ラブライブ!~たった一人の男子とスクールアイドル~(凍結) 作:TRcrant
大変お待たせしました。
今回で、リーダー関連の話は完結となります。
そして、再びオカルト要素が存在しますので、苦手な方はご注意ください。
ヒロイン希望アンケートですが、本日午前1時30分で区切り、途中集計を行います。
集計結果は活動報告にて記載いたしますので、よろしければご覧ください。
第26話 予兆
「それにしても、意外だな」
「何がです?」
夜、理事長の許可のもと校舎内の撮影をしていた僕に投げかけられた田村さんの言葉に、僕は聞き返した。
ちなみに今は廊下の撮影中だ。
複数台のプロジェクターによって華やかに装飾された光景は、見ていて圧巻だった。
「最初からあれだけの人数が集まっていたのならともかく、3名でしかも最初のライブでは観客は10人にも満たなかったらしいじゃないか」
「そうですね。あれにはいろいろと驚かされましたよ」
これまで観客10人以下の会場を見たことはなかったため、驚きという言葉では不適切なほどの衝撃だった。
「そんな状態にもかかわらず手を貸したということが、俺には不思議で仕方がない」
「それ、この間説明しましたよね?」
田村さんには、μ'sのことを話した(正確には音ノ木坂学院のスクールアイドルを始めたことで名前は教えてはいないけれど)際に説明をしていた。
「いくらやる気とかがあるからとはいえ、望み薄であれば力は貸さないのが高輔の主義のはずだ。それに、ステップがしょぼいとか漏らしていたのに、どうしてプロデューサーを続けているんだ?」
「……さあ?」
田村さんの問いかけに、僕は機材を移動させながら答えた。
「ふざけてるのか?」
「ふざけてはいませんよ。ただ、本当に自分でもわからないんですよね」
すでに校舎外での撮影は済ませてある。
残すのは階段の踊り場での撮影だけだった。
「彼女たちに力を貸そうとした理由が。ただ、そうしなければいけないと何かが告げたような……誰かにそう動かされたような気がするんですよね」
冷静になって考えれば、おかしかった。
観客の数、そして質。
どれをとっても、僕が力を貸すという判断を下すのに今一つ足りない。
それでも、僕が力を課そうと思ったのは、もしかしたら見えない力によって誘われたからかもしれない。
(そんなわけはないか)
「いずれにせよ、0から上り詰めるかもしれない存在に力添えができるということは、プロデューサー冥利に尽きますから、やめる気はしませんね」
「それはいいが、WHITE GRADUATIONのライブも近いんだ。忘れるなよ」
WHITE GRADUATIONとはチェリーレーベルプロダクションに所属する5人組のもう一つのアイドルグループだ。
Mint greenとは違い、ほかの事務所で活動していたグループだったりするがそれはまた別の機会に語るとしよう。
「わかってますよ。ディスカッションも終わり本番を待つだけの状態。抜かりはありません」
そのライブが明後日に控えていることも十分計算に入れている。
ちなみにその翌日にはMint greenのライブが控えていたりするのでかなり過酷ではあるが。
「それじゃ、最後の撮影始めますよ。田村さん、プロジェクターを」
「あいよ」
僕は田村さんに声をかけながらカメラでの撮影を始めるのであった。
「終わった……」
PV作成の一通りの作業を終えた僕は、体を伸ばして固まった筋肉をほぐしていく。
現在僕は本邸の自室にいる。
PVの仕上げとして、これまで撮影してきた高坂さんたちの踊りと歌声、そして別に撮っておいた校舎内と校舎外の映像を合成していたのだがそれがようやく完成したのだ。
「一応通しで確認してみるか」
僕は今さっき完成したPVを最初から再生する。
最初は校舎の外に高坂さんを中心に集まり、次に園田さんと南さんが校舎内の廊下で歌っている映像、そして階段の踊り場では星空さんと小泉さんの二人が歌う映像に切り替わり、さらに別の廊下では西木野さんと矢澤先輩が歌う映像に変わっていく。
最終的には全員で校舎外で歌っている映像になった。
(うん、大丈夫みたいだな)
僕は映像に不自然な個所はないことを確認できたので、満足しながら頷くと完成した映像をDVDに焼いた。
(後はこれを高坂さんたちに見せるだけか)
「そういえば、今何時?」
作業もひと段落した僕は、気にも留めていなかった時計に目を移した。
「って、朝の4時!?」
時刻はいつもの鍛錬をする時刻を指し示していたのだ。
「今日は徹夜か」
思わず肩を落としてしまうが、泣き言は言っていられない。
時間は限られているのだから。
「よし、今日も頑張ろう!」
僕は自分にカツを入れるようにそう声を上げるのであった。
「PVが完成したですって!?」
「ああ。なかなかの出来だよ」
放課後、アイドル研究部の部室で、僕がPVの完成を告げると矢澤先輩が驚きの声を上げた。
「数日かかるって言ってなかったかしら?」
「言ってたんだけど、のめりこんじゃって気づいたらできてたんだよね」
興味なさげ(を装う)な感じで訪ねてくる西木野さんに、僕は苦笑しながら答えた。
「浩介先輩すごいです。尊敬します!」
「あはは、やめてよ。照れるじゃないか」
後輩からまっすぐな目で尊敬の声をかけられたことがなかったため、僕は笑いながら相づちを打った。
「ふん。何よ、デレデレしちゃって」
「ふぅ……それはともかく、完成したPVをみんなに見てもらいたい。それで何か問題があるようなら言ってもらいたいんだ。もし無いようならこれをアップロード……投稿するから」
矢澤先輩の冷たい声が浮かれている僕を冷静にさせてくれた。
僕は、部室にあるPCの前に腰掛けるとディスクトレイにDVDを入れて読み込ませた。
「うぅ、ドキドキするね」
「どんなふうになってるのかな?」
各々がPVがどのようなものかを心待ちにしている様子だった。
そして映像を再生するソフトウェアを立ち上げて、モニターの前から離れた。
映像は自動で再生された。
始まってしまえば、皆の口数は一切なくなった。
それぞれが映像に見入っていたのだ。
長さはほんの2,3分のPV。
だが、それを目の当たりにした彼女たちにはもしかしたらいいようのない思いがあるのかもしれない。
「すごい……すごいよ!」
「本物のアイドルのPVみたいです!!」
やがて映像が終わると、高坂さんを皮切りに全員が感嘆の声を上げた。
「本当にあんた何者? これだけの映像を仕上げるだなんて」
「僕はただのμ'sのプロデューサーですよ。ただ、映像の演出方面に詳しいだけの」
矢澤先輩の疑いの眼差しに臆することなく僕は答えた。
「海未ちゃんもとってもかわいく取れてたもんね」
「そ、そういう穂乃果だって!」
高坂さんたちのほうはいろいろとPVで盛り上がっているようだった。
「まあ、別にいいんだけど」
「……それで、何か意見がある人は?」
矢澤先輩の妙に引っ掛かりのある言い方に若干疑問を持ちながらも、僕は最終意見を求めた。
それに対してみんなの反応は
『ないでーす』
で一致していた。
こうして、7人そろったμ'sの初めてのPVは無事に完成し動画サイトに投稿されるのであった。
余談ではあるが、投稿した動画はわずか一日で千を超える再生回数を記録していた。
翌日の放課後、僕は東條先輩から借りていたビデオカメラを返すべく彼女のもとを訪れていた。
今いるのは廊下なのだが、もともとは生徒会室に向かうつもりだったのだが、その途中で運よく鉢合わせになったので、廊下ではあるが用件を済ませているのだ。
「ということで、これはお返ししますね」
「成功してよかったね」
PVの成功の報告とともにカメラを渡すと、東條先輩から嬉しそうに声をかけられた。
「ええ。”クラブ紹介のための撮影”という嘘の話をでっち上げてまで持ちかけてくれた東條先輩のメンツをつぶすことにならなくてよかったですよ」
「なんや、人聞きが悪い言い方やね」
僕の含みのある言い方に、東條先輩が何とも言えない表情をうかべながら口を開いた。
「普通、クラブ紹介のための撮影は部長に話がいきます。しかも、アイドル研究部の部長は矢澤先輩であり、部活申請用紙を見ればすぐにわかります。でも、矢澤先輩はそのことを知らなかった」
それは、この間の矢澤先輩の勢いで分かっていた。
あの時の矢澤先輩は、撮影が来ること自体を知っている様子はなかった。
「まあ、ただ話し忘れただけかもしれませんので、証拠はないですが」
「……香月君も、なかなか頭がええんやね」
最後にそう締めくくった僕に、優しい眼差しで告げたのはそれだけだった。
「それじゃ、僕も一つだけいいことを教えます」
これ以上ツッコむのも野暮だと思った僕は、話題を変えることにした。
「なんや?」
「お宅の生徒会長さんのことですよ」
生徒会長という単語が出た途端、まじめな表情をうかべる東條先輩に、僕は言ってもいいのか悩んだが、この人ならばもしかしたら最悪の事態を免れるための、橋掛けになりうる存在かもしれないと感じたため、僕は教えることにした。
「エリチがどうしたん?」
「彼女をよい方向に変えてください。今のままでは非常にまずいので」
抽象的な言い方しかできなかったが、これでも僕に出来る精一杯の表現だった。
「それはどういう意味や?」
「そのままの意味です。今の性格のままだと最悪の場合………」
若干声色が固くなった東條先輩に、僕はいったん言葉を区切る。
「死にますよ」
そして、最後は彼女にしか聞こえない声量で、僕はそう告げると彼女に背を向けてその場を後にする。
後から僕を呼ぶ声がするが、僕はそれに応えることはしなかった。
そう、この時すでに予兆はあったのだ。
しかしすでに手遅れでもあったのだ。
それを思い知ったのは、数日後のことだった。
「……」
その日は、体育の授業が2時間も続くという一週間の授業の中では最も暇な時間を過ごすことを強いられる日だったのだ。
僕はすでにレポートを終わらせており、暇つぶしをかねて生徒会室にある資料に目を通していた。
どれほどの時間がたったのだろうか。
授業は後半戦を迎えていた。
後数十分もすれば授業が終わり、僕は教室に戻ることができるようになるだろう。
と、そんな時だった。
「ちょっと! 勝手に何をしてるのよ!!!」
突然僕に浴びせられた罵声に、僕は手元の資料から視線を外し声のした方へと視線を向けた。
そこには、般若のような顔で僕をにらみつけている生徒会長の姿があった。
「ご覧のとおり、読んでいるだけですけど」
「生徒会でもないのに勝手に読んではいけないとわからないの?!」
ようやく僕は、生徒会長が怒り狂っている理由がわかった。
「それは大変失礼しました」
僕はとりあえず謝りながら読んでいる資料を閉じるとそれをもとあった場所に戻した。
「しかし、ここの学生は恵まれてますね」
「何がよ」
僕の言葉に、生徒会長が先を促してくる。
「貴女のような優秀な生徒会長がいてですよ」
「………」
「生徒会の資料を見れば生徒会長のレベルは簡単にわかるものですよ。優秀な会長であれば、資料はちゃんとまとめられているものですし、そうでなければ資料の並びはめちゃくちゃで読みづらくなってますから」
現に前いた高校の前生徒会長の残した資料は、並びどころか置いてある場所すらめちゃくちゃというひどいものだった。
「だから、資料を見て貴女を脅すネタにでもしようかと思ったんですけど、バラバラどころか五十音順に揃えられていたので驚きましたよ」
「…………」
そこまで言って僕は生徒会長から何の返事もないことに気付き生徒会長のほうへと視線を向けた。
「何ですかその顔は? 僕が貴女を評価するのがそんなに変ですか?」
「い、いえ」
目を瞬かせて信じられないものを見ているかのような表情をうかべていた生徒会長に、僕はジト目で見つめながら問い掛けると慌てた様子で生徒会長が応じた。
「別に僕はどこかの誰かさんと違ってちゃんと評価するところは評価しますよ」
「あら、有能な方に言ってもらえるとありがたいわね」
生徒会長の嫌味の言葉に、僕は一つ息を吐き出した。
「僕は、いつ自分を”有能な人間”だと言いました?」
「有能な人間だと思っているからこそ、私に偉そうに言えるのでしょ」
「ああ、なるほど」
それで納得できた。
「それじゃ、無知な生徒会長にいいことを教えましょう。世の中には反面教師という言葉が存在する。最低な人間が同じレベルの人間に対してそうならないように、時には自分を蔑んででも教えるような人が」
「それくらいは知ってるわ」
馬鹿にしないでと言わんばかりの口調で生徒会長が相槌を打った。
「自分を有能か無能に分類するのであれば、自分こそが本当の無能中の無能になるでしょうね。私こそが、将来の貴女の姿。生き恥をさらして生きていく哀れな存在の末路なんですから」
「あなた、一体―――――」
ふとそこで視界がぶれた。
まるでテレビの砂嵐のようにノイズが走ったのだ。
「―――――――――い!!」
そんな中、誰かの声が聞こえた。
「馬鹿なことは止めなさい!!」
まるで、静かに眠っている子供を叩き起こすかのような声は、僕に不快感を与えるのに十分だった。
(文句を言ってやろう)
そう思ったところで、視界に走っていたノイズが一気になくなった。
「はい?」
最初に見えたのは青空。
それは問題ない。
今日の天気は雲一つもない晴れの天気なのだから。
あるのだとすれば、僕の足元だろう。
何故か僕は窓のサッシの上に立っていた。
「早まってはだめよ!!」
「なっ!?」
生徒会長の声に、僕は自分の状態を完全に把握して慌てて中に入ると生徒会長の腕を振り払って壁のほうまで後ずさった。
「はぁ……はぁ……」
心なしか息も荒くなる。
(僕は今、何をしていた?)
自分に問い掛けるが、何が起こったのかなど明白だ。
(今僕は、あの窓から飛び降りようとしていた)
もし生徒会長が腕をつかんでいなければ、今頃僕がどうなっていたのかはわからない。
いくら加護があるからとはいえ、飛び降りれば無事では済まないのだ。
(僕、自殺願望なんてあったか?)
それこそありえない。
たとえ罵られようとも笑われようとも、生き恥をさらして生きていこうとあの時に誓ったはずだ。
(まさか……誘導された?)
ふとそんな可能性が脳裏をよぎった。
ありえないことではなかった。
今の生徒会長であれば、それは十分に考えられる。
だが、
(ありえない)
そう、ありえないのだ。
この間倒れた際に、一番強力な護符を身に着けて持ち歩くようにしていた僕が、霊障を受けることなどはまずないはずなのだ。
「一体何をしているのよ!」
「っ!!」
生徒会長の言葉に、背中に寒気が走った。
――この人は危険だ。
そう本能が告げているようだった。
「あ、待ちなさい!」
だから、僕は逃げるように生徒会室を飛び出した。
――とにかく彼女から逃げなければいけない――
それだけしか頭になかった。
そして僕はたどり着いたどこかわからない部屋のドアを乱暴に開け放った。
「うわぁ!?」
中にいたであろう人物は、突然のことに驚きの声を上げた。
「って、香月じゃない」
そこにいたのはアイドル研究部部長の矢澤先輩だった。
そこはアイドル研究部の部室のようだ。
無意識ではあるが、そこが安全な場所だと判断したのかもしれない。
「はぁ……はぁ」
「って、ちょっと、どうしたのよ?」
何か答えなければいけないのは分かっているが、うまく言葉が出てこない。
まるで自分の体じゃなくなったみたいだった。
(って、これはまさか!?)
再び視界がぶれ始めたのを感じた僕は、慌てて意識を失わないように抗おうとするが、
「ちょ!? しっかりしなさい、香月!」
結局そのまま倒れて意識を手放すのであった。