イタリア料理店『トラサルディー』での“奇妙”な日常   作:にわとり肉

2 / 9
序章・無敵のテイオー伝説 その2

 トウカイテイオーは、改めて、鳥の人形、色とりどりのワインボトルが綺麗に並べられた棚、額縁の絵で飾られた、白を基調とした店内をぐるりと見回し、正面に直る。

 

 (そういえば…メニューだったりとか無いなぁ…何も聞いてこなかったし、勝手に作っちゃうってことかな)

 

 机の中央に置かれた、捩り鉢巻きのような蝋燭の炎の揺らめきを、テーブルに肘付きながら見ていた彼女は、水で満たされたグラスに手を伸ばし、口元に持っていった。

 

 「んくっ…!?」

 

 そして、唇にグラスをつけ、ぐいっと傾ける。彼女の口の中に清涼感が広がった。途端に、彼女は目を見開いた。

 

 (何これ…!?こんな美味しい水、今まで飲んだことないよ…!!なんなのさこれー!!?)

 

 水道水のような、引っかかるような硬さは無く、初めから何も無いように柔らかい。それでいて、ほのかに甘みを醸し出しながら、喉を潤しながら突き抜けてゆく確かさに、トウカイテイオーは息を呑んだ。

 

 「んぐっんぐっ…ぷはー…!」

 

 気づいた時、グラスの中身は空っぽになっていた。口惜しそうにグラスを眺め、そっとテーブルに戻した彼女は、小さく鳴き声を上げ出したお腹をさする。

 

 「…」

 

 手持ち無沙汰な脚はぷらぷらと動かされ、忙しなく耳を動かしながら、トウカイテイオーの目線は、厨房に続く出入り口に釘付けであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「antipasto(アンティパスト(前菜))は、“三種のキノコのマリネ”デス」

 

 「わぁ〜!!」

 

 数分後、まちかねたトウカイテイオーの前に、笑みを湛えるトニオが、そっと料理が盛られた皿を配膳する。

 

 良い焼き色のバゲットが四つ整列し、それに囲まれた、刻まれたパセリの緑と、縦に四等分に切られた椎茸、一口大のエリンギ、小ぶりだが存在感のあるシメジの茶色が調和しあったマリネは、燻っていたトウカイテイオーの食欲を後押しするには十分過ぎた。

 

 パッと顔を明るくさせ、見守るトニオを一瞥した彼女は、すぐに向き直り、パンと手を合わせた。

 

 「いただきまーす!」

 

 まずはマリネから。いそいそと、椎茸、エリンギ、シメジにパセリをフォークで串刺しにし、口元に持って行く。そして、

 

 「あーんっ…!!」

 

 その瞬間、まず鼻に突き抜けてきたのは、ガツンとした爽やかさ。パセリである。

 

 「んぐんぐ…」

 

 咀嚼を始めると、椎茸の肉厚さ、スッと歯が入るエリンギ、プチプチとちぎれるシメジの歯応えが心地よく、滲み出る緻密な旨味と、バルサミコ酢の芳香、深味が全体を統括し、昇華させる。

 

 じっくりと噛み、飲み込んだトウカイテイオーは、頬を色付け、ほっと息を吐いた。

 

 「美味しい…!!」

 

 「Grattugiare(ありがとう)!喜んで頂キ、光栄ノ至りデス」

 

 心からの賛辞を受け、トニオは軽く会釈し、にっこりと笑って見せた。

 

 (手が止まらないよ…!食べるたびに全身が喜んでいるのを感じる…!!こんなのはじめてだ…!!!)

 

 随分前に、メジロ家でお世話になったことがあるが、それでもこうはならなかった、と考えながら、トウカイテイオーはマリネを口に運ぶことを止められない。一口入れれば、彼女の耳はコミカルに反応し、忙しなく動き回った。

 

 それを、ニコニコと温和な笑みで見守っていたトニオは、徐に口を開く。

 

 「キノコ類ニハ、ビタミンB群が豊富に含マレテイテ、糖質や脂質の代謝を活発にサセル効果がアリマス…アナタの肌荒れ(・・・)に、良く効いてくれるコトデショウ…」

 

 「…んえ?肌荒れ?」

 

 頬に手を当て、最後となってしまったマリネを、目を細めて味わっていたトウカイテイオーは、内容物を飲み込んだ後、不思議そうに聞き返す。

 

 (あ…そういえば、最近リハビリのトレーニング続いてて、帰ったら疲れ切ってるし、保湿だとか疎かにしてたな…)

 

 「…いてっ」

 

 その時。彼女の耳に、ベリ、と、何かが剥がれ落ちる様な音が響く。さらに、ヒリヒリと、手の甲が熱を持つように感じた。

 

 「なんだよもー…」

 

 トウカイテイオーは、自身の手の甲を一眼見て、その瞬間、幸福感に溢れていた表情を消し去った。

 

 「…ぁ」

 

 彼女の両手の甲は、皮膚が脱落し、鮮やかな血肉が丸見えとなっていたのである。

 

 トウカイテイオーの顔は、瞬きの内にサッと青色に染まった。

 

 「う、あ、ぁあ!うわぁぁぁあ!!!?!?!?あぁ!!?」

 

 店内に悲鳴が響き渡る。それも束の間、今度は自身の顔から、べりり、と、音が鳴ったのを捉え、彼女は瞳孔を狭める。

 

 「ま、まさか…!!」

 

 恐る恐る、手を顔に持っていき、指で頬を伝ってみる。

 

 こめかみを伝い、白い流星のような、一房の前髪を掻き分け、おでこに到達した瞬間、ずるり、と、ずれる感覚を覚えた。

 

 「は、はぁぁ…な、何が起きているんだぁぁぁぁ!!!?」

 

 恐怖のあまり、乱雑に椅子を倒して立ち上がった瞬間、まるで顔パックのように、トウカイテイオーの顔面から皮膚がずりむけ、空となり、バゲットと新鮮なチーズを残すのみとなった皿に落着、ベチャ、と音を出した。

 

 「ああぁあ!!!うわぁぁぁあ!!!?」

 

 「落ち着いテクダサーイ!ソレは一時的なモノ…すぐに元に戻りマース」

 

 トニオの言葉を皮切りに、錯乱状態のトウカイテイオーの、肉剥き出しとなった顔面、手に変化が訪れる。

 

 「はっ…!!?」

 

 ぶちぶちと肉が弾け、淡々と白色の斑点が広がり、赤い血肉をあっという間に覆い尽くしたのである。顔面全体を襲っていた、突き刺すような痛みが消えた彼女は、悶えていた身体を止める。

 

 「…な、何…」

 

 「鏡で見てミテクダサーイ」

 

 冷や汗の止まらないトウカイテイオーに、満足そうなトニオは、小洒落た手鏡を手渡す。受け取ったトウカイテイオーは、鏡に映る自分の顔を見た瞬間、血相を変えた。

 

 「ええええ!!!?!?な、なにこの艶々卵肌!!?赤ちゃんでもこんなにならないよー!!?!?えええ!!!?手も!!かつて無い程スベスベになってるよ〜!!!?!?」

 

 しっとりとして、滑らかさに磨きのかかった両の手を掲げ、大興奮を隠さずに、再び騒がしくなった彼女を横目に、ズル剥けた顔面の皮が乗った皿を手に持ったトニオは、

 

 「デハ、primo piatto(プリモ・ピアット(主菜))を運ンデ来ますノデ…」

 

 「あっ…ちょ、ちょっと待ってよ!!?」

 

 呼び声虚しく、スタスタと店の奥に姿を消したトニオに手を伸ばすが、無論、空を切るにとどまる。しばらく固まったトウカイテイオーは、ワナワナと震え、パンクしそうな頭を抱え、ギリギリまで見開いた目で天井を仰いだ。

 

 「な、な、何がどうなってるのさ〜!!!?!?」

 

 驚天動地の食事は、まだまだ始まったばかり。




 私、長い話を書く体力が無いので、かなり話数を使うかもしれないです…ま、ジョジョ原作もこんな感じだったし、多少はね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。