聖剣憑依主だったのに幼女を操ってる件について   作:無機物憑依ちゃん

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第六話 勇者ちゃん怖いこと言わないで!

 

 

 

 毛むくじゃらで温かな何かに包まれつつ、じっと耐えていた。

 もしも見つかれば俺はどうなるのか。幼女ちゃんが何をされるのかすら分からないから。

 助けてくれた勇者ちゃんも声を潜めてじっとしているらしい。

 

 部屋中を探す音が響く。

 明かりからして人数は五人程度。鎧をガチャガチャと動かしつつも、そこらに積んであった積み荷、俺がさっきまで隠れていた檻の隙間などを探している。

 

 ここらにはいないと分かったのだろう。

 騎士たちが松明を手にこちらに近づいてくる。

 目をつぶり、身体中の力を入れた。もしも何かあればすぐ逃げだせるように。

 

 

「っ────!」

 

 

 不意に聞こえてきたのは獣の唸り声。

 虫がキシキシと警戒するような音を立てているもの。何かが発光し、こちらを威嚇するものがあった。

 

 それらの音に威圧されたのか、彼らはごくりと唾を飲み込み狼狽える。

 

 

「……さ、流石に檻の中まで入るわけにはいかないな」

 

「あ、ああ。俺達には許されない行為だ。厳罰を受けるかもしれない」

 

「何がいるのかも知らないからな。中に入って殺されでもしたら意味がない。研究員の奴らも詳細は明かさなかったし……ほんと、薄気味悪い場所だぜ……」

 

「流石に時間をかけ過ぎた。退くぞ」

 

「っ────おい、諦めるってのか!」

 

「やかましい。そもそもお前が嘘をついている可能性があるんだ」

 

「嘘なんてついてない!」

 

「ここまで探しても何もなかったんだ。話なら向こうでやるぞ」

 

 

 騎士たちは扉へ向けて歩き出す。

 男がどうして豹変してしまったのか、それを気にする人もいるらしい。何かしらの実験による悪影響でも出たのかと不安そうに呟く人の声が聞こえる。

 

 そうして「違うんだ! 確かにこの部屋にいるはずなのに……!」と喚く男を引きずりながらも、彼らは出ていった。

 

 

 ここは窓もない地下室。松明も何もないせいか真っ暗だ。

 誰かの呼吸音は聞こえる。何かが蠢く音は響いているけれど、動くことが難しい。

 

 なんとなく、動いたら殺されるんじゃないかって危機感があったから。

 そう思ってるうちに勇者ちゃんが小さく息を吐いた声が聞こえてきた。

 

 

「……うん。もう大丈夫だね。ウィップ、明かりをお願い」

 

「きゅう」

 

 

 刹那────太陽が降ってきたのかと思えるような眩しさに視界が揺らぐ。

 目を細めて明るさに馴染むと、そこにあったのは複数の檻の中にいた生き物たちだった。

 

 明かりを出しているのはとても手のひらサイズの小さな檻の中に入っている火の妖精っぽいやつ。人の言葉を話せないのか、鈴が鳴るような声を響かせこちらを見て首を傾けている。

 

 

「……サヤちゃん?」

 

 

 サヤちゃんと呼んできた勇者ちゃんの方を見ると、彼女は一人だけ人間が入れるサイズの檻に入れられ、正座をしてこちらをじっと見つめている。

 先ほど抱き上げられた感触と、どこかへ俺の身体を動かしていたあの感覚から察するに────おそらく騎士たちに見つからないよう檻から檻へ移動されたのだろう。

 

 ……とすると、現時点での俺の身体がどこにあるのかだが。足元を見ると白銀の毛むくじゃらな足の上に乗っていた。大きな手が俺の腹を覆うようにがっしり掴んでくる。

 恐る恐る頭上を見て、その姿に……前世で見たことのある顔を見てギョッとした。

 

 

(魔王直属の四天王が一人。狼爆のカルヴァンじゃねえか!)

 

 

 四天王においてパワータイプの持ち主。

 素早さもダントツで上。毒や昏睡などといった搦め手を使わないと絶対に勝つことが難しい敵だったはずだ。

 

 人のように二足歩行で立っていて、服も着てはいる。

 しかしその身体は白銀の狼。それもとても巨大なモフモフ。目つきは恐ろしく耳は左部分だけかけているのが特徴だが……。

 その見た目と全く同じで、迫力が凄まじいのだ。

 

 攻撃方法すらも守りの概念がないと思えるような超特攻型。

 こちらがディフェンスに転ずれば絶対に勝つことは難しい。

 

 例え聖剣で心臓を貫こうとも五分もの時間を耐え抜き戦った恐ろしい奴だったのだ。前世での話だが……。

 

 なんでそいつがここにいるんだ?

 というか、なんで檻の中で俺を片手で包むように抱きしめているんだ?

 

 まさかホロン村の生き残りの一人だったのか。そんな話ゲームとかでも情報に載ってなかったし、公式でも聞いてないんだが!?

 

 

「あなた、サヤちゃんじゃないよね?」

 

「えっ」

 

 

 ────そう、慌てている時だった。

 勇者ちゃんがこちらを鋭い目で見てきたのだ。

 

 

「さっきあいつらが呪われたとかなんとか言ってたけど、サヤちゃんになにをしたの?」

 

「呪われたっていうか、ええと……」

 

 

 なんていえばいいのか分からない。

 でも敵になるわけにはいかない。

 

 必死に思考を回しているうちに、狼爆カルヴァンが俺の頭を豪快に撫でてきた。

 

 

「アテナ、ホロン村にいた連中はここに来てから全員狂っちまっただろ。サヤもそのうちの一人になっちまったんだよ」

 

「でも、それにしては様子がおかしいから────」

 

「分かったわかった。子供が大人に楯突くんじゃないぞ」

 

「な、何よ! カルヴァンもまだ成人してないくせに! 兄さんと同じ年だからって大人ぶらないで! 私より年上だけどあなたもまだ子供でしょうが!!」

 

「はぁーやかましい!」

 

 

 頭上で唾を吐きながら隣の檻にいる勇者ちゃんと口論している。

 まだ十歳なのによくこんな巨大で厳つい狼と喧嘩出来るよな。俺には無理だ。

 

 

「カルヴァン……私はね、これでも奴らに身体を弄られて……いろいろ直感が動くようになったんだよ。だから分かるの。サヤちゃんはおかしくなったわけじゃないって。今のサヤちゃんは、『サヤちゃん』じゃないって」

 

「……ふむ」

 

 

 真剣な目に考えることでもあったのか。

 

 俺の様子を見るように、狼もこちらを見下ろす。

 それ以外にも他の檻の中────妖精っぽい何かやら虫っぽい生き物やらが訝し気に見つめてきた。

 

 

「サヤ。ここらにいる連中はなぁ。幸いなことに自我をまだ失ってないんだよ。身体が何かしら変化してようと、人間じゃない何かになろうとな……。ここらにいない他の奴らがどうなったのかまだ分からんが……悲鳴や血の臭いから察するにロクな最期を遂げてないのは確かだ」

 

 

 狼が俺の手に握った聖剣を見る。

 

 

「なあ、サヤ。そのナイフはお前さんが奴らに持たされたものか? それのせいでおかしくなったのか?」

 

「そっか。ならそれを奪えば────」

 

 

 勇者ちゃんの声に、思わず俺は口を開く。

 

 

「ま、待って! このナイフを奪っても意味がない! 俺はナイフを持った人の意識を奪っちまうんだ!」

 

「なら捨てちまえばいい」

 

「いやそれも困る! ってか、俺は聖剣なんだよ! 聖剣ブラッドレリーフの精神体というかなんというか、そういうもんなんだ! 分かるだろ、ホロン村の聖剣だよ!」

 

「……せ、聖剣……ぶらっどれりーふ?」

 

「何だそれ。知らねえな」

 

「きゅ」

 

 

 彼らの声に、俺は唖然とする。

 

 

「ホロン村で秘匿に管理されたものなんじゃ……」

 

 

 前世のゲームではホロン村の守り剣としても知られている聖剣ブラッドレリーフ。

 だから俺は目が覚めて自分の正体に気づいた後すぐに受け入れられたんだ。

 

 邪悪を撃ち滅ぼすための、全てを光へ導く剣。

 魔王を倒すためだけに作られた、勇者のための聖剣。

 

 そういえばと、俺は気づいた。

 勇者を作る『勇つく』には一周目と二周目で見え方が変わってくる。視点が違えば敵も変わってくる物語だ。

 

 だから聖剣ブラッドレリーフという都合のいい剣にも何か明かされてない真実があるんじゃないか。聖剣も王国によって都合のいいように作られたものなんじゃないかとか考察していた人もいる。

 

 でもちゃんと、ゲーム中の資料にあったはず。オリジナルの聖剣ブラッドレリーフがホロン村にあって、それを使って勇者のためだけの武器へ改造しようとしたと。

 資料はちゃんとあった。

 それを記憶していたから、こうやって生まれ変わった先でも俺はホロン村にあった聖剣なんだと自然と受け入れられた。

 

 でも、それが嘘偽りだったら?

 あの前世で見てきた情報の中に何か裏があったとしたら?

 

 

「ホロン村にそんなものあった記憶なんてないよ」

 

「俺も知らねえ……ここらにいる奴らも知らねえよ。そんな呪いの剣なんてな」

 

 

 ────じゃあ、俺は一体何なんだ?

 

 

 

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