イタリア料理店『トラサルディー』での“奇妙”な日常   作:にわとり肉

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 アニメ二期、第二話の、スピカトレーナーにテイオーが菊花賞断念を伝える前辺りからスタートです

 原作(ジョジョの奇妙な冒険)の大幅なコピーを行なってしまったため、前二話を削除しました。


序章・無敵のテイオー伝説 その1

 『ギリギリまで粘る。だが、その時に医者に止められたら、諦めるしか無いからな』

 

 「…」

 

 朱色に染まる空は、俯いてビル沿いの歩道を歩く彼女__トウカイテイオーの心情を表しているようであった。

 

 無敗でクラシック三冠。その王手をかけた矢先に、基幹たる脚の骨折。クラシック最後のレース、菊花賞への参戦は絶望的であった。

 

 幼き日の約束、意地で、彼女は諦めることができなかった。それに、彼女のトレーナー__チーム・スピカのトレーナーは全面的に協力し、今日までリハビリテーションを続けてきたのである。

 

 しかし、現実は非情であった。

 

 トウカイテイオーは、立ち止まり、口惜しそうに口を結び、歩いてきた道を振り返る。人が、車が往来する街の風景は、より一層、彼女が実感する現実を補強し、深々と心を抉るようであった。

 

 「…っ!」

 

 彼女は小走りに、トレセン学園への帰路を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (こんなに…頑張ってきたってのに…)

 

 彼女の足は、その実、トレセン学園に向いてはいなかった。心を支配する寂寥感がそうさせるのか、“強者”としての自負がそうさせているのか、とにかく、彼女はそこへ戻る気が湧かないのである。

 

 静かな、家々が立ち並ぶ住宅街の、電柱から垂れ下がる電線には、むくどりの群れがとまり、耳につく鳴き声を上げている。空は紫色になり、道路照明灯が、短い範囲を明るく照らし始めている。ぶるぶると頭を振るが、トウカイテイオーの青い瞳には、未練の炎がしつこく灯っていた。

 

 時間が経てば経つ程、炎は勢いを増す。未練というのは、自分の中で踏ん切りがつくのに時間がかかるもの。まして、中等部で、まだ精神的に幼いトウカイテイオーは、行き場のない怒りに歯軋りする。

 

 そして、彼女はやけ(・・)を起こした。

 

 「ッ…!!!」

 

 思い切り駆け出したのである。骨がどうとか、そういうことは最早頭から抜け落ちていた。

 

 (クソッ!!クソッ!!!くっっそぉぉぉ!!!!!)

 

 理性が蒸発していても、本能は目敏い。脚の踏み込みは“日本ダービー”のそれと比べ弱々しく、脆い。身体は理解できていた。現状で菊花賞を勝つ事など、“奇跡”でも起きない限り、いや、起きたとしても勝てるかどうか。

 

 「ボクはッ…!!トウカイテイオーなんだぞッ!!!無敗で三冠を取れたんだぁぁぁッ!!!」

 

 目を見開き、力一杯吐き出したそれは、正に負け犬の遠吠えである。理解できている。しかし、頭で理解しても、心が受け入れることは、まだできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハァッ…!!!ハァッ…!!!」

 

 トウカイテイオーの暴走が収まった頃には、空は深い黒に染まりきっていた。宵闇の中、入り口の扉の電灯に照らされる、小さな洋風の建物の隣、道の中央にへたり込んだ彼女は、顔全体が熱くなって、喉の奥から迫り上がってくる感覚を覚えた。

 

 「ハァ…ハァ…ッ!!」

 

 その時、左隣から、ガチャリと扉が開く音、同時に鈴の音が鳴った。驚いて耳を立て、トウカイテイオーは音の方に振り返った。

 

 「…フーム?…signorina(お嬢さん)、ソンナとこ座り込んで、一体どうしたとイウノデス…?」

 

 掃除用具を持った、赤いスカーフを巻き、エプロンを身に纏い、コック帽を被る外国人の男であった。

 

 「うえッ…!!?」

 

 彼女はここでようやく、自身が学園からかなり遠いところまで走ってきてしまったことに気がついた。あたふたとし、鼻を啜った彼女は、すくっと立ち上がり、咳払いを一つ。

 

 「んんッ…な、なんでもないデス…ごめんなさい〜」

 

 「アァ!チョットマッテ!」

 

 愛想笑いと共にその場を後にしようとするトウカイテイオーを、入り口に立ち尽くしていた男は、掃除用具を置き、手を伸ばして呼び止める。

 

 そして、神妙な面持ちで、静かに言った。

 

 「…左脚で踏み込む際の挙動ガ、僅かに()に傾イテマス…貴方…」

 

 トウカイテイオーは足を止めた。

 

 「…」

 

 そして、右に周り、男に向き直る。その表情は、疲れ切った笑みを浮かべていた。

 

 「骨折…だよ、治りかけだけどね。ウマ娘なら良くあることさ」

 

 あはは、と乾いた笑い声を上げる。萎びきった耳は、ピクリとも動かない。

 

 「…ソウデスカ…」

 

 「…ボクさ、トウカイテイオーって言うんだ…結構有名な自信があるんだけど…知らない?」

 

 「マダ、日本に来て日が浅イノデ」

 

 男の言葉に、そっか、と返したトウカイテイオーは、なんだかとても、誰かに心情を吐露したくなっていた。とにかく、相手がどうだとかは関係がなく、吐き出し尽くしてスッキリしたいのである。

 

 「時間あるならさ…ちょっとだけ、ボクの話を聞いてよ」

 

 トウカイテイオーの提案に、男は太陽のような笑みを浮かべ、頷いた。

 

 「…ナラ、立ち話では無ク、店の中で話マショウカ。…アァ、申し遅れマシタ、ワタシは“トニオ・トラサルディー”。トニオと呼んで下サイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「フゥム、ソレデ、貴方はココに」

 

 「そう」

 

 グラスの水が、波紋を作る。古めかしい木製の椅子の背もたれに寄りかかり、白い天井を仰ぎ、もう何度目かわからないため息を、トウカイテイオーは吐き出した。

 

 「ありがとね、こんな話に付き合ってくれて。あー…やなこと全部吐き出したら、お腹空いてきちゃったな…」

 

 背筋を伸ばし、無理な笑みを貼り付けるトウカイテイオーに、男__トニオは、胸に手をやり、明るく振る舞う。

 

 「デハ、ココで食べて行けば良イデショウ!」

 

 「え…」

 

 トニオの提案に、トウカイテイオーは顔をあげ、彼を見る。トニオは、さらに補足する。

 

 「ワタシは、お客様に快適にナッテ貰イタイのデス。モシ、テイオーサンが良ければ、ワタシの料理で心を癒ヤシテハいかがデスカ?」

 

 「え、あぁあ…」

 

 壁に取り付けられた時計が指し示す時刻は、5時半。門限には大分余裕があるし、何より、長々と話を聞いてもらったが故の負い目もある。実質、トウカイテイオーの返答は一つに絞られていた。

 

 「じゃ、じゃあお願いしようかな…」

 

 「bene(良し)。デハ、少々お待ちクダサーイ」

 

 トウカイテイオーの言葉に、満足そうに頷いたトニオは、踵を返して、厨房の出入り口へ向かう。

 

 「…フフ」




 
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