ラブライブ!~たった一人の男子とスクールアイドル~(凍結)   作:TRcrant

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大変お待たせしました。
UA6万達成のささやかなお礼ではありますが、楽しんでいただけると幸いです。

今回は少々量が多めだったりします。


幕間3【UA6万達成記念】

「ところで浩介」

 

久々に家族全員で食べる夕食時、父さんが唐突に口を開いた。

 

「なに? お父さん」

「今週の日曜日にピアノのコンクールがある。出場しなさい」

 

確認ではなく確定させたように言う父さんの言葉に、僕は思わず言葉を失ってしまった。

 

「言っておくが、すでにエントリーは済ましてある」

「でも、お父さんは知っているでしょ!」

「……」

 

父さんのあまりにも強引なやり方に、思わず席を立ちあがって異を唱える僕に向かって、父さんは視線で席に座るように促してきた。

 

「僕はそういうのが嫌いだっていうこと」

 

静かに座りながら僕はそう付け加えた。

 

「確かに知っている。浩介は目立つことをすることが嫌なことは」

 

一つ息をつきながら父さんは口を開く。

この時の僕は目立つことが苦手でこういった自分の実力を証明したりする場に出るのに抵抗があった。

 

「だがな、高月家たるものある程度功績を出さなければいけない。お母さんの書道、私の弓道のようにね。それが高月家の義務だ」

「……」

 

”高月家の義務”

その言葉が僕の肩に重くのしかかる。

―――高月家は常に最強でなければいけない。

それがこの義務にもあたるのだ。

母さんは書道のコンクールの最優秀賞を受賞するという優秀な成績を残しているし、父さんは弓道の大会で3連覇という偉業を成し遂げている。

高月をの名を継ぐ僕もまた、何がしらかの優秀な成績を残さなければいけない。

 

「浩介は、絶対音感を持っているし、その年ですでに作曲や演奏までできる才能がある。その才能をこのコンクールで発揮して優秀な成績を残すんだ」

「は……い」

 

もはや食い下がりようもなかった僕は、頷くしかなかった。

 

「コンクールで発表することが出来る曲は、未発表曲……要するに作曲するのを忘れないように」

「分かった」

 

こうして、僕のコンクールに向けた新曲作りが幕を開けることになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼休み、僕とのぞちゃんとでいつものようにお昼を食べていた。

そこで僕は先日父さんから告げられたピアノのコンクールについて話すことにした。

 

「―――ということで、コンクールに参加することになったんだけ……ど」

「……」

 

一旦自分のお弁当箱(普通のだが)からのぞちゃんのほうに視線を移すと、のぞちゃんは自分が持っているお箸をぼーっと見つめたままだった。

 

「のぞちゃん、大丈夫?」

 

まるで心ここにあらずという様子に、僕は心配になってのぞちゃんに声を掛ける。

 

「え、何っ!?」

「さっきからボーっとしているけど、何かあったの?」

「な、何にもないよっ。ちょっと考え事をしてただけ」

 

そう言いながら笑みを浮かべるのぞちゃん。

でも、僕にはその笑みが作り物であることが薄々ではあるものの分かっていた。

 

「それだったらいいんだけど……」

 

その答えに、僕はそれ以上問い掛けることができなかった。

ここから先は僕が入ってはいけないような気がしたから。

それは建前の理由だ。

本当は意気地なしが故に、踏み込めなかっただけなのだ。

 

「それで、何の話だったの?」

「それがね―――」

 

そして僕は、最初と同じ話をのぞちゃんに話した。

 

「すごいすごい! たっくんってピアノが弾けるんだねっ!」

「ま、まあね」

 

僕の話を聞いたのぞちゃんが最初に口にしたのは僕がピアノを弾けることに対する驚きと尊敬のまなざしだった。

それらが何とも照れくさくなった僕は、頬を掻きながらのぞちゃんから少しだけ視線を逸らした。

 

「でね、そこで演奏する曲を作らなければいけないんだけど、何かアイデアみたいのはないかな?」

「えーっと………」

 

顎に人差し指を当てて考えているるのぞちゃんから出る答えを、僕は固唾を飲んで見守る。

 

「この間テレビでやっていた、騎士たちが闘うような感じの曲ってどうかな?」

「………」

 

のぞちゃんから出された答えは、僕の予想の斜め上を言っていた。

僕としては”明るい”や、”楽しい”といった抽象的な答えが返ってくると思っていただけに、ここまで具体的な答えは予想できなかったのだ。

 

「もしかして……ダメだった?」

「ううん。とっても参考になったよ。ありがとね、のぞちゃん」

 

自分のアイデアがだめだと思ったのか不安そうな表情を浮かべるのぞちゃんに僕は首を横に振りながらアイデアを出してくれたことのお礼を口にする。

 

「あ、そうだ。そのコンテスト見に行ってもいい?」

「うん、いいよ。えっと、場所は……」

 

ちょっとだけ恥ずかしかったけど、のぞちゃんが来てくれればうまくいくかもしれないと思い、のぞちゃんにコンクールの開催日と場所を伝えた。

 

「あ、そうだ。私ね、たっくんと同じようなことができるようになったの!」

 

思い出したように嬉しそうな表情で口にすると、のぞちゃんが胸の前で両手を合わせるとそれを左右に大きく広げた。

それが合図だったかのように、彼女の体が白銀の光で覆いつくされた。

それは強くない淡い光であったが僕が前にやって見せたものだった。

 

「うん……すごいよのぞちゃん」

 

本当ならば僕ものぞちゃんと同じように喜ぶべきなのかもしれないが、僕としてはそれを素直に喜ぶわけにはいかなかった。

なぜならば、それはのぞちゃんが――――

 

「あ、チャイムだ」

「本当だ……ご飯、どうする?」

 

僕の思考を遮るように鳴り響いた、昼休みの終わりを告げるチャイムに僕たちは顔を見合わせる。

僕たちの手元にあるのは、半分も残っているお弁当箱だった。

 

「とりあえず、教室に戻ろうか」

「そうだね」

 

半分も残るお弁当箱を手に、僕たちは教室へと戻っていく。

ちなみに、残ったお弁当は次の休み時間に平らげました。

それが最初にやった遅弁というものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……騎士が闘うような曲……」

 

自宅に戻った僕は、早速自分の部屋にこもって新曲の考えをまとめていた。

のぞちゃんに出してもらった新曲のコンセプトが僕の中で何かを導き出したのだ。

それはひらめきともいうのだが、それは置いておくとしよう。

 

「だとすれば、最初は静かで中盤で激しくさせて……」

 

コンセプトが決まれば後は音の構成を決めればいい。

闘う曲ということから激しい曲調がすぐに思いついたがそれだけでは十分とは思えなかったため、曲調の変化というものを考案してみたのだ。

音の構成も決まれば後は頭の中に浮かんだメロディーを形にしていくだけ。

実際にこの方法で新曲が8割ほど完成しているのだ。

 

『おやおや、今日はお盛んだ事で』

「……あゆ姉」

 

何の脈絡もなく後から僕に声を掛けてきた女性に、僕はため息をつきながら作業を止めると後のほうに振り返った。

その女性は特段どこにでもいる銀色の短髪で目元が細い姿をした女性だ。

ただ、”体が透けている”のを除けばだが。

 

『何よ、その迷惑そうな顔は』

 

頬を膨らませているこの女性……あゆ姉は、実は幽霊なのだ。

ここ、高月家にはこのような幽霊が多く集まっている。

父さん曰く、ここ本邸とは別にある別邸を横断するように大きな霊の通り道である霊道が通っており、幽霊が大量に出やすい場所とのこと。

父さんは、近いうちに霊道から幽霊がこっちに来れないように対処すると言っていたので別邸のほうも使えるようになるのもそう遠くないのかもしれない。

それはともかく。

 

「今曲を作っているから声を掛けないでほしかったんだけど」

『折角声を掛けたというのに、失礼しちゃうわね。ぷーんだっ』

 

僕の言葉に機嫌を損ねてしまったようで、あゆ姉は壁を通り抜けて出ていってしまった。

 

(終わったら謝ろう)

 

そう思いながらも、僕は作曲作業を続けた。

 

 

 

 

 

それから数日ほど過ぎたコンクールの前日の夜。

 

「うん。これで大丈夫」

 

僕は自分が作った曲をピアノで弾いてその出来栄えを確認していた。

 

「この数日で三曲も作っちゃうだなんて、僕はやっぱり天才だね」

 

のめり込んでしまうととことんまで突っ走るのは、僕の悪い癖だと父さんから言われていたが、まさしくその通りだった。

そうでなければ三曲も新曲を作るなんて馬鹿げたことは起こらないのだから。

しかも演奏できるのはたった一曲だけなので、今作っても無駄になってしまうのだ。

 

(二曲は機会があれば演奏しよう)

 

そのような機会があればだけど。

僕はこのまま目立たずに大学まで行こうと思っているのだから。

このコンクールのように表舞台に上がるのはこれで最後。

そういうふうにしようと僕は心に決めていた。

 

「ならば、最初で最後なんだから、格好良く決めよう」

 

それにのぞちゃんも見に来るのだから、格好悪いところは見せられない。

 

「目指すは優勝、ただ一つっ!」

 

自分に喝を入れるように目標を決めた僕は、運命の日を迎えることとなるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンクールの日当日、僕は一人でコンクールの会場前を訪れていた。

父さんと母さんは仕事で行けないからだ。

 

「たっくん!」

「のぞちゃんっ」

 

一人で会場の入り口前に立っていると、のぞちゃんが手を振りながらこっちに駆け寄ってきた。

 

「来てくれてありがとう」

「たっくんが演奏しているところを見たかったから」

 

目を逸らしながら頬を赤く染めてつぶやかれた言葉は、自分の顔を赤くさせるのに十分だった。

 

「えへへ。たっくん、頑張ってね」

「う、うん。優勝するから見ててね」

 

そして僕の顔が赤くなったところはのぞちゃんにしっかりと見られていたようで笑みを浮かべながら応援の言葉をかけるのぞちゃんに、僕は優勝宣言をすると慌てて会場の参加者専用の出入り口から中に入るのであった。

このコンクールは自分で作曲した曲を披露しなければいけない。

そのため参加者がかなり少ないのが特徴だ。

それこそ、エントリー=天才と言っても過言ではない程に。

それゆえ、このコンクールは別名”天才発掘コンクール”と呼ばれているとかいないとか。

閑話休題

 

受付で”16”という数字が書かれたバッチを受け取った僕は、係員に指定された控室へと向かっていた。

もちろんバッチを胸のあたりにつけておくことを忘れない。

 

「えっと、控室は……ここだ」

 

指定された控室を見つけた僕は、ドアノブをひねってドアを開けた。

中には十数人の出場者と思われる人たちがいた。

彼らは目を閉じて神経を集中させていたり、せわしなくあちこち歩いていたり、鼻歌という形で練習をしていたりと様々な方法で自分たちの番が来るのを待っていた。

 

(胸につけられているバッチは順番というわけか)

 

とすると、僕の付けている番号より大きな数字はないので、おそらく僕が一番最後ということになる。

最初というのも嫌だが、最後というのもなんだか最後のトリをやるみたいで少しだけ嫌だったが、こればかりは諦めるしかなかった。

と、そんなことを考えながら控室を見回していると一人だけまったく異なるオーラを纏っている人がいるのに気付いた。

赤っぽい髪のその人物は後姿だったのでよくわからないが、ここにいる人たちとは違う雰囲気を纏っていた。

それは、簡単に言えば天才の中の天才。

僕が優勝するのを阻む唯一無二のライバルのような存在。

 

(これは、油断できないな)

 

改めて僕はこのコンクールの何度を思い知らされた。

 

「よぉ、高月ぃ」

 

入口のドアの前で立っている僕のもとに、短めの金髪に釣り目の少年……神矢(かみや) (すぐる)が僕に声を掛けてきた。

その口調はこちらを見下しているものだった。

 

「お前もこれに出るのか?」

「ええ、まあ。ちょっと集中したいので失礼します」

 

あまりこのような人間と話したくない僕は強引に切り上げて彼の元から離れようとするが、僕の腕をつかむことでそれは阻止されてしまった。

 

「そういうなよ、どうせお前もこの俺みたいに力で受け付けたんだろ?」

「……」

 

この人に何を言っても無駄。

僕はそう思い、彼の周囲に聞こえるような大きさで話す言葉に反応しなかった。

いや、もしかしたら言い返すだけの度胸がなかっただけなのかもしれない。

 

「まあ、せいぜい頑張りなよ。この俺の優勝の引き立て役としてな。ガハハハ」

 

笑い声を上げながら、神矢は僕の前から離れて行った。

残された僕は、両手を握りしめてその背中を見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時間が過ぎ、コンクールが始まる時間の数分前に訪れたスタッフの人によって、演奏する人とその次の順番の人が同時に控室を後にする。

どうやら舞台そでに待機するのは一人だけのようだ。

 

『それでは、エントリーNo.1――――』

 

しばらくして控室の天井にある黒い物体(恐らくスピーカーだろう)から司会者と思われる音声が流れ始めた。

 

(こ、これはプレッシャーだ)

 

その相手がどのような曲を演奏しているのか。

それは、自分がその曲・演奏に勝てるのかどうかと自問自答させるのには十分なものだった。

とはいえ

 

(あ、この曲静かな感じでいいな)

 

自問自答するような人はこの中にはいないようだけど。

そんな感じで、次々に順番が進んでいき

 

『エントリーNo.13 神矢 卓。曲目は星空のブルース』

 

先ほど僕に絡んできた神矢の番となった。

そして奏でられるのは一昔前に流行った渋い曲調の音色だった。

どことなく港の船止めに足をのせて黄昏るサラリーマンの姿を思い浮かべてしまいそうなものだった。

 

(下手くそ)

 

その曲を聴いていた僕が感じたものがそれだった。

曲自体は非常にいいものだ。

だが、この曲には心が宿っていない。

もっとも、心が宿るというのを別の言い方にするのであれば、”気持ちがこもっていない”というような内容にもなるらしいが。

奏者がこの曲をいい加減に扱って(蔑んでいるともいえるが)いるためだ。

普通、その曲を選曲した時点で曲に対して大差はあれど思い入れがあるわけで心が宿らないという感じはしない。

だが、何がしらかの理由でいやいやその曲を演奏する場合だと、こういうことが起こりやすい。

ただ、それはこのコンクールではありえないことだ。

”自分で作った曲”という前提がある以上このような現象は起こり得ない。

そこでふと浮かんだのが、彼の先ほどの一言。

 

『どうせお前もこの俺みたいに力で受け付けたんだろ?』

 

この言葉はこのようにも受け取れる。

”力(権力)で、第三者に曲を作らせた”と。

もはや音楽家を名乗る資格すらないレベルだった。

 

(絶対に見返してやる)

 

僕は自分にそう言って優勝に向けてさらに気合を入れる。

そんな僕のことなどお構いなしに彼の演奏は終わり、拍手の音色が控室を包み込む。

 

「エントリーNo.15番の―――」

 

次の次の奏者の人がスタッフの人に呼ばれて控室を後にする中、僕は自分の番が近いことを感じていた。

こうなってくると周りの音が遠くなってくるものだ。

これは緊張によるものなのか、それとも別の何かによるものなのかはわからないが。

 

『エントリーNo.16番の高月 浩介君。順番が来たのでついてきてね』

 

それでもスタッフの人の呼び出す声はしっかりと聞こえるのだから不思議だ。

 

「はい」

 

僕はスタッフの人の後に続く形で控室を後にした。

最初は周囲をまばゆいほどに照らしていた明かりも、進むにつれて薄暗くなっていく。

心なしか空気も重くなってきているように感じた。

それが緊迫感によるものだと知るのにそう時間はかからなかった。

 

「それじゃ、ここで待っててね」

「はい」

 

連れてこられたのは舞台袖と思われる場所だった。

 

『―――曲目は”愛してるばんざーい”です』

 

気が付くとすでに曲名がアナウンスされていた。

 

(人の声を聞きのがすなんて)

 

落ち着かなくちゃと自分に言い聞かせるが、思えば思うほどに緊張してくるのが人間というもので、僕もまたさらに緊張してしまう始末だ。

 

「あ……」

 

このままではまずいと思い始めたその時、ピアノの音色が聞こえてきた。

どうやら前の人の演奏が始まったようだ。

静かでまるで日向にいるような暖かな曲調のその曲を、僕は気づくと聞き入っていた。

 

(なんでだろう、すごく気が楽になる)

 

先ほどまで緊張という負のスパイラルに陥りかけていたはずなのに、曲を聴いていると心なしか気が楽になって緊張も和らいでくるような感じを抱かせる。

不思議で仕方がなかったが、そんなことを考える暇もないほど僕はその曲を聴くことに全神経を集中させていた。

心を落ち着かせる不思議な力のあるその曲に、欠点があるとすれば、歌がないことぐらいだ。

あればきっともっと素晴らしい曲になっているのに残念だ、とまったくどうでもいいことを思っていると、演奏が終わったのかピアノの音色が静かに静まっていく。

それと同時にまるで何かが爆発したのではないかと思えるほどの大きさで拍手が沸き上がった。

それは僕も同じで無意識のうちに彼女に拍手を送っていた。

爆音のように送り続けられる拍手を受けながら、彼女はしっかりとした足取りで舞台を去って行った。

 

『いよいよ最後です。エントリーNo.16番 高月浩介君。曲目は”Holy Knight”です』

 

司会者の紹介から少しだけ間をあけ、僕は緊張する気持ち落ち着かせながら舞台袖からステージに立った。

ステージの橋でいったん立ち止まった僕は、会場に向けて一礼すると静かにピアノまで移動する。

 

「はぁ……」

 

椅子を引いてその上に腰掛けると、思わずため息のようなものが出てしまった。

だが、それが逆によかったのかもしれない。

心の中に少しではあるがゆとりが生まれたのだから。

そっと両手の指を鍵盤の上に乗せた瞬間、まるで波が引くかのように周囲の音が聞こえなくなった。

僕は静かに鍵盤の上に置いている指に力を込めて音を奏で始める。

『Holy Knight』はのぞちゃんの出したアイデアをもとに作った曲だ。

戦いの場に向かう騎士の風景が前半のテーマで、後半がいよいよ敵との戦いが始まるという場面をイメージしている。

そのため最初は静かな曲調で、後半はやや激しい曲調となっている。

演奏をしていると、まるで自分がその場にいるかのような錯覚を覚えてくるのだから不思議だ。

その錯覚がさらに曲の完成度を上げていく。

曲もいよいよクライマックス。

いよいよ、この曲の締である後半部分へと差し掛かったのだ。

低い音のほうに意識を傾けながら中低音の音色を奏でることで音に厚みを持たせる。

そして、一気に曲のテンポを速くする。

低い音を中心に高い音を奏でていく。

そして高い音から階段状に音を低くし、最後は低い音のみでややテンポをゆっくりにして曲を終えた。

ピアノの音色が波を引くように消えた会場内で聞えたのは、まるで爆音を彷彿とさせるような拍手だった。

それが前の人よりすごかったのか否かはわからない。

 

(ぁ……)

 

でも、今自分が感じている何とも言えない気持ちの高揚は、自分で作曲した曲が初めて家族以外の人に拍手をもらったからなのか、それともこの拍手の音の中に(・・・・・・・・・)のぞちゃんのものが含まれているからなのか。

それをはっきりすることはできなかった。

そして僕は、前の人と同様に観客のほうに一礼をして舞台を後にするのであった。

 

 

 

 

 

終わってしまえばあとはあれよあれよという間に時間が過ぎて行くものだ。

審査結果を待つ間、控室のような場所に板の間では覚えているが、そこで何をしていたのかがまったく思い出せないのだ。

途中で神矢が『幼稚な曲はお前にぴったりだ』というようなことを言っていたような気がしたが、それはどうでもいいことだろう。

スタッフの人がやってきて僕たち出場者は演奏をした舞台上へと連れていかれることになったことに比べれば。

 

『これより、結果発表を行います』

 

これから行われるのはこのコンクールの優勝を決める授与式だ。

ここで名前が呼ばれるのはたった二名。

つまり、名前を呼ばれたものこそが、優秀な成績を残したということにつながる。

そのことは当時の僕ですらわかっていた。

 

『それでは、審査員賞からの発表ですっ』

 

司会者の言葉と同時に、鳴り響くドラムロールの音と共に、スポットライトが舞台上を跳ね回るように照らしながら動き回る。

ちなみにこの審査員賞というのは、審査員が”最優秀というほどではないが、最優秀賞を受賞してもおかしくない”人に贈られるものだそうだ。

何となく矛盾しているような気もするが、きっと大人の事情でもあるのだろう。

もっとも、当時の自分はそのようなことを微塵も考えもしなかったが。

閑話休題。

そこ知れぬ緊張感に押しつぶされそうになるのを必死にこらえて、名前が発表されるのを固唾をのんで待ちつづけた。

 

『エントリーNo.15番 ――――――っ!』

 

どれほどの時間が経過したのか、ドラムロールの音が鳴りやみ、スポットライトが僕の隣を照らし出すのと同時に、名前が呼ばれた赤い髪の少女は落ち着いた様子で前に出る。

その横顔は喜びのようなものを感じたがどこか口惜しさのようなものも感じ取ることができる。

そんな少女は主催者と思われるちょび髭を生やしている男性の前に移動して一例をしてから賞状とトロフィーを受け取る。

受け取ると同時に嵐のように沸き上がった拍手を受けながら、元の場所に戻って行った。

 

『続きまして、最優秀賞の発表ですっ』

 

司会者の男性は会場を盛り上げるためか、興奮した口調で宣言すると再び先ほどと同じようにドラムロールの音が鳴り響きだした。

 

『エントリーNo.16番、高月浩介君ですっ!』

「え……」

 

読み上げられた名前と、今の状況がまったく把握できなかった僕は素っ頓狂な声を上げることしかできなかった。

優勝するとは意気込んでいたものの、優勝は無理だという気持ちもまたどこかにあった中での優勝の知らせだ。

これで驚くなという方が無理がある。

ふと正気に戻った僕は、慌てて主催者と思われる男性のもとに駆け寄り

 

「おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます」

 

賞状とトロフィーを受け取り、元いた場所へと戻った。

その時の拍手の音は緊張のためか、それとも喜びのためか、全くと言っていいほど聞こえていなかった。

 

『それでは、今回のコンテストはこれにて――「ちょっと待てっ!!」――はい?』

 

これでこのコンテストも終わる―――そう思った矢先の出来事であった。

突如として声を荒げたのは神矢であった。

そんな彼を訝しむ様子で神矢に訊ねる

 

「これは不当な審査だ! お前ら、高月から賄賂をもらってんだろっ!」

「君、一体何を―――あ、こらっ」

 

神矢のとんでもない言いがかりに、司会者が嫌悪感を隠さずに諭そうとするのを遮るかのように司会者からマイクを奪った彼は

 

『おい、会場の皆。聞いてくれ!』

 

何と会場に向けて語りかけ始めた。

突然のことに会場中がざわめく中、神矢はさらに言葉をつづける。

 

『優勝した高月は審査員にわいろを渡して優勝をもぎ取った卑劣な奴だ! そうでなければこの俺が優勝しているはずだった。お前ら、この泥棒一族を追い出すんだっ』

 

神矢の暴言にも近いその言葉に、さらに会場のざわめきは強くなる。

”泥棒一族”それが僕たち一族につけられたあだ名だ。

その理由は高月家がこの街の裕福な家の監視役を務めており、必要ともあらば実力行使で家をつぶす(物理的な意味ではない)こともあるからだった。

 

(少しだけ、本当に少しだけ)

 

いつもの僕ならば、その暴言を甘んじて受け入れていただろう。

でも、この時の僕は心の底から出てくる何かがそれをさせてはくれなかった。

それは優勝したという喜びによるものなのか、それとも別の何かがあるのか。

 

「あの、それ借りてもいいですか?」

「君まで何を言ってるんだっ」

 

収拾がつかない状態を何とかしようと、司会者がどこからか持ってきたもう一本のマイクを貸してもらおうとするが、苛立った様子の言葉が返ってきた。

 

「こうなったのは私にも一因はあります。彼がこれ以上騒ぎを広めさせないようにする義務があると思うんです」

「………」

 

僕のその言葉に、司会者は顔をしかめたまま考え込むと、僕に待つように告げて主催者と思われる男性のもとに向かっていった。

話の折々でこちらのほうに視線を送ったりしているので、おそらくは大丈夫かどうかを確認しているものとみられる。

少しして司会者の人が戻ってくるとこちらに向かってマイクを差し出してきた。

 

「本当に騒ぎを止められるのだね?」

「はい。これ以上彼にしゃべらせません」

 

それは確認であった。

そして僕にも根拠のない自信があった。

この日の僕は、本当にいつもとは違っていた。

 

『さあ、一緒に声を上げるんだっ! ”泥棒は死あるのみ” 泥棒は――『妄言はそこまでですっ』――なに?』

 

シュプレヒコールを上げさせようとしている神矢の言葉を遮るように、僕は強い口調で言い放ち止めさせた。

 

『神矢君はご存じないかもしれませんが、この結果は会場の人および審査員の投票で決まっています。要するに、審査員にわいろを渡しても意味はありません』

 

それはこのコンテストの説明欄に書いてあった内容だった。

”判定は審査員及び海上の観客によって行われる”

どうやらその事実を知らなかったようで、神谷の目は大きく見開かれた

 

『ならば、お前は観客にも賄賂を―――』

 

ここまで来ると神矢のことがかわいそうにも思えてきた。

今の彼は明らかにただの駄々っ子状態だ。

 

『神矢君は、こういう言葉をご存知ですか?』

 

僕は、彼を諭すように、出来るだけ穏やかな口調で問いかける。

 

『なんだよ。まさか”嘘つきは泥棒の始まり”とかかぁ?』

 

穏やかな口調になった僕を見下すような態度と口調で返事を返す神矢に、僕は特に反応せずに言葉をつづける。

 

『山を登ることで一番重要なのは、挑戦することではなく。諦める覚悟』

 

会場内がまるで誰もいないかのような静まり返っている中、口にした誰が言ったのかはわからないその言葉は、今の状況にピッタリとあてはまるような気がした。

 

『はっ。それがどうしたってんだ』

『要するに――――』

 

彼はこの後のオチなど予想すらしていないだろう。

 

『結果を受け入れて諦めることができない君は、弱虫ということです』

 

その瞬間、まるで波紋が広がるかのように笑い声が会場中に響き渡った。

自分でもここまではっきりと人に物申したことは初めてだった。

 

「やってられるかっ。覚えてろよ」

 

笑いものにされた神矢は地面を蹴り飛ばすように足を振り落して舞台を去って行った。

その姿はまさしく滑稽であり、次に沸き上がったのは爆音のように響き渡る拍手の音だった。

かくして、一波乱があったもののコンテストは僕の優勝という最高の形で幕を下ろすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっごくよかったよっ」

「ありがとう、のぞちゃん」

 

帰り道、のぞちゃんは終始興奮した様子でコンテストで発表した曲の感想を話し続けていた。

褒められ続けて恥ずかしくはあるが、それでも心が弾むように嬉しく思うことはほかの人では決してなかっただろう。

 

「それにあの時びしっと言っていたたっくんは、その……か、かっこよかったよ」

「あ、ありがとう」

 

のぞちゃんの言葉に、照れくさくなった僕はのぞちゃんから視線を逸らしてしまった。

その時の、のぞちゃんの顔がどこか赤く見えるたは、きっと僕たちに差し込む夕日のせいに違いない。

この時、僕は悟った。

 

(ああ、やっぱり僕はのぞちゃんのことが――――)

 

でも、そこから先は決して考えることはなかった。

僕にはそれを口にするのはおろか、思う資格さえないのだから。

 

「たっくんっ」

「な、何?」

 

そんなことを思っている僕に賭けられたやや大き目なのぞちゃんの声に驚きながら、僕は要件を尋ねる。

 

「えっと……その」

 

のぞちゃんはどこか落ち着かない様子で地面を見たり手を合わせたりする。

そのしぐさは、どこか小動物を彷彿とさせるものであった。

僕は急かすわけでもなく、のぞちゃんが話してくれるのをただ待った。

どのような要件なのかはわからない。

でも、のぞちゃんの表情を見ていたら、かなり大切な話であることぐらいは分かった。

……そしてそれが僕にとってあまりうれしくない内容だということも。

僕たちの間を吹き抜けるような風の音が、不安を増させていく。

聞きたくないと思う心と、それでも聞かなければいけないと思う心が拮抗していく。

 

「私、ね」

 

そんな状態がどのぐらいの時間が過ぎただろうか?

数十秒? それとも数分だろうか?

静かに口を開いたのぞちゃんの言葉は

 

「転校することになったの」

 

周囲で聞えていた車が通る音などよりもはっきりと聞こえてしまった。

 

―――そう、今思えばこれが崩壊の始まりだったのかもしれない

悲劇はすぐそこにまで迫っていた。




今回登場した下記の楽曲は、すべて実在するものです。

1:『愛してるばんざーい』 ラブライブ! 劇中歌より
2:『Holy Knight』 ゲーム”cytus”より
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