ようこそホワイトルームが無くなった世界へ 作:好きjaなくないない無い
池や山内は、昼休みが終わり昼ごはんを食べ次第すぐにプールへと向かっていった。隣を見ていると、呆れて物が言えないというような顔をした堀北が立っている。
「なかなか大変だな。お前も。」
「本当よ。さっきの言葉を取り消したいくらいだわ。」
「自業自得だ。それよりさっき生徒会長がお前に耳打ちしてなかったか?」
「なんでも無いわよ。」
堀北から強烈に睨まれた。超えてはいけない一線を超えてしまったらしい。逃げるように立ち上がり図書室へと向かう。今日から昼休みと放課後の一部を使って図書室で勉強することになった。そこにオレは教師係として出席する。
「平田、行くぞ。」
「うん。今行く。」
オレは既に昼食を済ませていた平田を誘って場所取りをしておく。さすがと言えばいいのかやはりと言えばいいのかこの時期になると多くの生徒が勉強をしている。そのため早めに2人で来てよかった。俺たちはひとつ当たり8人ほど座れそうな大きな机二つを陣取りみんなの到着を待つ。
「ところで綾小路くん。」
それぞれ椅子に座ったところで平田が口を開ける。
「じゃあ綾小路くんは今回どうやってテストをクリアして行こうと思っているの?基本的方針を教えてほしい。」
「そうだな。やっぱり暗記科目は45〜50点あたりを取ってほしいな。そうすれば赤点はないからな。」
「ねぇねぇ、綾小路くん。」
声をかけられたので後ろを振り返る。そこには約束の時間よりも早く来た軽井沢たち女子勢がいた。
「その、赤点の基準ってなんなの?今日見た感じだと各教科バラバラだったし、普通そういうのって全教科統一されてなかったっけ?」
「カラクリは簡単だ。クラスの平均点を2で割った数、これがこの学校の赤点ボーダーだ。」
「え!そうなの!」
「全然気づかなかった。」
女子は素直に感想を言っている中で平田が先ほどの言葉を思い出し、
「なるほどね。だから45〜50点を目指すのか。それくらいならばどの教科も赤点を取る可能性が激段に下がる。」
「ああ、だが油断は禁物だ。たかが50点、されど50点。勉強しないと厳しいぞ。早速始めよう。」
オレの一声で女子たちが各々机に座る。参加予定だった男子もすぐに到着して持ってきた教材を開き解き始める。
「綾小路、ここ教えてくんね。」
「平田くん、ここ分かんない。」
「綾小路くーん。この教えてー。」
やはり皆(特に授業中に喋っていた生徒)は高校入学からやっていた範囲を理解しておらず質問の量はなかなかのものだった。
「この時期はこの前のページにある公式を使ってだな、、、、」
「ここの文章は進行しているから現在進行形を、、、、、」
「ここは加速度が入っているから教科書に書いてあるこの公式を活用してだな、、、、」
「ありがとう。良く分かったよ。って、綾小路くん何してんの?」
質問し終えた佐藤という女子生徒がオレに尋ねた。
「何してるかって、、、、、読書だな。」
「勉強しなくていいの?」
「大丈夫だ。勉強なら帰ってからでも出来るしこの時間はお前らを教えるために使っているからな。」
「あ、、、ありがと。」
佐藤はヤケに顔を赤くしてお礼を言う。熱でもあるのだろうか。だが、体調は悪くなさそうなのでそこまで気にかける必要はないと判断し、オレは全体を見渡す。みんながみんな勉強ができないわけではない。もちろんこの高校を受ける時も受験のためではあるが勉強をしてきている。この調子で勉強すれば少なくとも平田を含めたここにいる18人は赤点を取らないだろう。煩悩を働かせてプールへ向かった奴らはどのくらい勉強ができるのだろうか。
、、いや、あいつらはしっかり勉強してもらわないとな。今回ギリギリで助かってもテスト自体は一年だけでもまだ5,6回はあるはずだ。二学期に入る頃には全員、少なくとも少しは自分から勉強するようにしないと。
考え込んでいると図書室が騒がしくなっていることに気づいた。意識をそちらに向けて騒ぎが起きている方を見る。中心には背が高く男子にしては少し長い紫色の髪をした男。さらにはその取り巻きのような奴らが3人の合計4人がオレの方へ向かってきた。先頭の男はオレの前に立ち止まって座っているオレを見下しながら話し始める。
「お前が綾小路だな。」
クラスまでは分からないがネクタイの色からして同じ一年生だろう。だが、気迫からして只者ではない。おそらくだが中々の修羅場を潜っている。
「そうだが、なんのようだ?」
「おいおい、俺たちは初対面なはずだろう。自己紹介くらいさせてくれよ。」
「別に構わないが、早速用件から入ったところを見てお前は急いでるんだと思ったんだ。悪いな。」
「別に気にしてねぇよ。俺は龍園翔。一年Cクラスを束ねる者だ。」
「へぇ、そんな奴がどうして俺の元に来たんだ?まさか一緒に試験勉強しようとは言わないよな。」
「まさかな。俺は無駄な努力が嫌いなんだ。俺はお前と話がしたいんだよ。しかし百聞は一見にしかずとは言うもんだな。直接お前と話せてよかった。お前に興味を持てたからナッ!」
龍園は4メートルほど離れていた俺との距離を一気に詰め俺に向け拳を放つ。当たるとは端から思っていなかったのか威力がないため右手でガッチリと拳を掴む。
「ちょっと龍園!」
取り巻きの1人である少女が小声ながらも警告する。オレの周りにいたクラスメイトも驚きを隠せなかった。こんなことすればペナルティじゃないのかと。
「安心しろ。これくらいでペナルティは受けねぇ。実証済みだ。」
龍園はそう言って部下を落ち着かせ俺から距離を取る。
「ここが、カメラの死角になっていることも実証済みか?」
「ククク、そこまでわかってるとはたまげたぜ。やっぱりお前は只者じゃねぇな。」
「そこまでだよ。」
オレと龍園の睨み合いが続く中ピンク色髪を腰近くまで伸ばしている少女が仲裁に入ってきた。その後にイケメンの男子も近づいてきた。
「一之瀬、邪魔するな。別に喧嘩を始めようとしてるわけじゃねぇよ。オレは綾小路と話に来たんだ。お前には用はねぇ。」
「そうだったんだ。けど図書室では静かにしようね。声を出さなくても激しい動きは図書室では目障りになっちゃうから。」
その少女、一之瀬と呼ばれた彼女の言葉を聞こうともせず龍園はオレに近寄ってきた。
「今はここまでだ。今日の夜は予定を空けとけよ。」
「お誘いは嬉しいが、そちらから誘うとなれば夕飯はそっち持ちってことでいいよな?」
「ああ、勿論だ。Dクラスは金に困っていて仕方がないだろうからな。いや、お前は違ったな。満点を取った生徒には10万が入るからな。」
龍園はいつまでも不敵な笑みを浮かべ図書室を去った。オレは半分放心気味だったクラスを落ち着かせて勉強に戻ってもらってから一之瀬にお礼を言いに行くことにした。
「にゃはは、もしかして、私たちでしゃばっちゃった感じ。」
「結果的にはそうだがそのおかげで俺たちは助かった。ありがとう。えーっと一之瀬だったか。」
「そう。1年Bクラスの一之瀬帆波です。よろしくね。こっちは神崎くん。」
先ほどのイケメンは神崎というのか。軽く手を挙げて挨拶をする。
「君が綾小路くんだったなんて知らなかったや。」
「、、、さっきから気になってたんだが、なぜみんなそんなにオレのことを知っているんだ?」
「知らないの?綾小路くん今多分一番有名だよ。」
初耳だ。そんな噂これっぽっちも入ってきていない。
「そうだったのか。悪いな、認識不足で。」
「仕方がないよ。本人の噂ってのは中々自分には入ってこないからね。ましては噂が本格的に広まったの今日からだし。」
おそらくだが小テストの100点が効いたのだろう。
「綾小路くん。そろそろ行かないと体育に遅刻しちゃうよ。」
平田の声でオレは現場に戻ることにする。もう大多数の人が教材を片付けて図書室を出て行っていた。
「悪いな、一之瀬。そろそろ」
「大丈夫だよ。あっ!綾小路くん、連絡先教えてくれない?」
「勿論いいがどうしてだ?」
「何かあった時にすぐ連絡するからだよ。」
「もう分かったと思うが、一之瀬は大がつくほどのお人好しだ。」
意味がわからなかったが神崎の言葉で理解できた。一之瀬は、いわゆる『善人』というやつなのだろう。しかし、断る理由はないので連絡先を交換して、平田の跡を追った。
「綾小路くんすごい有名人だね。」
「いいのか悪いのか今のところはジャッジできないけどな。それよりも次の体育の授業が心配だ。」
「どうしてだい?」
「池と山内の興奮が正直やばかったからな。何かやらかさないかしっかりと見張っておかないといけないだろう。」
「ははは、、、、そんなことないと思うけど。」
平田は愛想笑いの後若干間を空けてから言葉を続けた。
体育の授業は池と山内が犯罪に手を染めかけたがなんとか彼らを止めることができた。しかし物事とはうまく行かない物だ、一つ問題が解決したと思ったら、また新しい問題が生じる。今回は放課後の勉強会での須藤と堀北だ。
「なんで言ったか知りたいの?私はあなたのことを確かに馬鹿にしたわ。けれどそれは誰から見ても分かる客観的事実よ。なぜそこまで怒りが込み上げているのか分からないわ。」
「何だと。もう知るか。テメェになんか教わるくらいだったらオレは退学を選んでやる。」
我慢の限界を越した須藤がそう言って図書室を去るのが見える。後に続いて池と山内、さらには櫛田までもが離れていった。櫛田に関しては池たちの心配が勝ったのだろう。
「いいのか?見捨てても。」
オレは堀北に近づき話を伺う。今の出来事はこちら側で勉強しているクラスメイトにも見えていた。余計な心配をされるくらいなら原因くらいは聞いたほうがいい。
「当然よ。彼らのレベルは壊滅的よ。なぜこの学校に合格したのか疑うわ。彼らに構っていたらいつまで経ってもAクラスなんて無理に決まっているわ。」
「、、そこまでわかっているならお前は何でDクラスに配属されたんだ?」
「学校側のミスに決まっているじゃない。先生に何度か頼んだけど学校側にはミスはしていないと一点張りだし、困ったものだわ。」
「いや、オレが学校側なら堀北はDクラスだ。」
「どういうつもり。私を舐めないでちょうだい。あなたほどに勉強はできないけれど、勉強だって自信はあるし、運動だって私には武道の心得もあるわ。あんな人たちと一緒にされるほど私は落ちぶれていないわ。」
「それがお前の弱点だ。他人を足手纏いとして全て自分1人で解決しようとしている。お前は確かに優秀だが何でも1人でやろうとしているんだ。そんなんじゃ団結したクラス相手に勝てるはずがない。強いて言うなら『孤高』に憧れた『孤独』の戦士ってところだ。」
ここまで聞いて堀北は席を立ち上がって図書室を後にする。話の無駄だと思ったのか、それとも図星だったのか。真相はわからない。
彼女は優秀だ。このクラスでも上位に入る実力を持っている。Aクラスに上がるためにはなくてはならないピースだ。今は自分の弱さを否定したくない気持ちが混ざっているがその気持ちはオレが壊してみせる。その暁には彼女は今の何倍も強くなっているだろう。