聖剣憑依主だったのに幼女を操ってる件について   作:無機物憑依ちゃん

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第八話 いや魔王がヒロインってありなの?

 

 

 

 

 

 

 前世で聞いたあの胸糞悪い声がする。

 冷静そうだが興奮しているような声色だ。マジで気持ち悪い。

 

 その男の名前を、俺は知らない。

 

 なんせ研究員という名前しか明かされなかったからなぁ!

 あーむかつく!

 二周目で初めて会った時は好意的だったっていうのにそれ全部勇者ちゃんを罠にかけるために近づいた嘘だったし!!

 王族の一人だからって理由で研究員だとしてもとりあえず君が名前つけていいよとか主人公たる勇者ちゃんに言ってきた時に気づけばよかった。騙された。

 

 ゲームではデータが完全にリセットされない限り、一週目二周目三週目と何度も繰り返すごとにルート分岐が異なっていくのだ。

 一週目は魔王を倒す王道。二周目は一週目で出てこなかった研究員が接触し、そこから勇者ちゃんの秘密が明かされていく話。

 そうして三週目で、勇者ちゃんのズタボロになって王国にとって都合のいい人形となったことが明かされる。

 

 全部のルートで魔王を倒さなきゃいけないのがつらかった。

 実の兄を手にかけた勇者ちゃんは────二周目からのゲームでは中身がプレイヤーだからか、会話シーンでも何でも全て真顔。

 何も言わない。何も反応しない。そうなるように作られた。

 

 一周目で勇者ちゃんの顔がよく見えないのはそのせいだったのだ。

 

 全部研究員たる男が悪いのだと。

 

 ゲームではいろいろと言われていた。魔王のように戦える相手だったなら遠慮なくぶっ飛ばしてやるというのにと。

 だからまあ、奴が「偽名は何でも良いよ」といった台詞に掲示板でちょっとした大喜利混じりな罵倒大会が始まるのは仕方のないことだった。

 

 

 できることなら元凶をぶっ飛ばしたい。倒したい。魔王を救出したい。

 しかしゲームでは絶対にそれはあり得ない。

 悔しいことに、二周目でも三周目でも、どんなルートを辿っても王族を含めた真の敵を倒すことはできないのだ。

 

 魔王は倒せるけれど、王国は倒せない。

 

 だから俺は、奴の倒し方を知らない。彼は倒せない。……いや、ここは現実でゲームじゃないから倒せるかもだけど、今は無理だって分かってる。

 

 裏ボスにもなり得ない真の悪役たる研究員は、俺達と彼の距離は遠い。

 

 

 

『君たちの力がどれくらい上へ進んだのか見せてほしい』

 

 

 

 そう言った直後、だった。

 毛が一気に逆立つ。何かが来ると直感する。

 

 

「っ────全員、後ろへ下がれぇ!!」

 

 

「えっ」

 

 

 カルヴァンに憑依しているおかげで感じた危機察知能力。

 鋭い五感が脅威を伝えてくる。

 

 

「ぐっ────!」

 

 

 ナイフをしっかり握り、両腕で顔を庇う。勇者ちゃん達の前に出て守りながらも。

 

 ────不意に衝撃が全身に走った。

 廊下の壁が崩壊し、派手に散っていくのが見えた。

 

 倒れている人を踏みながらやってきたのは、細い身体をしている男。

 頭の右側に黒い角が生えた、勇者ちゃんよりも凛々しく中性的な容姿をしているそいつは……。

 

 

 

「……にいさん?」

 

 

 勇者ちゃんが呆然と言った声に男は反応しない。

 

 

『さあ行きなさい。お前は私の唯一の成功体なのだからね』

 

 

 その男────魔王アルバは、真顔でこちらに手をかける。

 身体からにじみ出る魔力の闇。黒い影のように発生したそれらは毒のような性質でも持っているのか、俺の後ろにいたはずの小さな魔物もどきたちが苦しみ始める。

 

 勇者ちゃんは兄の異様な姿に圧倒され、身体が動かないらしい。

 それを目にした魔王は手に力を込めた。発生したのは複数の闇魔法術。しゃぼん玉のように浮かんでいたそれらが一斉に勇者ちゃんに向かったので俺は反射的に身体を前に出し、庇う。

 

 

「っ……おい起きろ! 妹を殺す気か!?」

 

 

 いっでぇぇ!

 身体が抉れたかと思うぐらいの衝撃だったぞ! 今の身体は狼なのに!!

 

 

『殺せ。壊せ。私にその力のあり方を見せなさい。成長の輝きを私に示しなさい』

 

 

 通信術の声のせいか、魔王がまたぎこちなく動き始める。

 洗脳か? それとも何か、魔王の意識を乗っ取る実験でもされたのか?

 

 そう思えていたのは一瞬。

 

 

「がぁ!?」

 

 

 身体全身に激痛が走り、心臓が体から外に飛び出すのではないかと思えるような感覚が起きる。

 その衝撃に耐えきれず膝をついた俺に奴はにじり寄る。

 

 

「……なんでだよ、おい。アルバ」

 

 

 俺は声に出していない。

 無意識ながらカルヴァンの激情が声に発せられただけか。

 

 手を振り上げた魔王は、その圧倒的な力を俺たちに見せつける。

 

 まだ変異したばかりだろうに。

 立派な角が二つ生えたわけじゃない。肌だって黒く染まってもいない。ゲームで見た時のような怪物になってはいない。

 

 まだ人間として変異している最中のはず。

 それなのに彼は強かった。俺が最大限カルヴァンの力を使っていても、反射的に避けてもそれより上のスピードで俺を倒しに来る。力すら俺より上で、ぶつかりに行っても奴はそれを跳ねのける。爪で刻もうとしても意味はなかった。

 

 その顔は、真顔だった。

 人形のように感じた。操り人形のようだった。ゲームじゃ立派な魔王なのにな。

 そう、まるでゲームの終盤で見た時の勇者ちゃんのように感じたのだ。

 

 研究員のクソ野郎は────魔王を使ってホロン村の友を、カルヴァンを殺すのか。

 

 

『いいや待ちなさい。それはとても惜しい……殺すならそこの失敗作だよ』

 

 

 そう言って彼はピタリと手を止める。

 ゆっくりと顔を向けたのは勇者ちゃんの方。

 

 あのクソ研究員、妹を殺させるように命令したのか!

 

 

「っ! アテナちゃん俺をとって、使って!」

 

 

 俺はナイフを投げた。

 瞬間、視界が回転する。

 

 不安は残る。聖剣じゃないかもしれなくても、魔王と対峙できるほどの強さがなくても、勇者ちゃんの意識に身体が入った時にすぐ逃げてしまえばなんとかなるはず。

 

 それにカルヴァンも戦意喪失したわけじゃない。選手交代しただけだ。

 

 ナイフは遠く、魔王を通り過ぎて勇者ちゃんの足元へ突き刺さる。

 他の魔物もどきたちが苦しみながらもじりじりと後退した。

 

 そうして、それは始まった。

 幼女ちゃんを抱きしめた勇者ちゃんが俺のナイフを手に────。

 

 

 

 

 

 

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