ようこそホワイトルームが無くなった世界へ 作:好きjaなくないない無い
俺たち一年生は海の上にいる。
どこまでも続いている青い海、そして青い空。
その下で俺たちが乗っているクルーズ船が動いている。このクルーズ船自体の大きさは多分世界有数だろう。学校負担で乗れているが自費となると何十万とかかるだろう。客室は一部屋2人用となっているが、男女それぞれ奇数であるため、男子は高円寺、女子は堀北がそれぞれ1人部屋を使っている。オレは平田と、須藤は池、幸村は三宅と一緒の部屋らしい。そしてこのクルーズ船での旅ではポイントは一切使う必要がない。映画やカラオケ、演劇やご飯などの施設が全て無料で提供されている。そんな中オレは自室である資料を見ていた。この資料は堀北先輩から貰ったものだ。船旅が始まってから二日ほどだが、オレはほとんどの時間を自室で過ごしてこの資料を読み漁っている。
「そろそろ施設を堪能してもいいかもな。」
施設を使わなかったのは学校側が何か理不尽な罠を仕掛けている可能性があったからだが、そういった噂が経っていないのなら大丈夫だろう。それにこの資料も大方読むことが出来たしそろそろあいつらとも情報を共有したい頃だ。
「何か飯でも食べにいくか。」
独り言を呟きながら部屋を出ようとするとちょうど平田が部屋に帰って来た。
「あ、綾小路くん。ちょうど良かった。一緒にお昼はどうだい?」
「タイムリーだな。ちょうど食べに行こうと思っていたんだ。」
「それなら良かった。何か食べたいものはないのかい?」
「そうだな。昨日の夜と今日の朝はルームサービスを頼んで結構ヘビーだったからな。今は少しさっぱりしたものが食べたいかもな。」
「そうだね。ならフードコートに行ってみよう。あそこなら色々なメニューがあるしね。」
平田に同意し俺達はフードコートに目指す。
「それで綾小路くん、あの資料はどうだった?」
平田には同室ということもありこの資料について包み隠さず教えている。
「問題ない。書かれてあったことは全部頭の中に入っている。そのことについては今日の夜にでも集まって話すとしよう。」
「分かった。後2人については僕がメールを送っておくよ。」
「助かる。ここ三日で何か問題は起きなかったか?」
「うん、特には。みんな楽しそうで何よりだよ。そういえば高円寺くんが少しね.......」
「何かあったのか?」
「問題ってほどじゃないけど、プールを出た時に体を拭かずに廊下を歩いていて注意されていたよ。だけど彼はそのまま廊下を濡らして部屋へ向かっていっていたね。」
高円寺についてはオレ自身も理解できない部分がある。今後どう左右するかも予測できていない。そんな話をしているうちに俺たちはフードコートに着いた。昼時なこともあり生徒が集中している。
「和洋はもちろん、中華までもがあるのか。」
「すごい品揃えだよね。僕も昨日は驚いたよ。」
結局昼ごはんは近くにあったカフェでサンドイッチをいただいた。
「この後はどうするつもり?」
「そうだな。ずっと部屋に篭りっぱなしだったからな。海でも見ながらゆっくりするつもりだ。」
「なら付き合うよ。それにちょっとした悩み事があるんだ。」
そう言ってオレ達は外に設置されているベンチに腰をかけた。人通りも少ないし海風が流れて気持ちのいい場所だった。
「風が気持ちいいね。」
「そうだな。それより悩み事ってなんだ?」
「.....軽井沢さんから頼まれたんだ。退学にしてほしい生徒がいるって。」
「いきなり物騒な話だな。」
「うん。実は言えるのはここまでなんだ。軽井沢さんのためにも退学にしたいと言われた生徒のことも言えない。」
「そうか。」
「ごめんね。やっぱり悩み事と言うより報告として聞いてほしい。このクルーズ船の旅は3週間の予定。『例の件』が発生しても残り十日強はあると踏んでいる。もうちょっと自分でなんとかしてみたいんだ。」
「そう言うことならオレは待つし、力も貸す。いつでも相談してくれ。」
「ありがとう、綾小路くん。」
そう言うと平田の携帯が鳴った。彼がポケットから出した時に相手の名前が見えた。軽井沢だ。
「行って来ていいぞ。恋人同士だしな、遊びたいんじゃないか?」
「そうだね。お言葉に甘えさせてもらうよ。夜の集合までには戻るよ。」
そう言って平田は電話に出ながら室内へと戻っていく。さて、1人になったオレはこの後の予定を考えていた。現在午後2時半。平田達との集合まで残り5時間半ほどある。
「やる事も終わってしまったし......暇だな。」
ここ三ヶ月は充実していたからな。たまにはこんなのんびりした時間を過ごすのも悪くはないだろう。しかし、神はオレに平穏を与える気はないそうだ。
「ここに居たのか、綾小路。」
「大勢で一体何のようだ?龍園。」
オレの前に現れた龍園。後ろには取り巻きが4人いる。男子2人に女子2人。そのうちの1人は石崎だった。
「Bクラスと同盟を結んだんだろ?俺たちはのけ者か?」
「お前はオレに信頼されるところから始めろよ。」
「そんなもん俺に期待してんのか?」
「そうだな。俺が間違ってた。」
「綾小路、はっきり言っておくが俺はお前に勝てるとは思えねぇ。」
「そうか、案外自己評価は低いんだな。」
「最後まで聞けよ。俺はお前に勝てねぇのはあくまで正攻法だとだ。テメェだって人間なんだ。一日中気を張ってるなんで無理だろ。そこをどんどん狙っていくぞ。俺は内容にはこだわらねぇ。この世は勝ちか負けだ。」
「なかなかに恐ろしい発言だな。覚えておくよ。お前はやっぱり油断できない相手だ。」
「ククク、お前に評価されて光栄だね。ならこれからは俺に手を出さないことを勧めるぜ。」
「考えておく。」
それだけいうと龍園は後ろを向き去っていった。取り巻きのうち髪が水色でショートヘアの少女に睨まれたがスルーする。
「今回はなかなかにハードな戦いになりそうだな。」
龍園達がいなくなった俺は軽く昼寝でもしようとベンチに寄っ掛かる。
.........................................................................
ダンダン、という音が近づいてくることに気づいたオレは大きなあくびをしながら目を覚ます。また来客かと思ったがどうやら違うらしい。誰かに追われている一之瀬が走ってこちらに近づいてきた。
「えっ!綾小路くん!何でここに。」
「何でって結構落ち着くからな。人気もないし潮風が涼しいんだ。それより一之瀬こそどうして?」
「えっと.....とりあえず匿ってくれる?」
そう言いながら一之瀬はオレの座っているベンチの後ろに隠れた。その直後、曲がり角を曲がって来たのはクラスメイトの山内だった。なぜここにお前がいるんだ?と突っ込んでやりたい。
「お!綾小路。何でここにいるんだ?」
「ちょっと風にあたってたんだ。それよりお前こそどうした?」
「それがよ、Bクラスとの同盟話があったろ。だから、Bクラスの人たちと仲良くなりたいなーって思ってな。そしたら、一之瀬ちゃんがいたから声かけたんだよ。そしたら逃げられちゃってよ。」
「.......少し質問したくなった。お前は一之瀬と面識があるのか?」
「いいや、全く。だから仲良くなりたいと思ったんだよ。それで声かけたら逃げられてよ。一之瀬ちゃんがどこ行ったか知らないか?」
お前...それは少しストーカーみたいだぞ。まぁ、そんなことを堂々と言えないから取り敢えずエセ情報を渡しとくか。
「向こうのプールサイドに行ったぞ。櫛田とかとビーチバレーをやるらしい。」
「マジ!櫛田ちゃんと?!」
Dクラスのアイドルである櫛田の名前を聞いた山内はこれまでに見たことのないスピードでプールエリアへと向かった。
「もういいんじゃないか?」
「うん.....ありがとう。」
「大丈夫だが、何で山内に追われてたんだ?」
そう聞くと一之瀬は少し俯いた。
「この前のことがあったから少し男子が苦手気味になっちゃって、逃げたように見えちゃった。」
この前一之瀬は先輩である吉田に襲われそうになった。それだけのことがあれば男子に恐怖心を覚えるには十分だろう。
「この前の事件は生徒には伝えられていない。山内もみんなと仲良くなりたいだけらしいしな。許してやってくれ。」
「うん。次は頑張って声をかけてみるよ。ところで、綾小路くんは何をしてるの?」
「さっきも言ったと思うが休んでいた。潮風が気持ちいいんだ。」
「へぇー。....ねぇ、良かったら隣座ってもいい?」
「??...別に構わないが...いいのか?」
「男子の件?それが、綾小路くんは絶対に大丈夫って思っているからか安心できるんだよね。」
一之瀬はベンチに座りながら笑顔で告げる。座ったと思ったら同時に大きな伸びをする。
「本当に気持ちいいね。こんなところがあったなんて。この船に乗ってから三日目だけど知らなかったよ。」
「一之瀬はこの三日間何をしてたんだ?」
オレはふと思ったことを聞いてみる。
「うーん。ほとんどはクラスのみんなと遊んでたね。ちーちゃん、白波千尋っていうクラスメイトとずっといたね。Bクラスで一番仲がいいんだ。」
「そうか。楽しそうで良かった。ところで悪いが、今から少し仮眠に入ってもいいか?ここ三日間少し調べ物してたから寝不足なんだ。」
また出た大きなあくびを手で隠す。口の中を見せるのは相手の気分を害する。
「フフフ...」
横を見ると口に手を当てながら笑いを堪えている一之瀬の姿があった。
「?何かおかしなことを言ったか?」
「ううん、違うの。今の綾小路くんは表情が読みやすいの。今とっても眠たそうな顔をしているから。」
そうだろうか?確かにここ三日間は例の資料を見ていたこともあり寝不足ではある。だが自分で言うのも何だがポーガーフェイスには自信があった。
「よく分かったな。オレはそんなに表情を変えたりしないと思うんだが....」
そう言うと一之瀬は軽く下に俯いた。
「昔ちょっと色々あってね、部屋から出なかった時があったんだ。部屋の外に出ても人の機嫌を見ながら生活してたんだ。だから人の感情を読むのが得意なのかな?」
俯いた顔を上げ笑顔を見せる一之瀬。オレは彼女の精神力を本当に尊敬している。
「また無理しているな。」
「エッ!!」
バレていないとでも思ったのだろう。一之瀬の驚いた声の大きさにオレも驚く。
「オレに心配してほしくないんだろうが、そんな話を聞かされて心配しない方がおかしいだろ。無理している時は頼れる奴に頼ればいいんだ。Bクラスにだっているだろ?悩みを吐き出せる奴が。」
「.....そんなことをしたら弱気になっちゃうよ。みんなのためにも私のためにも、クラスのみんなに弱い面を見せるわけにはいかない。」
「そうか。ならオレに吐き出せばいい。絶対に漏らさないから安心しろ。」
「いいのかな?.....私が....弱音を吐いても...」
「責める奴がいるならオレが許さない。そもそも完璧な人間なんてこの世にいないんだ。」
そう言ってオレは瞼を閉じる。後のことは一之瀬本人に考えさせるしかない。そして薄れていく意識の中で、
「ありがとう。___________、綾小路くん。」
一之瀬の声が聞こえた気がしたが、眠りかけていたオレの耳にはあまりはっきりと聞こえていなかった。
______________________________________
三日後である八月三日の朝8時、それは唐突に始まった。
「生徒の皆様、おはようございます。間もなく島が見えて参ります。しばらくの間、非常に意義ある景色をご覧になってください。」
おそらくみんなから来るであろうクエスチョン①
一之瀬の放った言葉でなんで真ん中が聞けていないのですか?
ANSWER::そういう設定で行きたいという願いからです。ご理解の程よろしくお願いします。
また、定期的に活動報告で愚痴ってるので見に来てくださーい。