イタリア料理店『トラサルディー』での“奇妙”な日常 作:にわとり肉
「あったァァ!!」
「な、何が見つかったんです!?」
急な大声におっかなびっくりなメジロマックイーンは、しきりに枯れた低木と草に覆われる周囲を見回す。大声の張本人、ゴールドシップは、目の前を指差し、目を輝かせた。
「“タラノメ”だよぉ!山菜の王様って言われてるぐれぇうめえんだぜ!」
日差しを背に、茂みを突き抜けるようにしてそこにあったのは、3、4メートル程の細い幹の低木であった。その先端には、根本を袴のような皮で包んだ、透き通る若草色の新芽が生えていた。
グルリと辺りを見回すと、トゲトゲの幹の低木が群生し、同じように新芽をつけているのがみてとれる。
「っし!いいか!タラノメってのは新芽だ!採り過ぎたらこいつらァすぐに枯れちまう。良く考えて採れよ!」
そう言い、嬉々として籠を地面に下ろしたゴールドシップは、高枝切りバサミを取り出し、折りたたんだ状態から展開、
「よっと!」
刃先を、株の中で一番大きな芽の根本に合わせ、じょきん、と断ち切る。すると、支えを失った芽が地面に落下し、枯れ草をガサガサ言わせた。
「わ、私も…!」
メジロマックイーンも高枝切りバサミを手に取り、目を細め、目星をつけた新芽の根本に刃を合わせる。
「えいっ!」
そして裁断。くるくると回りながら落ちてくる芽を追い、抜群の反射神経で、地面に落ちる前にキャッチし、パッと顔を明るくさせた。
「やりましたわー!」
「おう!その調子でどんどんやってくれー!」
得意になって新芽を掲げて声を上げるが、ゴールドシップは見向きもせずに収穫を続け、まともに取り合ってくれない。トニオも同様に、鼻歌混じりに夢中となっていて、彼女の声は風に流されていった。
「…」
頬を膨らませ、耳を前に倒したマックイーンは、手に持つ
ひんやりとした霧が、辺りを包み込む。
「…ひゃっ」
一休みしようと、隣の木に手をつけた瞬間、少し湿った、ふかふかな感触が手のひらを包み込み、マックイーンは小さな声を上げた。
ゴールドシップ率いる一行は、道中の山菜を採りつつ、倒木が苔むし、ゴロゴロと転がっている岩の隙間を水が縫う、幻想的な雰囲気の漂う奥地まで進出していた。
(ゴールドシップが言うには、ここにも何かあるってことですが…)
その時、
「皆さん!コレをミテクダサーイ!」
声の方向を向くと、枯れた木々の隙間から手を振るトニオが。小高くなった岩の上に片足を乗せていたゴールドシップ、マックイーンは彼の元へ急行する。
「「ん〜?」」
そして、満面の笑みで前方を指差したトニオに倣い、ゴールドシップとマックイーンも、指し示された場所を注視した。
「ホラ!」
「…?なんですの、これ?ただの草では?」
訝しげなマックイーンの言葉に、ノンノン、と手を振り、トニオは今一度足元の、ふさふさの毛を生やした、真緑の葉を広げる丈の短い草を指差す。
「コレは“ウド”デスよ!非常に香り高く、滋味に満ちた味と聞いてイマス、コレも持ち帰りましょう」
そう言い、山菜でいっぱいになってきた籠を下ろし、しゃがみ込んで中身をまさぐってハサミを取り出したトニオは、二、三本隣り合って生える、大凡20cmはあろうかというウドの根本を、全て容易く断ち、少し折り曲げて籠へしまった。
「ゴールドシップさんは?」
「ゴルシちゃんは他でいっぱい採ったから大丈夫だぜ!マックちゃんは?色々むしってたみてえだけどよぉ」
「私も籠が満杯ですから」
二人の意思を確認したトニオは、徐に、丁度真上に登った太陽が燦々と煌めく、雲一つ無い晴天を見上げる。そして、ぐっと背伸びをし、ため息を吐いた。
「デハ、そろそろ帰りマショウカ。久しぶりに山登りをシテ、少し疲れてしまいましたしね…」
「帰る前によぉ、戦利品の確認といこうじゃあねえか!」
山林を足早に抜け、トニオの車が停まっている駐車場まで戻ってくるやいなや、ゴールドシップは無邪気な笑みでそう言い放った。
「トップバッターはゴルシちゃんから!コレを見やがれ!」
籠をアスファルトに下ろし、片膝立ちとなったゴールドシップは、自慢げに籠の蓋を開ける。その中身を、トニオ、マックイーンはしゃがんで覗き見る。
「おお!」
その瞬間、トニオは口を開けて笑い、マックイーンは微妙そうな表情をした。
「コレはコシアブラ!コレは__」
(…ただの雑草にしか見えなくて、あまり凄さが伝わってきませんわ…)
中には、フキノトウをはじめとした数種類の山菜が丁寧に詰められてあり、童心に帰ったように、籠から山菜を取り出しはしゃぐトニオの横で、マックイーンは口をへの字にし、腕を組んで首を傾げた。
「次はトニオの番だぜー!」
「
次はトニオの番。同じように籠を下ろし、蓋を開く。そこにゴールドシップとマックイーンが顔を覗き込ませた。
中は、やはりゴールドシップと同じように、若草色の山菜が詰められている。しかし、香ってくるのは草の青臭さでは無く、さわやかな芳香であった。
「おお!ヤブカンゾウにウルイも!ヨモギも摘んでたのか!」
「なるべくクセの無いモノを選んだノデース!ヨモギはドルチェやお茶に使えると思ったノデ!」
(やっぱりよく分かりませんわ…でも、ヨモギの香りか良いですわ〜)
トニオとゴールドシップが互いに笑い合い。讃えあっている隣で、マックイーンは深く深呼吸をし、爽やかな外気で肺を満たし、幸福のため息を吐く。
その瞬間、彼女の耳が、すぐ真後ろでかぱっと蓋の開く音を捉えた。
「んじゃ、次はマックイーンだな!なんだかいっぱい採ったみたいだしぃ〜」
振り向けば、背負ったままの籠に手を突っ込むゴールドシップが。
「何勝手にみてますの…まぁ良いですけど」
そう言い、マックイーンは腕を組んで目を伏せ、ゴールドシップの言葉を待った。
「…」
しかし、いつまで経とうと、籠の中で蠢く手の振動がいつまでも続くだけで、ゴールドシップは不気味なほど静かにしている。
「ちょ…おいトニオ、これ…」
「…
耳を済ませていると、何故だかゴールドシップ、そしてトニオの声がこわばっている。不安を煽られたマックイーンは、二人で顔を合わせ、こしょこしょ内緒話に花を咲かせ始めた二人に振り返る。
「な、なんですの…一体何が起きたのです?」
すると、ものすごく複雑そうな表情のゴールドシップが、耳を伏せながら言った。
「マックちゃんよぉ、これ…フキノトウ以外全部
「…」
車窓の景色が、田舎らしい山がちなものから、住宅街とビルの立ち並ぶものに移り変わる。
「いやわりーなマックイーン…植物の種類ぐれー知ってるもんだと思ってた」
リアシートに背をつけず。項垂れたマックイーンをルームミラー越しに眺めていたゴールドシップは、珍しく申し訳なさげな表情を浮かべる。
しかし、マックイーンは項垂れたまま。振り向いてその様子を見ていたゴールドシップは、ガシガシと頭を掻き、慰めの言葉を紡ごうと頭を働かせる。
「あー…」
その時、マックイーンは徐に顔を上げ、感慨に浸っているかのような、すっきりとした表情を、ばつの悪そうなゴールドシップへ向ける。
「フフ…ちょっと、いや、かなり悔しいですけど…」
そして、笑い混じりに、心からの言葉を溢した。
「楽しかった、ですわ」
「…!」
目を見開いたゴールドシップは、安心したようにため息を吐き、前に向き直り、目を頭の後ろで組んだ。
太陽は、まだまだ頭上に浮かんでいる。
済まねェ、遅れたァ!