聖剣憑依主だったのに幼女を操ってる件について 作:無機物憑依ちゃん
目が覚めたらそこは血に濡れた地獄の景色が広がっていた。
「はっ?」
いやいやちょっと待ってくれ。ちょっと待って!
目が覚めたら地獄絵図ってどういうことだよ!? 悪夢か!?
(いやでもなんか、夢じゃないな。……うん、普通に現実だ)
深呼吸をしてから、冷静に周りを見る。
中世ヨーロッパなどに出てきそうな建物の残骸が見える。屋根の一部が崩壊したもの。全体的に壊されて瓦礫しか残らないものと様々だが、無事な建築物は一つもないとすぐに分かった。
本当は目を逸らし見て見ぬふりをしたいけれど、腐ったような臭いや派手に飛び散った血の痕を直視してしまったから無理だった。
そこにあったのは死体らしきもの。腕の一部。何かの臓物。
ふと足元に転がっているのが見えて────目が合ったような気がした。実際には死んでいたけれど。
「おえっ……」
吐きそうになったが何とか堪えることが出来た。気絶しないのが奇跡なぐらい、地獄絵図が広がっていたんだ。
いやでも人の腕が瓦礫に押しつぶされてるのとか見たら普通発狂するだろ。
なんで俺は他人事みたいにこの景色を眺めていることが出来るんだろうか。
「……あれ」
ってか俺の声、なんか幼くなってない!?
女の子みたいな可愛い声するんだけどどういうこと!?
うわっ、よく見たら手がちっちゃい! 足が地面に近い!
つまり体が小さいってことかよなんでだよ!!
(い、いやいや待て。落ち着け)
俺はついさっき死んだはず。
赤信号を無視した車に轢かれて即死だったのは覚えている。
だからきっと今の俺は死んで幽霊になっているか、転生したかなんだけど……。
「どう見ても転生して数年経った後の世界っぽいんだよなぁ……」
とても可愛らしいロリの声が地獄の中で響く。
冷静に考えられる自分が怖い。
なんで俺こんな状況で普通に立ってられるんだろうか。死ぬ前の俺だったら絶対に膝ががくがく震えて恐怖で怯えて泣いているはず。
性転換すらしているのに、何でかそれを受け入れられる自分がいるぐらいだし。
いや、こんなことをしている場合じゃないな。
目が覚めた先は地獄。つまり何かが起きたってこと。もしかしたら俺を襲って来る何かがいるかもしれない。
一応周りを確認してみたが、生きている人らしき存在はなし。
流石に大災害か何かが起きたような感じではない。
何かに襲撃されたような、そんな争いがあったような景色に見えるが。
「……ん?」
よく見れば、俺は手に何かを握りしめていた。
ナイフだろうか?
短剣っぽいけど、柄の部分に薔薇模様のレリーフが刻まれている。
何かどこかで見た覚えがあるような気がする。何処で見たのかは忘れたが……。
「……武器にはなるけど、重すぎるな」
というかナイフを使って攻撃をすることって今の俺にできるのだろうか。
俺は今、幼女の身体で生きている。つまり攻撃力皆無ってことだ。幼い身体で無茶なんて出来るわけがないからな。
攻撃をするにしても見つからずに背後から……っていう戦略しか思いつかないし、出来るかどうかすら分からない。
そもそも人を攻撃するだなんて野蛮なこと出来やしないだろ。いや、さすがにその状況になったら分からないけれど。
でも前世は喧嘩すらまともにやったことのない人生だった。だからきっと、戦闘になってもうまく身体が動かないはず。
ナイフを持ってても意味がないような気がしてきた。
「……軽装で動けるようになった方が良いし、捨てるか」
────そうやって、ナイフを捨てた瞬間だった。
視界がグルンと回転する。
気味の悪い感覚。何かやってはならないことをしたような焦燥感に襲われる。
そうして気づいたのだ。
────視界の先に移ったのは、幼女が倒れている姿。
俺の身体だったはずのものが、俺の目の前で倒れている。
なんで? どうして?
意味が分からず首を傾けようとして、それが出来ない事実に理解した。
(もしかして幼女に転生したわけじゃなくて、ナイフに生まれ変わったってことか!?)
呪いの武器か何かかよ!?
いや待て。じゃあナイフ捨てたのはつまり俺が幼女の身体から離れたってわけであって、正気に戻った幼女が俺を怖がってこのままここに放置される可能性ある?
しかもこの村襲われたばかりだし、人が来る可能性は無いに等しい。
……えっ。
もしかして俺、詰んだ?