イタリア料理店『トラサルディー』での“奇妙”な日常   作:にわとり肉

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令嬢、山菜を採りに行く その1

 「美味しいですわーーーー!!!!!!」

 

 日が傾き、薄暗闇に街灯が点々と明かりを作る中、イタリア料理店“トラサルディー”の中に、歓喜の絶叫が響いた。

 

 絶叫の主は、紫がかった芦毛を靡かせる、かの“メジロ家”の一角__メジロマックイーンである。

 

 しかし、口元に食べカスをつけ、目をキュッと閉じて熱り立っている姿に、普段の風格の二文字は無い。そこにいるのは、ただのスイーツ好きのウマ娘であった。

 

 「この“スフォリアテッラ”というの、パリパリとした生地の食感と、甘すぎず、しつこくないさっぱりとした味わいのクリームの調和が、口に入れるたびに喜びを感じさせたくれますわぁ!こんなに美味しいスイーツ、生まれて初めて食べましたわー!!!!」

 

 「ヘッ…マックちゃんがそんなに喜んでくれるなら、ここを紹介してやった甲斐があるもんよ…」

 

 震えながら立ち上がり、天井を仰いで喜びの言葉を捲し立てる彼女の隣で、ふるめかしい木製の椅子に腰掛け、優雅にコーヒーブレイクと洒落込んでいた、耳当てと帽子がベルトで一体化した、不思議な装飾品を身につける芦毛のウマ娘__ゴールドシップは、鼻の下を擦り、口に弧を描く。

 

 「フフ…お喜びイタダケタようデスね」

 

 その時、厨房への出入り口から、長い料理帽を被り、白いエプロンに、真っ赤なスカーフを身につけた男、トニオが、にこやかな笑みと共に現れる。

 

 「…!ご、ごほん!」

 

 「あぁ、気にせずにドウゾ…」

 

 そう言い、恥ずかしそうに縮こまってしまった彼女を横目に、トニオは、徐にルービックキューブを取り出したゴールドシップの方へ向き直る。

 

 「ところで…ゴールドシップさんに、年長の者として、心苦しくはあるのですが…一つ“お願い”があるノデス…」

 

 「ゴルシちゃんにぃ?なんだぁ?店の改修工事ぐらいならしてやらんでもねえけどよぉ」

 

 膝に片足を乗せ、白いテーブルクロスのかけられたテーブルに肘ついたゴールドシップは、目線でトニオに発言を促す。

 

 「…」

 

 申し訳なさそうに、一瞬目を伏せたトニオは、瞬きの後、胸に手を当て、

 

 「“山菜採り”の、手伝いをシテいただきたいノデス」

 

 その瞬間、ゴールドシップの耳がピクピクと反応を示し、視線が鋭さを増す。

 

 (…美味しいですわ〜…感想がそれしか出てきませんわ〜)

 

 緊迫した空気が流れる中、何層にも重ねられた薄い生地のカリカリ食感と、リコッタチーズを加えることで、さっぱりとした甘みのクリームが調和するスフォリアテッラを頬張り、メジロマックイーンは頬に手を当て、耳をぴこぴこさせる。

 

 「日本の山菜は、天然物が特に絶品と聞いてイマス…それを使えば、ワタシは最高の料理を作れるノデス…しかし、ワタシに山菜採りの経験はアリマセン…」

 

 「…」

 

 値踏みをするようなゴールドシップの視線を受け止めながら、トニオは続ける。

 

 「図鑑の知識だけでは不安デス…アナタの雑学の知識の多さなら…山菜を採るコツのようなモノぐらい、あるのでしょう?」

 

 すると、ゴールドシップは観念したように首を振り、笑い混じりに言った。

 

 「…わかったよ、手伝ってやる!いい場所を知ってるんだぜ、ゴルシちゃんしか知らない、秘境ってやつをよ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、トニオは顔をパッと明るくする。しかし、その途端に、笑みに深みを持たせたゴールドシップは、椅子にふんぞり返って足を組む。

 

 「しかしよォ〜〜…!ソコを教えちまうからにはよ〜…報酬(・・)は、弾むんだよなぁ〜…?」

 

 そして、まるで自分が王様になったかのように、トニオを指差しのたまう。トニオは表情を崩さない。

 

 「山菜を使った新作の料理…無償で提供シマス。これでどうでしょう?」

 

 その瞬間、ダンと机を叩いて立ち上がったゴールドシップは、鼻息荒くトニオへ詰め寄る。

 

 そして、彼の両手を掴み、とびきりの笑顔を向けた。

 

 「Good!交渉成立だな!日程はどうする…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月光が、夜道に二つの影を生む。

 

 「美味しかったですわ〜…あ、そういえば…ゴールドシップ、貴女トニオさんと何やら話していたみたいですが…」

 

 トラサルディーに別れを告げ、トレセン学園への帰路につくメジロマックイーンは、ふと、隣で腕を組んで口笛を吹いているゴールドシップへ問いかけた。

 

 「んー?あぁ、マックちゃんは気にしなくてもいいのよ」

 

 しかし、ゴールドシップは振り返ることもせず、煙に巻くように返す。

 

 「…?」

 

 何か、胸に引っかかるような違和感と、えもいわれぬ悪寒を感じながらも、メジロマックイーンは前を向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うぉいマックイーン!!!山菜採りに行くぞぉぉ!!!!!!!うぉぉおおお!!!!!」

 

 「…!!?!?」

 

 翌日、メジロマックイーンは拉致された。昨日の一件の後、寝る間際に、

 

 『明日、朝7時にジャージに着替えて寮の門の前に集合!』

 

 と、ゴールドシップからのメールがあり、特に疑いもせず、その指示のままに行動した結果がこれであった。気づいた時には、すでにズタ袋の中。

 

 (…はっ!!?)

 

 漸く正気を取り戻したメジロマックイーンは、キョロキョロとあたりを見回し、今になって、ズタ袋ごしに俵のように担がれていることに気づく。「えっほ、えっほ」と、一定のリズムで振動が送られてきている所、未だに移動中らしい。何がどうあれ、彼女にとっては全てが地獄。

 

 (最悪ですわ…)

 

 こうなってしまえば、抗っても結果は同じであることを理解している彼女は、虚無の表情で、ゴールドシップに身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「きゃっ…!」

 

 しばらく揺られていると、急停止し、ズタ袋から放り出される。小さな悲鳴と共に尻餅をついたメジロマックイーンは、青空に浮かぶ日を背に、仁王立ちするジャージ姿のゴールドシップを見上げ、耳を引き絞って睨みつけた。

 

 「貴女!!いい加減、そう強引にことを進めるのはやめてくださいまし!!」

 

 「えぇ〜?だって説明してもこうなるだろうし…」

 

 メジロマックイーンの怒りもなんのその、ゴールドシップは舌を出し、不思議そうに首を傾げて見せる。額に青筋を何本も浮かべ、ぶるぶると震えるほど拳を強く握りしめたメジロマックイーンは、しかし、脱力して項垂れた。

 

 「もういいですわ…」

 

 取り敢えず、どこに連れてきたのかと周囲を見回すと、左隣に、昨日見たばかりのモノが。

 

 「…トラサルディー…に、連れてこられた…」

 

 (はっ…!!昨日のトニオさんとゴールドシップの会話…!!!)

 

 合点がいったと同時に、目の前の扉が開く。

 

 「oh!チョウド来ていたのですね!デハ、案内してください、ゴールドシップさん…」

 

 現れたのは、長袖長ズボン、そして、料理帽を被った男、トニオであった。

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