ラブライブ!~たった一人の男子とスクールアイドル~(凍結) 作:TRcrant
かなり遅れましたが、第2話の完成です。
走り出すこと数十分。
高速に乗ったのかめまぐるしい速さで走っているのがわかった。
(本当に落ち着かないな)
こういうタイプの車はいつのっても落ち着かない。
とても居心地のいいものではなかった。
「ん?」
そんな時、横に置かれている何かの冊子が目に留まった。
「そちらは、旦那様が読んでおくようにと置いて行かれたものになります」
「僕が読んでも?」
「ええ」
僕の問いかけに答える運転手の言葉を受けて、冊子を手にするとそれに目を通し始めた。
「『音ノ木坂学院』入学パンフレット?」
どうやらそれは学院を紹介するパンフレットのようだった。
それに目を通していく。
「……………………」
『伝統のある』『自然に囲まれた』
それが、パンフレット内で書かれていた謳い文句だ。
横にある『UTX学院』にも目を通したが、どちらに魅力があるかと聞かれれば『UTX学院』の方だろう。
尤も、両方とも女子高なので、男の僕にしてみればどちらも関係のない学院だが。
(あ、そう言えばあいつと最近会ってないな)
UTX学院がらみで思い出した人物のことを気にするが、それもすぐに頭の片隅に追いやる。
今一番重要なのは、どういて僕をこのような強引な手段を講じてまで呼び出したのかということだ。
「亀沼は、あの人が何を考えているか、知らないのか?」
「はい。お役にたてず申し訳ございません」
運転手の男……亀沼は僕の問いかけに、申し訳なさそうに返事を返した。
「別に責めているわけではない。責めるのはあのバカたれだ」
「到着いたしましたので、隣に置かれている服を」
ゆっくりと車の動きが止まった。
僕は横に置いてある服に身を包んだ。
「どうぞ」
そしてドアを開けた亀沼に促されるまま、僕は車から降りた。
僕に対して周りからとてつもないほど視線を感じた。
それは当然だろう。
高級車から突然黒づくめのスーツに黒のサングラスの男と黒いフードつきの服に身を包む人物が現れれば、注目を集めるのも当然だ。
唯一の救いは、向こう側にこちらの顔が見えないことぐらいだが。
「それでは、こちらへ」
そして亀沼に導かれるまま、僕は学院内へと足を踏み入れるのであった。
校舎内に入ると、好奇のまなざしはさらに強くなっていく。
(ははは、久々とは言え、かなり精神的に来るなこれは)
前もこのような視線を受けているので慣れてはいるが、それでもきついものはきついのだ。
(一体どこに行くつもりだ?)
いい加減好奇のまなざしがきつくなってきた。
亀沼に尋ねようとしたところで、亀沼はあるドアの前で歩くのをやめた。
重厚そうな、これまで見てきたドアとは何かが違う雰囲気の漂うドアだった。
「亀沼です。お連れいたしました」
「どうぞ」
ノックの後の亀沼の呼びかけに、中から返ってきたのは女性の声だった。
それを受けた亀沼はドアを開けると、一歩横に移動して頭を軽く下げると道を作った。
ドアの先の部屋の奥の席に腰掛けこちらを見ている銀色の髪をした女性は、やわらかい表情でこちらをじっと見ている。
「失礼いたします」
僕は一歩前に出ると、お辞儀をして部屋の主に声を掛けると部屋に足を踏み入れた。
「それでは、私はこれで失礼します。私は表の方でお待ちしておりますので」
それを見届けた亀沼はそう呼びかけるとドアを静かに閉めた。
僕はそれを見ながら、フードを取り払う。
そして再び女性の方に向き直った。
「始めまして、私は南と申します。この学院の理事を務めています」
「香月 高輔です」
南理事長の紹介に倣い、僕も簡潔に自己紹介を返した。
とはいえ、それほど紹介することも見当たらないためそれだけになってしまうが。
「………で、私を呼び出した理由は?」
「実は――「貴女には訊いていません」――はい?」
目を閉じながら問いかけると、南理事長が答えだしたため、僕はそれを遮った。
「いるんだろ? とっとと出て来い! この糞親父!」
「………気配を消していたつもりだったんだが」
僕の怒号に、すっと姿を現したのは、ひげを生やした短髪の男だった。
口調こそはフランクだが、その眼はとても鋭く、見る者に威圧感を与えるには十分だった。
「そんなことはどうでもいい。どういうことかを説明しろと言っているんだ、この糞親父が」
「仮にも父親であるのに、その言い方はないだろ」
「知らんっ! 殴り飛ばしていないだけましだと思え。いつもいつも強引にしやがって。この間だってそうだ! 政略結婚まがいのことをしようとしたことを忘れたことなど、今まで一片たりともないっ!」
口をとがらせて抗議してくる男に、僕は一気にたたみかける。
ちなみに、政略結婚まがいというのは数年ほど前の事件だ。
あの時は驚いた。
いきなり『こいつと結婚する気はないか?』と写真付きで聞かれたのだから。
当然断って解消するように入ったが。
「だが、いい子だったぞ? お前には十分にぴったりだと思ったんだが……」
「だから勝手に決めるなと言っている。相手にも迷惑だし、何より好きな相手ぐらい自分で見つける。あんたの世話にはならない!」
「ゴホンっ」
言い合っている中、南理事長がわざとらしく咳ばらいをした。
「お取込みの最中申し訳ないのですが、進めてもよろしいですか?」
「失礼しました」
「申し訳ありません。どうぞ」
父さんに合わせるようにして頭を下げた僕は続きを促した。
「せっかくですから、どうぞおかけになってください」
だが、南理事長はソファーの方に掌を向けながら促してきた。
「それでは」
そして僕はドア側に置かれたソファーに腰掛け、父さんと南理事長が向かい側のソファーの両端に腰掛けた。
「今回お呼びしたのは、貴方に協力していただきたいことがあるためです」
真剣な面持ちで南理事長が切り出したのは、なんとなく想像ができていた言葉だった。
「現在、本校は危機的状況にあります。3年2年1年とクラス数が減少していき、このままですと募集人数を下回る可能性があります。そうなった場合は、本校は廃校ということにせざるを得ません」
「……………」
生徒数が減少しているのか否かはさておき、この学院が危機的状況に瀕しているのは理解ができた。
「そこで、現在理事会の方で持ち上がっている対応策が”本校を共学化にする”ということです」
「確かに、共学化にすれば生徒数も集まる可能性はあるでしょうね」
もっとも”可能性”ではあるが。
「そのための設備なども既に草案は出来上がり、実施をすることはできる状態になりました」
「前置きはいいので、単刀直入に言っていただけませんか?」
いい加減じれったく思ってきた僕は、南理事長に苦言を呈した。
「では……香月 高輔君。貴方にはその共学化にあたってのモデルケースになっていただきたい」
「モデルケース……草案は出来上がっているということは設備ではなく生徒に与える影響でしょうか? それとも私が受ける影響でしょうか?」
僕の問いかけに、南理事長は一瞬驚いたような表情を浮かべたもののすぐに元の真剣な面持ちに戻した。
「その両方です。女子の中に男子が混ざった際に生じる様々な弊害を知ることで、大抵のトラブルに対する対処法を考えることができますから」
「……なるほど。ですが、それが自分でいいのですか? 自慢ではありませんが、私ほど不適格な人間はいないかと」
南理事長の申し出に、僕は首をかしげながら尋ねた。
性格が悪いというわけではない(たぶん)が、コミュニケーションの方で少し問題があるのは自負している。
元の学校でも、友達は限りなく0に近かったほどだ。
「その点は問題はありません。貴方が相応しいというのは、そちらにいる高月理事長が保障しておりますから」
「ええ。こいつは多少性格があれだが、不用意なトラブルは起こさない。まあ、起こす時はとんでもなく損失が多くなるのが玉に傷だが」
「うるさいっ」
にやにやしながら説明する父さんの言葉に、僕はそっぽを向いた。
「それに、貴方は名前こそ違うものの、高月理事長の息子さん……これほど適性のある人はいないと思いますよ」
「……………」
南理事長の言葉に、僕は返す言葉がなかった。
確かに、僕はあの人の息子だ。
名前も香月 高輔となっているが、これも偽名だ。
本名は高月 浩介。
でもそれを知るのはごくわずかな人物のみになる。
僕が偽名を使うようになったのと家を飛び出したのはある意味同じ理由なのだが、それはまた別の機会にしよう。
「一言、言っていいですか?」
「ええ、どうぞ」
南理事長の許可をもらった僕は、言おうと思っていたことを口にする。
「共学化にしても、無駄だと思いますよ?」
「そんなものの言い方は――「構わないですよ。どうぞ続けてください」――」
僕の直球での物言いに、父さんが立ち上がって声を荒げるが、それを諌めて続きを促した。
「ここに来る祭に、そちらのパンフレットを拝読させていただきました。『伝統のある』や『自然豊か』等という文言がアピール要素として入っておりましたが、それはどこの場所でも使っている文言。テンプレートにしかすぎません」
「なるほど……」
「おたくの学院には、生徒希望者を引き付ける魅力はない。そんな状態で下手に共学化にしたところで、また同じような状況になるのがオチです」
それこそが、僕の言いたかったことだ。
この学院には魅力的な要素が少なすぎる。
「仮に、これをクリアすれば状況は改善すると思われますが、そう簡単にできますか? 学業やクラブで素晴らしい成績を収めたとして、それが反映するまで一年や二年は軽くかかります」
これこそが、アピールポイントの難しい点だった。
「私は沈みゆく船に乗ることはしません。話が以上ならば、これで失礼させていただきます」
僕は突き放すように告げると席を立って二人に背を向けた。
「こ……高輔! どこにいく!!」
「そうですね……今度は海外ですかね? そうすればあんたの権力は届かないでしょうから」
完全に縁は切れるだろうが、そんなことは気にしない。
もうすでに親子関係は冷え切っているのだから。
「それに、見え見えだ。どうせ、生徒数が増えたらその見返りに自分の権力を高める気だろ。糞親父らしい姑息な―――」
そこから先を口にすることはできなかった。
なぜなら、後ろから父さんが僕を抱きしめたからだ。
「すまない」
「は?」
「俺、とても不器用だから。お前には嫌な思いをさせてしまったと思う。だが、信じてほしい。俺がこの計画を実行したのは母さんを悲しませたくないからだ」
父さんの申し訳なさそうな優しい声は、僕から抵抗する力を奪っていく。
「そう言えば、母さんはここの出身だったっけ」
「ああ。お前も、母さんを悲しませたくはないだろ?」
それは同意見だった。
昔とは言え、母さんは学生だった頃のことを楽しそうに話しているのを、僕はちゃんと覚えていた。
「…………仕方ない。糞親父の面目をつぶすわけにもいかないもんな。南理事長」
「はい」
首に回された父さんの腕をそっと解いて、僕は南理事長に向き直った。
その時、とても優しい笑みを浮かべていて、少し恥ずかしかったが、僕はそれを無視することにした。
「先ほどの言葉を撤回します。共学化のモデルケース、ありがたく拝命します」
「分かりました」
僕は、モデルケースを引き受けることにした。
とはいえ、一つだけ言っておかなければならないことがある。
「ただし、私は再生請負人でも、仕事人でもありませんので、そちらの満足いく結果は出せない可能性があります。その旨はあらかじめご了承の方をいただきたい」
「ええ、もちろんですよ。貴方も、本学院の生徒なのですから」
相手が快く引き受けてくれたことに、僕はほっと胸をなでおろした。
「貴方は香月 高輔と言う名前で、2年生のクラスになります。期間は特に設けませんので、卒業まで在学することもできますし途中でやめていただくこともできます」
「高輔の進路について、こっちの方で何ら干渉はしないことを約束する。お前の好きなようにするとよい」
南理事長に続いて、父さんもそう言ってくれた。
その言葉は信じてもいい。
確証はないが、なんとなくそう思えた。
「分かりました」
「転入は明日付です。制服等、必要なものはご自宅の方にありますから」
「自宅というのは?」
「無論、本家だ」
当然だと言わんばかりに、父さんが答えた。
少し気が進まないが、これも致し方がない。
そう自分に言い聞かせることにした。
「それでは、僕はこれで失礼します」
「あ、待ちなさい。私も一緒に帰る――「結構、歩いて帰りますから」――って、歩きで大丈夫なのか?」
立ち去ろうとする僕を呼び止めるようにかけられた声に、僕はそう告げると不安げな声が返ってきた。
「私が方向音痴だと?」
「そう言うわけではないが、色々と危険だ」
父さんの言う”危険”の意味は、なんとなく分かった。
確かに、僕には様々な危険が付きまとう。
だが
「それこそまさかだ。あんたの息子は、こそこそすることしか能のない雑魚に負ける程、軟弱か?」
「そうは言わん。確かに、お前は我が家では最も力があると思っている。だが、心配するのも親心というものだろ」
結局はそうなってしまう。
「心配は不要です。何かあったら連絡するので。では」
僕はフードを再びかぶると一礼してその場を後にするのであった。