ラブライブ!~たった一人の男子とスクールアイドル~(凍結) 作:TRcrant
大変お待たせしました。
今回も少々長いです。
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見やすくする処理を忘れておりました。
大変失礼いたしました。
誤字を修正しました。
第19話 差し込む光
「スクールアイドル?」
「にこ先輩が?」
場所を移動しながら聞かされたのは、矢澤先輩がスクールアイドルをしていたということだった。
「昔は数人で結成していたらしいんやけど、たぶんにこっちの理想が高すぎたんやね。一人辞めて、
また一人辞めて」
「そして、一人に」
高坂さんの言葉に、東條先輩は無言で頷いた。
(だからキャラとかこだわってるのか)
今になって、矢澤先輩のこだわりの理由がわかったような気がした。
ただのアイドル好きということではなかったようだ。
「だから、みんなが羨ましいんよ。たぶん」
「羨ましい……ですか?」
東條先輩の言葉に、僕はを傾げながら声を上げた。
「歌にダメ出しをしたりするのはそれだけ見ているっていう証拠やろ?」
「まあ、確かに」
なんとなく、東條先輩のその言葉がすべてを物語っているような気がした。
結局、雨が降っていて練習などはできないのでこの日は解散ということになった。
「香月君、一緒に帰らない?」
「そういいながら一緒に歩いている時点で意味はないと思いますよ、穂乃果」
傘を差しながら校門に向かって歩いている僕の横を歩く高坂さんに、園田さんが何とも言えないような表情をうかべながらツッコんだ。
「別にいいじゃん。それよりも、にこ先輩どうしようか?」
「うーん、ちょっと難しいよね」
園田さんのツッコみを一蹴した高坂さんの問いかけに、高坂さんの少し後ろのほうを歩いていた南さんが答えた。
「そうですね」
「ああいうタイプは簡単に説得に応じそうにないし。なんとなく西木野さんに似ているような気がす
るな」
園田さんの答えに、僕も頷きながら答えた。
西木野さんの場合は小手先のトリックを使って鎌をかけたが、矢澤先輩はそうはいかないだろう。
仮に小手先の手品を使ってネタが見破られれば、それこそ一巻の終わりだ。
「うーん、そうかな?」
そんな中一人、高坂さんだけが否定した。
「にこ先輩はスクールアイドルに興味があってそれでアイドルをやっていて、私たちにも少しは興味があるんだよね?」
「それは確かだ。特にμ'sに興味を持っていることは僕が保証するよ」
高坂さんの言葉に、僕は自信をもって答えた。
「どうしてそう言えるんですか? あれだけダメだって言っていたのに」
「批判というのは、それに対して興味がなければそもそも出てこない。まあ、一部はやっかみでするバカ共もいるが、矢澤先輩がそういうのではないのは明らか」
「なるほど」
(なんで聞いてきた本人が感心したように頷いているんだよ)
園田さんの問いかけに答えると感心したような表情で頷いている高坂さんに、僕は思わず心の中でツッコんでしまった。
「それで、それがどうしたんだ?」
「うん、それならねあと一つ強い何かがあればうまくいくような気がするんだ」
「またアバウトなことを」
高坂さんの今一つ説得力に欠ける説明に、園田さんがため息交じりに呟いた。
(なるほど、強い何かね)
だが、僕にとっては非常に素晴らしいヒントになっていた。
とはいえ、それがなにかがわからないが。
正攻法で攻めたところで今日の二の舞だろう。
だからと言ってからめ手でやりすぎると、今度はさらに警戒心を強くさせてしまう。
そういう点で言うと、僕のとった”あなたのことはお見通しだ”ブラフは、グレーゾーンと言っても過言ではないだろう。
「あ……」
「どうしたんだ? って、あれは……」
いきなり変な反応を示した高坂さんに、僕は首を傾げながら高坂さんの視線の先のほうを見て見ると、ピンク色の傘が視界から消えた。
一瞬後ろ姿が見えたがどう見ても矢澤先輩だった。
「どうします?」
「追いかけてもまた逃げられちゃうと思う」
園田さんの問いかけに、南さんが答えるが、仮に追いかけようとしても階段を降り切っているのであれば追いかけるのはかなり難しい状態だ。
「あ、そうだ。えへへ」
「な、なんですか?」
考え込んでいた高坂さんが突然顔を上げると笑い声をあげながら園田さんのほうへと振り返った。
「これって、海未ちゃんと最初に会った時と同じだよね!」
「ど、どういうことですか?」
「ほら、私とことりちゃんが遊んでいた時に、木の陰からのぞき込んだりしていて私がそれに気づいたら隠れたことがあったじゃん」
「そんなことがありましたっけ?」
高坂さんの言葉に、当の本人は首をかしげていた。
「あったよー。海未ちゃんすごく恥ずかしがり屋さんだったし」
「あー、なんとなく想像がついた」
理由は分からないが、高坂さんの”恥ずかしがりや”という言葉が的を得ているような気がしたのだ。
もしかしたら物静かそうな感じだからかもしれないが。
「こ、香月君までっ。それが今の状況と何の関係があるんですか!」
恥ずかしいのか、ごまかすように頬を赤くして声を張り上げるように問い掛けた園田さんの様子は、誰が見てもそれが図星であることがわかってしまった。
「ほら、ね?」
「あー、あの時の!」
南さんと高坂さんの間で何やら話が通じたようで、突然笑い出した。
「……?」
「あのー、そこのお二人さん。僕の分からない内容で盛り上がるのはやめていただけませんか?」
音ノ木坂学院の校門前では首をかしげている園田さんと、こめかみを抑えながら二人に声をかける僕たちの姿があった。
「さて、どうするべきか」
自宅のほうに戻った僕は、自室で考え込んでいた。
内容はもちろん矢澤先輩の件だ。
引いてもダメ出し押しすぎてもダメという相反する二つのちょうど中間をつかなければいけない。
だが、そうなるとかなり難しくなってくるところがある。
(仮に、μ'sに入ってほしいと普通に言ってどうなるか)
快く承諾するか断るかのどちらかだろう。
かなりギリギリの賭けになるので、避けたいところだった。
(新しい曲も作らないといけないし)
まだ西木野さんから新曲のプロットが来ていない。
そもそも、今後西木野さん自身がどういうふうに作曲をするのかもわからない状態だ。
プロデューサーということで僕に手渡してくるのか、それとも前回と同じように『T-princess』として依頼してくるのか。
前者であれば普通にアレンジをするし、後者であれば、DKとしてアレンジをする。
いずれにせよ、現状ではμ'sの課題は山積み状態だった。
「ん? メールだ」
そんな一向になくならない課題に頭を抱えていると、メールの着信を告げる音が鳴り響いたので、僕は考えるのをいったん止めると携帯電話を手にしてメールを確認することにした。
「高坂さんからだ」
差出人は高坂さんの名前だったが、その宛先には園田さんたちのアドレスがあった。
(なるほど、一斉送信したのか)
一斉送信は便利だが、ビジネスでは御法度な方法だったりもする。
それはともかく、僕は本文のほうを確認する。
「なんだこりゃ?」
その本文の内容に、僕は首をかしげた。
別に複雑怪奇な文章を書いているわけでもない。
長文を書いているわけでもない。
『明日の放課後、アイドル研究部の部室前に集合』
書かれていたのはたったそれだけだった。
「何をする気なんだ?」
僕は高坂さんが何を考えているのかが文面からまったくわからないため、首をかしげていたのだ。
「まあ、明日になればわかるか」
最終的な結論はそれだった。
「さて、早くやることをやるか」
僕のやること、それは僕宛に届いた手紙の処理だった。
大抵の仕事の連絡はメールだが、中には紙媒体で寄こしてくる者がいるのだ。
大抵が自社の商品を進める営業の内容だが。
もちろん、そんなものを見るほど、僕は暇ではないので、そういった手紙はすべて破棄している
重要なのは、その手紙の中に隠れているであろう本当に重要な内容の手紙だ。
「あった」
そしてようやくそれを見つけた。
名義は僕宛の白い封筒。
差出人には『神合』と記載されていた。
封を慎重にあけて、封筒の中におられた状態で入れられている紙を広げて内容を確認する。
「こんなに対象者がいるとなると、きついよな」
そこに記されていたのは、複数の人物の名前や住所だった。
ここに記された人たちは、とんでもない地獄のような運命が待ち構えていることになる。
いうなればそれは”執行リスト”とでも言うべきだろうか。
(まあ、まだ少しばかり猶予はあるだろうから、こっちは後回しにしておくか)
数日程度ではあるが、執行の猶予があるので僕は後回しにすることにした。
とにもかくにも今はμ'sのことを優先しなければいけないのだから。
そして、一日は終わり、ついに運命の日を迎えることになる。
翌日、天気は一向に晴れる兆しを見せない。
しめぼったいという状態がいやでも体感温度を上げていく。
そんな日の放課後。
「それで、何をするつもりなのか、いい加減説明してもらえないか?」
「もっちろん。でも、みんなが集まってからね」
HRが終わり周りが帰り支度やら部活へ行く準備を進める中、高坂さんに本日何度目になるかわからない問いかけをしたが、これまでと変わらない答えが返ってきた。
僕は隣に立っていた園田さんのほうへと視線を向けるが、園田さんは何とも言えない表情で首を横に振っていた。
南さんも苦笑をうかべているほどだったので、何をしようとしているのかは聞いていないのだろう。
どちらにせよ、すべては部室前に行けばわかるので、僕たちはアイドル研究部の部室前に移動することとなった。
部室前に到着すると、その場には小泉さんたちの姿があった。
全員には戸惑いの色が(西木野さんは不機嫌なのかよくわからない表情だったが)あった
「それで、一体何をする気だ?」
「にこ先輩に次のステージについて相談をするの。部員として」
今度こそと思って問い掛けた僕の疑問に答えたのは、そんな内容だった。
「どういう意味にゃ?」
「あー、なるほど。そういうことか」
首をかしげている星空さんとは対照的に、僕には高坂さんの考えた策がわかった。
「確かにそれならいけるかもしれないな」
「でしょ!」
よほど賛同を得ることができたのがうれしいのか、笑みを浮かべながら反応を示す高坂さんの様子に、心の中で苦笑する。
「ところで、どうでもいいんだけど」
「何? 西木野さん」
そんなイケイケなムードの中、指で髪の毛をいじりながら西木野さんが口を開いた。
「部室のカギはあるの?」
「……あ」
西木野さんの問いかけに、高坂さんが固まった。
「高坂さん? まさか本当に忘れていたわけじゃないよな?」
「………えへへ」
ごまかすように笑う高坂さんの姿は図星であることを物語っていた。
「あんたバカだろ」
「ぐさっ」
思わず口から出てしまったののしる言葉に、高坂さんは地面に崩れ落ちた。
そんな様子をしり目に、僕は確認のために部室のドアノブを回してみたが、ドアが開く気配はなかったので鍵がかかっていることは確かだろう。
「でも、どうやって中に入るのでしょうか? 鍵はかかっていますし」
「生徒会用に鍵をもらう……しかないですね」
小泉さんの疑問に、園田さんが歯切れの悪い返事を返した。
「あの生徒会長がすんなりと応じると思うか?」
「……」
僕の問いかけに、園田さんは何も答えなかった。
園田さんもわかっているのだ。
あの生徒会長が鍵を貸してくれるということはあり得ないということを。
『部員でもない生徒に、部室のカギを勝手に渡すことは認められません』
そう言って断られるのがオチだ。
「粘ればもしかしたら貸してくれるかもしれないが、それをするだけの時間はない。よって、中に入ろうとするには……」
「するには?」
一歩前に出た僕の言葉に、南さんが合いの手を入れてくる。
「強行突破。ドアのカギを強引に開けて中に入るしかない」
「そんなことできるわけないでしょ」
「それに、そんなことをやったらもっと怒られると思うにゃ」
僕の出した答えに、西木野さんたちから待ったをかけられた。
「世の中には便利な言葉がある。”ばれなきゃ大丈夫”というな」
「おぉー、それなんだか哲学みたいで恰好いい!」
絶対に最悪な言葉だが、なぜか高坂さんには受けたようで称賛の声があがった。
「これは僕が勝手にやったこと。みんなは関係ない。ばれたときはそれで通すから大丈夫」
「な、何をやる気ですか?」
ドアの前でしゃがみこんだ僕にかけられた疑問の声に、僕はたまたまポケットに入っていたクリップを伸ばすと
「よい子は絶対にやってはいけないこと」
と言いながら鍵穴に針金を差し込んだ。
「も、もしかして」
『ピッキング!?』
高坂さんの言葉が皮切りとなって全員が驚きに満ちた声をあげた。
その間も、僕はカギ穴に差し込んだ針金をいじっていく。
「はい、開いた」
「は、早い!?」
誰かが止めようとするよりも早く、僕は鍵の解錠をこなせて見せた
僕はドアノブを回して部室のドアを開けた。
「ほら、早く入らないと見つかるよ」
その僕の言葉に、みんなが中に入っていく。
そして最後に僕が部室の中に入ると、ドアを閉めて鍵をかけ、窓側のカギを開けた。
「どうせだから、散らかっている段ボールはすべて片づけよう」
「そうだね。その方がにこ先輩も驚くかもしれないし」
棒の提案に、高坂さんが真っ先に賛同した。
「なんだか楽しそうだにゃ!」
「勝手にすれば」
一人テンションを上げる星空さんとは対照的に、興味なさげな様子で答える西木野さんはある意味大物かもしれない。
「よし、それじゃここの主が来る前に手早く片付けるぞ!」
『おぉー!』
こうして、部室のプチ掃除(無断)が幕を開けた。
「よし、こんなものだろ」
片付け作業はものの数分で終わった。
もっとも、片付けと大層なことを言ってもただダンボールを移動させただけだが。
「座って待ってようっと」
(中に入ったらまるで部員のように居る彼女たちを見た矢澤先輩の反応が楽しみだ)
別にそれが目的で中に入ったわけではない。
……たぶん。
「ふぁ~、なんだか眠っちゃいそうにゃ」
「寝たら叩き起こすからどうぞ」
椅子に腰かけて欠伸をしながらつぶやいた星空さんに、僕はそう告げて寝るように促した。
「それって、ちょっとひどいにゃ!」
そんな馬鹿騒ぎをしていると、外のほうから話し声が聞こえた。
恐らくはたまたま前を通りがかったのだろう。
だが、それに混じって気配がしたかと思えば、ドアの鍵が開く音が聞こえた。
間もなく、ドアが開けられ浮かない表情をしている矢澤先輩が姿を現した。
ドアが閉まったところを見計らって、息を殺すように立っていた南さんが明かりをつけた。
『おはようございます!』
「え?」
いきなり明かりがついたかと思えば、いるはずのない高坂さんたちの姿に目を瞬かせていた。
「お茶です! 部長っ」
「部長?!」
部長という単語に驚きをあらわにする矢澤先輩に畳みかけるように、
「ここにあった段ボールは、全部棚に移動させました。部長」
と、星空さんが報告した。
「なっ!? 勝手に動かさな――」
「よかったら部長のおすすめの曲貸して。今後の参考にするから」
そっけない態度で矢澤先輩に左手を差し出しながら口にする西木野さんは、ある意味まったくぶれていなかった。
「だったら、ぜひこれを!」
「あぁっ! だからそれは―――」
何時の間に手にしていたのか、小泉さんの両手には『伝説のアイドル伝説 DVD-BOX』があった。
「それで、次のステージのことなんですが部長」
「やはり、次はお客様をさらに楽しませるのがいいですよね」
「何かいい振付があったらお願いします、部長」
矢継ぎ早に矢澤先輩に駆けられる言葉に、矢澤先輩の肩が震えた。
それは感動というよりも、怒りの方面への感情が見て取れた。
「こんなので、押し切るつもり?」
「押し切る? 私はただにこ先輩に次のステージの相談をしているだけですよ。7人目のメンバーとして」
高坂さんのその言葉に、矢澤先輩は高坂さんのほうへと視線を向けた。
「7人?」
「一応言いますけど、僕じゃないですからね」
こちらに視線を向けたので、僕は矢澤先輩がここに来てから初めて口を開いた。
「音ノ木坂学院アイドル研究部付属スクールアイドル”μ's”の、7人目のメンバー。それが貴女ですよ、矢澤先輩」
「……」
正式名称を口にするとかなり長くなるなと、どうでもいいことを考えながら、僕ははっきりと口にした。
そんな僕の言葉に、矢澤先輩は反応を示さない。
(これでだめだったら、万事休すだな)
そんなことが脳裏によぎった時だった。
「厳しいわよ」
「わかってます! アイドルへの道が厳しいことは――「全然わかってない!」――」
矢澤先輩の言葉に返事をする高坂さんの言葉を遮るようにして矢澤先輩は大きな声で告げた。
「あんたも甘々、あんたもあんたたちも!!」
(ぼ、僕もですかい)
どうでもいいがGreen Mintのアイドル達からは”鬼教官”や”厳しすぎ”といったことを言われ続けていたりするので、正直言って実感がわかなかった。
(本当に事務所スタイルでやった方がいいのかな?)
それをやっていったい彼女たちがいつまで付いてこれるのかが、非常に気になるところだけど。
「いい? アイドルは人を笑顔にさせる仕事なの。それだけはよーく覚えておきなさい!」
それは、矢澤先輩のアイドルとしての座右の銘にも思えた。
こうして、高坂さんたちはアイドル研究部所属となり、部員は7名となりさらにはメンバーも7人に増えた。
もっとも、屋内の練習場所は部室のスペースの問題からこれまでと変わらないが、部室があれば休憩や話し合いの場所などにも使えるのでこれは非常にいいことづくめであった。
とはいえ、僕はまだ知らなかった。
この7人目のメンバーがとんでもない曲者であることを。
それは、入部して初めて行われた屋外での練習のことだった。
雨もやみ、屋上で練習ができるようになったため、屋上に来ていたのだが来るや否や突然
「あんたたち、そこに並びなさい!」
と口にしたため、全員が慌ててその場に整列した。
僕はそれを少し離れた場所から見ようとしたところで、
「ちょっとあんたもよ!」
「僕も!?」
矢澤先輩から呼び止められた僕は、有無も言わさぬといった矢澤先輩の気迫に圧されて慌てて星空さんの左側に移動した。
「いい? やると決めたからには徹底的にやるわよ!」
『はい!』
「声が小さい!」
『はいっ!』
まるで体育会系のようなノリになり始めていたが、とても斬新なそのやり方に、僕はわくわくしていた。
「アイドルっていうのは頭の先から――――」
そして始まったのはアイドルについての講義だった。
(もしかして、矢澤先輩って理屈派?)
なんとなくそんなことを考えていたりするが、問題はこの後だった。
「―――ということで、この間見せた”にこに―”やるわよ」
『はい!』
「……」
矢澤先輩の宣言に返事を返すみんなだが、僕は一瞬聞き間違いかと耳を疑った。
もしくは何かの冗談か。
「にっこにっこに―。はい!」
「にっこにっこにー」
矢澤先輩の言葉を受けて、僕を除くみんなが矢澤先輩のにこにーをやり始めた。
「そこのへっぽこプロデューサー! あんたもやるのよ!」
「へっぽこ!? 僕には香月高輔という名前がある。呼び捨てでもいいから、そのあだ名はやめろ!」
矢澤先輩の呼び名に、僕は猛抗議した。
今思えば、抗議する場所が違っていた。
「……わかったわよ。香月、やるわよ」
「……了解」
もはや逃げ蜜はなかった。
「にっこにっこにー! はい」
『にっこにっこにー!』
矢澤先輩の合図で、僕もみんなと一緒になってにこにをするが
(うーわ。気持ち悪)
自分の声を聴いただけでもそう思うのだから、映像で見たらきっと吐き気を催すだろう。
第一、男があんな珍妙なことをやったらそうなるのが当然だ。
「釣り目のあんたも、しっかりやる!」
「真姫よ!」
矢澤先輩の一喝に、西木野さんが反論した。
それから何度も何度もにこにーをやる羽目になった。
「ねえ、逃げていい?」
「「ダメですよ(だめにゃ)!」」
僕の問い掛けに、二人から猛反対されたのは余談だ。
(これは、プロデュースには気を付けないと)
矢澤先輩という存在は、うまくやらなければ大転倒を招く可能性がある。
それをさせずに、より上へと彼女たちを導けるようにすることこそが、プロデューサーの醍醐味であり、僕の力の見せ所だ。
そんな、使命感に燃える僕なのであった。
ピッキング行為は実際に行うと犯罪となりますので、決して真似をしないでください。
活動記録のほうでヒロイン募集アンケートを実施中です。
詳細は活動報告のほうをご覧ください。