ラブライブ!~たった一人の男子とスクールアイドル~(凍結)   作:TRcrant

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こんばんは、TRcrantです。
まさかの二日連続投稿です。

タイトルと内容があっていないという謎の状態になっていますが、楽しんでいただければ幸いです。


第20話 散歩

あの湿っぽくて鬱陶しい梅雨も明け、やってくるのは暑い夏の季節。

そろそろ屋外での練習では熱中症に気を付けなければいけない季節がやってきた。

そう、この夏の季節こそ暑さとの戦いなのだ。

そんな僕だが、ちょっとした問題を抱えていた。

 

(やっぱり誰か見てるな)

 

先ほど(正確には教室を出たところ)から何者かの視線を感じるのだ。

視線だけではなくつけてくる気配もだが。

現在は昼休み。

昼食を食べ終え、食後の散歩としゃれ込んだはいいが、謎の人物によるストーキングを受けていた。

今は中庭のほうに移動しているが、やはり誰かがこちらを見ているような感覚がある。

 

(いったい誰だ?)

 

周囲をさりげなく見回して気配のもとを探すが、中庭で晴れているということから、人の数も多く特定することはできなかった。

 

(見つけた)

 

だが、草むらのほうに僕は光るものを見つけた。

顔を動かさずに観察してみると、それはレンズのようなものだった。

 

(どうして僕を撮影しているんだ?)

 

そんな疑問が頭の中をよぎる。

 

(まさかプロデューサーの僕の弱みを握って脅迫の材料に使う気か?)

 

小説の読みすぎだと我ながら思うが、ありえないことではなかった。

別に脅迫に屈するわけではないが、監視されているというのはかなりストレスになるものだ。

 

(仕方ない、少しだけ締めるか)

 

僕はそう判断すると瞬足を使ってレンズがある草むらの前まで移動した。

そして僕はレンズの前に躍り出る。

 

「撮ってんじゃねえよ、そこで撮ってんのは分かってるんだ。誰の許しを得て撮影している。今回は見逃してやるからとっとと去れ」

 

僕はどすを聞かせた声で忠告すると、右手の人差し指で素早くカメラのレンズを突っついた。

そして僕はその場を早々に立ち去るのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暇を持て余した僕はこの間手渡された部室の合鍵でドアのかぎを開けて中に入ると、そこには先客がいた。

 

「あれ、矢澤先輩」

「誰かと思ったら香月じゃない。何しに来たのよ」

 

僕の来訪に、矢澤先輩は部室に備え付けられているデスクトップ画面から視線をこちらに向けると、不機嫌そうな声色で用件を尋ねてきた。

 

「食後の散歩をしていたんですけど、馬鹿者がいたのでここで時間をつぶすことにしたんです」

「ここは休憩所じゃないのよ」

「そういう矢澤先輩こそ、何をしてるんですか? 部室に鍵までかけて」

 

事情を説明した僕に、あきれたような目で相槌を打つ矢澤先輩に、僕は尋ねた。

 

「なんだっていいでしょ」

「まあ、そうですよね」

 

矢澤先輩は突っぱねたような口調で答えると視線を僕から外した。

そして、部室内にはパソコンの動作音とマウスのクリック音のみとなった。

 

「……何黙ってるのよ」

「話す話題が特にないので」

 

沈黙に耐えかねた矢澤先輩の言葉に、僕はそっけなく答えた。

こういうところに人付き合いの差が出てくるのかもしれない。

 

「本当に、あんたは変わってるわよね」

「ほめ言葉として受け取っておく」

 

本人にしてみれば、嫌味かもしれない。

 

「一つ聞いていい?」

「どうぞ」

 

矢澤先輩の問いかけに、僕は手を矢澤先輩のほうに差し出しながら促した。

 

「あんた、全然アイドルについて詳しくないとか言ってたわよね?」

「実際にそこまで詳しくはないですよ。まあ、矢澤先輩から言わせてみれば、僕はど素人のへっぽこプロデューサーですけど」

 

この間言われた言葉を、僕は皮肉交じりに口にしながら答えた。

 

「……彼女たちから聞いたんだけど、このサイトはあんたが作ったらしいじゃない」

「ええ。よくあるオフィシャルサイトの構成をまねて作ってみました」

 

矢澤先輩が僕に見えるように移動しながら指示したデスクトップ画面には、μ'sのホームページが表示されていた。

 

「これが変なのよ」

「……何か問題点でもありました?」

 

矢澤先輩の言葉に、僕は問い掛けた。

もし問題点があるならば、それは可及的速やかに修正しなければいけない。

 

「ないわよ、そんなもの。逆に完璧すぎるほど。年密に計算されたサイトの構成と興味をひくようなコンテンツ。こういうのは真似をしただけじゃ絶対に作れない。それこそ、”前からアイドル活動に携わってきていた人物”でなければ」

「………僕がアイドルに見えますか?」

 

僕は昔、ライブで踊ったり歌ったりしたことがある。

後者は今もだが、前者は知っているとしても、僕と結びつけるのは難しい。

何せ、僕はここに来てから踊ったことは一度もないのだから。

 

「全然」

「ですよね」

 

ジト目で即答する矢澤先輩の言葉に、僕は微妙に傷つきながらも相槌を打った。

 

「でもアイドルのそばに常にいるような人……プロデューサーとかなら、作れるんじゃない?」

「遠まわし言うのはやめてもらえませんか?」

「そうね。じゃあ直球で言うわ」

 

僕の言葉に頷いた矢澤先輩は、僕を真正面から見つめた。

 

「あんたは何者なの? どうしてここに入部しようと思ったの?」

「私は、香月高輔。ただの一介の学生です。まあ、色々なものを模倣するしか能のない男ですけど。そもそも、自分は入部なんてしてないですし」

 

矢澤先輩の問いかけに、僕は淡々と答えた。

 

「は? 入部してないって、何言ってんの?」

「事実です。私は入部届なんて書いてません。ただ、この部室を使わせてもらえるだけならそれで構わないので」

 

一年しかいないかもしれないのに部活に入部するというのは、彼女たちにとって失礼だと思ったからこそ、僕は入部はせずにこの場所を使わせてもらう第三者的な立ち位置を取っているのだ。

 

「構わないって……あんたもうここの部員よ? ちゃんと部員の中にあんたの名前が書いてあったし」

「はい?!」

 

矢澤先輩の口から語られた衝撃の事実に、棒は耳を疑った。

 

「本当に変わってるよね、あんた。わざわざ散歩とか言ってここに着たり、入部届を穂乃果に持たせたり」

「おい待て。今なんて言った?」

 

矢澤先輩の言葉に、聞き逃せないフレーズがあったため、僕はもう一度聞くことにした。

 

「だから、本当に変わってるよねあんたって言ったんだけど」

「いや、そのあと。高坂さんに入部届を持たせたって」

「そうでしょ? なんか”自分で出すのはあれだから私が代わりに”って言ってたわよ」

 

僕の言葉を肯定しながら、高坂さんが提出する際に言っていた言葉を口にした。

 

(あの野郎。やりやがったな)

 

やるかやるかとは思っていたが、本当にやるとは思ってはいなかった。

ちなみに、補足しておくとこの学院は入部する際は入部届に学年とクラスに、出席番号を書いて部長に提出するだけなのだ。

この入部届にはいろいろとパターンがあり、別の学校では保護者の署名捺印が必要なところがある。

それはともかく、僕は入部届を書いた覚えはない。

要するに、高坂さんが勝手に書いて勝手に提出したのだろう。

 

「わかりました。それじゃ、失礼します」

「待ちなさい!」

 

この足で生徒会室に向かって取り消してもらおうと思いながら出口のほうに向かおうとすると、制服を引っ張るような形で呼び止められた。

 

「あんた、まさか辞める気じゃないわよね?」

「……当然です。私はここに入部する気なんて最初から――」

 

矢澤先輩の言葉に答えながら後ろのほうを見た僕は、そこから先の言葉を失ってしまった。

 

「……」

 

そこには、これまでの強気な感じを思わせる矢澤先輩ではなく、どこか寂しさや悲しみを感じさせるような目をしている矢澤先輩の姿があったからだ。

 

「まあいいか。どうせやることは部員になっているのと対して変わらないんだし」

「ふ、ふんっ。勝手にすれば」

 

そっけなく顔を背ける矢澤先輩だが、一瞬だけ嬉しそうな安心したような表情をうかべていたのを僕は見逃さなかった。

 

(ある程度必要とされているのか……それとも部員を失うのが嫌なだけか……)

 

前者はうぬぼれも甚だしいだろうから、きっと後者だろう。

 

「まあ、部員でもないのにここに出入りしていたらあの生徒会長に何を言われるかわかったもんじゃないし、勝手にプロデュースをさせていただきますよ」

 

(あれ、それほど状況は変わらないんじゃないか?)

 

生徒会長に恨みを買っている(たぶん)僕がここにいれば、部への風当たりもさらに激しくなるような気がした。

 

(ま、まあ人望があるような人がそんな愚かなことはしないか)

 

そんなある種の願いにも近いようなことを考えながら、僕は今度こそ部室を後にするのであった。

ちなみに、何気に自分の正体がばれる危機に瀕していたということを知ったのは、それから少しした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、どこに行ってたの?」

「食後の散歩」

 

教室に戻ったところで声をかけてきた高坂さんに、僕は簡潔に答えた。

 

「食後の散歩って、なんだか詩人みたいだね」

「それだったら、この世界の半数が詩人になるだろうな」

 

食後の散歩をしただけで詩人という高坂さんの思考回路には驚かされるばかりだ。

 

「そういえば高坂さん」

「何?」

 

僕は高坂さんに勝手に入部届を出したことについて嫌味を言うことにした。

 

「勝手に他人名義の文章を作成してそれを提出するのは、将来すごくまずいことになるからやめておいた方がいいぞ」

「うぅ〝!?」

「ほ、穂乃果ちゃん!?」

 

まるで何かで撃たれたようにしゃがみこむ高坂さんに、南さんたちが駆け寄った。

 

「だって、どうしても香月君にも部活に入って欲しかったんだもん!」

「だもんって、子供か」

 

言いたい気持ちは分からなくもないけれど。

 

「え、えっと……もしかして怒ってる?」

「香月君、あまり穂乃果を責めないであげてください。確かに穂乃果は少し馬鹿で向う見ずなところがありますけど、悪気はなかったんです」

「そうだよ。穂乃果ちゃんは、悪気があって香月君を強制的に入部させた訳じゃないの」

 

僕の様子に、怒っていると思ったのか数歩後ずさる高坂さんをかばうように園田さんと南さんが立ちはだかるとフォローの言葉を投げかけた。

 

「園田さん、それあまりフォローになってないと思うよ。僕が言うのもあれだけど」

 

ものすごく高坂さんにダメージを与えるような言葉に、僕は思わずツッコんでしまった。

 

「というより、別にそんなに怒ってはないけど、出来ればもう勝手にやらないでほしいんだ。さっきだって、矢澤先輩から変な目で見られるし」

「うん、わかった」

 

高坂さんが頷いたのと同時に、授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響いたので、僕たちは慌てて席に着いた。

 

「次の授業って科目は何だっけ?」

「確か、数学でした」

「ありがとう」

 

隣の席の園田さんに授業の科目を教えてもらった僕は、お礼を言うと、机の中から教科書一式を取り出した。

それからしばらくしてきた教師によって、授業が始まった。

始まったのだが……

 

(後ろは完全に寝てるな)

 

後ろの席から聞こえる健やかな寝息は、どこか睡魔を呼び寄せそうな錯覚を感じるほどだった。

そう、後ろの席の高坂さんは現在絶賛居眠り中なのだ。

 

「……」

 

園田さんのほうに視線を受けてみると、何とも言えない表情で左斜め後ろを見ていた。

そんな居眠りをしておいて、おとがめなしなわけがない。

起こそうかと思っていたところに先ほどまで解法を教えていた教師はそれを止めるとこちらのほうへと歩み寄ってきた。

もちろん、目的地は僕の後ろの席で居眠りをしている勇者のもとだ。

 

「高坂さん!」

「ふぇ? うわぁ!?」

 

最初は寝ぼけたような声だったが、それは驚きに代わり転げ落ちる音と机がひっくり返ったのか大きな音が聞こえててきた。

 

「ちょっと、大丈夫ですか!?」

「は、はい。大丈夫です」

「ほら、早く起き上がって机を元に戻しなさい」

 

驚いたのは、いきなりコントのように転げ落ちた高坂さんではなく、それを見ていた教師だろう。

もっとも、僕にも驚きというものはある。

それは何かというと……

 

「あれ? ノートと教科書がない」

「高坂さん。はいどうぞ」

 

机の上にある教科書などがないことに気が付いた高坂さんに、僕は彼女の教科書やノートを手渡した。

 

「あ、これ私のだ。でも、どうして香月君が?」

「なぜだと思う?」

 

首をかしげて不思議そうな表情をうかべる高坂さんの疑問に、僕はできる限り笑みを浮かべながら聞き返した。

 

「え、えっと……もしかして」

「高坂さん。次は許さないからね」

 

顔をひくつかせている高坂さんに、僕はそう告げると黒板のほうへと視線を戻した。

 

(まったく、どうやれば僕の頭の上に振ってくるんだ?)

 

それが一番の疑問だった。

僕が驚いたのは、突然頭上から降ってきた、教科書とノートだ。

しかも背表紙が頭に直撃したのだ。

とてつもないほど痛かったが、悲鳴を上げなかった自分をほめてやりたかった。

そんなこんなで、授業は進んでいく。

そう、それは何の変哲もない平和な一日だった。

大きな問題が数日ほど後に起こるとも知らずに。




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