ラブライブ!~たった一人の男子とスクールアイドル~(凍結)   作:TRcrant

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こんばんは、TRcrantです。
大変永らくお待たせしました。
第25話になります。

本当はもう少し早くなるはずでしたが、プロットのミスで区切りがつかなくなってしまい、このような形になりました。
ですので、今回は非常に長いです。


第25話 初プロデュース

「えっと、曲名は『これからのSome Day』っと……振り付けは……こんなもんか」

 

数日後の夜、僕は本邸の自室で最終調整に入っていた。

次の楽曲の元データももらい、それのアレンジも無事に終了したのだ。

 

「まさか楽曲データを、DKのほうに出してくるとは」

 

どうするのかと気にしていた楽曲のデータは仕事用のアドレス宛に届けられていた。

得体のしれないプロデューサーよりも、ちゃんとした結果を残しているのがわかる方に依頼をするというのは西木野さんらしい判断だと僕は思う。

 

(これをどうやって届けるか)

 

楽曲データには、ボーカルの様子が伝わるようにとボーカルも入れてあるのだ。

もっとも、それは僕の歌声ではあるが。

なので、渡し方によってはとんでもない事態にもなりかねないのだ。

 

「ん?」

 

そんな時、ふと目を通していた西木野さんからの依頼のメールにとある内容が記載されているのを見つけた。

 

「なるほど、これならいけそうだ」

 

この時の僕は、おそらく人の悪い笑みを浮かべていることだろう。

それほどまでに、願ったりかなったりな状況だったのだ。

 

「さて、あとは演出か」

 

楽曲や振付の問題が解決したところで浮上するのは、PVの演出だった。

 

(使用するカメラの台数は約10台。プロジェクターが5台。僕は生演奏をするから、カメラの操作は誰かに頼む必要があるな)

 

注文していたカメラは、この間無事に届いた。

ワイヤレスタイプで、機械の遠隔操作によってズームをしたりカメラの向きを変えたりすることができる高性能なものだ。

これならば、データの紛失は気にしなくてもいいだろう。

とはいえ、それを操作する人員が不足していることが問題だった。

 

(あの三人にやらせるか? いや、ダメか)

 

ふと、ファーストライブの際に色々と手伝っていた三人の女子学生の姿が思い浮かんだが、すぐにその考えを捨てた。

操作方法を覚えられるのかどうか以前に、綿密なカメラワークができる保証もない。

それに、おそらくこれらの作業は夜になる可能性が高い時点であの三人の学生に手助けを借りるのは難しいだろう。

 

「だとすると、彼に頼むしかないか」

 

本来はA-RISEでライブをやる時に呼び出しているのだが、ほかにあてがない以上仕方がなかった。

僕は携帯である人物に電話をかけた。

 

『どうした?』

「ちょっと頼みたいことがあるんですが」

 

電話口の男の声は、普通の声色だった。

この人物は少々気分屋なところがあり、機嫌が悪い時とそうでないときの差が激しいので、かなり気を遣う人物なのだ。

 

『A-RISEのライブはなかったはずだが?』

「そこではなく、僕が現在通っている学院のスクールアイドルのほうです」

 

電話先の男性の言葉を否定して、僕は答えた。

相手は僕がμ'sのプロデューサーになったことを知っているので、これでも十分通じるはずだ。

 

『確か、この間言っていたμ'sだったか?』

「ええ。カメラ撮影の人員が不足しているので、協力してもらえませんか?」

 

そして僕は本題を切り出した。

 

『おいおい。お前、A-RISEにケンカを売る気か? 高輔や俺は向こうと専属契約を、結んでいるのを忘れてるのか?』

「そんなの関係ないです。それに、やるのは曲の提供に振り付けの草案提出。A-RISE以外のグループでプロデューサー活動とかをしてはいけないという特約は向こうとは交わしていないんだから問題はないはずですよ」

 

提携を結ぶ際、A-RISEの所属する学園であるUTX学園とは専属契約を結んでいる。

その際に、『優先的な楽曲の無償提供』と『振り付け草案の提出』の二つを行うことが条件とされている。

その代わり、毎年開かれるA-RISEのメンバーを決めるオーディションでの審査員の評価には関係なくメンバーを決める権限が認められている。

 

「それに向こうが文句を言ってきたらきっちりとこっちで対応する。だから、頼まれてくれないかな?」

『………』

 

UTX学園の学園長は、昔に発生したある事件の時から僕には頭が上がらない言いなり状態だ。

なので、文句を言うこともそんなにないはずだ。

 

『わかった。日程が決まり次第、連絡してくれ』

「ありがとうございます」

 

電話口の男の承諾の言葉に、僕はお礼を言うと”失礼します”と告げて電話を切った。

 

「これで、一応準備はできた。あとは……」

 

どこでライブを開くかだ。

 

(そんなの一か所しかないだろ)

 

そうでなkれば、スクールアイドルの意味がない。

まあ、問題はあるがそこは何とかするしかないだろう。

 

(とにかく今週の日曜日に出来るようにしよう)

 

それが、僕の考えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学院の使用許可?」

「はい。今週の日曜日にPV撮影をするので、使わせていただきたいと思います。使う施設と時間帯はこちらに」

 

翌日の休み時間、理事長室を訪れた僕は理事長の前に一枚の用紙を手渡した。

そこには今週の日曜にPV撮影で私用する場所と時間帯が明記されていた。

昼間の時間帯は、屋上を使うことを考えていた。

いつも練習で使用している屋上のスペースを考えれば、PV撮影に必要な機材などは十分に配置できるだろう。

また、音を鳴らしても常識の範囲内であれば迷惑はかかりにくい絶好の場所だ。

 

「なるほど。昼間のこちらはいいとして、夜間のほうは?」

「学院を利用したPV撮影と演出を行うための撮影で使います。プロジェクターを利用して立体アートのように校舎外や内部を装飾するんです」

「東京駅のようなものと思っても構わないのかしら?」

 

理事長の非常に的確なたとえに、僕は即答で頷いた。

少し前に東京駅で行われたそれよりは質は落ちるが、演出面では十分な効果を発揮することは可能だ。

 

「さすがに、この校舎全体にド派手な装飾を実際にすると、その準備作業や片付けの作業でコストがかかりますから、立体アートで応用します。ですが、プロジェクターなので、明るい時間帯は難しいので、演奏と背景のほうは別撮りで後から合成するという形にしたいと思います」

「……わかりました。香月君の腕を信じましょう」

 

かなりリスクが高いので、どうかと思ったが理事長は少しだけ考え込むようなしぐさを浮かべるとそう僕に告げた。

 

「ありがとうございます。決行は今週の日曜日。それと、この撮影を行うために人員を補充したいので、部外者をこちらに招いてもよろしいでしょうか? 人数は約2,3人ほどです。もちろん、その方たちは信頼に値する人であることを私が証明します」

「でしたらいいでしょう。入校許可証をお渡ししますので、今日の放課後に事務室に向かってください」

「ありがとうございます」

 

何ともとんとん拍子に話が進んでいった。

ここまでスムーズだと微妙に怖く感じてしまう。

 

「ところで理事長。これは、今回の件とは関係がないことですが聞いてもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

 

理事長の許しを得た僕は、これまで感じていた疑問を口にすることにした。

 

「どうして私を、この学院に招いたんですか?」

「それは最初に説明したはずですが?」

「ええ。男子学生が編入したことによる女子学生や私自身に与える精神面での変化の観察……いわゆるモニターでしたね」

 

それは確かにここに来た時に説明されていた。

 

「でも、それにしては少々不自然すぎるんです」

「……どう言った所が?」

 

わからないのか、それともとぼけているのか、理事長は首を傾げながら僕に聞き返してきた。

 

「モニターとして男子を入れるのであれば、一クラスに最低5人ほど編入させる必要があります。1名というのは非常に少なすぎです」

 

最初に感じた違和感はそれだった。

確かに、一人であれば、より確実に目的のデータが得られる確率は高いだろう。

だがそれでも、たった一人という局所的なモニターの投入は効率が悪すぎるのだ。

 

「そして、ここの受け入れ態勢の不備」

「何か問題でも?」

「大ありです」

 

理事長の疑問を肯定するように、僕は頷いた。

 

「体育の授業でのレポートのみという形式にするという声がいきなり上がったりすることが一番の証拠です。別に私はそれでもかまいませんが、このモニターに関する準備がしっかりとされていなかったことがうかがえました」

 

最初からそうなっていれば問題はないが、後からそういうふうになるのは教師陣への説明・検討がしっかりと行われていなかったことに他ならない。

 

「それでは、香月君は私がなぜここにあなたを招いたと考えているのですか?」

「大雑把にいえば、ここを廃校にしないため。そのために男子学生ではなく、”私自身”が必要だったから」

 

理事長の問いかけに、僕は一気に核心をついた。

その言葉に、理事長の体が一瞬震えた。

 

「どんなアイドルをも一躍有名にさせてしまう力がある伝説のプロデューサーとして名高いDKとして活動している私を、ここのスクールアイドル……μ'sのプロデューサーにさせるために」

「…………」

「ですが、私がここに編入して、μ'sのプロデューサーを引き受ける確率は限りなく0に近い。でも、ライブ活動を行うことを宣伝したり何らかの活動を行えば、私の目に留まる可能性は十分にある。そして一度でもその活動やライブを見れば、私がプロデューサーになる確率はかなり高い」

 

僕はいわゆる実力主義のスタンスをとっている。

つまり、ライブなどを見て、十分な伸びしろがあれば僕はその人たちのプロデュースを買って出るというスタンスなのだ。

そのような内容の話を雑誌のインタビューで話したことがある。

 

「そのために、発起人である高坂穂乃果が所属するクラスに編入させて、接触しやすい状況を生み出した。僕がよりプロデューサーになりやすくするために」

「さすが、高月理事長のご子息なだけはあるわね。鋭い考察力だわ」

 

感心したようにつぶやく理事長の言葉は、肯定のようにも聞こえた。

 

「まあ、これだけホイホイとスクールアイドル活動に関することを承諾してもらえれば、さすがに気づきますけどね」

 

そんな理事長に、僕は苦笑しながら返した。

 

「しかし、どうやって私がDKだと? 知っている人は限られているはずですが」

「あなたの父親から教えてもらったのよ。そこでこの計画を思いついたのよ。もちろん、このことはだれにも言わないから安心して」

「ええ。わかっています」

 

理事長の言葉に、僕は頷いた。

理事長の人となりは多少ではあるがわかっている。

人を騙すようなことをしない人だということも。

 

「ご安心ください。私がプロデュースするのですから、彼女たちの持つ実力を引き出させて見せます」

「期待しているわ」

 

僕は一種の誓いのように告げると、一礼して理事長に背を向けた。

 

「私からも一つ聞いていいかしら?」

「ええ。いいですよ」

 

そこに呼び止められるようにかけられた理事長の声に、僕は振り返りながら返した。

 

「本来は、このようなものは生徒会長である絢瀬さんに許可を取るのが普通よ。それなのに、どうして私に?」

「理由は二つ。まず一つは、学院に装飾をするという行為は一生徒会長では判断が付きにくく、理事長を通すべき案件だと判断したからです」

 

それは僕が生徒会長を務めたことがあるので非常によくわかっていた。

例えそれがプロジェクターを使用した立体アートだったとしても、後者の風貌が変わることは間違いがない。

生徒会とは、学生と運営側をつなぐ架け橋だと僕は考えている。

その架け橋である生徒会には、校舎の風貌を変えることに対する結論はつきずらいことは分かっていたのだ。

 

「もう一つが、現生徒会長には、精神面で致命的な問題があり正常な判断ができない状況にあります。そのような人にいくら提案しても無駄です」

 

それが一番大きかった。

生徒会長の精神面での致命的な問題。

それを解決しなければ、彼女はとんでもない運命が待っているだろう。

 

「そうですか……単刀直入に聞きます。絢瀬さんは生徒会長としてふさわしいと思っているのですか?」

 

僕に投げかけられた疑問の声に

 

「…………それを一学生である私が、言える権限はありませんよ」

 

僕はそう答えて理事長室を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日曜?」

 

放課後アイドル研究部の部室で、僕はPV撮影の話を切り出した。

 

「日曜って、あと4日しかないじゃない」

「何か問題でも?」

 

計算したのか残りの日数を口にする矢澤先輩のほうに視線を向けて問い掛けた。

 

「曲はどうするのよ? 私たちはまだ曲すら聞いていないのに」

「曲だったら、ここにある」

 

矢澤先輩の言葉に、僕は鞄から一枚のCDを取り出した。

 

「ちょっと! なんであなたがそれを持ってるのよ!」

「先日、DKという人からメールが届いたから。プロデューサーとして僕の連絡先を書いていたらしくてこっちに送ってきたみたい」

 

西木野さんからの追及に、僕はあらかじめ用意しておいた通りに応じた。

西木野さんの依頼メールには、アイドルグループであるμ'sの名前と作詞作曲者の著作情報に加えて、プロデューサーである僕の名前と連絡先が記されていたのだ。

そのおかげで、僕が持って行っても問題にはならないと判断したのだ。

 

「どうして依頼者じゃなくてプロデューサーなんかに」

「なんかって……作り手や依頼者と演じ手が異なることはよくあること。だから、プロデューサーとか監督者に準じる人にデータを渡すのが一番確実だから……じゃないかな?」

 

西木野さんの言い方に少しばかりショックを受けながらも答えた。

もっとも、完全に僕の意見だが断言するのとあれなので、最後に疑問形にしておいた。

 

「でも、衣装とかは……」

「それだったら、南さん」

 

園田さんの疑問の言葉に、僕は頷きながら答えると、南さんに話を振った。

 

「ばっちり、準備できてるよ」

 

数日前、衣装の写真を見せてもらったことがある。

そこにはすでに仕上がっている衣装が写し出されていた。

 

『海未ちゃんは、これを見ると恥ずかしがるからまだ見せてないんだ』

 

それが、南さんの言葉だった。

そして南さんは”本番前にだったら絶対に逃げられないからその時まで見せないようにしているの”という言葉を続けた。

天使のような笑みを浮かべながら、口にする南さんはある意味策士というより鬼だった。

まあ、僕でも同じことをしていたけれど。

閑話休題。

 

「場所はどこなの?」

「今回は、初めて完全にプロデュースするんだから、凝っていきたいとは思うけれど、そのような場所を使うには生徒会の許可が必要で、それが下りる可能性は限りなく0に近く、また時間も無駄だから、許容範囲内である屋上を利用したいと思う」

「屋上もダメだと思うんですけど」

 

高坂さんの問いかけに答える僕に、小泉さんから控えめなツッコミが返ってきた。

まったくもってその通りだった。

 

「許可云々はこっちのほうに任せて、皆は完璧なパフォーマンス……ライブを成功させることだけに集中して」

「……そうだね! せっかく香月君やみんなで頑張ったんだもん。成功させよう!」

 

僕の言葉に頷くように、高坂さんは全員の背中を押すように力強く言い放った。

 

「この封筒にはDKっていう人から渡された歌なしの音源と歌い方がイメージしやすくするために、僕が歌ったものだけどボーカルが入っている。それらをよく聞いて各自で練習を。もう一つがダンスの振り付け草案。南さんが考えたダンスのステップとそれを発展させた僕の考案するステップを織り交ぜたものになっているから、これを完ぺきにマスターして」

「今から新しいステップをやって大丈夫なの?」

 

全員にA4サイズの茶封筒を手渡しながら説明をすると、神妙な面持ちの西木野さんからそんな意見が出た。

 

「それは大丈夫。あくまでも基本は南さん考案のステップで、それの無駄を削ったりポーズを若干変えたりして、効率化させただけだから大して変わってない。通しで練習をすれば遅くとも3日で完璧にマスターできる。でなければ、君たちのレベルが僕の予想の真下なだけ」

『……』

 

全員が僕の言葉に押し黙った。

若干空気が痛い。

 

「みんなの実力を計算して、これを作ったんだ。だから、十分にマスター出来るししてもらいたい。それじゃ、練習を始めようか」

「そうですね。練習あるのみです」

「頑張るにゃー」

 

園田さんの言葉を皮切りに、全員が練習に向けて動き出した。

 

(さて、すべての準備はできた。ここからが本番だ)

 

僕は日曜日の本番に向けて、思いをはせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日曜まで、皆は非常に頑張った。

僕の要求していたタイムラグを大幅に下回ったのが、その証だ。

そして、ついに本番の日を迎えた。

 

「それじゃ、準備を始めよう」

「「おー!」」

 

朝7時、音ノ木坂学院の屋上にいるのは、僕と短めの金髪に眼元が鋭いために、威圧感を覚えさせる男性に短めの黒髪に整った顔立ちをする女性の三人だ。

男性の名前は田村 竜輝(たむら りゅうき)さん。

女性が中山 翠(なかやま みどり)さんだ。

二人とも、H&Pのバンドメンバーである。

 

「タイムリミットは全員が集合するまでの3時間。それまでにこの図の通りに、設置してもらいたい」

「わかった。中山、お前はカメラのセッティングをしろ。俺は土台のセッティングをする」

「了解」

 

僕の言葉を受けて田村さんが指示を飛ばす。

そして全員が動き始めた。

そんな中、僕は彼女たちから死角になるであろう場所に、拠点地を設けることにした。

さすがにテーブルは無理なので、木製の箱を複数個並べるように置いて、テーブルのようにするとその上に機材を設置する。

 

「カメラのネットワークシステム構築完了。遠隔操作開始」

 

モニターに映し出された映像は屋上の出入り口を映し出す映像だった。

さらにコンピューターを操作して複数個のモニターを表示させる。

後は任意の映像をクリックし、その画面のカメラを操作するだけだ。

 

「こっちは設置を終えたぞ」

「音響のほうも問題はないよ。サウンドテストをするから、向こうのほうに行ってくれるかい?」

「わかった」

 

拠点地にやってきた田村さんたちの言葉に答えながら、僕は高坂さんたちが立つであろう出入り口前に立った

 

(何ともまあすごいことになったな)

 

目の前の光景に、僕は思わず心の中でつぶやいた。

目の前にあるのは大量のカメラだ

PVの撮影演出で必要な量のカメラを用意しているので、それはもはや圧巻であった。

 

(大丈夫かな?)

 

高坂さんたちのことが少しだけ心配になってきた。

僕でさえこう思ってしまうのだから、高坂さんたちだったらどんな反応をするのかが想像できなかった。

卒倒して、気絶でもしたりされれば、とんでもないことになるのは目に見えていた。

そんな時、CDの音源が流れ始めた。

設置されているスピーカーから流れているようだった。

 

(音量も、この程度なら問題にはならないか)

 

理事長からはあまり大音量で音楽を鳴らさないようにと念を押されていたので、そこだけは厳重に確認しておかなければいけない。

しかし、それも大丈夫だったようだ。

僕はカメラに向かって大きな丸印を両腕で示した。

すると、音楽は鳴りやんだ。

それを確認した僕は、拠点地へと戻った。

 

「これで準備は大丈夫です。熱中症対策は?」

「十分だ」

 

僕の問いかけに答える二人の手には二人のそばに置かれ散る大き目のクーラーボックスに入っていたのか、飲み物があった。

 

「二人には変な制約をつけて申し訳ないんですけど、お願いします」

「まあ、高輔の気持ちも理解できるし、大丈夫だって」

 

二人には、高坂さんたちに姿を見せないでほしいとお願いしておいたのだ。

屋上を選んだのも、死角が割と多いからだったりもする。

 

「この後、一回リハをやるんだろ?」

「ええ。その時に、カメラワークの確認をします」

 

高坂さんたちには10時に集合し、一度リハーサルをやって、15分の休憩ののちに本番に進むと説明している。

このリハーサルには、彼女たちのステップなどの確認もさることながら、カメラワークの確認も兼ねているのだ。

 

「まあ、ギターの音を向こうのスピーカーで鳴らすためにはここで演奏するしかないですけど」

 

通常、ギターなどはアンプというスピーカーを利用する必要がある。

これがないと、音が小さくなってしまい他の音に埋もれてしまうことになるので、必要な存在なのだ。

それを、コンピューターに接続し出入り口にあるスピーカーで鳴るようにしたのだ。

さらに、ギターの音と彼女たちの歌をコンピューターで録音するという作業も同時並行でするので、かなりややこしい状態になっていたりするのだが。

 

「それじゃ、ここはお願いします」

「おう、任せときな」

 

そろそろ高坂さんたちが来る時間なので、撮影などは田村さんたちにお願いして屋上の出入り口前へと移動した。

 

「うわ! なんだかすごいことになってるよ!?」

「すごいにゃー」

 

出入り口のところまでたどり着いたのと、高坂さんたちがやってきたのはほぼ同じタイミングだった。

 

「これって、全部香月君がやったの?」

「助っ人の手も借りたけどね」

 

さすがに一人でやったというのはウソなので正直に答えることにした。

 

「助っ人?」

「まあ、もう帰っちゃったからいないけど」

 

でも、この程度の嘘であれば問題ないと思い僕はウソを教えることにした。

 

「こ、この前で歌うんだ……」

「まあ、慣れないとは思うから、一回リハーサルとして、この光景に慣れてもらえればいいから。とりあえず、衣装に着替えて」

『はーい』

 

いまだに制服のままの皆に着替えるように促した僕は、彼女たちが戻ってくるのを待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ―」

「いや、待っては―――」

 

数分してやってきた高坂さんたちに相槌を打とうとした僕は彼女たちの着ている衣装に言葉を失った。

 

「どう、似合ってる?」

「似合っているというかなんというか、独特だよね」

 

一回転しながら聞いてくる高坂さんに、僕は何とも言えない思いを抱きながら答えた。

高坂さんはピンクを基調とした頭には大きめのシルクハットという衣装で、矢澤先輩は白を基調とした衣装に赤い色のリボンを頭につけているという格好だ。

猫耳のようなものをつけたりうさ耳をつけたりと、まさに独特という言葉がぴったりだった。

 

「とはいえ、パーフェクトだよ南さん」

「えへへ、ありがとう」

 

改めて、彼女たちのレベルを思い知った瞬間だった。

 

「それじゃ、まずはリハーサルから。本番だと思って全力で演じること。そのあと15分の休憩をした後に本番になるから。リハーサル開始は今から30秒後、この音が鳴った後に曲が始まる」

 

そう言って僕は手にしていた赤いボタンを押した。

すると、スピーカーからスティック同士を合わせたような音が5回ほどテンポ良くなった。

ちなみに、このボタンはただ拠点地のほうに合図を送るための物なので、音を鳴らすスイッチではない。

 

「それじゃ、準備を始めて」

「ふふふ、にこの可愛いところをアピールするにこ!」

「頑張ろうね、かよちん!」

 

僕の言葉に、全員が気合を入れてスタンバイしていく。

僕は彼女たちの死角である場所に向かうと、立てかけておいたギターを手にする。

 

(人除けの札も貼っておいたし、大丈夫だろ)

 

邪魔が入っては困るので、絶対にここに入ってこれないように札を貼っておいたのだ。

それは彼女たちがここに入ってから効力を発揮しているので、高坂さんたちが知る由もない。

 

「彼女たちはスタンバイ状態に入ったよ」

「それじゃ、リズムコールを」

 

中山さんの言葉を聞いた僕は、曲を始めるリズムコールを鳴らすように指示を出した。

すると、すかさずリズムコールが鳴り始めた。

僕の立ち位置から見える、高坂さんたちの姿を映し出した映像に注目しながら僕はストロークを始めた。

リハーサルで見ているのは全員の動きもそうだが、カメラワークだ。

彼女たちがいくらいいステップを踏んでもそれを撮るカメラが悪ければ台無しだ。

だからこそ、カメラワークには細心の注意を払う必要がある。

そして、全員がポーズをとったことで、曲は終わった。

 

「僕は向こうに行ってくる」

「おう」

 

ギターを立て掛けながら田村さんたちに声をかけた僕は、田村さんの声を背に、彼女たちのほうへと向かった。

 

「すっごくよかったんじゃない!?」

「うん、最後までちゃんと踊れたもんね」

「お疲れ様」

 

各々が称賛声を掛け合う中、僕は労いの言葉をかけた

 

「どうだった?」

「悪くない出来だったよ。タイムラグも許容範囲内に抑えられているし」

 

高坂さんの緊張の色を隠せない様子の問いかけに、僕はそのまま答えた。

 

「何よその微妙な言い方」

「これが完璧なものとは思っていない。それは停滞を意味する。自分たちのレベルを上げたくば、さらに向上させることを考えてほしい。アイドルという世界はそういう面では限界がないのもまた特徴だから」

 

それが、アイドルという偶像に課せられた宿命なのかもしれない。

僕は、彼女たちの力を100%以上まで引き出したい。

だからこそ完璧という言葉は使わないようにしているのだ。

それを使うときこそ、彼女たちの限界点に到達したことを意味するのだから。

 

「それはともかく、今から15分休憩だから、しっかり休んで。そのあとに本番に行くから」

「あれ? 香月君は?」

「僕はちょっと、本番に向けて準備することがあるから戻るだけ」

 

彼女たちの資格に入ろうとしたところで声をかけてきた高坂さんにそう告げた僕は、そのまま拠点地のほうへと向かっていく。

拠点地には人の影はなかった。

それは、あの二人も休憩に突入したからだ。

休憩というのはただの名目で、本当は彼女たちに姿が見られないようにするための対策だったりもする。

現に、高坂さんの視線を背中のほうに感じるのだから。

僕は、先ほどのリハーサル映像を再生して、カメラワークのほうを確認する。

 

「30秒と49秒の箇所の動きは、抑え目にした方がいいか」

 

見つけた問題点を紙に書いていく。

そして、また映像を見ていくのを繰り返す。

 

「さて、それじゃミーティングでも始めるか」

 

その後、戻ってきた二人と改善点のミーティングを始めた。

そうしているうちに、15分はあっという間に過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、これが本番だ。君たちに求められているのは100%の成功のみ。全力で歌い、全力で踊り切れっ」

「何、この熱血男」

 

僕の激励に、矢澤先輩から冷たい声が投げかけられた。

 

「それは置いといて、このライブを成功させるように頑張って」

「もちろんだよ!」

「あったりまえじゃない。このにこがいるんだから」

「が、頑張ります」

 

僕の言葉に、各々が気合を入れていく。

それを見ながら、僕は再び彼女たちの死角へと向かった。

そして、リズムコールののち曲が始まった。

軽快な曲調のイメージを壊さないように、気を付けてギターの音色を奏でていく。

そして、そこに高坂さんたちの歌声が絡んでいく。

 

(やっぱりこの感覚はいくら経験しても忘れられないよね)

 

最初はばらばらだったダンスや歌声が、曲という土台に絶妙に絡み合っていく感覚は一度味わってしまえば二度と忘れられないほどにまで心地いいものだった。

そして最後は各々が決められたキメポーズをとることで、曲は終わった。

 

(………うん、十分かな)

 

歌やダンスなどを見て聴いた僕は、成功と呼んでも十分な出来であると思えた。

 

(これならば、次のステップに進むこともできるし)

 

そう思いながら、僕はギターを壁に立てかけて高坂さんたちのもとに向かう。

 

「みんなお疲れ様。とても素晴らしかったよ」

「ありがとう、香月君」

「まあ、当然の結果ね」

 

僕の賞賛の声に、高坂さんたちは息を切らしながらそれに応じた。

矢澤先輩だけは全く変わらなかったけれど。

 

「部室のほうに、ささやかではあるがお祝いの品としてお弁当を用意してあるから、それを先に食べててくれる?」

「あなたはどうするのよ?」

「というより、一体いつの間に用意したのですか?」

 

西木野さんと園田さんから疑問の声がかけられる。

 

「僕は、これを撤去したりしなければいけないから。全部終わったら部室のほうに行くから遠慮しなくていいよ」

 

そして園田さんの問いかけにはスルーしていた。

実際は、休憩時間中に電話で本家のほうに電話をして用意させたものだったのだが、それはどうでもいいことだろう。

 

「凛お腹ぺこぺこにゃー」

「どんなお弁当なんだろう」

「あの、私の質問には――「そんなことより、御飯だよ! 海未ちゃん」――ちょっと穂乃果!?」

 

納得していない園田さんだったが、高坂さんによって無理やり構内のほうへと連れていかれた。

 

(本当に個性的というかなんというか)

 

彼女たちのやり取りを目の前にした僕は、苦笑しながらそれを見送るのであった。

こうして、僕が初めてフルプロデュースする曲はようやく折り返し地点へと到達するのであった。




今回登場した下記楽曲は、すべて実在するものです。

1:『これからのSomeday』 ラブライブ!劇中歌より

*ヒロイン希望アンケートの票数を次話の投稿後に集計いたします。
結果は活動報告に明記いたしますので、そちらのほうをご覧ください。
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