ラブライブ!~たった一人の男子とスクールアイドル~(凍結)   作:TRcrant

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こんばんは、TRcrantです。

本日で、連続投稿も四日目を迎えました。
今回はかなりオカルト要素が強くありますので、苦手な方はご注意ください。

勉強はしたものの、希弁はとても難しいものですね。
もし間違っていたらご指摘いただけると幸いです。


第33話 消失

「んん……」

 

ウチの朝はいろいろな意味で早い。

カーテンの外はまだ薄暗い時間帯がウチが起きる時間帯。

早く起きて朝食を食べて、洗濯をして神社で掃除をしてから学院に通うのがうちの毎朝の日課。

でも、この日はなんだかいつもと違った。

 

(なんだか眠い。ウチ、夜更かしでもしたん?)

 

毎朝すっきり目覚めるはずなのに、ここのところ毎日眠気が取れなかった。

ちゃんといつも通りの時間に寝ているはずだんだけど。

 

「それに、なんだか味もわからなくなってきてるし。もしかしてウチ、なんか重い病気でも患ってるんかな?」

 

言いようのない不安がウチの頭の中をかすめるが、時間もないので考えることはせずにいつものように日課をこなすことにした。

 

 

 

 

 

「うん。これでお掃除終わり。今日もピカピカやん」

 

日が昇って周囲が明るくなったころ、ウチは神社の境内の掃除を終えていた。

別に毎日しなくてもいいらしいけど、こういうのは気持ちの問題なん。

 

(それにしても、今日はえらく寒いな)

 

もう夏に入ったと思っていたのだけど、朝だからか真冬のように寒く感じた。

そんな時、手にしていた箒が地面に倒れた音が聞こえたので、地面を見ると、箒が足元に倒れていた。

 

「おっと、失敗失敗」

 

ウチは地面に落ちた箒を拾い上げると、自分の手を見つめる。

今日までちゃんと持っているはずなのに箒が地面に倒れていることが何度もあった。

最初は気を抜いていたから、失敗したんと思っていたけど、ここまで連続すると何か別の原因を考えてしまう。

ウチの手をすり抜けて箒が倒れたという原因を。

 

(あるはずがない。だって、ウチは幽霊さんじゃないんし)

 

そういうのは幽霊やお化けだけの現象のはず。

ウチはそう言う類ではないはずなのでこれはあり得ない。

 

(うーん、神主さんに聞いた方がいいんかな?)

 

つい数か月ほど前に戻ってきて挨拶してくれた神主さんなら、何か分かるのかもしれない。

見た感じとてもいい人そうに見えたからちゃんと教えてくれると思う。

 

(でも、連絡先が分からないし、どこにいるのかも聞いてないし)

 

社務室にも緊急時の連絡先が書かれた書類は一切なかった。

恐らく、神主さんにしか開けることができないという戸棚に入ってるとは思うんだけど。

 

”でも、緊急時には向こうから来てくれる”というのがウチよりもえらい巫女さんの話だった。

 

「ふぅ。片づけてから着替えて学院に行こ」

 

ウチはとりあえずそれ以上考えるのをやめて箒を用具入れに戻すと巫女服から制服に着替えるために社務室に戻った。

 

(ん? あれは、香月君)

 

その最中、神社にお参りをするために来たのか、香月君の姿を見かけた。

声をかけようと思ったけど、なんだかいつもと雰囲気が違っていたのでそっとしておくことにした。

うちにとって、この神社はとても思い入れのある場所。

昔、ウチと一緒にいた人が、何度も何度も連れてきては一緒に遊んだ場所だから。

だから、ウチはここにいる。

もしかしたら、その人がまたここに来るかもしれないから。

そして、もし会えたらいっぱい話をしようと思っていた。

だけど、一年経っても二年経ってもその人らしき人物は姿を現さなかった。

もしかしたら、ずっと会うことはできないのかもしれないと思い始めるようにもなってしまった。

 

(そう思ってたんだけど)

 

どうしてか、香月君を見ていると思い出してしまうのだ。

ウチのことを知ろうと話しかけてくれた”あの人”のことを。

 

「……っと、急がないと遅刻しちゃう!」

 

少し考えすぎていたようで、ウチは慌てて制服に着替えると急いでウチらが通う音ノ木坂学院に向かうのであった。

 

 

 

 

 

「希にしては珍しく、今日はぎりぎりに来てたわね」

 

放課後、生徒会の資料をみんなで資料室に運んでいると隣を歩いている生徒会長でもあり、この学院に来て最初に出来た友達でもあるエリチが、意外そうな感じで声をかけてきた。

 

「ちょっとボーっとしてたん」

「何か悩み事?」

 

ウチの応えに、エリチは心配そうな表情を浮かべて聞いてきた。

エリチは誤解されやすいけど、とても優しい人なん。

ただ、今はちょっとそれが隠れちゃってるけど

 

「大したことじゃないから大丈夫やん」

「そう。ならいいんだけど。体調には気をつけて」

 

何故かエリチは心配そうな表情を浮かべたまま、ウチにそう言ってきた。

 

「大丈夫やって。ウチはどこも悪くないから」

 

ウチはエリチを安心させるように答えると、視線を前のほうに戻した。

前方のほうから姿を現したのは、四月の終わりにテストとして転入してきた唯一の男子でもある香月君だった。

香月君はウチらを見つけると、やや足早にウチらのほうに歩み寄ってきた。

 

「あれ、東條先輩に、生徒会長」

「香月君? こんなところで何してるん。もしかして、さぼり?」

 

ウチは資料を片手に持ち直して空いた方の手を香月君のほうに掲げると、香月君は一歩後ずさった。

その姿がなんだかとっても可愛いやん。

 

「違いますって。ちょっと忘れ物をしたので教室のほうに取りに行っていただけです。これから部室に戻って勉強するつもりですし」

「そうなん? まあ、それだったらいいやよ」

 

香月君はウソをついている様子ではなかったので、ウチは上げていた片手を下すと、そのまま両手で資料を持ち直そうとした。

 

「おっと」

 

そんな時、手元が狂って資料の一枚が地面に落ちてしまった。

ウチは慌てて落とした資料をとろうと手を伸ばしたところで、取ろうとしてくれたのか香月君の指先とウチの指先が軽く触れた。

ウチはちょっとだけ驚いたけれど、それ以外の感情はなかったん。

でも、香月君はというと

 

「っ!!」

 

オーバーアクションで驚いていたん。

 

「香月君って、もしかして女子と触れ合ったことがないん?」

「そんなこと、あるわけないです! 手を触るくらい朝飯前です!」

 

からかいの意味を込めて香月君に尋ねてみると、香月君は頬を赤くして全力で否定してきた。

 

「そこまで、あからさまに否定すると怪しくなるわよ」

「うぐっ……ありません」

エリチのぼそりとつぶやくように投げかけられた指摘の言葉が聞こえていたのか、香月君は項垂れると肯定することで答えた。

 

「とにかくっ。落とした資料です」

「ありがと」

 

話題を変えるように資料をウチに差し出してきた香月君に、受け取りながらお礼を言った。

 

「あ、活動中に失礼しました。それじゃ、私はこの辺で」

 

香月君は、ウチらに一礼すると、そのままウチらの横を通り抜けるようにして去っていった。

 

「……」

「まだ、香月君のことで怒っとるん?」

 

エリチの香月君を見る眼差しが尋常なものではなかったのに気付いたウチは、エリチにそう尋ねてみた。

香月君は、何故かエリチをものすごく目の敵にしとるん。

確かに、エリチにも問題はあるけれど、香月君の態度じゃ逆に亀裂を深くしてしまうとウチは思うん。

 

「別に怒ってるわけじゃないわ。ただ……」

「ただ?」

 

目を閉じながら何かを思い出している様子のエリチに、ウチはさらに詳しく訊ねてみた。

 

「なんでもない。それよりも、早く資料を運ぶわよ」

「そうやね」

 

一瞬エリチの声色に別の感情が見えたような気がしたけれど、うちにはそれが何なのかがわからなかったので、本来の仕事である資料運びのほうを再開させることにした。

そして、歩き出そうとした時だった。

 

(あれ?)

 

何故か、視界がどんどん下がっていくのにウチは疑問を抱いた。

そう思っている間に視界は下がり続けている。

やがて、ウチは体中に衝撃のようなものを感じた。

 

『副会長!?』

「希!?」

 

生徒会の子たちの他に、エリチの悲鳴のような声が聞こえた。

それでようやくウチは、自分の身に何が起こったのかを理解した。

”ウチは地面に倒れたんだ”と。

でも、不思議と痛みや冷たさなども感じなかった。

それどころか、どんどんと眠くなってくるん

ウチはそれに従うように、目を閉じていく。

 

「―――なっ!!!」

 

そんな時、誰かの声が聞こえた。

 

「い―――――か! を―――――てっ!!」

 

そしてその誰かはウチの体を揺さぶってくる。

少しだけ乱暴なその揺さぶりにもかかわらず、何故かウチはゆりかごの上にいるような安らぎを感じた。

 

(この感じって、もしかして神主さん?)

 

気配や、力強さがあの時に会った神主さんのと同じような気がした。

 

(でも、おかしいな。どうして、神主さんがこんなところに――――)

 

ウチの意識はそこでぶつりと途切れた。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「筆記用具を忘れるだなんて、失敗失敗」

 

試験を翌日に控えた放課後。

本来は、自宅で勉強するほうがいいのだが、自宅だとどうしても勉強に身が入らないため部室のほうで勉強に取り組もうとしていたのだ。

ちなみに、理由としては本邸だと、どうしても仕事のほうをしてしまい、別邸だと居ついている幽霊たちがうるさすぎて集中ができないのだ。

一応静かにはしてくれているのだが、気配が動き回られるだけでも集中力は途切れやすくなるのだ。

閑話休題。

いざ勉強を始めようとした段階で、僕は筆記用具を教室に忘れてきたことを思い出して慌てて取りに戻っていて今はその帰りなのだ。

そんな時、ふと前のほうからこっちに向かって歩いてくる東條先輩と生徒会長の姿を見つけたので、僕は二人のもとに歩み寄りながら声をかけることにした。

 

「あれ、東條先輩に、生徒会長」

「香月君? こんなところで何してるん。もしかして、さぼり?」

 

東條先輩は僕にあらぬ疑いをかけると両手で持っていた資料らしき紙の束を片手に持ち直し、目を不気味に細めながらもう片方の手を僕のほうに掲げるとワシワシするような仕草をし始めた。

その仕草にあの時の恐怖がよみがえった僕は、無意識的に東條先輩から一歩後ろに下がってしまった。

 

「違いますって。ちょっと忘れ物をしたので教室のほうに取りに行っていただけです。これから部室に戻って勉強するつもりですし」

「そうなん? まあ、それだったらいいやよ」

 

とりあえず、ワシワシをされてはたまったものではないので、僕は必死に東條先輩に事情を説明すると、東條先輩は納得したのか上げていた片手を下すと、そのまま両手で資料を持ちなおそうとした。

 

「おっと」

 

そんな時、手元が狂ったのか資料の一枚が地面に落ちた。

僕は東條先輩が落とした資料を取ろうと手を伸ばすが、同じく取ろうとしていたようで僕の指先と東條先輩の指先が軽く触れた。

 

「っ!!」

 

その時に感じた東條先輩の指先の冷たさに、僕は慌てて手を離した。

 

「香月君って、もしかして女子と触れ合ったことがないん?」

「そんなこと、あるわけないです! 手を触るくらい朝飯前です!」

 

そんな僕の様子に何を思ったのかからかうような目で聞いてきた東條先輩に、僕は必死に否定した。

 

「そこまで、あからさまに否定すると怪しくなるわよ」

 

僕とて男だ、少しくらいは見栄を張りたいのが人情というものだ。

 

「うぐっ……ありません」

 

だが、そんな僕の見栄は生徒会長の小さな声で投げかけられた指摘の言葉によって一刀両断されてしまった、

そして僕は項垂れながら肯定した。

まさに敗北の瞬間だった。

 

「とにかくっ。落とした資料です」

「ありがと」

 

これ以上傷口を広げられてはたまったものではないので、僕は話題を変えるように資料を東條先輩に差し出した。

そんな僕に、東條先輩は受け取りながらお礼を言ってくれた。

やはり、お礼というのは何度言われてもいいものである。

 

「あ、活動中に失礼しました。それじゃ、私はこの辺で」

 

そこで僕は彼女たちが生徒会の活動中であることを思い出して、軽く一礼をして謝るとそのまま彼女たちのわきを通って部室のほうへと足を進める。

そんな時だった。

 

『副会長!?』

「希!?」

 

何かが倒れる音と、悲鳴にも似た声が聞こえてきたのは。

音が聞こえた方に視線を向けると、そこはちょうど先ほどまで東條先輩たちが立っていた場所だった。

周りにいる人たちの隙間からかすかにではあるが見えたのは、確かに東條先輩の姿だった。

 

(これは、まずい!)

 

直感でそう感じ取った僕は、慌てて東條先輩のもとに駆け寄る。

そして、彼女たちのところまであと少しといった所で、生徒会長が東條先輩の体に手を伸ばそうとしている光景を見た。

それは、彼女を心配するがための行動で、悪意のようなものは一切ない。

そうでなければ、あの生徒会長が必死になったような表情を浮かべて呼びかけるとは思えない。

だが、そんな彼女に僕は

 

「触るなっ!!!」

 

周囲に響くほどの大きな声で叫ぶと、生徒会長の行為を止めさせた。

 

「触ると、ひどくなる!」

「なっ!? それはどういう意味よ!!」

 

僕の一言が酷く癇に障ったのか、怒鳴るような声を上げるが、僕はそれを無視して東條先輩の脇にしゃがみ込むと彼女の体を揺さぶった。

 

「東條先輩! 大丈夫ですか! ……っく、そこの二人のどっちか、東條先輩の左肩を持ってっ!! 彼女を保健室に運ぶ」

 

揺さぶった時の手の感触は、とても冷たく感じた。

僕は一刻の猶予がないと判断して、心配そうな表情を浮かべている女子学院生に指示を出した。

 

「は、はい!」

「それじゃ、行くぞ。1,2の3!」

 

僕の指示に素直に従ってくれたz女子に心の中でお礼を言いながら、僕達は東條先輩を引っ張っていくように保健室へと向かうのであった。

本来は僕が一人でおんぶをすればいいのだが、あとで色々と面倒にならないようにするための自衛手段だ。

もっとも、彼女の命がかかっているので、女子がすぐに動かない場合は僕が一人で担ぐつもりだったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何とか保健室まで連れてくることができた僕達は、とりあえず近くにあったベッドに東條先輩の体を横たえた。

 

「保険医はいないか……皆で保険医を探してきて。僕はここで先輩の様子を見てるから」

「だから、どうしてあなたが仕切る――「グダグダ言ってないで、早く行って!!」―――っく。希に何か変なことをしたらただじゃ済まさないわよっ」

 

僕の怒鳴りつけるのにも等しい口調に、生徒会長は僕を睨みつけながら、恐ろしいことを口にするとここまで来てくれた女子の二人を引き連れて保健室を去って行った。

 

「ふぅ……」

 

それを見届けた僕は、一息ついた。

だが、僕にはあまり時間が残されていない。

別に、保険医が来るまでということを指しているのではなく東條先輩のことを指しているのだ。

 

(僕の勘が間違っていなければ、これで治るはず)

 

確証は一切ない。

もし間違っていたら、笑いごとでは済まない事態になる。

 

(東條先輩、ごめんなさい)

 

それを避けるべく、僕は心の中で東條先輩に謝罪の言葉をかけると、ベッドの横にあったパイプ椅子に腰かけてそのまま東條さんの手を両手で包み込むように握りしめた。

 

「やっぱり……」

 

東條先輩の手を握ってようやく僕は、自分が導き出した仮説に確証を持つことができた。

東條先輩の手は異様に冷たかったのだ。

別にそれだけで問題があるというわけではない。

それが、普通の人ならば。

東條先輩や僕のように幽霊を見たりすることができる”力”を持っている人の場合は、非常に重大な意味を持つことになるのだ。

それが、力……霊力の残量だ。

霊力というのは、幽霊を見たり浄化をしたりなどなどで使用するエネルギーのことだ。

分かりやすく言えば、ゲームなどで登場する魔法使いが魔法を使うために必要なエネルギーである魔力のようなものだ。

この霊力は、眠っている間に大抵は回復するものだ。

後は、地脈から直接霊力を補充したりなどが回復する方法だ。

だが、東條先輩の場合は、その霊力が非常に少なくなっている状態だったのだ。

通常、霊力が少なくなると強い眠気に襲われて眠りについてしまうくらいで済むらしいが、時たまごく僅かな確率でだがかなり重大な欠陥を抱えている人がいるらしい。

その欠陥がある場合、霊力がなくなるにつれて、体の存在感がなくなっていき最終的にはそのまま消失してしまうらしいのだ。

つまり、ここ最近の東條先輩の体が透けて見えたような気がするのは、僕の幻覚でもなく本当にあったことだったのだ。

 

(もう少し早く気付いていれば、こんなことには)

 

自分の未熟さに、怒りがこみあげてくるが、分かっていたところで結局はこうなっていたような気がするのと、僕にはそれよりも優先してやらなければいけないことがあったので、一旦頭の片隅へと追いやることにした。

 

(早くやろう)

 

僕は、目を閉じると自分の中の力を手に集めるのに意識を集中させていく。

霊力がなくなっているのであれば、霊力を分け与えればいい。

僕がやっているのは霊力の譲渡だった。

 

(しかし、まるでスポンジのように吸収していくな)

 

一度始めれば、後は勝手に力が流れていくので少しは考える余裕もできるが、東條先輩はすさまじい吸引力で僕の霊力を吸収していく。

それはまるで、乾いた土に水を流し込んでいくように力を送っても送ってもきりがない。

 

(まだ大丈夫)

 

東條先輩に渡しすぎて自分が倒れたら元も子もないので、僕は自分の中にある霊力の量を確認しながら東條先輩に霊力を渡し続けている。

 

(あれ……なんだか、意識が)

 

そんな時、意識が一瞬ではあるが揺らいだのを感じた。

目を閉じているので視界は真っ暗なままだが、それでも体の感覚が少しずつ朧気になっていく。

その感じはまるで、意識をも東條先輩に吸収されるような物だった。

 

(これって、まずいんじゃ―――)

 

そこで、僕の意識は完全に闇へと落ちるのであった。

 

 

 

 

 

気がつけば、僕は立っていた。

場所はどこかの道。

ちょうど車道と歩道の境目。

聞こえてくるのは、人々の喧騒。

聞こえてくるのは、うるさいほどに鳴り響く車のクラクションの音。

 

(うるさいな)

 

思わずそうつぶやいてしまうほど、うるさいクラクションの音。

見えたのは、慌てた様子で話している人の姿。

見えたのは、どこかに慌てた様子で電話をかけている人々の姿。

そして、足元に出来た赤い血の海。

 

(なに……これ)

 

状況がわからずに、混乱する中、僕の目は新しい光景を目の当たりにした。

見えたのは、血の海の中央で倒れる一人の少女。

当然だが、僕はその少女を知らない――知っている――。

そこで、ようやく状況が把握できた。

これは、交通事故の現場なのだと。

そして、その被害者は――――――

 

 

 

 

 

「君。香月君」

「んぅ……」

 

再び反転した意識の中、聞こえてきた声に、僕は目を開けた。

一瞬どうして自分がここにいるのかがわからなくなったが、すぐに思い出すことができた。

 

(そうか……東條先輩に霊力を渡している途中で眠ったのか)

 

「あの、香月君」

「東條先輩、大丈夫ですか?」

 

状況が理解できたところで、名前を呼んできた東條先輩に僕は容体を確認した。

一応霊力は譲渡できているはずなのだが、念のための確認だ。

 

「うん、それは大丈夫なんだけど」

 

頬を赤らめながら妙に歯切れの悪い様子で答える東條先輩に、一体どうしたのかと首をかしげていると

 

「その……ちょっと恥ずかしいからそろそろ、手を放してもらえるとありがたいなーって」

「へ? ……す、すみません!!」

 

やっと東條先輩の頬が赤い理由を知った僕は、慌てて手を放すと東條先輩から距離をとった。

 

「別に謝らなくてもええんよ。心配してくれてありがとう」

「いや、お礼を言われるほどでは」

 

これも僕の仮説だが、もしその通りだとすれば、原因の大半は僕にあるのだ。

僕は、お礼を言われるのではなく、彼女に謝るべきなのだ。

 

「こっちです!」

「ん?」

 

そんな時、こちらに向かってくる複数の足音が聞こえてきたかと思うと、一気に保健室になだれ込んできた。

どうやら生徒会長達が保険医を連れてきたようだ。

 

「希! 大丈夫なの!?」

「大丈夫やよ」

 

そんな二人の会話を聞きながら僕は二人がいる場所から少しだけ離れた。

 

「それじゃ、ちょっと見せてもらうよ」

 

保険医の診察があるからだ。

男の僕がいていい場所ではないので、ひとまず僕は彼女たちが見えない位置へと、診察が終わるまで退避することにするのであった。




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