ラブライブ!~たった一人の男子とスクールアイドル~(凍結) 作:TRcrant
お待たせしました。
今回、あの人物がちょこっとだけ登場します。
そしてついでに少し前のマジックの種明かしもあったりします。
それでは、どうぞ。
『あはははっ。それは災難だったわね』
「笑い事じゃない」
夜、自室(本宅の方)で作業中にかかってきた電話の相手に、今朝のあらましを話したところ今の笑い声が返ってきたのだ。
『だって。君が逃げる姿を想像するとおかしくておかしくて』
「………次会った時覚えておけよ?」
僕は電話の相手に低い声で返した。
何だか負け犬の遠吠えのような気がしてきた。
『あはは。冗談だってば』
「はぁ……で、何の用だ? 綺羅さん?」
僕は電話の相手……綺羅 ツバサに用件を尋ねた。
『ツバサって呼ぶように言ったはずだけど?』
「で、ツバサさん。本題に入って」
『この間のCDの感想と近況を聞こうと思ってね』
ツバサさんの切り出した用件で、僕は忘れかけていたCDの存在を思い出した。
「わざわざ初回限定盤で一番高い物を予約していただいてありがとうございます」
『いえいえ。お礼を言われるほどじゃないわよ』
僕の精いっぱいの皮肉など、相手には一切通じない。
「感想を言うのであれば”いつも通りの出来”。それだけだ」
『もう少し具体的な感想はないの? ここはダメだとか』
僕の口にした感想に、ツバサさんが不満を漏らす。
「他のグループとの差別化が大きくなりすぎないように、振り付け案や照明効果案は出すけど、それを採用するかどうかはそっち次第だと前に言っておいたはずだ」
『それはそうなんだけど』
去年に伝えておいたことだが、いまだに納得がいっていないようだった。
「近況だけど。こっちは本格的にスクールアイドルのプロデュースをすることにした」
『……へぇ』
僕の近況に、ツバサさんの声色が変わる。
それは一種の緊張感に満ちていた。
「彼女たちは、A-RISEにはない物を持ち、A-RISEにある物を持っていない不思議な存在。しかもまだちゃんとした活動もできていないけど、将来的には君たち以上の逸材になると思っている」
『そのグループ名を教えてくれる?』
「それはできない相談。三人には、偏見など一切ない状態で見てもらいたいからね」
僕はツバサさんの要求を断った。
別にイジワルをしているつもりはない。
ただ、知ってしまえば”A-RISE”以上の出来だという固定概念が出来上がってしまうので、それをを防ぐためだ。
『……まあいいわ。次に会う時を楽しみにしてるわ』
「そうだな。近いうちにまた打ち合わせをする必要があるだろうし」
時間も時間なので、そこで会話を打ち切ると、僕は相手に断りを入れて電話を切った。
「ふぅ……」
電話機を机の上に置いた僕は、一つ深いため息をついた。
(何をやってるんだろ。僕は)
どう考えても宣戦布告だ。
まだちゃんとした形にもなっていないのに、口にしてしまったことに、僕はちょっとした後悔を感じていた。
だが、どうしても言わなくてはいけないような気がしたのだ。
「ほんと、変わってるよな。僕は」
ここに戻ってきてからというものの、僕自身が知らない僕の存在に少しだけ戸惑っていた。
「まあ、それはそれ。これはこれか」
僕はそこで考えるのをやめた。
ちなみに、僕とツバサさんがどういった関係なのかという、ただの”お得意様”だ。
UTX学院の理事長と僕が所属する事務所”チェリーレーベルプロダクション”の社長とは、古くからの知り合いらしく、その伝手でスクールアイドル、A-RISEのサポートをすることになったのだ。
しっかりと専属契約も結んでおり、要請があれば優先して楽曲提供などをする。
ちなみに、僕はA-RISEのプロデュースはしていない。
あくまでも、草案の提出に留めていて、それにアレンジを加えるも自由、加えぬも自由という感じにしてある。
とはいえ、草案には数か所ほど手抜きをしており、そのまま採用すると失敗する仕組みになっている。
重要なのは、与えられた案をどのようにしてさらによくするかなのだ。
だからこそわざと手抜き状態にしているのだ。
いま彼女たちが有名になっているのは、紛れもなく彼女たちの実力に過ぎないのだ。
「とはいえ、今の問題はμ'sか」
まだちゃんとメンバーが集まっていない現状で、進んでいくことは不可能に近い。
「とにかく、僕にできるのはサポートのみだ」
自分の役回りを理解し、それを超えないようにすることも重要だ。
「サイトの草案の作成、早く終わらせよう」
僕は自分に喝を入れてパソコンの画面に向き合う。
画面にはピンク色を基調としたμ'sのオフィシャルHPの草案が映し出されていた。
トップページにはアイドル名であるμ'sとその下に写真(貼っていないけど)その下には『come on join us』の文字が書かれている。
さらにそこからコンテンツ名の項目がある。
そこから先のページは未だ完成していない。
僕はできるだけ早めに作業を終わらせるべく奮闘するのであった。
数日後、僕は神田明神の階段の前で両腕を組みながら、彼女たちの朝練の様子を見ていた。
毎朝数キロ走り、放課後にはダンスのトレーニングをした後に、再びランニングという中々にハードなものだった。
「それじゃ、いつものランニングから始めます」
「あ、ちょっと待って海未ちゃん!」
この日も、いつものようにランニングを始めようとする園田さんに、高坂さんが手を上げて待ったをかけた。
「何ですか? 穂乃果」
「香月君も一緒にランニングをさせたいんだけど」
「は?」
いきなり僕の名前が出てきた僕は、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「香月君だけずるいよ! プロデューサーでもランニングはするべきだと思う!」
「………香月君はどうですか?」
高坂さんの意見に、園田さんは弱腰で問いかけてきた。
「僕は別に異論はないよ。一緒に踊れと言うのは勘弁だが、ランニング程度だったらいくらでも走ってやるさ」
「それじゃ、決まりだねっ!」
まるでいたずら成功とばかりにガッツポーズをとる高坂さんをしり目に、僕はかるくストレッチをして体を温める。
既にランニングはここに来るときにしてあるが、違うコースを走るのも悪くはない。
僕は高坂さんと南さんの隣に並んだ。
「それじゃ、行きますよ。よーい、どん!」
園田さんの合図で、走り出した南さんたちから少し遅れて僕も駆け出す。
コースを知らないので、後ろを走ることで追従しているのだ。
とはいえ、今ルートを覚えていたりもするわけだが。
(へぇ、二人ともなかなかいい感じで走ってるじゃないか)
ペースを乱さずに走り続けている二人に、僕は感心していた。
(でも、僕には少し物足りないな)
いつもは起伏の激しいルートで現在の1.2倍の速さで走っていることもあって、今の状態ではそこまでトレーニングになっているような気はしなかった。
(まあ、何往復かするらしいから、大丈夫か)
物足りなければ二往復目から速度を上げればいいだけだし。
そんなことを考えながら、僕は走り続ける。
ちなみに、ここ数日で朝に彼女たちがここにやってくる大体の時間帯を把握することができた。
これまでは鉢合わせの危険性を考えてめったな浄化活動ができなかったが、これからはより効率的な浄化活動ができそうだ。
巫女さんが来る時間帯且つ、高坂さんたちが練習のために集合してくる時間前までであれば、フードをかぶらなくても十分。
フードはただ自分が本家の人間であることを伝えるための……いわゆるお飾りのようなものだ。
まあ、父さん曰く力を少しだけ高める効果もあるのだとか。
だが、それを毎回脱いだり来たりするのは時間の無駄だ。
しかも僕はプロデューサーだ。
リュックなどを持ってればふとした拍子に中身を見られて、僕が高月の人間だとばれてしまう可能性も高くなる。
だからと言って、1.5往復するのは非効率的。
そんなジレンマから、ここ数日は深夜に浄化をするようにしていた。
だが、これからはそのようなことは必要がなくなるのだ。
まさに効率的である。
「っと、これでいいのか?」
「はい。やっぱり男の人はすごいですね。まだ10分も経っていませんよ」
考え事をしていたら、いつものメニューが終わったのか感心した様子で園田さんがつぶやいた。
「はぁ……はぁ……香月君はもしかして化物?」
「それは……言いすぎだよ。穂乃果ちゃん」
僕から遅れること数分、科せられたノルマ分の距離を走りきった二人は膝に手を当て、肩で息をしながら口を開いた。
「変な言いがかりをつけないで。こんなの男だったら誰だってできることだ」
多少トレーニングはしているし、身体能力もかなり高いかもしれないけれど、早く走ることぐらいは誰だってできることだ。
「そうだよねー。今度は負けないからねっ」
「……ま、まあ覚悟しておくよ」
何故だか宣戦布告をされたが、微妙にトレーニングの趣旨を間違えているような気がするのは僕の気のせいだろうか?
「二人とも、早く戻りませんと遅れますよ」
「のわ!? 本当だ。それじゃ、香月君とことりちゃんと海未ちゃん、またね!」
「うん、またね」
園田さんの言葉に固まった高坂さんは、慌てた様子で階段を駆け下りていった。
「それじゃ、僕たちも解散にしますか」
そんな彼女の背中を見送りながら、僕が提案したことで早朝トレーニングはお開きとなるのであった。
昼休み。
園田さんたちは昼休みになるなり、どこかに行ってしまった。
セットで動く必要もないため、僕は教室に残り昼食(この日は軽めにサンドウィッチだ)に舌鼓を打っていた。
(現時点で三人からの反応は無しか。これは望み薄かな)
数日も経過しており、そろそろ何らかの反応があってもおかしくない時期だが、いまだに反応が返ってこないため、僕は心のどこかで諦めかけていた。
「少し、散歩でもするか」
昼食も食べ終えた僕は、気分を変えるべく校舎内をぶらぶらと歩くことにした。
(そう言えば、前にもこうやって迷子になりかけたような気がするんだけど)
今度は大丈夫だろうと、僕は自分に言い聞かせて、教室を出た時だった。
「見つけた!!」
「はい?!」
いきなり手首をつかんで掛けられた言葉に、僕は一瞬何が起こったのかが理解できなかったが、それもすぐさま解決した。
「君は、あの時の」
「もう逃がさないんだからッ!!」
僕の手をつかんで何やらものすごい剣幕でまくしたてる女子学生は、この間音楽室でスカウトした少女だった。
「ちょっといいかな?」
「何よ!」
とりあえず、僕は周りが見えていないであろう赤い髪の女子学生に状況を説明することにした。
「周りを見たほうがいいと思う。すごいことになってるから」
「周りって……う゛ぇぇ!?」
僕の言葉に周囲を見渡した女子学生は、奇声を発して固まった。
廊下という公の場での一連のやり取りに僕たちは、見事に注目を集めていた。
「場所、変えようか?」
「……そうね」
この状況は僕にとってもかなりきつかったので、女子学生が素直に提案に乗ってくれたのがとてもありがたかった。
そして僕たちはとりあえず話をする場所を移すのであった。
「それで、話は何?」
とりあえず場所を人気のないところに移したところで、僕は本題を切り出すことにした。
「あんた、この間私に言ったわよね」
「何を?」
女子学生の問いかけに、僕は何のことかわからずに聞きかえした。
「とぼけないで! 『私が嘘をつくと目が大きくなる』ってことよ」
「あぁ。あれのことか」
女子学生の言葉で、僕はようやく彼女が何のことを言っているのかがわかった。
「あれは、嘘ね」
「何を言ってるんだ?」
女子学生の言葉に、僕は首をかしげて反論した。
すると彼女は突然カードを数枚取り出して僕の前に掲げた。
それは僕が彼女に貸したトランプだった。
「仕掛けはこのトランプにあったわ。一見上下対称になっているように見える模様だけど、この真ん中の風車だけは違う」
そう言って女子学生が指摘した個所を見ると3枚あるうちの2枚の上側には羽根はないが、1枚には上側に羽根がある。
「あんたは、予めカードの向きをすべてそろえて置いて、私にカードを覚えさせた隙にカードを逆向きにした。私の選んだカードは逆向きになっているからいくらきっても同じ」
そこで女子学生は言葉を区切った。
僕は女子学生の推理を静かに聞いていた。
「あんたは私の目を見ていたのではなく、トランプの模様を見ていたのよ!」
「別に、そう思いたければ思えばいいんじゃない? それで君のプライドが満足するなら別にかまわないけれど」
女子学生の推測に、僕は動揺もせず普通に言い返した。
僕の強気な言葉とは裏腹に、女子学生の推測は見事に当たっていたりする。
「なんですって? 降参なら降参って言いなさいよ!」
「別に」
とはいえ、あのくらいのトリックは道具さえあれば子供でも思いつく。
それを言い当てられたところで悔しくもなんともない。
逆に、むきになっている女子学生の方がある意味面白く思えてきた。
「分かったわ。だったら、今からもう一度同じことをしてもらおうじゃない。そこで当てたらあんたの言ったことを認めるわ」
「いいぞ」
女子学生の提案に乗った僕は、もう一度その場で同じことをすることになった。
この間と同じ手順でカードを選んでもらい、それを覚えさせそして伏せてあるカードのところに戻させる。
女子学生はこの時模様が一致しているかを念入りに見ていた。
そしてそれを気が済むまできっていく。
「さあ、当ててみなさい」
「それじゃ、遠慮なく」
僕は一枚もかざすこともなくトランプカードの中から一枚のカードを選ぶと、それを彼女に向けて掲げた。
「これですね」
「…………どうしてよ!!」
見事に当たりだったようで、驚きに満ちた表情を浮かべながら叫んだ。
「窓ガラスに写ってた」
理由を告げた僕は、女子学生の背後にあるドアの窓ガラスを指差した。
そこは何かの部屋なのか中が見えないようにしてあり、それが鏡の役割を果たしていたのだ。
つまり、完全なインチキっだ。
「…………」
とはいえ、ネタばらしをした時の女子学生の視線は穴が開くほどに鋭かった。
「まあ、これは冗談だけど。嘘をついていることがわかるのは本当だ」
「ふん。どうだか」
トリックを使ったため、確実に信用されていない様子だった。
「簡単なロジックだよ。君が作曲して高坂さん達の手に渡っていた音源を聞いたんだけど、録音されていたのはピアノとボーカルのみ。それがあそこまで色づけされているのは、誰かがそれを行ったから……貴女ではないはず」
「………ええ、そうよ」
僕の確認の言葉に、女子学生はすんなりと頷いた。
ちなみに嘘はついていない。
彼女が作曲した音源は確かに”高坂さん達”の手に渡っており、僕は高坂さんの持っている音源を聞いたとは一言も言っていない。
まさしく言葉の裏を突く言い回しだった。
「それじゃ、誰か……答えは簡単。プロ、もしくはアマチュアの音楽家にアレンジを依頼した」
今僕に求められるのは、いかにして女子学生を納得させられるロジックを展開できるか。
余り端折りすぎるのはご法度だ。
「でも、そんなことをすれば、お金の問題がある。アレンジとかはかなり値も張るし、そうおいそれと使えない」
「よく調べてるのね」
(少しばかり、まずったかな?)
女子学生の相槌に、僕は少しばかり慎重に行くことにした。
「これでも、プロデューサーですから」
とりあえず、僕は女子学生の疑問にそう相槌を打って躱すことにした。
「スクールアイドルのプロデューサーをするにあたって、いろいろ調べたんだけどスクールアイドルであればアレンジや作曲の代金を免除するという太っ腹な人物がいた。『チェリーレーベルプロダクション』に所属しているDKという人がね」
「……………」
そのDKが自分なのだが、そのことを頭の片隅へと追いやった。
「君はその人物にアレンジの依頼をした。こういうのって、スクールアイドルに興味関心がなければできないことだと思うよ?」
だからこそ、彼女がスクールアイドルに興味を持っている。
僕は最後にそう締めくくった。
「まあ、なんだかんだ言っても結局は、君自身にやる気があるか否かなんだけどね。まあ、もしやる気があるのならいつでも声を掛けて。それじゃ――」
「ちょっと待って」
その場を去ろうとする僕を呼び止めるように、女子学生が声を上げた。
「何?」
「あんた。名前は?」
女子学生の問いかけで、僕はまだ名を名乗っていないことに気づいた。
「これは大変失礼したね。僕の名前は香月高輔。よろしく」
「……私は、西木野 真姫よ」
視線をそらしながら自己紹介に応じた女子学生……もとい、西木野さん。
おそらくは恥ずかしがり屋か人見知りなのだろう。
「それじゃ西木野さん、また縁があればお会いしましょう」
僕はそう告げると今度こそその場を後にするのであった。
(なんだろう、ますます彼女を引き込みたくなってしまった)
僕の第六感が告げている。
”彼女をスクールアイドルμ'sに引き込め”と。
それほどまでに、僕には彼女が輝ける存在に思えたのだ。
そんな一つの収穫を得た僕は、教室に戻るのであった。
ちなみに、今度はちゃんと戻ることができたのは余談だ。
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