遊戯王の世界で遊戯王プレイヤーたちが遊びだしたようです。   作:だんご

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NRの10000ポイントを集め終わったので書き上げました。
追加ミッションは私は見ないふりをします()

とりあえず、こんな感じでいこうと思います。


「対象を取る」と「選ぶ」は違います

 デュエルモンスターズは、もはやただのカードゲームにあらず。

 

 デュエルモンスターズの人気と広まりは尋常ではなく、まるで世界を変えるほどの大きな力が、この流れを動かしているのではないかとまで言われるようになっていた。

 

 子供から老人まで誰もがデュエルを楽しむ。

 カードの大会は世界各地で様々な規模で開かれた。

 非常にポピュラーなゲームとして、年代・人種・国を問わず世界の人々の間で人気を博している。

 

 デュエルモンスターズの有名プレイヤーは、世界的な有名俳優のように人気を集め、テレビに登場しお茶の間を沸かせた。

 

 デェエルモンスターズを嗜むことは一種のステータスになり、デュエルが強いプレイヤーには社会の人々から敬意が寄せられるようになった。

 

 そして、デュエルモンスターズの影響が広まれば広まるほどに。

 ただのカードゲー厶の枠を飛び越えて、デュエルが大きな意味を持つようになっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある企業の広場にて。

 二人のデュエリストが対峙していた。

 

 片や戦意旺盛。

 

 世界最先端の艶やかなファッション。

 髪をワックスでガチガチに整えた、肉食獣のように笑う金髪の男性デュエリスト。

 

 片や困惑気味。

 

 日本のサラリーマンのようなスーツを着用。

 短めの黒髪、黒メガネ。

 よくアイロンがけされたハンカチで、冷や汗をふき取る。

 この少し困り顔の狐目デュエリストも、また男性であった。

 

「オレの顔、見覚えがないか?悪いがこのデュエルでお前さんは勝てねぇよ」

 

「……生憎、世俗のことには疎いものでして」

 

「……チッ。薄気味悪い野郎だぜ」

 

 認知度、人気、ゲーム性から、ついにデュエルが交渉の手段として社会で確立した。

 

 小さないさかいから、企業間の取引に至るまで。

 そう、一回のデュエルが、巨額のお金を動かすまでに至ったのである。

 

「……ケンガンアシュラみたいに、企業間の利益を賭けてデュエルって、うーん」

 

「おい、ぶつくさと何を言っているんだ?」

 

「申し訳ございません。あまりこのような場のデュエルには慣れていないものでして。少し緊張が……」

 

「……なんだよ、ド素人かよ。くそっ、佐藤さんも念には念を入れてオレを呼んだってことか」

 

 金髪デュエリストは、気がそがれたように髪をガシガシとかきあげた。

 

「察するに……あなたは有名なデュエリストなのですか?」

 

「……マジらしいな。おいおい、お前さん大丈夫かよ。デュエルモンスターズの規模のデカい大会では、巨額の懸賞金が動く。それを大会側、あるいは他の連中によって雇われ、回収する傭兵がオレだ」

 

「もしや、カードプロフェッサー?」

 

「……オレのことは知らないくせに、その名称は知ってるのかよ。お前、よくわからないやつだな?」

 

「は、ははは……。はぁ」

 

「オレは何度か大会で優勝、入賞している。それで目をかけられ、こうして企業に雇われて交渉事のデュエルを任せられることもあるのさ。お前もその口だと思ったが……違うのか?」

 

「生憎、公の場でデュエルすることは初めてです……」

 

「……だろうな。その緊張の様子、お前からはデュエリストとしての凄みが感じられねぇ。マジのド素人だ」

 

 から笑いする狐目に、金髪のデュエリストは憐れみの情すら見せている。

 

「まぁ、なんだ。お前はアマで、プロのオレが相手だ。負けてもしょうがねぇよ。そこに立たされている以上、なんらかしらの責任は背負っちまうだろうが……恨むなよ」

 

「そ、そうですね。私も精一杯頑張らせていただきます」

 

 金髪のデュエリストが、ちらりと上の階に視線を移す。

 

 そこには今回のデュエルを依頼した役員、並びに上等なスーツを着用した男の姿があった。

 

 その男の年齢は三十ほどだろうか。

 年に不相応ともいえるほどの重い、厳格な雰囲気を漂わせている。

 

 この男こそ、今回のデュエルの発起人であり、目の前の冴えないデュエリスト(むしろ、ただのサラリーマンといってもいいかもしれない)の主なのだ。

 

 会社の重役である佐藤は、この男を警戒し、この男が用意するデュエリストを警戒して自分を雇ったと聞いた。

 

 しかし実際に対戦相手と会ってみれば。

 挑発程度におどおどしており、デュエルの空気にもなれていないような、ド素人サラリーマンだったのだから、気が抜けるというものだ。

 

「……むしろ、あのお前の雇い主の方がまだマシだったんじゃねぇか?」

 

 思わず心の声が飛び出したのだが、狐目のサラリーマンは苦笑するばかり。

 

 不快な顔もせず、怒りもせず、睨み返しもしてこない。こんなに覇気のないデュエリストは初めてだろう。

 

 「こりゃあ、楽な仕事になりそうだ」と金髪のデュエリストは相手に向き直った。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

 そして、その甘い考えは───

 

 

「これでオレはターンエンドだ!さぁ、かかってこいよ!」

 

「では遠慮なく、ドロー。私は【高等儀式術】を発動、デッキからレベルの合計が6になるように、3枚の通常モンスターを墓地に。これにより、手札から儀式モンスターを特殊召喚」

 

「デッキから儀式素材だとッ!?」

 

「降臨せよ」

 

 

 

 

 

「【神光の宣告者】」

 

 

 

 

 

 

 ───かくも容易く消え去った。

 

 

 宙に浮かび、虹色に光り輝くは神光の宣告者。

 人ならざる天上の神意の化身。

 全てを許さず、封殺し、滅ぼす神の威光の顕現也。

 

「お、オレの、【奈落の落とし穴】が……何故ッ!?」

 

「【闇の量産工場】を発動、墓地から通常モンスター2枚を手札に。そして魔法カード【アームズ・ホール】を発動。【リチュアル・ウエポン】を手札に加え、そのまま【神光の宣告者】に装備。バトルフェイズ、攻撃」

 

「く、オレはセットされた【聖なるバリア―ミラーフォース―】を発動し───」

 

 瞬間、【神光の宣告者】の虹色の光が、相手のフィールドを照らし出す。

 

「ダメです」

 

 狐目のデュエリストの静かな声。

 

 そして効果を発揮されず、破壊される自分のフィールドの罠カード。

 金髪のデュエリストは驚愕し、目を見開く。

 

「な、何故だッ!?何故、【奈落の落とし穴】に続いて、オレのミラーフォースが発動せず破壊されたッ!?」

 

「【神光の宣告者】は手札の天使族モンスターをコストに、相手の魔法・罠・モンスター効果の発動を無効にします」

 

「……なん、だと?」

 

 魔法、罠、モンスター効果の発動が無効?

 

 なんだ、なんだというのだそのバカげた効果は。

 これまで何百人、何千人のデュエリストと戦ってきた。

 そんな自分ですら知らない未知なるモンスター、類を見ない強力な効果。

 

「たった、たった1枚のモンスターカードがなんて力を持ってやがる!?」

 

 理不尽極まりないと叫ぶが、【神光の宣告者】の攻撃はもう止められない。

 自分の場のモンスターが破壊され、ライフに大きくダメージを受ける。

 

 衝撃を手で守って受け流すが、状況は「絶望」の二文字に尽きた。

 

 あの化け物の攻撃力は元々1800。

 効果は強力だが、倒せなくはない攻撃力だった。

 

 それが装備カードによって、今や攻撃力3300。

 

 あまりにもバカげている。

 【青眼の白龍】の攻撃力さえ超えているアレを、いったいどうやって倒せばいいというのだ。

 

 おまけに天使族を手札から捨てるだけで、あらゆるカードの発動を無効……捨てる?

 

 【高等儀式術】、【通常モンスター】、そして【神光の宣告者】。

 

 なるほど、あまりにもムカつくほどによく考えられている。

 あまりに発想が最悪すぎて、吐き気がしてくるほどだ。

 

「【闇の量産工場】なんて雑魚モンスター回収カードをさっき発動したのは、その化け物の効果のためか……ッ!?」

 

 ただの通常モンスターを、2枚墓地から回収するカード。

 本来ならなんの脅威も感じさせない魔法カードが、あのデュエリストの手によって恐ろしいカードに変わってしまった。

 

 歯を噛みしめ、何とか気力を奮い立たせる。

 カードプロフェッサーとして、デュエリストとしての誇りが、彼の心をなんとかこの場に立たせていた。

 

「何が、何がド素人だくそったれ。そのプレイングスキル、強力なモンスター。お前、三味線を弾いてやがったな狐野郎ッ!!」

 

「いや、私にとっては公の場で戦うのは本当に初めてなんですよ」

 

 飄々と呆ける狐目のデュエリストを前に、血が出そうになるほどにこぶしを握りしめる。

 

 情報が全くない。

 聞いたこともないデュエリスト、聞いたこともないモンスター。

 

 こんな化け物を従えるデュエリストであれば、いくら裏の世界だって名が通るはず。

 

 いったいどれほどの闇の中に、このデュエリストは潜んでいたというのだ。

 

「カードを1枚セットして、ターンエンドです」

 

 狐目のデュエリストの手札は残り1枚。

 先ほど回収した天使族モンスターであるため、一回は確実にこちらのカードを無効にしてくる。

 

「……ッ!?」

 

 今の自分の手札に、あの異常な攻撃力を打開できるカードは存在しない。

 

 ならば、耐えるしかない。

 

 耐えて、耐えて、相手の手札の天使族モンスターを枯渇させ、なんとか逆転の目を引き込む。

 

 糸のように細い線を、繋ぐしかないッ!!

 

「ドローぉぉぉぉッ!!」

 

「あ、ドローフェイズに罠カード【補充要員】を発動しますね。墓地から通常モンスター3枚を回収します。メインフェイズに入ってもらっていいですよ?」

 

「……あ、あ?」

 

 手札が、4枚。よんまい、よん、まい?

 

 あれだ、あいつの手札に天使族は3枚いるから、少なくとも、3回、こちらは、無効化される……。

 

「く、くそったれ……」

 

 何が、何がプロだ。

 どんな、どんなプロがこいつに勝てる。どんなモンスターがこいつを倒せる。

 

 無貌の天使の眼差しに魅入られ、金髪のデュエリストは膝をついた。

 勝てない。オレは、このモンスターに勝てない。

 

「あのー、あなたのメインフェイズ……」

 

 無名のデュエリストに、このカードプロフェッサーのオレが負けるだと。

 どんな恥だ。

 この負けが知れ渡れば、この世界で生きていくことはもう難しい。

 

 ……いや、無名?

 

 突如、金髪のデュエリストの脳内に電流が走る。

 

 無名のデュエリスト、未知の強力なモンスター、そして一見するとふざけた様な雰囲気のデュエリスト。

 そして、恐ろしいデュエルのコンボ。

 

 この時になって、彼はようやく一つの可能性に行きつくことができた。

 

「まさか、まさかお前は……ッ!!」

 

 異常なデュエルタクティクス、未知なる強力なカードたちを使用するデュエリスト集団。

 

 近年、ネット放送にのみ現れ、そのデュエルから世間の話題をかっさらっていった幻の化け物たち。

 

 裏のデュエリストという称号。

 その称号をカードプロフェッサーをはじめとする裏の住人たちから奪い、真の裏のデュエリストとして名を広めた謎のデュエリスト集団。

 

「裏デュエル集団、【チーム俺たち】……ッ!?」

 

「え、あ、はい。そうですが、あの、あなたのターンですけど?」

 

 フェイクデュエルとさえ言われた、謎のデュエリストグループ。

 

 その一端に触れた金髪のデュエリストは、何かがぼっきりと折れる音を耳にした。

 

 それはきっと、デュエリストとしての誇りが折れる音だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、彼が負けるだと……ッ!?」

 

「プロとアマか。まさしくプロとアマの戦いであったな」

 

 デュエルの様子を眺めていた男は、自身のデュエリストが勝利した事実を当たり前のように受け止めていた。

 

「それでは佐藤殿。行政との仲介の件、確かに頼みましたよ」

 

 その場から歩き去ろうとする男。

 企業デュエルで敗北した佐藤は、慌てた様子で呼び止めた。

 

「ま、待ってください大門殿。あのデュエリスト、確かに、確かに【チーム俺たち】と!まさか、本当に彼らは実在したというのですか!?」

 

「……」

 

「そ、それにその若い肉体。最後にお会いした貴方は、お年を召されていた。いったい、何が起こっているのです?」

 

「佐藤殿」

 

「お、お願いです。もっと、もっと詳しい話を聞かせて頂きた……ッ!?」

 

 瞬間、佐藤は背筋が凍る思いをした。

 

 此方を静かに睨む男の視線は、まるで妖怪のように不気味で、野生のオオカミのように鋭い。

 

 言外に発せられる威圧感は強烈。

 肌がピリピリと悲鳴を上げ、熱が入った頭が、一瞬にして冷めてしまうほどであった。

 

「今の私は高橋だ。くれぐれも、そこのところを理解してもらいたい」

 

「あ、ああ。すまない」

 

「貴方と私との間ではいろいろあった。私は貴方を信頼している。信頼しているが……」

 

 妖しげに光る男の眼。

 思わず一歩後ずさりした佐藤は、ごくりと唾を一飲みした。

 

「その信頼を裏切ったものが、どんな末路を辿っていったのか。ご存じでありましょう?」

 

「……すまない、だ、いや、高橋殿」

 

 微笑を浮かべた高橋は、改めて佐藤に向き直った。

 

「近々、貴方の会社では社長の席が空くそうですな。誰が次に座ることになるのかはわかりませんが、このプロジェクトの利益が大きければ大きいほどに、支援者である貴方の株も上がる」

 

「……任せてください。必ず、行政の上の方にかけあって話を通してみせましょう」

 

 高橋は満足げにうなずいた。

 そして歩き出そうとして、また立ち止まる。

 

「一つだけ、よろしいですかな?」

 

「……なにか?」

 

「不可思議なことが、この世には多いようでしてね。オカルトといいましょうか。若返りに生死の克服。デュエルモンスターズの特別な力など、あまりにも荒唐無稽な話が多い」

 

「……なるほど、なんとも胡散臭い話ですね」

 

「賢明な貴方なら、お判りでしょう。この社会で力を持つものは、少なければ少ないほど良いと」

 

 その言葉を受けて佐藤は口を開こうとし、閉じた。

 

 自身のすぐ後ろに誰かいる。

 

 馬鹿な。

 こんな見通しが良い広い空間、誰かが来れば、すぐに気がつくことができるはず。

 

 にも関わらず、音もなく、気配もなく、気がつけば何者かが一歩後ろに立っていた。

 

 甘い吐息が、佐藤の耳を撫でた。

 

「ッ!?」

 

「肩に、ゴミがついておりますよ」

 

 驚き、振り返って、言葉を失った。

 

 美しい、あまりにも美しい女がいた。

 

 自分ほどの上の人間になれば、おおよそ美人と呼べる女には縁を持つ。

 

 しかし、そんな自分が見てきた全ての女を忘れてしまうほどに、その女はあまりにも美しすぎたのだ。

 

 黒く、まるで水にぬれた様な艶のある髪。

 

 宝石のように輝き、目を離せない瞳。

 

 甘く、淡い薄紅色のくちびる。

 

 高い鼻も、その滑らかで触れたくなる肌も、陶磁器のように白い指先も。

 

 その女のすべてが、佐藤の心をつかんで、ぎゅっとにぎりしめて、撫で上げて、離さない。

 

 女から発せられる香水の香りが、佐藤の鼻の穴を通り、ついに脳に届いて溶かしていく。

 

 赤子に触るように優しく、佐藤の頬は女の手のひらで撫で上げられ、そして───

 

「ごほん、対魔忍殿。佐藤殿は、我々のビジネスバートナーなのだが」

 

「……あら、そうよね」

 

 ───目が、覚めた。

 

「ッ!?」

 

 よろけてしまい、思わずその場に手をついて座り込む。

 

 どっと冷や汗が背中に流れ、自分の心が自分のものでなくなったかのような瞬間を思い出した。

 あまりの気持ち悪さに、佐藤は吐き気を催した。

 

 自分は何をやっていた?何をさせられようとしていた?

 

 あのまま高橋殿に声をかけられなければ、自分は、自分はどうなっていたのだろうか?

 

 唖然としたままに女を見れば、女は艶やかな唇を歪ませ、白い歯を見せて嗤った。楽しそうに。

 

「あまりにも反応が可愛らしい方だったものだから、ね?」

 

「私は少し注意をお願いしただけで、骨抜きにしろとは言っていない。彼には働いてもらわなければならないのだからな」

 

「ええ、わかっているわ。それでは佐藤さん、お願いいたしますね?私たちチーム俺たちは、貴方の働きにとても期待しておりますので」

 

 尻をついた佐藤に伸ばされた手。

 そのこころを知って、恐る恐る手を握り返せば、まるで自分が人形のようにあっという間に立たされた。

 

 唖然としている佐藤の横を抜け、高橋と共に歩き去っていく二人の影。

 

 それに遅れて、狐目のデュエリストが一度自分に黙礼すると、小走りに二人に続いて消えていった。

 

「……詮索は、命に関わるか」

 

 反逆を計画し、消えた大企業の元幹部。

 その行方は知れず、殺されたのだろう。

 そして戦々恐々と、海馬コーポレーションの行方を思案していた中で。

 

 突如、彼は再び現れた。

 

「……大門殿、あなたは優秀な方だった。数多の契約を結び、莫大な利益を我々にもたらしてくれた」

 

 若返り、活気を取り戻した姿。

 自身の存在を隠し、新たな名前と共に、新企業であるネットサービスに参入。

 それをバックアップするのは、未知のデュエリスト集団。

 不気味な何かを漂わせる、チーム俺たちの存在。

 

「そんなあなたが、今度は……」

 

 先ほどのデュエルを思い出し、無意識に体が震えてくる。

 

「いったいどんな悪魔と契約したのですか?」

 

 佐藤の力ない言葉。

 それに返してくれる人間は、もう誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、やりすぎちゃったのかなぁ?」

 

「リアリストだ!さんが心配する必要はないんじゃない?これはエンターテイメントではなく、企業利益のために、ただ勝つことが必要なデュエルだもの」

 

「そうなんだよなぁ。いや、デュエルで交渉が解決するって……。いいのかね?」

 

「郷に入っては郷に従えってやつよ、楽しいからいいじゃない」

 

 楽しそうに盛り上がる裏デュエルの二人。

 それを横で静かに眺める高橋に気がついた誇り高き対魔忍が、高橋に笑いかける。

 

「高橋さん、いえ、大門さんもありがとう。流石はBIG5の筆頭ってやつね」

 

「ふふ、この程度で満足してもらっては困るな。これからもっと我々は大きな存在になっていくのだから」

 

 そう、この高橋はただの人ではなかった。

 

 海馬コーポレーション前社長の側近。

 そして反旗を翻し、主人公たちに敗北し、電脳世界からも消えていった悲しきサイコショッカー。

 

 その正体は、大門小五郎。

 

 チーム俺たちによって電脳世界から情報が集められ、再生された、遊戯王デュエルモンスターズの登場人物である。

 

 憧れの原作人物がお助けキャラに。

 チーム俺たちの面々は、まるで推しを近くで見られることのように、その事実に喜びを感じていた。

 

「カードに吹き込まれたエネルギーから、死者を蘇生する計画。それを参考に、電脳世界から情報エネルギーを精霊を使って集めた、だったっけ?」

 

「そうね、『遊戯王R』のやつをパクッ……いえ、オマージュした『R計画』ね。結果は成功して復元され、BIG5人全員が契約に同意した。そして、今、ここで私たちの先頭に立って働いてくれている」

 

「いやー、渋いっていうか、かっこいいよなぁ……」

 

 大門の姿は壮年のものから、活力と威厳に満ちた若々しいボディになっている。

 

 これは本人の希望であり、その中身は人を超えたパワーが発揮できる。

 車一台がぶつかってきても、跳ねのけられるほどのマッスルだ。

 

「お前たちが我々に頼ったことは正しい判断だ。あんな事業計画書では、得られる金も権威も得られないだろう」

 

 頼られ、まんざらでもない様子で頷く大門に、俺たちの二人は互いに顔を見合わせた。

 やっぱり、遊戯王世界の住人であるためか、アクの強い人物のようだ。

 

「……あのー、一ついいかな?」

 

「何かな、リアリストだ!殿」

 

「私たちは貴方たちが表舞台にいるってバレたら怖いんだけど、どうしてBIG5の名前を利用しようとしているんですかね?」

 

 滅ぼされたはずのBIG5の存在が表に出てしまえば、社長・主人公たちに目をつけられないかと気にする俺たちは少なくない。

 

 そのため、最初は別の名前で活動してもらおうとしていたのだが……。

 

 BIG5はこれを拒否。

 いくつかの場面においては、自分たちの名前を利用するように進言したのだった。

 

「社会でのし上がっていくために、必要なのは何だと思う?」

 

「それは……お金かしら?」

 

「最近、dアニメに登録して勉強したからわかる。『これが権力だ!』ってやつかな?」

 

「どれも正しい。しかし、重要なのものはまだある。それは人脈と信頼だ」

 

 大門小五郎は、怪訝そうな二人に語る。

 

 会社の利益というものは、かける金の規模が多ければ大きいほどに利益を得られる。

 しかし、普通にやっても利幅は少なく、儲けは少ないことが多いものであると。

 

 そのため、会社というのは、如何に法の穴をつき、行政を巻き込み、国から助成金を引き出し、払う税金を少なくして利益を上げるかだと。

 

「そんな話のからくりを知っているような、あるいは通じる知恵を持っているような上の人間が、今の我々の規模の会社に担当としてつくと思うか?将来性があると分かる者がいても、これまでのやり方では協力どころか、食い物にされるのがオチだろう」

 

「……あー、カモがネギしょってやってきた感じなのかな?」

 

「……管理人も四苦八苦していたわね、最初は資金が中々調達できなかった。今はいろいろと話が来ていて、今度はどれを受け入れたらいいのか分からないって」

 

「ゴミといくら取引ごっこをしても、成長する前に資本の大きい会社にすぐ食われることになるだろう。自社にない伸びしろがある分野を開拓するには、買収が一番だからな。優秀で金がある会社は一から始めようとは思わん。人材も能力も全て金で解決する。同じBIG5であった大下は、その手のスペシャリストであった。だから海馬コーポレーションは、あれほど多くの分野で業績を伸ばすことができたのだ」

 

「もしかして、うちの方でAmazonとかがよくやっていることか?なるほどなぁ」

 

「なるほどね……。特に今は、パラディウス社等、まずいところが多いわね」

 

 復活した大門をはじめとするBIG5は、チーム俺たちから話を聞く中で、彼らの会社の現状を知り、いくつかの原作の知識を知ることとなった。

 

 そして、気がついた。痛感した。

 「あ、こいつらに経営を任せたら、せっかく復活したのに、すぐに我々はまた消えかねないぞ」と。

 

 そしてあっという間に、各々が了解をとって行動を開始したのである。

 

 チーム俺たちの会社経営の方針や計画。

 それは彼らからすれば「ノリと勢いしかない」と判断するしかないものであり、頭を痛めることとなった。

 

 それはさながら、高級カードをスリーブに入れずに輪ゴムでとめるような、知るものからすれば「やめろぉ!?」と叫びたくなるような有様であったという。

 

 というわけで、BIG5は急いで会社を強くするべく、それぞれが奮闘することになる。

 

 BIG5は全員、もう十日は寝ていなかった。

 

「上の人間と下の人間では、使われる権利も権威も、通る金額もまるで違う。下の人間とぐだぐだと何か月も話し合うより、電話一本で上の人間に話を通した方がずっと早い。知れば知るほどに、ネットサービスは今が勝負時だとわかる。誰かが行動する前に此方がシェアを確立しないといけないという、時間との戦いだ」

 

 ギラリと目を輝かせる大門。

 

「だが、そのツテがお前たちには無かった。金がないだの、会社の規模が小さいだの、そんなことは何の問題にもならない。一番大事なことは、我々がやることの話を通し、最大限の利益を生みだすための土壌を作り出す人脈なのだ。我々の活動を見守り、その価値を保証する、他の権力者が必要なのだ」

 

 大門はこぶしを強く握りしめ、胸に掲げる。

 

「我々BIG5にはそのための人脈がある。一度は敗れたが、成してきた功績による信頼もある。お前たちのネットサービスは今後ますます発展し、拡大し、そしてこの業界のスタンダードな形になっていく。その前に我々の人脈を活かして顔を繋ぎ、社会における立場を確立し、地盤をより確実なものにしなければならない」

 

 リアリストだ!と対魔忍は、唾をごくりと飲み込んだ。

 二人とも大門の演説に聞き入っている。

 

「にやにや動画という動画共有プラットフォーム、そして企画しているソーシャルネットワークサービス、そのどれもが今後携帯電子機器が発展すればするほどに、需要が増えていくのは目に見えている。ここで金を集め、シェアを拡大し、稼がなくて今後どうやって会社を守るというのかね」

 

 「停滞する企業は死ぬしかないのだ」という大門の言葉に、チーム俺たちの二人は目を輝かせた。

 

 すごいぞ大門小五郎、すごいぞBIG5。

 これが海馬コーポレーションという、世界的な企業を支えた男たちの視界と行動力である。

 

「……理由はわかったわ。ただ、海馬社長に目をつけられたら、遊戯さんたちに目をつけられたらと思うと、本音を言えば怖いのよ」

 

「神のカードだろ?運命力だろ?あの行動力だろ?勝てる気しないよなぁ。戦いたくもないし」

 

 大門は眉をひそめた。

 

 BIG5が海馬たちに敗北した一番の原因は、デュエルで敗北したからだ。

 

 言ってしまえば、最後のピースが此方にはそろわず、ただその最後のピースが決定的な敗北の原因になったのだ。

 

 そのピースとは、強力なカードと、それを扱える凄腕のデュエリストである。

 

 チーム俺たちは最強だ。

 

 大門は彼らこそ、世界最強のデュエリスト集団であると確信している。

 その証明は、ここ数週間の企業間におけるデュエルにて、十二分になされてきた。

 

 数多の有名なデュエリストを蹂躙し、有名な大会の優勝者でさえ足元にすら及ばない圧倒的デュエル。

 

 チーム俺たちは強い。

 

 あの海馬や遊戯たちすら凌ぐだろうと、BIG5はデュエルにおいて、全幅の信頼をチーム俺たちにおいていた。

 

 あの時にこいつらの一人でもいればと、そう思わずにはいられない。

 だが、その力が手元にあるというのに、何故か本人たちはこのように海馬や遊戯たちと戦うことに及び腰。

 

 「人生は上手くかみ合わないものだ」と、大門は感情を隠して、相手を落ち着かせるように、笑みを顔に貼り付けた。

 

「腹がたつ話だが……。海馬という男は、敗者に目もくれんだろう。こちらから何かをしない限りはな」

 

「……ああ、なるほど」

 

「そうねぇ、あの、海馬社長だものねぇ」

 

 ゲーム版ではBIG5が反逆した後も、実は普通に海馬ランドで働かせていたりする。

 

 最初期の社長なら「ぶち殺すぜ☆」だったかもしれないが、遊戯たちと戦い、誇りを手に入れた彼は気風のよい人間に変わっていた。

 

 ……まぁ、初期は遊戯も城之内くんも、はっちゃけまくっていたのは別の話。

 

 その時、大門の携帯に連絡が入った。

 

「私だ。む、大瀧か。そうか、技術者の目途はついたのか。引き抜きも済んだならばいい」

 

 大門の笑みが蛇のように変わる。

 

「……ほぉ、大下のやつがそんな話を持ってきたか。確かに、広告塔としてチーム俺たちの舞台が必要だったが、最適だな。その話を進めてくれ」

 

 互いに顔を見合わせるチーム俺たちの二人。

 電話を切った大門が、怪訝そうな二人へとニヒルな笑みを返す。

 

「大規模なデュエルモンスターズの大会が行われるのだが、そこでチーム俺たちとの特別マッチが考案されている」

 

「え、ちょ、はいッ!?」

 

「ちょっと、大門さん?」

 

「スポンサーに後援者、彼らが実際に表舞台で実力を発揮し、観客を沸かせてくれることを我々に求めている。これが成功すれば、多くの繋がりと信頼を得られるだろう。たかが一回のデュエルで得られるとすれば、パフォーマンスが良い話でもある」

 

「いやいやいや!裏なのに表に俺たちが出たらまずいでしょ!?ほら、だって、ねっ!?」

 

「動画配信サービスであれだけ姿を晒しておいて、今更何を言っている。最高のタイミングでお前たちのデュエルを売りつけることができたのだ。ここでやらずにどうする?」

 

「動画で出るのと、リアルで多くの人たちの前で出るのとでは違うわよ」

 

「なら遅いか早いかだ。若い世代でもお前たちの活躍は大きな話題になっている。カフェかどこかで、無駄に人生の時間を潰している学生の会話を隠れて聞いてみろ。テレビでも名のあるデュエリストが、チーム俺たちの名前を出していることを知らんわけでもあるまい」

 

「……え、対魔忍さん。俺たちって、もしかして有名になってたの?」

 

「……確かに、生の視聴者50万人は、多いわよね」

 

「パソコンも一般市民には金がかかるものだ。そしてまだまだネットサービスという概念もろくに普及していない社会の中で、50万という数字はほぼ世界全員が見ていると言っても過言ではないぞ?」

 

「「……」」

 

「……やはり、経営は任せられんな。現実が不自然なほどに見えていない」

 

 世界観、そして時代のギャップのずれに、あごが下に落ちて呆然とする二人。

 

 どうでもいい話だが、ペガサス編はまだビデオデッキの時代だ。

 そしてビデオデッキ、わかる若い人は減っているらしい。そういうことである。

 

「相手はかつて全日本選手権で活躍したデュエリスト、インセクター羽蛾とダイナソー竜崎だ」

 

「「……ッ!!」」

 

「かつては有名な選手だったが、デュエリストキングダムにおいてはトーナメントにも進めず敗退した。多くの期待を裏切った彼らは、今では冷や飯を食わされているが、今一度実力を見てみたいそうだ」

 

 多くの人間の思惑が、複雑に絡み合った結果のデュエル。

 勝てば多くの栄光を得られるが、敗北すればこれまでの積み重ねが全て無駄になってしまうだろう。

 

 まぁ、こいつらが負けるとも思えないしな。

 そう思って大門がやけに静かになった二人をみると……。

 

「ねぇ、聞きました対魔忍さん」

 

「ええ、聞いたわリアリストさん。あの、あの二人よ、あの、二人なのよ!?」

 

「マジかぁ、あんまり知らない俺ですら知っているぞ!」

 

「だめよ、ダメ!生インセクター羽蛾!生ダイナソー竜崎!頬が、緩んで、ふへへへへ」

 

「対魔忍さん、ちょっと待って、お子様が見たらダメな顔してる」

 

「って、いけないわね。この体、ちょっと欲望で顔が崩れるとすぐにアヘるのよ」

 

「聞きたくなかったそんな事実」

 

 めっちゃくっちゃ、二人は喜んでいた。

 先ほどまでの不満はどこへいったのか、もう大変喜んでいる。

 

 大門はわけがわからなくなったが、チーム俺たちは特定の人物に並々ならぬ関心。

 いや、妄念とも呼べるべき感情を向けることがあることを知っていた。

 

 自分たちBIG5が魂を縛られ、契約した時もそうであった。

 チーム俺たちの何人かから、謎の胴上げを受けたことは忘れられない思い出である。

 

 ……胴上げが高すぎて、大瀧なんぞは頭を天井に突っ込まれて宙ぶらりんになったのだ。

 

 忘れたくても忘れられるか。

 

「……まぁ、やる気が出てくれたのならば構わんか」

 

 大門は考える。

 最初は自分が管理人を含め、チーム俺たちに説明しようとしていたが、この反応を見るに面倒くさいのは100%分かり切っていた。

 

「……太田にやらせるか」

 

 BIG5。

 復活しても人が良くなったわけではなく、仲が良いわけでもない。

 

 何とか誤魔化してやらせるかと、何も知らない同じBIG5の太田宗一郎に押し付けた結果。

 

 原作キャラ厄介オタクと化しているチーム俺たちは、誰が大会に出るかということで揉めに揉めてしまい、太田の胃は死ぬことになった。

 

 がんばれ太田、人呼んで「工場の鬼軍曹」。




◎宣告者

なんでも無効にしてくる遊戯王のすごいやつら。

私はお前たちを絶対に許さない(´・ω・`)

◎誇り高き対魔忍

長所
・ガワは忍者なので遊戯王世界におけるほぼ最高スペック、中の人も何気にいろいろできる。

欠点
・対魔忍

◎BIG5

管理人によって、魂ガッチガチに拘束された。
チーム俺たちは大歓迎状態なので、海馬たちに傷つけられた自尊心は大いに満たされたらしい。
今は「こいつら持っている力と行動力の割に、いろいろおかしい」と危機感の方が強い。

実は多くのチーム俺たちから、その豊富な社会経験から頼られてリアルの相談されることが多い。
相談数一位はブラック会社勤務の魔女っ娘。

こいつらを海馬と遊戯にぶつけられないかと実は考えているが、推しの概念、彼らの憧れと恐怖を理解できないために中々上手くいかない模様。

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