あなたは自由になりなさい   作:布団叩き

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第2話

事件の3日後、復旧作業を横目に職員室で授業計画の練り直しをしていた私にニュースが飛び込んできた。織斑くんの白式や更式さんの打鉄弍型を手がける倉持技研が襲撃されたというのだ。すぐさま作業を監督していた先輩のもとに飛んでいって状況を伝えると、流石の先輩も血相を変えて職員室に向かった。

 

「現れたのはこの間のヤツと同じなのか?」

 

「はい。研究所の監視カメラに残されていたデータと手元のデータを照合しましたが、まず間違いないと考えられます。…しかし、妙ですね。白式は織斑くんにしか扱えませんし、敵は一体どういうつもりなのでしょうか」

 

「強化パーツを奪ったという事は、連中は白式に関して何かしらする算段があるという事かもしれん。…あいつはもう、無事ではないかもしれん」

 

「先輩、それは…!」

 

思わず、プライベートでの呼び方が出てしまった。誰もが考えないようにしていた可能性。既に織斑くんの身に取り返しのつかない事が起きていたら。生徒を守り、導く教職に就いている者としての自信を私は永遠に失ってしまうかもしれない。

 

「まだ可能性の話だ。決まったわけじゃない。それに、白式はほぼブラックボックスと言ってもいい代物だ。敵の技術力がどうあれ、そう簡単に全容が解けるものでもなかろう」

 

私が不安になりやすい面倒な性格である事を知っているから先輩はこうして落ち着かせてくれる。たとえ、すぐに分かってしまうような嘘でも、希望的観測だとしても今の私にはそういうものが必要だった。いちばん辛いのは、彼のことが1番心配なのは、先輩なのに。そんな彼女の前ですら焦ることしかできない私は、改めて自分が嫌になった。

 

 

 

数日後ーーー

 

「やぁやぁどうも、倉持技研より参りました篝火ヒカルノでぇっす」

 

そう言って扉を派手に開けて現れたのはISスーツに白衣を纏った妙齢の女性…しかもそれが紺色の、いわゆるスクール水着っぽいスーツだというのだから殊更に混乱する。他の職員の姿もなく、どうやら1人で学園に来たらしい。

そんな彼女を交えて僕たち専用機持ちは再度、集合をかけられた。今度は寮長室ではなく、ちゃんとした会議室だったけど。

 

「さて、単刀直入に言おう。作戦の詳細が決定された。お前たちにも手伝ってもらうことになる」

 

「攻勢に出る…という事ですわね」

 

そうだ、と肯定の意を示してから織斑先生は続ける。

 

「1週間前、倉持技研の施設から開発中の白式の強化パーツが強奪された。これにより敵は白式か、もしくは織斑本人をどうにかする算段がついたものと推測される。これ以上の事態の悪化を防ぐためにこちらから動くことになった」

 

「いやーはっは、これがものの見事にやられちゃいましてねぇ!ま、IS相手だから当たり前っちゃ当たり前ですけどね!」

 

あははははと高笑いをする篝火さん。見える範囲だけでも腕や足に相当量の包帯やガーゼをしているあたり、それなりの被害が出たと思うんだけど、笑ってていいのかな…?

 

「しかしやられるだけで終わらないのがこの私!なんと調整用に取り付けてあったモニターを発信機代わりにして連中の足跡を辿る事に成功したのです!」

 

「じゃあ、あいつらの本拠地も割れたって事!?」

 

「YES!…と言いたいところなんですけど、それが問題なんですよねー。途中でモニターを取り外されちゃってそこら辺の海までしか追跡できませんでした!ってのが話のオチよん♡」

 

皆の期待を見事に裏切った張本人はかわいらしく『てへぺろ☆』と言わんばかりにお茶目な仕草をするも、こちら側の落胆の色は明らかだった。

 

「…でも、先生。そんな状況でも僕たちを集めたって事は収穫が0ではなかったという事ですよね」

 

「そうだ。『そこら辺の海』という表現は少し大雑把だったな。正確には台湾から南東におよそ1000kmの地点になる。そしてここから推測される地点は…」

 

そう言って織斑先生はスクリーンに投影したパソコンの画面上でモニターの最後の交信記録地点と倉持技研の所在地を線で結び、日本本土とは反対側に更に線を伸ばす。そしてその先にあったのは…

 

「フィリピン…?」

 

「そうだ。現在学園はフィリピンもしくはインドネシアのどこかに敵の拠点があると睨んでいる。この方面に点在する島々であれは、ある程度グレーな部分を割り出すことも可能だ。仮にモニターの存在に気づいた敵が罠を張っていたいとしても、最悪、敵との接触はできる。ここまで後手に回り続けている我々にとってはこれが唯一の敵を知り、先手を打つに至る道だ」

 

そしていちど話を区切り、いつになく真剣な面持ちで続けた。

 

「未だに敵の規模も目的も何もかもが謎のままだ。学園に内通者がいる可能性も捨てきれん。この作戦に参加すれば命の保証はできない。だがそれでも私は一夏を助けたいと思っている。生徒を守るべき立場にありながら身勝手な話なのは承知している。その上で、頼みたい。皆の力を貸してほしい」

 

織斑先生はその場で頭を下げた。山田先生も篝火さんも驚いている。というか、この場において驚いていない人なんていなかった。もちろん僕だって例外じゃない。これは臨海学校の時にも見せた織斑先生の素の表情だ。

 

「…千冬さん、その思いは私たちも一緒です。ここにいる全員が命に代えてでも一夏を助けたいと思っています。だから、そんな風に頭を下げないでください」

 

「大丈夫だってば千冬さん!あたしたちがそんな簡単に一夏を諦めるように見える?」

 

「オルコット家の誇りにかけて、必ず一夏さんを取り戻してみせますわ」

 

「僕だって、一夏への恩返しが済んでないから」

 

それに、まだ伝えたい気持ちも伝えられてない。このままお別れになるなんて絶対にイヤだ。

 

「私をあの悪魔のシステムから救い出してくれたのは嫁に他ならない…今度は私が救う番です」

 

「わ、私だって、一夏がいなかったら自分に自信が持てないままだったから…」

 

「生徒の安全を守るのは会長たる私の役目ですから。それに、一夏くんとはまだ特訓の約束がありますもの」

 

「…ありがとう、皆。私は良い生徒に恵まれたようだな」

 

ふっと優しく笑う織斑先生の姿はまさに女神という言葉が確かにふさわしいと思えるほどの美しさがあった。最初の挨拶の時にクラスで歓声が上がったとは聞いてたけど、なんか分かる気がするなぁ…

 

しかし、織斑先生はすぐにいつもの"先生モード"に戻って僕たちに作戦の説明を始めた。

 

「まずはダバオにあるIS委員会の支部までジェットで飛んで、到着次第、現地の軍や委員会の警備隊と共に近海の島々を捜索する事になる。しらみ潰しでの作業だ、時間との戦いにもなるためかなりの強行軍になる」

 

マップ上では時間と共に勢力図がゆっくりと動きはじめ、ダバオを中心にして『制圧済み』を示すエリア広がっていく。これを見る限りだと僕たちの担当範囲はかなり広いようだった。

 

「ISあればこそのかなり無茶した作戦ね」

 

「あら鈴さん、まさか怖気付いただなんて言いませんわよね?」

 

「こういうゴリ押しはあたしの得意分野よ!セシリアこそ途中でへばったりしたらただじゃおかないからね!」

 

みんなやる気は充分みたいだ。

 

「それと、ここにいる7人を2つのチームに分けようと考えている。篠ノ之・オルコット・鈴音・ボーデヴィッヒの4人でAチーム、デュノアと更式姉妹の3人でBチームとする。それぞれのリーダーはボーデヴィッヒと更式姉に頼みたいが…」

 

「私たちでしたら実戦経験もありますし、分隊規模の司令塔としては妥当かと」

 

「私も異存はありません」

 

「よし、現地では基本この組み合わせで作戦行動に従事するように。それとフライトは1週間後だ。今のうちにやりたい事があれば済ませておけ。以上、解散!」

 

織斑先生の一声で会議は終わった。皆が続々と会議室から出ていく中で篝火さんがタブレット片手ににやにやしながら先生に近づいているのがすごく気になったけど、先に外にいたラウラに呼ばれて僕も会議室を後にしたのだった。

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