ラブライブ!~たった一人の男子とスクールアイドル~(凍結) 作:TRcrant
お待たせしました。
時系列は明らかになっていませんが、大体このあたりだろうと判断したので入れてみました。
ちなみにあと数話で4話の内容が終了する予定です。
あの後、遅れてき眼鏡をかけた明るい茶髪の女子学生と共に、外の方に場所を移した。
逃げないように警戒されるというおまけつきで。
「あの大丈夫……ですか?」
「大丈夫」
中庭のベンチに腰掛けてため息をついた僕に、心配そうな声が掛けられた。
「盛大に転んだもんね」
(……一応先輩なんだけど)
リボンの色で先輩後輩がわかるようになっているらしく1年生は青、2年生は赤、3年生は緑という振り分けになっている。
僕の場合、男子用の制服が無く(当然だが)一応ネクタイでリボンと同様に学年を見分けられるように放っているが、女子の制服と比べるとどうしても難しくなるのは致し方ない。
(あれ? そう言えば1年生は一クラスしかないんだから分かるはずだよね?)
それ以上考えると精神的ダメージまで追いそうになるのでやめておくことにした。
「それで、どうして追いかけてきたんだ? というか用件は何?」
「えっと………その」
僕は追いかけてきた理由である用件を尋ねた。
それに応じたのは眼鏡をかけた女子学生だった。
「この間……助けて……ありが……」
「…………なあ、君。彼女がなんて言ってるのか翻訳してもらっていい?」
なんとなく言いたいことは分かったが、声が小さすぎて所々しか聞き取れなかった僕は横にいた赤みがかった髪の女子学生に翻訳をお願いした。
「えっと……かよちんは、”この間助けてくれてありがとう”って言ってるにゃ」
「なるほど。その件に関しては礼を言う必要はない。ただ鬱陶しかったから排除したまでだし」
僕の予想通りの答えに、納得しながらも気にしないように告げた。
(しかし、”にゃ”というのは口調なのか? それとも狙ってる?)
どうでもいいことにふと考えが向かってしまう。
「でも……」
「だったら、その時のことは他言無用で。理由はどうあれ、騒ぎを起こしたことを知られるのは避けたいから。それで全部チャラ、おしまい。いいな?」
納得していないのか、なおも食い下がる眼鏡をかけた女子学生に、僕はそう告げて話を終わらせた。
実際問題、あの時のことを話されるのは避けたいことでもあった。
特に、男どもを倒した件は。
「ところで、君」
「あ、私は小泉 花陽といいます」
「私は星空 凛にゃ!」
話を変えようとしたところで、二人から自己紹介がされた。
「小泉さんに星空さんだね。僕はたか………香月 高輔。よろしく」
危うく本名を言いそうになったのを僕は慌てて直した。
「それで、君たちスクールアイドルをやってみない?」
僕の本題は彼女たちへのスカウトだった。
逃げているときは気付かなかったが、ちゃんと話し合ってみると二人ともなかなかの輝きを見せていた。
ならば、スカウトあるのみだ。
「実は僕、"μ's"のプロデューサーをしていてね、今メンバーを探しているところなんだ。君たちが加わればμ'sは格段に向上する」
「「………」」
そこまで説明したところで二人の表情に変化が現れた。
小泉さんは僕から視線をそらし、星空さんは目を瞬かせていた。
(こりゃ何とも分かりやすい反応だ)
躊躇っているという典型的な反応に、僕は心の中でつぶやいた。
「どうだろう? もちろん無理にとは言わない」
「凛はかよちんがいいと思います。昔からアイドルにあこがれていたから」
「り……凛ちゃん」
僕の言葉に、推薦をするように告げた星空さんの言葉に、小泉さんは浮かない表情を浮かべていた。
「どう?」
「そ、その……私は、声が小さくて人見知りで、その……」
どんどん声が小さくなっていく彼女の様子に、僕はため息をつく。
「君はアイドルをやりたいの? やりたくないの?」
「そ、それは……できれば、やりたいです」
「ならそれが答えじゃないのか?」
会社の仕事や大学は違うが、アイドルなどのエンターテイメント系は”やりたいからやる”で十分なのだ。
そこに才能などの要素を色づけするのは全くもって無意味なことだ。
「それに、星空さんもだ。僕は君もスカウトしているんだぞ? 別に人数制限はしていないんだから遠慮して推薦する必要もない」
「私にはアイドルは無理ですよ。だって、髪は短いし女の子っぽくないし」
「…………」
引き攣った表情で両手を前で振りながら答える星空さんの言葉に、今度は僕が目を瞬かせる番だった。
「あ、あの?」
「……戯けッ!」
思いっきり息を吸い込んだ僕は、大きな声で星空さんを罵った。
「にゃ!?」
「きゃあ!?」
「髪が短いやつがアイドルには向かなかったらこの世の中のアイドルの半数が解散になるわ! 言い訳をするならもっとましなものを考えろっ」
たとえばA-RISEのセンターである綺羅 ツバサ。
彼女の髪も短めだ。
「一度鏡で自分を見てみろ。自分が思っているよりも星空さんは可愛くて女性っぽいんだから」
「っ!?」
そこまで告げた僕は腰かけていたベンチから立ち上がった。
「とにかく、時間は限られているがあるんだ。しっかりと検討しておいて。決まったら放課後に屋上へ来るといい。いつもそこで練習してるから」
僕はそう告げてその場を後にした。
(しかし、凄まじい言い訳だったな)
星空さんが口にした言い訳は、僕の中ではかなり衝撃的だった。
「さて。これで候補者は三名。うまくすればかなりの戦力強化が見込める」
後は、彼女たちの判断を待つしかない。
スカウトをする際は過度な引き込みは厳禁。
一回説明をして、後は当人で考えてもらう。
その結果、門を叩くのか否か。
待っているのはその二つだけだ。
「あれ、電話だ」
夜、別宅の自室でくつろいでいるところにかかってきた一本の電話からすべては始まった。
「はい、もしもし」
『おう、浩介君。元気にしてるかね』
電話口から聞こえてきたのは男性の声だった。
その口調はとても穏やかで人当たりのいい人物であることを物語っていた。
「ええ。ご無沙汰しています。もしかして、仕事ですよね?」
『さすがだね。その通りだよ』
電話の相手は
僕の所属する事務所”チェリーレーベルプロダクション”の社長だ。
「それで、どっちですか? プロデューサーか、それともバンドか」
『そのどちらでもない。とある喫茶店で歌を歌うイベントがあるらしいのだが、そこが君を指名してきた』
予想外の答えに、僕は思わず言葉を失った。
『場所は秋葉原の通称、メイド喫茶。歌う形式はデュエットになる』
「デュエットぉ!?」
場所は百歩譲っていいとしても、デュエットというのはいただけなかった。
「私は、歌が下手なものと一緒に歌う気はないと言いましたよね?」
『そこは安心していい。相手は秋葉原で今かなり有名になっているメイド”ミナリンスキー”だ』
僕の抗議に、社長は一緒に歌う相手の名前を告げた。
「……まあ、それなら」
”ミナリンスキー”
その名を秋葉原の冥土好きの中で知らない者はいないのではないかというほど有名な人だ。
少し前に突如彗星のごとく現れたその人物は、わずか一日で有名メイドの仲間入りを果たすという偉業を成し遂げた。
僕は会ったことがないが、噂では歌も声が独特ではあるがうまいらしい。
そんな伝説とも言われるメイドであれば相手にはふさわしいだろう。
『それじゃ、先方にはそのように連絡をしておこう。日付と時間を言うから、メモを取っておくように』
決まりだと言わんばかりに話を進める社長に、僕は特に異論は唱えずそのまま日付と集合時間をメモっていく。
今思えば、この時に断っておくべきだったのかもしれない。
それを知ることになったのは歌を歌う当日、メイド喫茶だった。
「いらっしゃいませ、ご主人様」
「…………」
指定されたメイド喫茶に入店した僕は、雷に打たれたような衝撃を受けた。
目の前にはメイド服に身を包む少女の姿があった。
満面の笑みを浮かべるその表情は、見事な営業スマイルだった。
「えっと……君がミナリンスキーさんかい?」
「はい♪」
僕の問いかけにも表情を変えることなく答える、ミナリンスキーさん。
その可愛らしい仕草などの接客には何も問題はない。
あるとすれば、
(どうして南さんが、ミナリンスキーなんだよ!?)
その相手が知り合い(と呼べるのかどうかは微妙だが)だったことぐらいだろうか。
あの後、メイド長(あえて言えばこれになる)が来て僕はスタッフルームに通された。
「私が、今日君とデュエットで歌を歌うことになる、DKだ。まあ、よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
笑顔を崩さずに相槌を打つその姿はかなり様になっていた。
(話し方や姿も変えているからばれることはないと思うけど、心臓に悪い)
今日の仕事はかなり緊張感が高くなりそうだった。
「今日歌うのは知らされている通り、『シアワセうさぎ』だ。歌の方は十分か?」
「はい、大丈夫です。振り付けも覚えました♪」
一応振り付けは不要と伝えておいたのだが、しっかりと覚えたと口にする南さんに僕は彼女が伝説のメイドと言われる理由がわかったような気がした。
「それじゃ、早速初めてもらってもいいかしら?」
「分かりました」
「はい」
メイド長がスタッフルームに顔を出し、出番を伝えたため僕たちはスタッフルームを後にする。
「それでは、本日のサプライズイベント。ミナリンスキーとDKのコラボによるデュエットを始めます」
そんな声と共に、客の方から歓声のようなものが湧き上がった。
「曲名は”シアワセうさぎ”です。それではどうぞ!」
スタッフの人の言葉と同時に、喫茶店の照明が落とされた。
薄暗くなった中で、僕とミナリンスキー……南さんは指定された場所まで出た。
そしてすぐに曲が始まった。
僕が歌いだし、それに続いて南さんも歌いだす。
ステップを踏んだり右腕を動かしたりと振り付け通りに踊る中、南さんの動きは確かに振り付け通りの動きだった。
それは僕と同じ振付である場所までしっかりと対応しているほどに。
ポップな曲調は確かに南さんには合うのかもしれない。
ラップパートも終わり、2番に突入してもその動きに乱れはなかった。
特に問題もなく、曲は無事に終わった。
喫茶店を訪れていた客から、拍手と歓声が送られた。
「それでは、お二人から一言ずつご挨拶を」
スタッフの人はそう言いながらマイクを南さんに渡した。
「こんにちは、ご主人様。今回は私とDKさんのデュエットを聞いてくれてありがとうございま~す」
さすがは伝説のメイド。
挨拶一言でお客さんたちがざわめいていた。
「どうも。DKです。今回はミナリンスキーさんとデュエットで歌うことができ、大変光栄です」
僕はいつも通りの挨拶をしておくことにした。
彼女より目立ってはいけない。
僕はあくまでもゲストなのだから、主役より光ってはいけないのだ。
ゲストの役目は主役をさらに輝かせる引き立て役なのだから。
まあ、これは僕の持論だが。
「この後お客様にはお二人から特別なプレゼントがございますので、お楽しみに」
そんなスタッフの人の言葉に、再び歓声が湧き上がるのであった。
「はい、どうぞ」
「どうも」
スタッフルームに戻った僕は南さんと共に色紙にサインを書いていた。
「今日は本当にありがとうございます」
「別にお礼を言わなくていい。こっちもメイドとデュエットという貴重な経験ができたんだ」
南さんの言葉に、僕は彼女から渡されたミナリンスキーのサイン入りの色紙にサインを書きながら相槌を打った。
「それでも納得ができないんだったら……」
僕はスーツの内ポケットから、予め入れておいたこの喫茶店近辺の地図を取り出し、それを彼女の前に置いた。
「ここから人目につかない場所への脱出ルートを教えてもらっていいかい? おそらく表に出た瞬間、私は追いかけられると思うから」
追いかけてくるのは当然ファンだ。
とはいえ、僕はそのファンが来ているのを見ているわけではないが、なんとなく感覚で分かるのだ。
ここを出たら追いかけられるようになるということが。
「はい。任せてください♪」
そして僕は南さんから脱出ルートを教えてもらった。
ちなみに、このサインは喫茶店を訪れていた20人に渡されることになった。
「うわ、本当にいたよ」
喫茶店を出て外に出るとファンだろうか、数十人が集まっていた。
その一人と目が合ってしまった。
「きゃー! DK様よ!!」
その声がしたのと同時に、僕は急いで駆け出した。
後ろの方から歓声が聞こえてきた。
(やっぱり追いかけてきたか!)
後ろを振り向くと僕を追いかけてくるファンの人たち。
だが、僕とて無策ではない。
先ほど南さんから教えてもらった脱出ルートを思い出す。
(確か、ここを左に)
十字路を左に曲がり、さらに飲食店の脇道に飛び込んだ。
後はそのまままっすぐ逃げて、脇道を出て右に曲がれば人通りの少ない場所になる。
それが、南さんに教えてもらったルートだった。
しばらく走ったところで、僕は走るのをやめると周囲を見渡してみた。
「さすがカリスマメイド。本当に、撒いたよ」
とりあえず、誰かに見つかる前にスーツとサングラスを外す。
そうするといつも僕が来ている紺色の私服姿となった。
素早く変装ができるように、私服の上にスーツを着込んでいたのだ。そしてスーツはあらかじめ持ってきておいた紙袋に詰める。
これで完全にDKであることはばれない。
「今日は事務所に顔を出さないでいいって言われてたし、このまま帰りますか。」
僕はそのまま何食わぬ顔で自宅に戻るのであった。
ちなみに、これは余談だが自宅に帰るまでに3時間ほどさまよい続けることになった。
地図や携帯電話等といった、迷った際に使う道具一式を自宅に忘れてきたことを知った時の絶望感は、言葉には言い表しにくいほど強かった。
今回登場した下記楽曲は、すべて実在する曲です。
1:『シアワセうさぎ』 アーティスト:PROJECT tM@S