聖剣憑依主だったのに幼女を操ってる件について 作:無機物憑依ちゃん
幼女ちゃんが大人しくしている間にやってきた場所。
辺境に位置するそこは、異様なほど森に馴染んだ小さな家が建っていた。
しかしその家は単なるフェイク。
ただの出入り口として使われていて、そこから先は人間が長年かけて攻略した小さな地下ダンジョンが広がっており、それを利用して地下牢やら実験施設やらを作り上げてしまったのだ。
ゲームでの知識で言うならここはラストダンジョン手前、もしくは裏ボス前のダンジョンといってもいい難易度の強敵がうようよいるはずの場所。
今は違うと思えるのは何故だろうか────この地下ダンジョンは、人間が行き来できるよう改造が施されており安全性が確保されているようだった。
そう思えてしまったのはこの男に憑依してからだろう。……多分、無意識のうちにこの男の知識か何かを読み取っているからかもしれない。
幼女の身体になっていた時に、前世の俺ならわからない文字を簡単に読めたように。
犠牲者となった人の成れの果て。ゾンビやら魔物もどきやらが徘徊する裏ルートとなっていたはずなのに今は違う。
もしかしたらまだ魔王が暴れる大虐殺事件が起きていないからだろうか。
ダンジョンの出入り口たる家も崩壊しておらず、見張りが二人ほど立っているのが見えた。
今の俺の身体たる王国の騎士と同じ服装。銀の鎧と剣を装備した屈強そうな彼らは周りをじっと見張っている。
「さてと……どう動こうか……」
「うー」
「幼女ちゃんほんと大丈夫? 返せ以外の言葉聞いてないんだけど……ゾンビにはなってないよね?」
小脇に抱えていた幼女を見ると、彼女は不機嫌そうに頬を膨らませたまま、俺が握っている方のナイフをじっと見つめているだけ。
俺の質問にすら答えず、何も言わずに一点集中するその姿は異様といってもいい。
なるべく時間はかけない方がいいか。
俺が目覚めたのは村が崩壊し、全てが終わっていた時だった。幼女ちゃんの身体はあの時からボロボロだったし、痩せてたし────今思うと腹も空いていたかもしれない。異常事態だったからあまり気にすることが出来なかったが。
それに事件発生して一日以上経っているのならゲーム時系列について問題が起きる。
何故なら実験が開始され、魔王が誕生するまでに数時間とかからなかったのを覚えているから。
魔物の心臓である核を適合させる実験行為。
それによって竜の力を得た彼が、次々に家族や友人を殺されていく場面を目撃し、心が死んでいく。
その後に魔王にとって血の繋がった実の妹たる勇者にも実験を施すのだ。
勇者が魔王と同じ種族の魔物の核を適合されて────その時は魔王とは違い、人として完璧な成功体となり力だけを手に入れることが出来たのを覚えている。
魔王はそれを見て絶望するのだ。国の使い勝手のいい道具として妹が使われてしまうのではないかと。もちろんそれ以外にもいろんな理由でホロン村以外の人々を敵視するようになるが……。
勇者はともかく、魔王救出を優先しなきゃならない。
その方がホロン村の人たちにとっても都合がいい。
何故なら魔王の実験が成功した後すぐさまホロン村の人を使い、次の犠牲者を出してしまうからだ。
ここら辺は前世でゲームをやっていた考察勢が話していた内容だが────きっと王国はホロン村の人たち以外にも実験をやっていたのだろう。
奴らは慣れていたのだ。非人道的行為を。
実験が行われるスピードは常識を逸したものばかりだったらしい。
そこから次々と悲劇が生み出され、わずか一か月足らずで大虐殺が起こり全てが終わる。否、物語が始まるのだ。
とりあえず救出を急ごうと思い、俺は幼女ちゃんを小脇に抱えたまま家に近づいた。
見張り役の二人が剣を構えて警戒したようにこちらを見るが、今の俺の顔が知り合いそのものだったのだろうか。俺を見た瞬間目を瞬きつつ呆れたような顔で武装解除してきたのだ。
「なんだお前か。何サボっているんだ。今日は見回りのはずだろう」
「また何か厄介事でも見つけてきたのか?」
「いやーははは……ひとまずスイマセン……」
「はっ?」
ぽかんと口を開けた男の顎めがけて強烈な拳を一撃。
顎にぶつかり、脳みそが揺れたのかそのまま膝から倒れ気絶していった。
「ッ────! おまえなにを!?」
「あーっと……魔王と勇者誕生を阻止しに来ました?」
「何をふざけたことを……自分が何をやったのか、分かっているのか!?」
味方だと思っていたのに急に敵対し、攻撃されるとは思わなくて混乱したのか。
普通はここで反射的に俺に向かって攻撃してもおかしくない事態のはず。何故攻撃してきたのかを知るためには捕縛をして、そのまま連行していく必要がある。だから武器を持っているなら鎮圧をしなきゃならないのに。
そう思うのは憑依している男の知識をなんとなく読み取っているからだろうか。
彼らは王国の騎士としてはあまりにも未熟。
いや、だから見張りなのか?
まあ確かにこんな辺境の実験施設に誰かが侵入しようとか思わないもんな。
……それとも憑依しているこの男が本当に敵対するとは思えず予想外過ぎて動けなくなったのか?
まあ、どうでもいいことか。
「悪いけど寝ててくれ」
「ぐぁ!?」
一人が気絶してもなお反撃しなかったもう一人の見張りに、首めがけて手刀を行うように────ナイフの柄を食らわせたことであっけなく倒れた。
途端に周りが静かになる。
聞こえてくるのは幼女の不機嫌そうな「むぅ」という声のみ。緊張していたからか、俺の心臓が鳴る音がバクバクと響くが、深呼吸しただけですぐに収まった。
「……呪いの……いや、聖剣でよかった」
この身体になってからどう動けばいいのかが分かる。
戦闘方法。命をとらないやり方。その全てが無意識のうちに理解し、考えるまでもなく動けるのだ。
たぶんこれは俺の強みだ。
憑依した身体の力そのものを使いこなすことが出来る。知識とかもなんとなくだが分かる。憑依先の身体に影響を受けていると言っていい。
問題は俺が乗っ取っている間、その憑依先たる身体の人物に意識があるのかどうかだけど、幼女ちゃんに聞いてもちゃんと答えてくれないから後で調べておこうと思う。
流石に俺の問題行動を記憶されちゃ困るからな。
とりあえず見張り二人は芝生裏に縛り付けつつ隠しておいてと……。
「さて、早く終わらせて幼女ちゃんを呪いから解放しよう」
「うー」
開錠しつつ、頑丈そうな家の扉をゆっくりと開いて俺は地下へ続く階段を降りていく。
小脇にはいつも通り幼女ちゃんを抱えつつ。
本当はこの地下まで一緒に連れて行くのは幼女ちゃんの身が危ないからやりたくないんだ。でも幼女ちゃんってば俺の足にしがみついては聖剣取ろうとしてくるし、「かえせぇ」って舌っ足らずに何度も言ってくるから。
このまま自由にさせたら絶対に俺を追いかけて地下までやってくるだろう。見張りの奴等と同じく縛り付けて安全確保とか可哀そうすぎてさせたくないし、それをやるぐらいなら連れて行った方がマシ。
幼女ちゃんはホロン村の生き残りっぽいから最悪の場合、生まれたてホヤホヤの魔王と敵対したとしても彼女が間に入ってくれれば何とかなるっていう打算もあった。
「あーなんか……嫌な予感しかしないな……」
血の臭いがしてきたので幼女ちゃんの鼻を軽く布でガードしてから歩くことにした。
何かあったらナイフを敵に手渡して意識乗っ取ってやろう。それで出来れば研究員がいいかな。過去編なんてゲームに出てないから稼働中の実験施設での正常な地図なんて俺は知らないし。何処をどう行けばすぐ魔王に会えるのかもわからないから。
一応、ゲームでは地下の奥に魔王がいた痕跡があったとかそういうのは知っている。だから目指すのは地下深く。その奥の魔王がいるかもしれない場所までだな。
それまでに見つからなきゃいいんだけれど……。
階段から先は一応人が生きやすいよう整えられた空間が広がっている。
土を掘りだしてレンガを埋め込み作り上げた綺麗な廊下。空気穴が至る所にあり、所々に扉やら分かれ道やらがあった。
ここはもう立派なダンジョン空間。何があってもおかしくない。
ごくりと唾を飲み込み、俺は幼女ちゃんを連れて先へ向かうことにした。
「おいそこのお前! 何をしている!!」
「いやフラグ立つの早すぎだろ!!」
背後から殺意が飛んできたのですぐさま前へ向けて駆けた。
しかし追いかける人数が多すぎる。
憑依先が鍛え上げられた騎士の身体といっても、向こうも同じなら意味がない。
鎧が重いせいで走るスピードが落ちるし!
廊下を駆けた先、扉が複数ある場所に逃げ込む。そこは倉庫のようだった。檻やら呻き声のする生き物やらがいる。それに思わず「ひぇ」っと声を出しかけたけれど、背後から聞こえてくる慌ただしい音に我に返った。
道の角を曲がってすぐの部屋に入り込んだため追手は俺の姿を見失っただろうけれど、奴らが追いかけてくるまでそう時間はかからない。
きっとこの部屋に入ってくるだろう。
ああもう。しょうがないよなっ!
「幼女ちゃんごめん武器返すから身体に憑依させて!」
「ん!」
当然だゴラぁ早く聖剣返せ!
……なんというか、元気な声や両手を伸ばす愛らしい仕草とは別にそんな言葉が聞こえてきそうな目で俺を見てきた。
それに一瞬大丈夫なのかなと思いつつも俺は幼女ちゃんの身体に身をゆだねることにした。
扉が開く直前、一瞬で視界が回転し、幼女ちゃんの身体になったことを確認してすぐに檻の陰に隠れた。
檻の中にいる様々な生き物が俺を見ていることに気づかずに────。
後書き(修正報告)
『手刀を食らわせた』を『ナイフを持った方の柄を食らわせた』に書き換えました。ご指摘ありがとうございます!
追記(再度修正報告)
『ナイフを持った方の柄を食らわせた』を『ナイフの柄を食らわせた』に書き換えました。ご指摘ありがとうございます!