イタリア料理店『トラサルディー』での“奇妙”な日常 作:にわとり肉
トウカイテイオーは、改めて、鳥の人形、色とりどりのワインボトルが綺麗に並べられた棚、額縁の絵で飾られた、白を基調とした店内をぐるりと見回し、正面に直る。
(そういえば…メニューだったりとか無いなぁ…何も聞いてこなかったし、勝手に作っちゃうってことかな)
机の中央に置かれた、捩り鉢巻きのような蝋燭の炎の揺らめきを、テーブルに肘付きながら見ていた彼女は、水で満たされたグラスに手を伸ばし、口元に持っていった。
「んくっ…!?」
そして、唇にグラスをつけ、ぐいっと傾ける。彼女の口の中に清涼感が広がった。途端に、彼女は目を見開いた。
(何これ…!?こんな美味しい水、今まで飲んだことないよ…!!なんなのさこれー!!?)
水道水のような、引っかかるような硬さは無く、初めから何も無いように柔らかい。それでいて、ほのかに甘みを醸し出しながら、喉を潤しながら突き抜けてゆく確かさに、トウカイテイオーは息を呑んだ。
「んぐっんぐっ…ぷはー…!」
気づいた時、グラスの中身は空っぽになっていた。口惜しそうにグラスを眺め、そっとテーブルに戻した彼女は、小さく鳴き声を上げ出したお腹をさする。
「…」
手持ち無沙汰な脚はぷらぷらと動かされ、忙しなく耳を動かしながら、トウカイテイオーの目線は、厨房に続く出入り口に釘付けであった。
「
「わぁ〜!!」
数分後、まちかねたトウカイテイオーの前に、笑みを湛えるトニオが、そっと料理が盛られた皿を配膳する。
良い焼き色のバゲットが四つ整列し、それに囲まれた、刻まれたパセリの緑と、縦に四等分に切られた椎茸、一口大のエリンギ、小ぶりだが存在感のあるシメジの茶色が調和しあったマリネは、燻っていたトウカイテイオーの食欲を後押しするには十分過ぎた。
パッと顔を明るくさせ、見守るトニオを一瞥した彼女は、すぐに向き直り、パンと手を合わせた。
「いただきまーす!」
まずはマリネから。いそいそと、椎茸、エリンギ、シメジにパセリをフォークで串刺しにし、口元に持って行く。そして、
「あーんっ…!!」
その瞬間、まず鼻に突き抜けてきたのは、ガツンとした爽やかさ。パセリである。
「んぐんぐ…」
咀嚼を始めると、椎茸の肉厚さ、スッと歯が入るエリンギ、プチプチとちぎれるシメジの歯応えが心地よく、滲み出る緻密な旨味と、バルサミコ酢の芳香、深味が全体を統括し、昇華させる。
じっくりと噛み、飲み込んだトウカイテイオーは、頬を色付け、ほっと息を吐いた。
「美味しい…!!」
「
心からの賛辞を受け、トニオは軽く会釈し、にっこりと笑って見せた。
(手が止まらないよ…!食べるたびに全身が喜んでいるのを感じる…!!こんなのはじめてだ…!!!)
随分前に、メジロ家でお世話になったことがあるが、それでもこうはならなかった、と考えながら、トウカイテイオーはマリネを口に運ぶことを止められない。一口入れれば、彼女の耳はコミカルに反応し、忙しなく動き回った。
それを、ニコニコと温和な笑みで見守っていたトニオは、徐に口を開く。
「キノコ類ニハ、ビタミンB群が豊富に含マレテイテ、糖質や脂質の代謝を活発にサセル効果がアリマス…アナタの
「…んえ?肌荒れ?」
頬に手を当て、最後となってしまったマリネを、目を細めて味わっていたトウカイテイオーは、内容物を飲み込んだ後、不思議そうに聞き返す。
(あ…そういえば、最近リハビリのトレーニング続いてて、帰ったら疲れ切ってるし、保湿だとか疎かにしてたな…)
「…いてっ」
その時。彼女の耳に、ベリ、と、何かが剥がれ落ちる様な音が響く。さらに、ヒリヒリと、手の甲が熱を持つように感じた。
「なんだよもー…」
トウカイテイオーは、自身の手の甲を一眼見て、その瞬間、幸福感に溢れていた表情を消し去った。
「…ぁ」
彼女の両手の甲は、皮膚が脱落し、鮮やかな血肉が丸見えとなっていたのである。
トウカイテイオーの顔は、瞬きの内にサッと青色に染まった。
「う、あ、ぁあ!うわぁぁぁあ!!!?!?!?あぁ!!?」
店内に悲鳴が響き渡る。それも束の間、今度は自身の顔から、べりり、と、音が鳴ったのを捉え、彼女は瞳孔を狭める。
「ま、まさか…!!」
恐る恐る、手を顔に持っていき、指で頬を伝ってみる。
こめかみを伝い、白い流星のような、一房の前髪を掻き分け、おでこに到達した瞬間、ずるり、と、ずれる感覚を覚えた。
「は、はぁぁ…な、何が起きているんだぁぁぁぁ!!!?」
恐怖のあまり、乱雑に椅子を倒して立ち上がった瞬間、まるで顔パックのように、トウカイテイオーの顔面から皮膚がずりむけ、空となり、バゲットと新鮮なチーズを残すのみとなった皿に落着、ベチャ、と音を出した。
「ああぁあ!!!うわぁぁぁあ!!!?」
「落ち着いテクダサーイ!ソレは一時的なモノ…すぐに元に戻りマース」
トニオの言葉を皮切りに、錯乱状態のトウカイテイオーの、肉剥き出しとなった顔面、手に変化が訪れる。
「はっ…!!?」
ぶちぶちと肉が弾け、淡々と白色の斑点が広がり、赤い血肉をあっという間に覆い尽くしたのである。顔面全体を襲っていた、突き刺すような痛みが消えた彼女は、悶えていた身体を止める。
「…な、何…」
「鏡で見てミテクダサーイ」
冷や汗の止まらないトウカイテイオーに、満足そうなトニオは、小洒落た手鏡を手渡す。受け取ったトウカイテイオーは、鏡に映る自分の顔を見た瞬間、血相を変えた。
「ええええ!!!?!?な、なにこの艶々卵肌!!?赤ちゃんでもこんなにならないよー!!?!?えええ!!!?手も!!かつて無い程スベスベになってるよ〜!!!?!?」
しっとりとして、滑らかさに磨きのかかった両の手を掲げ、大興奮を隠さずに、再び騒がしくなった彼女を横目に、ズル剥けた顔面の皮が乗った皿を手に持ったトニオは、
「デハ、
「あっ…ちょ、ちょっと待ってよ!!?」
呼び声虚しく、スタスタと店の奥に姿を消したトニオに手を伸ばすが、無論、空を切るにとどまる。しばらく固まったトウカイテイオーは、ワナワナと震え、パンクしそうな頭を抱え、ギリギリまで見開いた目で天井を仰いだ。
「な、な、何がどうなってるのさ〜!!!?!?」
驚天動地の食事は、まだまだ始まったばかり。
私、長い話を書く体力が無いので、かなり話数を使うかもしれないです…ま、ジョジョ原作もこんな感じだったし、多少はね