶりのポイントに盛り上がっていた。昨日で須藤の疑いが晴れたからだ。今日の朝方には振り込まれていた。
「これで山菜定食から抜けられる〜。」
「ウチも!それにこの一ヶ月間甘いものあんま食べれなかったかな〜。なにに使おう。」
散財しそうなやつもチラホラいるが自己責任なので責めはしない。そんな明るい空気の教室を去りオレは生徒指導室へ向かった。
昨日の出来事の後、堀北が呼んでくれた茶柱先生に状況を説明、証拠を提示した。その場で起き上がっていた吉田先輩の弁明も虚しく彼は問答無用で退学。クラスメイトと別れの挨拶も出来ず、学校を去っていった。その次の日、俺と一之瀬は朝のホームルームの後生徒指導室に呼ばれることになった。
俺が生徒指導室に入るとそこには一之瀬とBクラス担任の星之宮先生がいた。茶柱先生はなぜいないのだろうか。
「ヤッホー。綾小路くーん。」
「おはよ...綾小路くん。」
前者が先生、後者が一之瀬。一之瀬はなぜかいつものようにハキハキと喋らずオレと目を合わせてくれなかった。昨日のことを引きずっているのだろうか。
「聞いたよ。綾小路くん!一之瀬さんを助けてくれたんだよね。ありがとー。」
「いえ、自分はたまたまそこにいただけなので。」
「でも凄いよー。なんたって相手は総合格闘技をやってた吉田くんだよ。そんな子を倒すなんて綾小路くんも何かスポーツやってたのかな?」
「いえ、特には、中学も帰宅部でした。」
「エッー!それで吉田君を倒したの?すごいね!」
「何か勘違いしてるようですが、オレは別に吉田先輩と戦っていませんよ。もし戦っていたならオレの顔はボロボロでしたよ。」
「ふーん。ま、いっか!それよりさ.....」
オレの顔からよみとれないと判断した星之宮先生が話を続ける。
「綾小路くんも知ってるよね?この学校ではポイントで買えないものはない、って。」
「はい。確か入学したときに言われましたね。それがどうしましたか?」
「スッゴク高いから使われたことはないけど...
あるんだよ。他クラスへの移動権。」
初耳の情報(予測はしていたが)に驚くと同時に、
「いいんですか?そんなこと言っても。」
「5月になったら言っていいことになってるんだ。君の様子だとサエちゃん言ってなさそうだね。」
「まぁ、そうですが。仮にも敵であるオレに言うメリットはなんですか?」
「それはね、綾小路くんにとびきりの提案をしたいんだ。これはおさらいだけど綾小路くんが在籍しているDクラスが卒業時に恩恵を授かりたいのなら三年生の卒業時までにあと大体900cpを獲得しなくちゃいけないよね。あ、もちろんこれはAクラスのこれから獲得するcpを含んでいないからね。」
「もちろん、分かっています。」
「定期考査でもポイントを詰められるけどDクラスが一位でAクラスが最下位だったとしても30cpしか詰められない。うちは3学期制だから定期考査では最大でも500cpとちょっとしか詰められないのよ。」
「そうですね。」
これは事実だ。それに、これは最良を基にした時の仮定だ。今回Dクラスが定期考査で一位を取れたのははっきり言ってマグレだ。オレの策があったとしてもそれはAクラスを最下位にするためのもの。それに実力で言えばB、C、Dのどのクラスが一位になってもおかしくなかった。次回からは各クラスが対策を練るだろうから尚更トップを取るのは困難になるだろう。
「この情報も解禁の許可が出てるから教えるけど、学校側はもちろん定期考査以外でもポイントが変動するイベントを準備してるのね。」
「そうなんですか?」
「そうだよ。だけど残念。それでもDクラスの勝ち目は低いのよ〜。」
「はぁ。その....えっと、結局何が言いたいんでしょうか?」
この学校では情報は貴重なものだ。前もって入手した情報ひとつでクラス戦の勝敗は左右する。この前の定期考査の様に。出来るだけ引き出そうと思っていたが、先程からのなぜここまで簡単に引き出せるか疑問に思っていた。そして、もしかしたら意図的に情報を開示しているのかもしれないと気づき、やむなく話を終えさせる方針に切り変えた。
「ああ、そうだったね。ごめんねぇ、私ってよく話が脱線しちゃうんだ。」
コミックの世界ならば『テヘペロッ』みたいな効果音がつきそうな仕草をする。これは天然なのか、それとも計算なのか。櫛田と似ていることを含めると後者だろうか....断定はできない。
「私が言いたかったのはね....
綾小路くん、Bクラスに来ない?」
「は?」
先程からの会話の流れから予想はできたが驚いたフリをする。
「ビックリすると思うけどメリットならあるよ。まず、BクラスとAクラスのcpの差は300弱。この差なら卒業までに逆転できると思うの。」
「一理ありますが、それならAクラスに行けばいい話では?」
「それがクラス移動に必要なポイントは2000万ppなのよ〜。とてもじゃないけれど、個人で貯めるのは無理でしょ。だから、多分このルールの使い方は、上位クラスが戦力増強の為に下位クラスから引き抜きをする為だと思うの。」
仮に入学時から月10万ppを3年間維持しても360万ppにしかならない。先生の言う使い方は合っているだろう。
「ですが、2000万もの大金はどう用意するのですか?Bクラスが入学してから二ヶ月間1ポイントも使ってないとしても、660万ppしかありません。どう考えても足りないと思いますが?」
「確かにそうだったー。」
あちゃ〜っと可愛げな仕草をする星之宮先生。先程も言ったが彼女からは櫛田と同じものを感じる。
「じゃあさ、2000万ポイント貯まったらBクラスに来てくれる?」
「え?」
あまりにもストレートな誘いに今度のオレは本気で首を傾げた。
「だって綾小路くん人気になりそうだし、早いうちに約束しちゃいたいなって。.......... 」
そう言って窓側(入口のから最も離れた場所)の席に座っていた星之宮先生が立ち上がってオレに近づきオレに腕を絡めて上目遣いをする。ここがショッピングモールやデートスポットならば恋人同士に見えただろう。しかしこんな狭い部屋では、異性へのお触りが私の武器だと言っている様なものだ。彼女からしたらもうちょっと動揺すると思ったのだろうが無反応なオレを見てつまらなさそうに
「ちょっとくらいときめいてよー。それとも私みたいなのはタイプじゃないの?」
「そう言う問題なのでしょうか?とりあえず離してくれませんか?」
そう言ってオレは塞がっていた右腕の自由を取り返す。しかし先生はまだオレから離れず至近距離でオレの胸に一枚の紙を押し付けてきた。
「まぁ、気が向いたらこの紙を書いて持ってきてね。」
そう言って彼女は自分が座っていた席に戻った。大方、廊下から聞こえるハイヒールの音が茶柱先生のものだと察したからだろう。怒られると分かっているのならやらなければいいのに。案の定、入ってきた茶柱先生は
「来ていたのか。すまないな、遅くなって。座ってくれ。」
そう言ってオレは一之瀬の隣に、茶柱先生は星之宮先生の隣に座った。
「朝のホームルーム後だし一限目もすぐだ。できるだけ早く終わらせる。とりあえず昨日は災難だったな。二人とも。すでに連絡が入っていると思うが吉田は一之瀬へのわいせつ行為と綾小路への暴力行為で退学。昨日のうちに彼の家へ帰ったそうだ。ここまでは報告したが、大丈夫か?」
「「大丈夫です。」」
オレと一之瀬の声がハモる。そんなことを気にしない先生が話を続けた。
「被害者であるお前たちにはそれぞれ25万ppずつが送られる。これは吉田が持っていたppの合計だ。このポイントは今日の正午までには振り込まれる。確認しておいてくれ。それとこの25万には黙秘の協力費でもある。」
「つまりこの事件は他言無用ということですか?」
「ああ、話すとしてもクラスの中心人物だけだ。噂として広めることは避けてほしい。こんなことで学校の評価を下げたくないしな。以上で話は終わりだ。何か質問はないか?」
オレ達は特に質問がないのでしゃべることはなかった。
「ではお前達は教室にもどれ。都合上、授業に遅刻しているが今回はそれぞれの授業の先生方に前もって伝えてあるから、クラスポイントが減ることはない。だか、急いで行けよ。道草を食っていたら庇うことはできないからな。」
そう言って先生は手をヒラヒラさせ合図を出しオレ達は教室へと戻ることになった。その背中を見た星之宮先生は、
「サエちゃんってさ、綾小路くんがお気に入りなの?」
「何のことだ?」
「え!だって凄く気にかけてるじゃん。あと堀北さんとか平田くんも!」
「さぁな。三人が優秀なのは認めるが別に優遇してるつもりはないぞ。」
そう言った茶柱先生の前に星之宮先生が立つ。そして目を合わせ、
「もしかしてだけど佐枝ちゃん、下剋上とか狙ってる?」
先程まで何ともなかった廊下の空気が凍てつくほどに星之宮先生の視線は怖いものだった。
「さぁ、どうだかな。」
「しらばっくれるんだ。まぁ、どんな手を使ってもそんなことはさせないから。」
そう言って職員室に戻る二人。もちろんこの会話を聞いている人物はいなかった。
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オレと一之瀬は生徒指導室を出た後、廊下を歩いていた。生徒指導室などがあるのは2階の別棟だ。しかし一年生の教室は3階である為移動には時間がかかる。その時間は今まで一之瀬と一緒にいた中で一番気まずかった。なんせ一之瀬が話さない。ずっとオレの後に続き教室を目指している。かと言って昨日のこともある為俺から話を切り出しにくい。そんな中、オレが階段に足をかけたところで会話が始まった。
「ねえ....綾小路..くん。」
「どうした?」
「Bクラスに来てくれるの?」
多分一之瀬が黙っていた時に星之宮先生が話していたことだろう。恐らく一之瀬は星之宮先生に黙っている様指示されたのだろう。
「答えは出ているが、どうしてだ?」
オレは聞き返す。正直、まだあまり現実的ではない企画書にはサインをすることはできない。それにオレはBクラスをよく知らない。知っているやつも一之瀬とこの間会った神崎という男子生徒だけだ。
「その、嬉しいなって。綾小路くんと一緒になれれば..........。その....もっと一緒に、いれるから。」
彼女は顔を赤らめながらもその恥ずかしいであろうセリフを口にした。
「綾小路くんは....その...頼りにもなるから。」
「その言い方はBクラスの奴らに向けて言ってやれ。お前が何と言おうと一之瀬を一番支えているのはBクラスのみんなだ。」
「そう...だね。でも、頼りになるのは本当のことだよ....。さっきも先生に黙っていろって言われたから黙ってた。綾小路くんがBクラスに来てくれるならって思って。」
「そうだったのか。だから.... 」
だから彼女はオレと会話をしなかったのだろう。大方、星之宮先生にオレをBクラスに引き入れる策があるから私に任せてとでも言われたのだろう。敵であっても信頼されるという行為は嫌いじゃない。一之瀬にも応えてやりたいが、
「その言葉は嬉しいが、オレもDクラスを気に入っている。離れたくない。」
「そうだよね。分かってた。綾小路くんならそう言うって。」
一之瀬は始めから期待はしてなかったのか、思いの外諦めが早かった。オレは階段に足をかけて動き始める。一之瀬もそれに続く。
「なんならここで首を縦に振るやつなんて薄情にも程があるだろ。だからこの件は諦めてくれ。」
そう言ってオレは星之宮先生からもらった紙を出す。中身は正確に見ていないがどうせクラス移動についての契約だろう。その紙を一之瀬に渡す。
「どうせ使わないしな、この紙は公にしないほうがいい。Bクラスとして廃棄してくれるか?」
「もちろん。そのくらいなら。」
「後、クラス移動はしないがこれからのクラス戦でBクラスと同盟を組みたいと思ってる。お互いに利益がある時だけ手を組んで戦うってことだ。」
「同盟ね。なるほど、いい考えかも。Bクラスで相談してみるよ。」
「そうか。なら今度詳細を詰めよう。」
こんな話をしているうちに一年生の教室が並ぶ廊下に着いた。一番奥がDクラス、手前から2番目がBクラスだ。
「それじゃ、またね。綾小路くん。」
「ああ、またな。」
そう言って彼女は教室に入る。オレもDクラスの教室へ向かう。
「しかし、オレを引き抜こうとしたのか。」
オレは一人の人物を思い出す。星之宮先生だ。本性はまだ分からないが、思考そのものはとても危険だ。もしかしたらオレ達への妨害行為も是とするかもしれない。
そんな不安を抱えながらオレは教室へと入っていった。
読んでいただきありがとうございます。ひとまずここで裁判編は終わりです。この後、少し本編から離れた話をしてから(それが終になると思います)無人島での特別試験になります。これからも原作を改編してもっと面白くもっとカッコいいよう実を見せていきますのでよろしくお願います。