東方酔恋華~Girls In Love~   作:箱厨

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こっちもちょくちょく書いて書いて……。


はじめまして

「……っ」

 

頭に響く鈍痛に、ダンは目が覚めた。痛む頭を押さえつつ起き上がると、何時だかに見た覚えのある真っ赤な部屋が目についた。

 

「ここは……」

 

「ようやく起きた?お寝坊さんね、貴方は」

 

声のする方へ目を向ければ、ベッドにもたれかかってダンを見上げる見覚えのある顔があった。ダンは迷うことなく、声の主の名を呼んだ。

 

「吸血鬼」

 

「ふふっ……久しぶりね、人間」

 

「……あぁ、吸血鬼」

 

「あっ、ちょ、まだ起きちゃだめよ。一応、手加減はしておいたけど、頭に食らってるのよ?」

 

ダンがベッドから出ようとすると、慌ててレミリアがダンを抑えようとする。しかし、ダンはそれすら手で払うとしっかりと両足で立ち上がった。

 

「平気平気。吸血鬼見たら、元気出た」

 

「……うー……」

 

「……クッ、ククク……」

 

「……?人間?」

 

「アッハハハハハ!アハハハハハ!!」

 

「え、何よ急に……きゃあっ!?」

 

ダンは突然笑い出したかと思うと、レミリアの腰をしっかりつかんで抱き上げるとそのままの姿勢でくるくると回り始めた。いきなりのことに反応が出来ず、為すがままに回されるレミリアは意味不明だ。しばらくして落ち着いたのか、ダンは自身の目の前までレミリアを下ろした。

 

「ど、どうしたのよ人間……?」

 

「……あぁ。逢いたかったよ、吸血鬼」

 

「……!!ふふっ、人間は寂しがり屋なのね」

 

「あぁ、寂しかったよ。お前がいなくなった後さ、世界中を巡って旅をしたんだ。けど、お前以外にまともな妖怪なんてこれっぽっちもいなかった。俺、ずっとお前に会いたくて、仕方なかったんだ」

 

「うっ……そ、そう?まぁ、別に?私は、あー……」

 

「吸血鬼?」

 

「……私も、寂しかったわ。貴方のような人間なんて、そうそう見つかるはずもないしね。私を、吸血鬼を存在からリスペクトする人間なんて、貴方くらいよ」

 

「……ははっ。何だ、吸血鬼も寂しかったのか。お揃いだな」

 

「ふふっ……えぇ、そうね。お揃いね」

 

うふふ、あははと、お互いに笑みをこぼし合う二人。しばらくして、何か思い出したかのような顔をしたダンは、レミリアをゆっくりと下した。

 

「人間?」

 

「……初めまして(・・・・・)、レミリア・スカーレット。俺の名前は鳩羽断。いつかお前を倒す人間だ」

 

真剣な表情で名乗り出したダンにきょとんとするも、レミリアはすぐに思い至るとニヤリと笑みを浮かべた。

 

初めまして(・・・・・)、鳩羽断。私の名前はレミリア・スカーレット。貴方が求めてやまぬ、スカーレットの吸血鬼よ」

 

「改めてよろしくな、レミリア」

 

「えぇ。……それと、私は親しい者には"レミィ"と呼ばせているわ。貴方もそう呼んで頂戴。私も貴方を名前で呼ぶわ」

 

「わかったよ、レミィ」

 

「……それじゃあ、またあとで。念のため、もう少し安静にするのよ?後で咲夜を遣わすわ」

 

「おぉ、そうか。分かった、ゆっくりしてるよ」

 

「またね、ダン」

 

「あぁ。またな、レミィ」

 

レミリアはダンに一旦別れを告げて部屋を出る。そして、吸血鬼の身体能力を遺憾なく発揮して物凄い速さで自室に戻る。椅子に腰かけ、先ほどの会話を思い返す。

 

『レミィ』

 

「……えへへ、レミィ、レミィだって!やっと名前で呼んでもらえたわ!あの人間、ダンって名前なんだ……。ダン……ダン……えへへへへ……♪」

 

しばらくの間ニヤニヤが止まらず、歓喜に身悶える紅魔の主人がいたのだが、幸いなことに妖精メイドや文屋の天狗に見られることはなかった。

 

 

しばらく部屋で休んでいたダンだったが、元来よりじっとしているのは性分ではないので部屋の中を歩き回った。窓から外を覗けば日の出が見えていた。どうやら気絶してからほぼ半日は経過していたらしい。室内を把握したところで、今度は体に負担にならない程度で柔軟をすることにした。少しばかり体がほぐれてきたと感じ始めたところで、扉がノックされた。

 

「どうぞー」

 

「失礼します」

 

入ってきたのは、先日戦ったばかりの咲夜だった。咲夜は恭しく礼をすると、手に持っているトレイをテーブルの上に置く。

 

「お水をお持ちいたしました。お加減はいかがでしょうか?」

 

「あぁ、目が覚めて一番にきゅうけ……いや、レミィを見たからな!元気百倍だ!」

 

「あら、お嬢様と名を交わしたのですね?それはようございました。聞けば、お二方は互いに名乗り合うことなく別れた、とのことでしたので……」

 

「あ、あー……。その件については、その……機会を逸していたとしか……」

 

「ふふ、別に責めているわけではございません。それに、ダン様から名乗られたのでしょう?お嬢様はきっと、大変うれしかったと思いますよ」

 

「そうか?なら、名乗った甲斐があったってもんだ」

 

咲夜から渡された水を受け取り、一息に飲む。喉を潤して会話に花を咲かせていると、ダンはすっかり忘れていたことを思い出した。

 

「あぁ、そうだ咲夜。えっと、君のお祖母ちゃんはいるかな?」

 

「……え、はい?」

 

「孫に自分と同じ名前っていうのは斬新だなぁとは思ったけど、やっぱり俺が知ってる咲夜に会いたいからさ……。それで、お祖母ちゃんはどちらに?」

 

「あの、ダン様?その、何を仰っているのかいまいちわかりかねますが……」

 

「え?君のお祖母ちゃんの、十六夜咲夜さんに会いたいんだけど……」

 

「私に祖母はいません!私が十六夜咲夜本人です!?」

 

「え?」

 

どうも会話がいまいち噛み合わない。咲夜は落ち着くように深呼吸をすると、情報の整理を始める。

 

「えっと、ダン様?先に確認しておきますと、私のことはどのように考えておいでですか?」

 

「え?えっと、俺が拾った女の子がいて、その子の名前が十六夜咲夜。俺は年老いて死んだかと思ったが、幻想郷に来てなぜか若返ってた。けど、幻想郷にいる咲夜も同じくらい歳を取ってたら、お祖母ちゃんになってると思ったんだけど……」

 

「……まず、前提として幻想郷と外の世界では、一定周期で時間の流れが変化します。具体的には、外の世界の流れが幻想郷に比べて早くなります。大体、五十年ほど」

 

「……?え、はぁ!?」

 

「そして、私は貴方に拾われた、あの小さな十六夜咲夜本人です」

 

「ええぇぇぇ!?」

 

まさかのカミングアウトに、ダンは絶叫を禁じえなかった。老いて死んだかと思えば若返っていた自分にも驚いたが、あの「小さい咲夜」が若返った自身と同い年程度にしか成長していないことにも特に驚いた。咲夜が言った「五十年おきの時間のズレ」が、外の世界にいたダンを急速に成長させたのだろう。

ちなみに、咲夜の方もダンのことを勘違いしていたのだが、昨夜の内にレミリアから事情を聴いていたらしく、今ではダン本人だとしっかり認識している。

 

「はぁ……そんな咲夜が、今じゃ若返った俺と近い歳になるとはなぁ。いや、しかし……うん、すっかり美人さんだな咲夜!」

 

「うふふ。お上手ですわね、ダン様」

 

「……?今の、何が上手だったんだ?褒め方?」

 

「……いえ、何でもありませんわ(あぁ、こういう天然なところ……やっぱりダン様ですわ)」

 

「上手」という言葉を字面通りに受け止めたせいで意味不明に感じたダンは首を傾げるが、咲夜はそんなところにダンらしさを感じ、懐かしさを覚えていた。

咲夜から水のお代わりを受け取り飲みつつ、ダンは自分と別れてからのレミリアの動向が気になり、咲夜に尋ねた。

 

「なぁ、咲夜。幻想郷に来た後、レミィは一体何をしていたんだ?」

 

「はい、ご説明させていただきます。まず、お嬢様は当時外の世界に残っていたすべての吸血鬼を紅魔館に集結させ、彼らとともに紅魔館ごと幻想郷へ転移しました。その後、お嬢様は幻想郷の征服を目的に行動を起こし、同行した同胞たちと共に幻想郷を侵略し始めました」

 

「侵略?レミィが?……なんか、合わねえな」

 

「ふふっ。……さて、幻想郷の侵略を始めたお嬢様でしたが、当代の博麗の巫女と幻想郷の賢者たちの反撃にあい、吸血鬼はお嬢様を残して全滅しました」

 

「博麗の巫女?」

 

「はい。妖怪退治を生業とする博麗神社の巫女で、人間です。人間とそれ以外が共存する幻想郷において、増長した人外に対する絶対的な抑止力となり、幻想郷のバランスを保つことを目的としています」

 

「へぇ!そんな大層な役割を任せられるって、立派なことじゃないか。その博麗の巫女って人は、よっぽど清廉潔白な人柄なんだろうな。じゃないと、世界を守るなんて使命を任せられるはずがないもんな!」

 

「ぶふっ」

 

「ちょ、咲夜!?どうした、急に噴き出して……?」

 

「い、いえ……な、なんでも、ククッ……ございま、せんわ……!」

 

「……?」

 

いきなり噴出した咲夜を怪訝な目で見るダンだが、現博麗の巫女の人となりを知る咲夜としてはダンが評したような清廉潔白な様が全く想像できなかった。むしろ清廉潔白な巫女の姿を想像して、日頃の様子とは真逆すぎて笑えてきたのである。

 

「ふぅ、ふぅ……ハイ、すみませんでした。少しだけ落ち着きましたわ」

 

「そ、そうか……。それで、その後は?」

 

「はい。幻想郷の侵略には失敗したお嬢様でしたが、数年後に幻想郷の空を紅い霧で覆う異変を起こしました。日中になると出歩けないとのことで、陽の光を遮る目的で実行しました」

 

「理由!そりゃあ、太陽の光はレミィにとっては死活問題かもしれないけど、陽の光がなきゃ洗濯物だって乾かないぞ。というか、紅い霧ってすごい体に悪そうだな……」

 

「えぇ、実際に里の人間の大半が紅い霧の影響で寝込んだそうです」

 

「ちょ、それシャレにならんのでは……?」

 

「えぇ、はい。ですので、博麗の巫女に退治されましたわ」

 

「うわぁ……」

 

相当に迷惑をかけまくったらしい友人を憂い、ダンは思わずため息が出た。なお、その友人は今頃ダンに名前を呼ばれて照れまくっている模様。

 

「ありがとうな、咲夜。色々と教えてもらって」

 

「いえいえ。この程度のことでしたら、いつでもお力になりますよ」

 

「あぁ、本当にありがとう。……さて、チョイとばかり暇だな……」

 

「それでしたら、美鈴のお相手をしてもらえますか?あの娘、少し目を離すとすぐに居眠りするんですよ……。ダン様が傍に居れば、いい刺激になると思うんですけど……」

 

「あぁ、そりゃいいな。お互いに切磋琢磨できれば、きっと得る物もあるはずだ」

 

「それでは、外までご案内いたします。ダン様はまだ紅魔館内の構造を把握しきれていませんでしょう?」

 

「うぐっ……た、頼む」

 

「かしこまりました(これは役得……私が空間を弄っていることは黙っておきましょう♪あ、せっかくだし遠回りして行こうっと。少しでも長く、ダン様のお傍に……)」

 

本音が漏れないように、優雅に笑みを湛えながら部屋を出る。咲夜も咲夜で、ちゃっかりしているのであった。

 

 

咲夜の紅魔館案内はその後も続き、現在は正門に向かっているところだ。正門といえば、ダンと格闘戦を繰り広げた美鈴がいる。

 

「そういえば、門番を雇ったんだな」

 

「えぇ、はい。……最近は平和なもので、しょっちゅう居眠りばかりしてるんですけどね」

 

「そうなのか(え、あれって寝てたのか?……てっきり、油断させるための演技かと思った)」

 

咲夜が先んじて門を開け、外にいるであろう美鈴を探す。右見て、左見て、彼女にしては珍しく驚いた顔をした。

 

「あら、美鈴?起きてたのね、珍しい……」

 

「えっ!?え、えぇ、はい。ははは……」

 

「まぁいいわ。あなたに紹介する人がいるわ……ダン様、どうぞ」

 

咲夜に促され、ダンは美鈴の前に姿を現す。一瞬、美鈴が警戒の気を纏ったが、咲夜が気を許しているということもあってか、すぐにそれも霧散した。

 

「あなたは昨日の……」

 

「こんちわ、ダン・ハトバだ。今日から紅魔館にお世話になることになった」

 

「ダン様はレミリアお嬢様の大変大事なお客様よ。粗相のないように」

 

「わかりました、咲夜さん」

 

「……それにしても、普段からそうして起きてくれていたらいいのに……」

 

「あはは……」

 

頭を掻きながら、美鈴の視線はダンに向けられた。

 

「(初めて会った時から思ってたんですけど、外面も内面も本当に爽やか好青年って感じですね。なんだっけ、アレ……そうそう、アレだ。以前、博麗神社のお祭りに特別に同行を許された時のことだ。あの時屋台で売られてた、シュワシュワする飲み物……炭酸、だっけ。あれと同じなんですよね)」

 

美鈴が想起したのは、博麗神社のお祭りの屋台で売られていた炭酸飲料だ。飲んだ瞬間に口の中で弾けるパチパチ感……ダンの清涼な気は、その感覚に似ていたのだ。それも、その気が無遠慮に周囲へばらまかれるダダ漏れ状態であるため、たとえ居眠りしていたとしても元々気の扱いに長けた美鈴には鋭くぶっ刺さり、眠気を消し飛ばしてしまうのだ。

 

「(まぁ、おかげで咲夜さんには怒られずに済むし、ラッキーラッキー♪)」

 

「(……なにか、よからぬことを考えているわね美鈴の奴……)」

 

「なぁ、美鈴。君さえよければ、今後時間を作って鍛錬をしないか?」

 

「鍛錬、ですか?」

 

言われて首を傾げる美鈴だが、直ぐに思い至った。ダンは、レミリアに勝つことが目的だ。だが現状、白星は未だ掴めていないと見える。故に、少しでも己を鍛えるために美鈴に協力を要請したいのだろう。

 

「美鈴の体術は見事という他ない。俺はレミィに勝ちたいが、今のままではまだまだだ。あの時の勝利だって、俺のフィジカルが美鈴の想定を上回っただけのこと。純粋な技同士でなら、俺はまだ美鈴に勝てないかもしれない」

 

「なるほど……そういうことでしたら、お付き合い致しましょう!食後の運動がてらにどうですか?」

 

「いいのか?ありがとう!」

 

美鈴からも色よい返事がもらえたところで、咲夜はダンを図書館へ案内した。どこか埃っぽいところだが、年季を感じられるこの空気がダンは嫌いではなかった。

 

「パチュリー様」

 

「……来たわね」

 

咲夜が声をかけたのは、紫色の長髪を持つ少女だ。その後ろには、美鈴とはまた別の赤紙の女性が立っている。本を閉じた少女は、値踏みするようにダンへと目を向けた。

 

「……ふぅん」

 

「えっと、なにか?」

 

「いいえ。……あなたのことはレミィから聞き及んでいるわ。私の名前は『パチュリー・ノーレッジ』。レミィとはかれこれ数百年来の友人よ」

 

「おぉ……それは、どうも。俺はダン・ハトバです。以後、よろしく」

 

「えぇ。……それと、私の後ろに控えているのは小悪魔。特に固有名称もないから、好きに呼んでちょうだい」

 

「小悪魔さん、よろしくね」

 

「は、はい」

 

パチュリーの使い魔である小悪魔は、相手の男性がレミリアの友人にして想い人であることをパチュリーから事前に聞いていたので、失礼の無いようにと緊張気味だ。

 

「何かわからないことがあれば、ここに来なさい。ご覧のとおりここは図書館……古今東西、あらゆる本が集められているわ。……無断でなければ、好きに持って行っても構わないわ。その代わり、ちゃんと返しにくること」

 

「もちろんです。そのような無作法、許されるはずがない」

 

「そうでしょ!?それなのにあの白黒ときたら……」ブツブツ

 

なにやら小声で愚痴り始めてしまったパチュリー。二、三度ほど声をかけるが聞こえていないようだったので、咲夜は館の方へと戻っていった。

 

 

その後も色々と案内をしている間に、すっかり日も暮れてしまった。

 

「以上で、紅魔館の案内は終わります。私はこれから夕食の準備に取り掛かりますが、なにかわからないことがあれば、いつでも呼んでくださいませ」

 

「ありがとう、咲夜。立派になったな……」ナデナデ

 

「あっ……えへへ///」

 

紅魔館のメイド長として成長した咲夜の姿に感慨深くなり、ダンは思わず咲夜の頭を撫でていた。普段、誰かに頭を撫でられながら褒められる事など滅多にない(というか、レミリアくらいだ)ので、テレと嬉しさから頬を赤く染めた。まして相手は幼い頃に命を助けてくれた恩人で、レミリアに負けず劣らず懸想をしている男だ。

 

「そ、それでは失礼します。夕食が出来次第予備に参りますので……!」

 

「うん、ありがとう」

 

咲夜が部屋から出ていった後、ダンはベッドに寝転がる。夕食ができれば呼びに来る、とのことなので、ダンはしばらく仮眠を取ることにした。

 

「(レミィ……お前に勝ったら、俺は……)」

 

思いのほか疲れがたまっていたのか、ダンの意識は直ぐに沈んでいった。

 

 

 

 




やっぱり色恋書いてる時が一番楽しい!
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