聖剣憑依主だったのに幼女を操ってる件について 作:無機物憑依ちゃん
ゲームでの聖剣ブラッドレリーフは、勇者にとって欠かせない武器の一つ。
装備からは外せないため、ただその剣を強化していくしかない。
対峙した魔物たちの一部を使って。
羽や鱗、血はたまた心臓などを使う演出と────王国が指定している武器屋で改造を施せるようになっている。
盾などといった装備品ももちろん、王国が指定したものばかりだ。
でも聖剣だけは違っていた。アレは勇者ちゃんがかつて故郷で大事にしていたモノだとそう描かれていたから。
勇者ちゃんとパーティを組んでいた短剣使いと話をしていたシーンにて、彼女は言っていた。
これは故郷の大事な物だったんだ。王国にも隠されていたとっても大事なものだって誰かが言ってたらしいの。私が教会で捨てられてた時にこの剣も一緒に置いてあったみたい。
私ね。聖剣が故郷にあったものってことだけはなんとなく覚えているんだ、と────。
(記憶を植え付けられていた?)
いやでも、それならゲームのシーンで見た勇者ちゃんが記憶を取り戻すかもしれないことに怯えていたあの姿はなんだったのか。記憶を植え付けられるのなら絶対にそんなことしないはずだ。
ならば何なのか。
ゲームでは聖剣はちゃんと機能していた。
俺のように呪いみたいな効果は発揮しないはずなんだ。戦えば戦うほど、勇者ちゃんの経験が上がるのと同じく聖剣も力強くなっていくブースト機能がついていた。それ以外にも様々な効果があった。
まさしく光属性の武器そのもの。
最終的に魔王を退治するためには聖剣は必要不可欠。そんな巨大な力となっていたはず。
聖剣ではないなら、俺は何なのか。
それを考えるには遅すぎた。
勇者ちゃん達は全員、俺を敵視している。
身体が幼女ちゃんだから攻撃しないだけ。無理やり奪うという真似をしてもいいのに……もしかして、身体が人間じゃなくなっているせいなのか。
幼女ちゃんが怪我をしないように俺に何もしないだけ。
でもきっと、この聖剣が離れたら────俺の本体はどうなるのか分からない。
(やらなきゃいけないこともあるのに……!)
今は自分について考えるときじゃない。
やるべきことはまず、彼女たちに味方だと伝えること。
魔王を救出し、ホロン村の生き残りを全員連れて脱出すること。出来ればこのクソな実験施設は潰した方が良いと思うけれど……。
そもそもなんでこんな実験施設作ろうと思ったんだ?
魔物の力が増大していて、冒険者たちが太刀打ちできなくなってきたって話なのは知っているけれど、魔王を誕生させるような馬鹿やらすか普通?
俺の本体たる聖剣にも何か裏がある。
王国はまだ何か、隠している内容がある?
そもそもこの世界って本当にゲーム世界か?
いやゲームに似た現実世界って可能性もあるから……だから、ゲーム情報と何か異なる部分があるとかないとか。あーでもそれならここに勇者ちゃんやカルヴァンっていうゲームキャラクターがいるのはあり得ない。実験施設すらゲーム知識のぼんやりとした土地感覚とあの憑依していた騎士の男の感覚を信じて来れたようなもの。
なんとなく、この世界は前世での『勇つく』ゲーム世界と同じ。
ただそれが現実になっただけ。俺が突っ走らなければきっとこの先、魔王が誕生するだろうっていう予感はある。
ただ、確信が欲しい。
魔王に会えばなにかわかるかもしれない。
俺の存在。王国が隠していること。
幼女ちゃんが何で聖剣を持っていたのかも。
(だぁぁ! たかがゲームに何でここまで翻弄されなきゃいけなんだよっ!!)
深く溜息を吐きたくなるけれど、今はそう言ってられない状況だ。
頭を回せ。勇者ちゃん達は俺を疑っている。敵意を示している。だから、ちゃんと考えろ。
俺が出来る唯一はある。そこを攻め入るだけだ。
ホロン村に起きたあの地獄を忘れることなんて出来ない。
突然だったんだ。
数えきれないほどの火矢が降り注ぎ、魔法術によって突風が吹き荒れ家が崩壊した。
冒険者でもない村人が抵抗なんて出来るわけがない。
ホロン村には毎日、冒険者の何人かがやってきては魔物などの防衛に徹してくれるけれど、その時は珍しく誰も来なかった。
それはきっと、王国が私達を切り捨てた証だったのだろう。
襲撃によって何人もの人が怪我をし、死んでいった。
私達は運良く助かっただけ。
ううん、運悪くって言った方が良いかもしれないな。
縛り付けられ、檻に入れられて。
目隠しをされて無理やり連れてこられた場所で、太陽の光すら届かない世界に長い時間いた気がする。
何日経ったのか分からない。
ただ檻に入れられた人間が数人騎士たちに連れ出され、二度と会うことが出来なくなった。
怖かった。恐ろしかった。
父や母は死んだ。兄さんだけが私を守ろうとしてずっと傍に居てくれたけれど……もうだいぶ前に奴らに連れ出されてから戻ってきていない。
きっともう、両親と同じく死んだかもしれない。
それか生きているかも。カルヴァンたちのように、身体だけが人間じゃなくなったように。
(でも、私は……)
大人が死んで、変な姿になって。
暴れては殺されて。死んで。
そうして次に狙われたのは子供だった。
私が最初に連れて行かれた。
そこにあったのは以前────王都のお医者様の所で診察に行った時に見た手術室。
ベッドに縛り付けられ拘束され。そうして何かを植え付けられたのだ。
それは腹の中に直接入れられた。
宝石のようなものだったけれど、私は見たことがあった。
冒険者の人がたまに魔物を退治して、それをさばいて売るといっていたもの。骨や皮。鱗。頭。その中で一番輝く────魔物の心臓。
前にみたものは赤黒い心臓だったが、私に入れられたものはそれより透明で輝いて見えた。
それでもとても不気味なモノだった。気持ち悪かった。なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないんだってずっと泣いて泣いて。
でも腹に入れられた瞬間────私は、泣き喚くことすら出来なくなった。
何故かわからないけれど、全身が熱くなったのだ。
その後に起きたのは内部の変異。肉体的な意味じゃない。精神的な問題だった。
怖いという感情が消えていくのだ。
悲しい、寂しい、苦しい、怖い。それら全てが無くなっていく。
気を抜けば何もかもが他人事のように思えてしまう。透明なガラスに入れられた人形のように、心が死ぬのだ。
だから私はずっと耐えてきた。己の身体の中で起きる変異と戦ってきた。
王国が敵という感情、ホロン村の生き残りがまだいるといる希望に縋りついて、人間から化け物にならないように抵抗し続ける。
カルヴァンたちは身体が変化した。
私はきっと、心が変化したのだろう。徐々に化け物になるように。
そうして長い時間、私達は檻の中にいた。
人間だったホロン村の人たちはみんな、魔物みたいになるか死ぬかのどちらかのみ。私だけが例外だったけれど、それがいつまで保つのか分からない。
ただじっと、耐え続けるしかない。
それに、カルヴァンの嗅覚によると別の部屋で他にもホロン村の人がいると言っていた。だからきっと、この檻の部屋以外にも誰かが囚われている。仲間がいるんだ。私達と同じ犠牲者が。
実験はまだ続いている。私達の地獄は止まらない。
いつ終わるんだろう。いつ死ねるんだろう。それだけしか考えられなくなった。笑えなくなった。
化け物に変異しつつある心が死にそうになっていたある日────その騒動は起きた。
サヤちゃんの事を幼女ちゃんと呼んだ男が気絶する。
そうしてサヤちゃんが豹変した。あの男みたいになったのだ。
(なんでかな……)
彼女が握っていたあのナイフに見覚えがあった。
私が体に入れられたあの魔物の心臓の色によく似ている。
そのナイフは刀身が真っ赤だった。
刻まれている薔薇のレリーフを見ていれば、赤いバラを思い出すはずなのに……。
何故魔物の心臓なんて思い出すのだろうか。あんな地獄、トラウマにもなりかねなかった出来事だったのに。
私の心はもう死んでいるのかな。
ナイフに嫌な感じはなかったけれど、でもサヤちゃんじゃないってことは分かる。
だからサヤちゃんを返してほしかった。
彼女はホロン村の子供。私にとっては妹のように扱った、とても大切な一人だったから。
彼女は────いや、ナイフの精神体なのだから人ではないはず。だから『ソレ』というべきか。
ソレは汗を拭う。
暴れればカルヴァンが手加減なしにサヤちゃんの身体ごとぶっ壊すかもしれないけれど、ナイフは確実に折れるはずだ。それを察知してか否か、ソレは怯えていた。
「俺はお前たちの敵じゃない」
「じゃあサヤちゃんを返してよ!」
「わ、分かった。でも多分無理だと思う」
「きゅー?」
「……そこで見ててほしい」
ナイフを放り投げたソレ。
がくんと首が落ちて────サヤちゃんが目を瞬いた瞬間、私は気づく。ソレはもう中にいないと。
「よかった、サヤちゃん!」
「っ! 待てアテナ。……おい、サヤ?」
ナイフは放り投げたのだ。
アレはもう檻の外。私達が手の届かない範囲にある。もう大丈夫なはずなのに、何故か彼女はカルヴァンの手から逃げようとしていた。
「うー」
「さ、サヤちゃん? もう大丈夫だよ。呪いは消えたんだよ?」
「俺の事が分かってねえのか? カルヴァンだぞ。サヤともよく遊んだだろう?」
「あれ、わたしの!」
「はっ────?」
「あれはわたしのなの!」
ナイフに手を伸ばして、それを欲しがるサヤちゃん。
流石にずっと力を込めるとサヤちゃんを傷つけると思ったのか、カルヴァンが訝し気に見つつ手を離す。
サヤちゃんはふらつき転びながらもナイフを掴もうとしていた。
異様な執着心。普通の女の子とは思えない目で、ソレを掴もうとする。
止めたかったけれど、もう止められない。
檻の外に向かった彼女はナイフを掴んでしまった。
「……やっぱ、狂っちまったのか」
悲しそうなカルヴァンの声になんとか頷いておく。頷くことしかできなかった。
ああ、彼の声を聴いて私は実感したのだ。
サヤちゃんが以前の彼女じゃなくなったというのに、全然悲しくないのだと。
限界が近づいてきているのだと。
ソレはナイフを握ったまま檻の中へ戻ってくる。
もうふらついてはおらず、しっかりとした足取りで近づいてきた。
その目はソレと同じだった。サヤちゃんじゃないなって分かった。
「見て分かっただろ。でもそれは俺が望んだことじゃない。俺がこのようじょちゃ……サヤちゃんに呪いをかけたわけじゃないんだ」
「嘘つくんじゃねえよ剣野郎! じゃあお前はサヤちゃんの何なんだ!」
「知らねえよ俺だってどうしてこうなったか知りてんだわ!!」
「ああもう怒鳴り合わないで! 騎士たちに見つかるでしょ!」
「きゅー!」
両者を諫めるように、私と同じく村の皆が鳴き声を発する。
それに肩をすくめるソレと、派手に舌打ちをするカルヴァン。
「……とにかく、このままここにいても意味がない。だから俺を使え」
「あぁ?」
「なんとなくわかったんだが……俺は憑依した人間の力を最大限使いこなせるみたいだ。魔物になった奴らは力加減が分からなくて捕まったままなんだろ? そこにいるアテナちゃんだって力の使い方が分からないんだろ?」
「なに、いってるの?」
ソレは本当に何を言っているんだろうか。
私に戦う力なんて、そんなのあるわけないのに。ただの子供なだけなのに。精神が変になっているだけで。
考え事をしているうちに、ソレはまた口を開く。
「この剣を握って、俺にその身体を憑依させてほしいって言ってるんだよ」
「そんなの断るに決まってるだろうが!」
「きゅう!」
チカチカと明かりとなっているウィップが点滅する。
他の人たちもあり得ないことを言うなとばかりに抗議する。
私だってそうだ。だってそれは、わざわざ呪われに行くようなもの。そんなことをして何になるって……。
「このままここにいるつもりか?」
地獄に居続けたいのかと、ソレは言う。
自分なら助けられるんだと説得してくる。
「俺を使え。もしも俺がお前たちの誰かの身体を使って嫌なことをやらかそうっていうなら……その時は俺の剣を、本体を折っても構わない。壊していい」
自分の命と等価に、己の命も賭けようとそう言ってくる。
「お願いだ。俺はやりたいことがあってここに来た……だから頼む。ホロン村の人たちを救うためにも手を貸してくれ。身体を貸してくれ……!」
頭を直角に下げた姿にお互い顔を見合わせた。カルヴァンたちの顔は戸惑っているようだった。
この地獄が終わるのなら、私はどちらでも構わない。
多分私はもう、手遅れだろうから……。
「いいよ。私は別に身体を貸しても構わない。ただの人間な私の身体を扱えるのならってところだけど……」
「っ! ほ、本当か! なら────」
「待て待てアテナ。お前は俺の親友の大事な妹だ。お前を危険な目に遭わせるわけにはいかん!」
そう言って手を出してきたのは、カルヴァンの方だった。
「仕方ねえ。ここで死ぬか呪われて死ぬかってところじゃろう。……身体を貸せというのならこの俺が貸してやるよ!」