巻き起こせ、変態勇者の砂嵐   作:フォトンうさぎ

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5月前半:雷の精と魔剣の騎士②―即死呪文『はーい、グループ作って―』

 5月上旬。金曜日に第1回選抜レースを控えた月曜日。

 

 学園内にいるウマ娘達が、中等部高等部問わずピリピリするタイミングである。

 選抜戦でトレーナーにスカウトされなければ、トゥインクル・シリーズに出られないのだから。

 

 そんな時期の授業の中で、練習用のコース前にヒリつく生徒達を集めた教官は、突如として即死呪文を言い放った。

 

『では、5人から6人で好きにグループを組んでください。そのグループで練習を行います』

 

 金曜日に待つ選抜戦への闘争心を高めるため、そしてライバルを見つけてない者に向上心を与えるため、同じ実力を持つ者同士で競わせるため。

 

 色々な目的が含められているが、とりあえずその一言は他のウマ娘達に対して積極的に声をかけられないアグネスデジタルに効果抜群であった。

 

(うひょおおおお~! あの二人が即座にハイタッチしてチームを組み始めた! まばゆき友情の間にあたしが入ることなんて許されませんよッ! あちらは引っ込み思案なライスシャワーさんが、勇気を出してミホノブルボンさんに声をかけてらっしゃる……! あぁ、トレセン学園に来て推しの日常が見れて満足……! あれっ?)

 

 アグネスデジタルを除き、周りでどんどんチームが結成されていく。自分が入っていいものなのか、いや自分ごときがウマ娘ちゃん達の関係を汚してはいけないのだ。

 迷っている内にどんどんデジタルは孤立していき、多くのウマ娘達の中にいるのに取り残された感覚を覚えていく。

 

(これは、非常にマズいのでは……!? このままでは教官さんに『アグネスデジタルさんを誰か入れてあげてくださーい』と言う展開になってしまう!? ウマ娘ちゃんのグループに微妙な空気を生み出してしまうのは避けなくては……! あっ、そうだっ。パラドックスさんのグループなら、同じチームのよしみで……)

 

 きょろきょろと周りを探すデジタル。タイムパラドックスはデジタルと同じように背が小さいのですぐに見つかり……一歩遅かったことを悟った。

 

 のんびり屋のはずのパラドックスは、既に他の5人と準備体操を始めていた。ゆっくりとした性格の彼女だが、馴染みやすさはデジタルと段違いなのだ。

 

(遅かったぁ~!? パラドックスさんのグループに入れないとなると……いよいよあたしが入れるグループが無くなってしまう!? だって、5人とか6人でみんな仲良くしているし、あたしが入っても非常に気まずい雰囲気を作り出すだけなのでは……!)

 

 本当にこれは危険な事態だと、デジタルの顔がどんどん青くなっていく。周りのグループは練習を行うためにその場を去っていく。

 

 ポツンと残った後で、教官にどこかのチームに恥ずかしく入れさせていただくことになる――とまで考えて身震いしたデジタルは、急に後頭部を鷲掴(わしづか)みにされた。

 

「ひゅい!?」

 

 悲鳴を上げると頭から手を離される。くるっと振り返ると、デジタルの目の前には金髪ロングの眉間にしわを寄せた一人のウマ娘がいた。

 

 身長は低身長なデジタルより高く、その険しい顔つきは一昔前のヤンキーを思わせるものだった。デジタルが脳内データベースを探して見つけた結果――彼女の名は、カネヒキリ。

 

「おいオタク、こッちに来い」

 

「ええっ!?」

 

「ちょっ、ちょちょっ!? あたしをどこへ連れて行くんですか!?」

 

 今度は無理矢理に片手をグイグイ引かれる。突然の出来事の連続に、慌てふためくデジタルは抵抗すらできない。

 やがて、カネヒキリに手を引かれてたどり着いた先には3人のウマ娘が待っていた。

 

「おいテメェら……審判役連れて来たぞ。どのコース走るかコイツの意見で決めようじャねェか」

 

「これで5人でありますな。ゴールドシチー殿がダート走れないんでありますから、ウッドチップか芝でありますよ」

 

「サンキュー、アロンダイト。アタシは芝での選抜戦あるから、なるべく芝にしてくれた方が嬉しいんだけど」

 

「ウインディちゃんはダート走りたいのだ! 絶対に絶対にダートなのだ~!」

 

「選抜戦あるのはオレ様も同じなんだよ。ウインディと同じくダートを走りてェんだが? ていうか走らせろや」

 

 連れてこられたデジタルは次々に脳内データベースを探していく。

 不良っぽいウマ娘のカネヒキリ。高身長でダイナマイトボディのアロンダイト。モデルをやっていてスラリとしたボディが美しいゴールドシチー。そして悪戯好きのシンコウウインディ。

 

「オラッ、オタクちャんよォ。さっさと決めろや」

 

 これまた唐突にデジタルは背中をドンっと押される。よろよろと前に出て、前後から4人のウマ娘に注目されることになった。

 

「ちょっとカネヒキリ。いきなり連れてきて決めさせるとか、自分勝手すぎない?」

 

「るせェんだよ二足の草鞋(わらじ)。嫌なら計測役やれ。木偶(でく)の棒の適性はダートなんだしよォ。大事な選抜戦のためにお休みしとけや」

 

「なのだ~!」

 

「ハァ?」

 

「口悪すぎでありますカネヒキリ殿。ゴールドシチー殿も落ち着いて……。あとシンコウウインディ殿も場をかき乱さないっ!」

 

 カネヒキリをぎろりと睨むゴールドシチー。その視線を受けてもどこ吹く風なカネヒキリ。場をかき乱そうとするシンコウウインディ。そしてなんとか場を収めようとするアロンダイト。

 

 話の流れからして、練習用に使うコースをどれにするか言い争いになっている。4人の中心にいるデジタルは、推し達が近くにいる尊さより先に気まずさを覚えた。

 

「さッさと芝かダートか決めやがれよ、オタク」

 

「えっ、あのぉ……オタクって、あたしのことでしょうか……?」

 

「テメェ以外に誰がいんだよ。ちッこくまごまごして、だらしねェ顔してやがる。ウマ娘としてやる気ねェムカツク雰囲気をしてるが、審判役くらいにはなるだろうがよ。なァ? 飼い犬?」

 

 カネヒキリはずいっとデジタルに顔を近づけてメンチをきったあと、シンコウウインディに対して話を振った。

 飼い犬と呼ばれても気づかない。ぎろっと睨まれた後に、シンコウウインディはようやく自分に同意を求められたのだと気づいた。

 

「ウ、ウインディちゃん、そこまでその人のこと悪く思ってないのだ……。というよりウインディちゃんは飼い犬じゃないのだ~!」

 

 余計に場がピリピリとし出す。判断はなかなか発信できないアグネスデジタルに委ねられている。

 

(えっ、何これ? あたしの答えでどうなるかが決まるの!? ゴールドシチーさんは芝での選抜戦があるって言うし、カネヒキリさんもダートで選抜戦がある!? ウマ娘ちゃんたちの未来をあたしが決めろっていうこと!?)

 

「ダートだッ! オレ様がダートというんだからダートだ!」

 

「口も態度もいい加減にするでありますっ! ゴールドシチー殿のために芝であります!」

 

 カネヒキリが自分よりも一回り大きな図体をしているアロンダイトに掴みかかる。アロンダイトの身長は実に170cm代後半を誇る。身長差など無視して喧嘩を売りに行く凄み。

 

 しかしここまでされると心優しいアロンダイトも黙ってはいない。逆にカネヒキリの頭を上から押さえつけるようにして、お互いに暴力をしてしまいそうな一歩手前となる。

 

「ちょっ、ちょっとアロンダイト! ムカつくってのはわかるけど……!」

 

「あわわわわ……ウ、ウインディちゃんは知らないのだ……」

 

 立場が逆転し、今度はゴールドシチーが止めにかかる。小柄なシンコウウインディは自分では止めきれないことを悟って、明後日の方向を見ながら口笛を吹き始める。

 

 このままでは、カネヒキリとアロンダイトが喧嘩してしまうどころか、二人して選抜戦に出られなくなる可能性がある。喧嘩による暴力沙汰などあってはいけない。

 

(あっ、あたしが、あたしが勇気を出して場を収めるしかないの……ッ!?)

 

 ごくりと唾を飲んで額から冷や汗を大量に流しながら、デジタルは手を軽く挙げて恐る恐る静かに答えを出した。

 

「れ、レース以外の練習にしませんか……? ウッドチップコース並走とか、筋トレとか……ね? あの、その……大事な選抜戦のために、体力を大事に使いたいなって……ですね?」

 

 デジタルが答えを出したため、一度相手からぱっと手を離すカネヒキリとアロンダイト。じろりとデジタルのことを両者ともに睨みつけてから……。

 

「ダートだゴルァ!!」

 

「芝でありますぅ!!」

 

 またお互いに掴みかかる。推しが傷つけ合いそうな光景と自分の力で止めきれなかったことに、アグネスデジタルは激しく泣きたい気持ちになっていた。

 

「アタシ、この人の意見に賛成」

 

「ウインディちゃんも、賛成なのだ……」

 

 この状況だと本当に殴り合いになることだろう。ゴールドシチーがデジタルに助け舟を出す。そしてシンコウウインディもこれ以上はたくさんだと、げっそりとした顔で同意した。

 

「これで3人がトレーニングを希望するけど、どうする? 頭冷やして考えてよね」

 

 今度こそ、カネヒキリとアロンダイトは手を離して冷静になるのだった。

 

 

 

 ようやく意見がまとまり、ウッドチップが敷き詰められた坂路を駆ける3人のウマ娘達。

 ゴールドシチー、シンコウウインディ、カネヒキリがなるべく力強く足を踏み出して坂を駆ける。筋力を鍛える良いトレーニングになる。

 なお、ウッドチップはクッション性があるため、力を入れて足を踏み出しても負担がかかりにくい。レース前の良いトレーニングだ。

 

 彼女達のタイムをアグネスデジタルが測り、アロンダイトが記録していく。怒りが取れればアロンダイトは親しみやすい。

 

 ただ、デジタルは身長143cm、アロンダイトは身長175cm。大きなボール1つ分くらいの身長差があるので、同じ学年と言われても信じられないような光景がそこにあった。

 

「ハァ、ハァ……これならいける。アタシは"アタシ"になるために勝つんだ……!」

 

「ウインディちゃん、いろんな意味で疲れたのだ……」

 

「クッソ……! 上り坂はキツイ……! なんでタイムがのびねェんだ……!」

 

 デジタルとアロンダイトは一旦ストップウォッチなどを置き、トレーニングを終えたゴールドシチー達にスポーツドリンクが入った水筒を持っていく。

 

 飲み方にもモデルらしく気品があるゴールドシチー。一気にがぶ飲みするウインディとカネヒキリ。カネヒキリに至っては、自分のタイムにいらだっているのか口の端から雫が垂れるほど激しい飲み方だった。

 

「汚いでありますよカネヒキリ殿……」

 

「るせェ! まともにタイム出せねェ奴が指図するんじャねェよ!」

 

 いちいちアロンダイトにつっかかるカネヒキリ。彼女の扱いに慣れてきたことと、タイムに悩んでいる痛い点を突かれたことで、アロンダイトは押し黙った。

 

 そしてデジタルは3人の走りを見て……カネヒキリのタイムがなぜ伸びないのかわかっていた。姿勢と走法が原因なのである。

 だが、教えたいが教えられない。

 

 図々しい態度を取るとはいえ、カネヒキリもオレ様系としてデジタルが推しているウマ娘の一人だ。教えられないのはデジタルがいつも思う『ウマ娘ちゃんの物語に自分が入ってはいけない』ということと、『タイミング』である。

 

 ウマ娘の成長や走りに口を出してその物語を歪めてしまったらという恐怖と、選抜戦が差し迫ったタイミングで走り方を変えさせてしまうと残念な結果になりかねないという恐怖。

 

 伝えるべきか伝えないべきか、いやでもオタクとしては推しにあれこれ言う立場ではないし――と考えていたところで、カネヒキリはいきなりぐるりとデジタルの方を向いた。

 

「おいオタク。テメェ、なに言いたいことがありそうな顔してんだァ? オレ様の走りにだろ、言えや」

 

 デジタルが抱えた不安に対して、あまりにもカネヒキリの勘は鋭すぎた。

 不安な顔をしていたのかもしれない、カネヒキリに対する意識を感じ取られたのかもしれない。なぜかはわからないが、彼女はデジタルに気づいたのだ。

 

「へっ、えっ? あ、あたしはただの一般オタクなので、カネヒキリさんの走りになにも文句はないというかその……」

 

「そうじャねェだろ、言え。オレ様の走りになんの文句がある……? オレ様がもッと速く走れるコツがあるなら遠慮なく言え。言えコラ」

 

 デジタルの前まで歩いてきて、再びぐいっと顔を近づけるカネヒキリ。今にも掴みかかられそうであり、そして後ろにいるアロンダイトが彼女に対して般若(はんにゃ)の表情をしていた。

 推しの顔が急接近という尊みと、身の振り方を考えないとマズいという危機感。

 

「こ、コツはその……ありますけど……。あたしなんかが教えても変な結果になるというか未来を歪めてしまうというか……」

 

 カネヒキリがゆっくりと掴みかかるような姿勢を見せ――。

 

「アッハイ。坂を上るには前傾姿勢とピッチ走法っていうのが大事なんですけど、現在のカネヒキリさんの走り方は姿勢が地面に対してほぼ直角な坂を上りにくい体勢でして、さらに踏み込む幅が広いストライド走法という走り方であり――」

 

 身の危険を感じたオタクの説明早口が炸裂した。

 

 

 

「ハッハッハァー!! なんだこりャ!! 足の回転数がはえェから疲れるが、良い速度が出てんじャねェか!!」

 

 数十分後。ものすごい速度で坂路を駆け上がるようになったカネヒキリの姿があった。

 

「あたしはだめだ、あたしはだめだ、あたしはだめだ……。恐怖に負けて推しの走り方を歪めてしまうなんて駄目だ。今まで積んできた徳が台無しになる……。推しに何かあったらあたしのせいです、あたしが全部いけないんです……。地獄に、地獄におちるんですよあたしは……」

 

 そして自己嫌悪で潰れそうなアグネシデジタルの姿と、それをよしよしと慰めるアロンダイトの姿もあった。

 レースに負けた時よりも酷い落ち込み方なのではと心配するゴールドシチーとシンコウウインディは何も言えない。触れたらこちらもナーバスになるという危険な落ち込み方だった。

 

 坂路を上り終えたカネヒキリが計測タイムを見て、満足そうに頷く。

 

「やるじャねェかオタク。使えるオタクに昇格だァ」

 

「アッ、ハイ……」

 

 推しに褒められても、喜びを感じられないアグネスデジタルなのであった。

 

 

 そして、物語は週末の選抜戦へと移る。




Q.アロンダイトの背が高くてナイスバディなのは?
A.史実のアロンダイトが重量級の馬だったから。(ヒシアケボノ並み?)
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