巻き起こせ、変態勇者の砂嵐   作:フォトンうさぎ

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5月前半:雷の精と魔剣の騎士①―回想『Carnage Hit Kill』

 幼少期の頃からだ。誰も彼もがオレ様のことを天才だと言う。

 その通りだ。オレ様だッて自分を天才だと思ッてるさ。何やッても、かなりいい成績を残すからなァ。敗北なんてほとんど味わッたことがねェ

 

 そしてまァ、ウマ娘だしなァ。物心ついた時から走るのは好きだッた。公園でよく他のヤツらと駆けッこしたりしてた。

 結果はもちろんオレ様の圧勝さ。男子も女子もウマ娘も抜き去ッて、誰よりも早くゴールラインを越えていた。この頃からレースに対する勘は冴え渡ッていた。

 

 で、ある時こう言われた。

 

「カネヒキリちゃんって、○○ちゃんみたいに早いんだね!」

 

 その言葉を言われた瞬間、俺はソイツの胸ぐらを掴んでいた。物凄い形相をしただろうな。掴まれたヤツはちびッていた。

 

 だッてよォ、ムカツクじャねェか。誰だよ○○ちャんッて、どッから名前飛び出て来たんだよ。まるでオレ様が――ソイツより遅いみたいじャねェか!

 オレ様の走る姿に何を重ねてんだよ。オレ様の先に誰を走らせてるんだよ。気に入らねェ。

 

 ショックだッたが、別に走ることはやめなかッたし、嫌いにもならなかッた。むしろどんどんと自分の走りを磨いていッたさ。

 ただ、誰かより劣らないことを探して色んなことや習い事もやッてみた。あれこれな。

 

『オレ様』なんて言い方してるが、ピアノもやッてたんだぜ? もちろん周りより圧倒的に上手だッた。大人も顔負けさ。塾の講師に褒められるたびに満足感を感じていた。

 

 で、ある時こう言われた。

 

「あなたは天才よ。未来の××になれるわ」

 

 その言葉を言われた瞬間。オレ様は鍵盤を思いッきり叩いてピアノ教室を飛び出していた。耳障りな不協和音がピアノ教室に響いた。

 誰だよ××ッて。オレ様は別に、知らねェ誰かになりたいわけじャねェ。オレ様が目指す未来はそこじャない。心の奥底で、何かが暴れて収まらない。

 

 ああ、わかッてるさ。ただのガキの習い事レベルだ。今ソイツに勝てるわけじャねェ。

 だけど、『誰かになれる』みたいな誉め言葉はオレ様にとッて物凄く苦痛だッた。

 

 小学校の運動会の徒競走。もちろんオレ様が1着を取ッたさ。なんか土の道は走りやすいんだ。他のウマ娘より大差をつけてゴールインした。

 周囲は驚くさ、なんだあのウマ娘はと。才能の塊。オレ様も自分を天才だと思ッてるし、拍手は心地いいものだッた。

 

 だけど、大差をつけて負かした2着のウマ娘にこう言われた。

 

「カネヒキリちゃんすごい! まるで○○ちゃんみたいに速い!」

 

 頭に血が上ッて、ソイツの胸ぐらを思いッきり掴んでいた。ソイツが悪いわけじャない、暴力は振るわなかッたさ。だけどどうしても許せなかッた。

 すぐカッとなるのは悪い癖。だが、やッぱりオレ様の魂がそれ以上ソイツにオレ様を褒めさせるなと暴れ出す。

 今のレースで勝ッたのはオレ様だぞ? なに他の誰かが一緒に走れば、ソイツが1着を取ッていたはずみたいな感じ出してんだよ。

 

 才能がある、天才だ、秀才だ。そうだ、オレ様は誰よりも早く走ることができ、どんな勝負をしたッてオレ様が1着を取るはずなんだ。

 

 今思えば愚かな選択だ。オレ様は最強だからと、努力をしなくたッて圧倒的に勝てるんだと、トレセン学園中等部は目指さなかッた。実際、負け知らずだッたからな。

 

 小学校を卒業する前、トレセン学園中等部を目指さなくていいのかと色んなヤツに聞かれた。けど、オレ様は普通の中学校に行って、レースだけじャなくて何かを色々探したいということを希望した。

 色々疲れてたんだと思う。自分の部屋には何個も金メダルと表彰状。だけど全部オレ様にとって銀メダルと2位を称えた紙だった。

 

 勉強、運動、音楽、習い事。色んな1着がたくさんだ。

 

 ……だが? その1着を取った時に言われたことは何だッた? 『あなたなら■■になれる』みたいな二番煎じを目指す言葉ばッかりだ。

 

 それで、ヒトと同じように普通の中学校に行ッて色々また始めた中で、エレキギターを弾いた。

 不思議なもんだなァ。エレキギターを弾いてる間は、誰にも『○○ちゃんみたい』なんて言われなかッたんだ。

 ただ純粋に拍手された。オレ様の進む道はこれなんだッて答えを見つけた気がした。まァ、音楽は嫌いじャねェしな。

 

 

 問題はその後だ。

 

 

 中学2年の時に、足にこれまた酷い炎症を起こして入院した。今思い出してもゾッとするくらい腫れあがッて痛いんだわこれが。注射に薬に絶対安静。ずーッとベッドの上で、ヒマでヒマでしょうがねェ。

 主治医には治ッても再発する可能性があるという危険性まで言及されるし、散々な目に遭うとはまさしくこのことだな。

 

 んでもッて、2人部屋の病室を共有したのは、フラムドパシオンッていう同じウマ娘だッた。

 なんの偶然か、パシオンは中央トレセン学園に通っている同学年のウマ娘だッた。

 

 パシオンは話好き、オレ様はやることがねェ。それでいてどッちもめちャくちャ暇。だからそこそこに話し始めて、どんどんお互いが過ごした日々について話すのも時間はかからなかッた。

 一応だがオレ様ッて金髪だし、いつ頃からか顔つきが険しくなッたから、避けられがちなんだよ。パシオンが怖いもの知らずという面を持つからでもあるがな。

 

 そして中等部を目指さなかッたとはいえ、興味がないといえば嘘になるからなァ。オレ様はパシオンからトレセン学園で過ごす日々のことやレースのことについて色々聞いた。

 それでまァ、同じウマ娘だし疑問を持つのは当然だよな。パシオンのヤツにこう聞かれたよ。

 

「カネヒキリさんは、どうしてトレセン学園を目指さないの?」

 

 中学2年だし、まだ高等部に入るという選択肢がオレ様にはあッた。

 だけどよォ、その時のオレ様はエレキギター弾いて音楽でやッていくッて道を行くことに決めてたんだ。悪くねェと思ッてたさ、音楽家のウマ娘。病院にエレキギター持ッてきて、すぐに聴かせたかった。

 

 しかしパシオンのヤツはペチャクチャ話す。オレ様はいい気になッたよ。中央トレセン学園のヤツから見ても、オレ様には天賦の才があるんだッてな。トレセン学園のトゥインクル・シリーズに参加したところで、つまらねェ勝負しかないんだと。

 

「私の後輩にね? すっごく強いウマ娘がいるの! 一緒にレース中継見ない?」

 

 いつもオレ様の運命を変えるのは『ある時』らしい。ある時、足の炎症が治りかけた時に、パシオンはとあるレースの中継を一緒に見ないかと誘ッてきた。

 

 まァ、仲の良いパシオンの言うことだしな。しョうがなしにレース中継を見て、その話題になッているウマ娘の走りを見た。

 

 その瞬間、衝撃を受けたさ。あっけに取られて声が出ないくらい、手が震えてしまうくらいに。そして病院の中なのに激しく叫びたくなッてしまッたくらいに。

 そんなオレ様の様子なんて知らず、パシオンは中継に映る後輩ウマ娘の走りを見ながら、興奮したようにオレ様に話し続ける。

 

 

「○○ちゃんはね、とっても速くて――」

 

 

 なんだ、あの走り。

 

 

「見てわかるでしょ? スラーって姿勢で――」

 

 

 なんだ、あのフォーム。

 

 

「とっても強いんだよ!」

 

 

 ただのザコじャねェか。

 

 

「カネヒキリさんも、○○ちゃんのように走れるよ! あっ――○○ちゃん、3着だったね……」

 

 なんだ? なんなんだ? 今のオレ様、あのクソダセェ走りができるようになるよッて言われてんのか? 今のレースで3着だぞアイツ。1着でもねェ、負け犬じャねェか。

 

 じャあ……オレ様は、3着にすらなれないというウマ娘なのか? そういう風に見られてんのか?

 

 酷い炎症を起こしたのだからそう言われてるのかもしれねェ。確かにパシオンのヤツに実際にオレ様の走りは見せていねェ。パシオンはオレ様の実力を知らない。だが――?

 

『3着以下ごときに落ちる』ウマ娘だと見られてんのか?

 

 足元がガラガラと崩れてく感覚。

 今のオレ様は何だ? エレキギターだけに満足しているウマ娘なのか? 中等部を目指してなかッたが、事実なんて他人は知ッたこッちャねェだろ。ただの勝負から逃げだしたウマ娘じャねェか。

 

『○○ちゃんみたいに』『まるで××さんみたい』『未来の△△』『■■のような』

 

 今までオレ様は、誰かの二番煎じみたいに銀メダルを貰ッていた。現実としてもらッていたのは金メダルだ。だが金メダルを貰ッても、俺の目にはくすんだ銀に見えた。

 銅メダルッていうもんを貰ッたことはあまりねェ。だけどよ、テレビに映ッたあのウマ娘が3着なら――オレ様は、表彰台の上にすらいない。4着以下――メダルを貰えないその他大勢の中に消え去る。

 

 パシオンはその後も何か喋ッていたようだが、その時のオレ様には何も聞こえていなかッた。

 

 許せねェ。オレ様がオレ様を許せねェ。1着を1回取ッたからなんだ?

 

 残さなきャならねェ、証明しなくちャならねェ。オレ様はカネヒキリだということを。誰かの二番煎じじャない、オレ様だということを。

 誰の後を継ぐ者でもない、オレ様だけの強烈な衝撃(インパクト)を、あらゆるヤツらの心に残すヤツにならなきャいけないということを。

 

 退院した後の中学3年の時の進路相談。オレ様は中央トレセン学園に行きたいということを、教師と両親に強く希望した。

 

 ああ、そりャあ反対されるさ。『あなた、1着を取ったらすぐにやめるじゃない』『炎症が再発したらどうするんだ。走れないぞ』。

 

 だが反対を押し切ッた。今までのオレ様じャねェと。

 反対の言葉なんか無視して猛トレーニングしたよ。遅れたスタートだ。ジムでトレーニングしたら、他のヤツの方が良い記録や質をしていた。遅れたスタートというのは、悔しいがそういうことだ。

 

 で、トレーニングを止めずに続けてたら教師と両親は折れて、オレ様の希望を許してくれた。己惚れずきちんと勉強もしたさ。

 

 1着を取ッたら満足? ふざけんな。1着なんて取ッて当然なんだ。1着取らなきャ、オレ様はスタートラインにすら立ててねェんだよ。

 入着しなきャ駄目だ。3着、2着なんて論外。1着を取ッてからようやくオレ様はスタート。

 

 ああ、オレ様は天才さ。だが天才だッて努力しなけりャ腐る。だからこそオレ様は他人より努力して努力して努力して、トレセン学園入学を勝ち取ッてみせた。

 

 エレキギター背負ッて、蹄鉄(ていてつ)付きのマイシューズ履いて、オレ様はトレセン学園に入学。

 

 んでもッて、意気込みながら栗東(りっとう)寮に足を踏み入れて、肌身離さずなエレキギターを早速フジキセキ寮長に没収された。

 

 正直に言うぜ、マジで涙流した。

 だッてよォ……エレキギターは今のオレ様をオレ様たらしめているものだからよォ、無くなると不安で不安でしョうがねェんだよ。

 

 あまりに情けなく涙流したもんだから、敷地内でエレキギターを鳴らしてはいけないという条件付きでフジキセキ寮長から返してもらッた。なんでかあの人に頭が上がらねェ……。

 

 案内された部屋をノックして入ッた時、迎え入れてくれたのはフラムドパシオンの奴だッた。

 

 パシオンのヤツは気にしてないだろうから正直に言うぜ。オレ様はマジで顔をしかめた。




Q.カネヒキリがフジキセキに弱いのは?
A.史実のカネヒキリの父親がフジキセキだから。
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