ラブライブ!~たった一人の男子とスクールアイドル~(凍結) 作:TRcrant
第38話になります。
書ききったところで原因不明の停電によって一から書き直しになった絶望感は計り知れません。
それはともかく、今回もオカルト要素が存在しますので、苦手な方はご注意ください。
それでは、本篇をどうぞ!
あの思い出したくもない程に恥ずかしいハプニングに片をつけた(というより忘れることにしただけだが)僕は、気を取り直して本来の目的地でもある理事長室前に来ていた。
何度来ても理事長室というのは入るのを躊躇したくなる空気を放っているのは、中にいる人によるものなのか、それとも理事長室という場所に理由があるのだろうか?
(いつもはもっとすごいところに入り浸っているんだけどな)
そう思うと我ながら不思議にも思えた。
とはいえ、時間が限られているのでいつまでも立っているわけにはいかないため、僕は理事長室のドアをノックする。
「すみません、2年の香月です」
「どうぞ」
中にいる南理事長に入出の許しを得た僕は、″失礼します″と一声糧からドアを開けて理事長室へと足を踏み入れた。
「突然すみません」
昼休みのため、食事中だったり食事前の時に訪ねるのは、少しばかり非常識ではないかということに今更ではあるが気づいた僕は、突然の来訪に軽く頭を下げて謝る。
「いいえ、かまわないわ。ところで学院生活のほうはどう?」
そんな僕に、南理事長はそれほど気にした様子もなく僕の謝罪に応えると、逆に学院生活について聞いてきた。
「おかげさまでそこそこ充実して毎日を過ごせてますよ」
「そう。よかった」
僕の答えに、目を閉じて安心したように相槌を打つ南理事長。
僕の言葉は決して嘘偽りはない。
なんだかんだ言ってここに戻ってから、僕の学院生活はいろいろと充実した毎日になっている。
それがいいのか悪いのかはさて置き、この状況が高坂さんたちのおかげであることは言うまでもない。
「それで、ここに来た用件は?」
「実は、理事長にこの学院の存続か否かに関する重要なことをお伝えしたいことがあります」
僕の言葉を受けて、理事長の表情が一瞬にして引き締まった。
こちらに向けられた視線は、身動き一つとれなくなるほどの強いもののようにも感じられた。
(これが、理事長としての姿……か)
別に馬鹿にしていたり見下したりしていたわけではないが、穏やかそうな人がこうまで威圧を与えるような雰囲気をまとうことができるのを目の当たりにした僕は、人は見かけによらぬものと心の中でつぶやく。
「こちらをご覧ください」
理事長の気迫に飲み込まれないように、僕は懐から一枚の用紙を取り出すとそれを理事長に見えるようにデスクの上に置いた。
「これは……」
「今年度の生徒会に提出された各部活の部費の決算報告書です」
僕が理事長に見せたのは、各部活動が生徒会に予算をどのように使用したのかを明記して提出する決算報告書だった。
この学院では、校則によって四半期(三か月)ごとに提出する”四半期決済報告書”および、年度末に提出する”決算報告書”の二種類の提出が義務付けられている。
「それはわかっています。これをどうやって手に入れたんですか? これは生徒会のもの以外は決して手にすることができないはずですけど」
随分と痛いところをつかれてしまった。
言うまでもないがこれは不正に持ち出した資料だ。
そして僕は生徒会資料の無断閲覧について注意と資料の閲覧の禁止令が出されたばかりだ。
もし無断持ち出しであることがばれれば、今度は厳重注意では済まなくなる可能性もある。
「まあ、それは後々わかることですからいいでしょう。それで、こちらがどうしましたか?」
「この部分を軽く手でこすってみてください」
どうやら持ってきたことに関しては、いったん保留にするようで、南理事長の問いかけに僕は金額を記載している部分を指示しながらお願いする。
南理事長は訝しむようにこちらに視線を送ると手元に視線を向けて僕が指示した場所を軽くこすり始めた。
「っ! これは……」
どうやら、決算報告書の違和感に気が付いたようで、驚きに満ちた表情でこちらを見てくる理事長に、僕は
「おそらくその感触の正体は砂消しゴムでしょう。私は専門家ではないので断定はできませんが、何者かによって書き換えられている可能性が高いです」
と断言した。
「そして書き換えた人物は、銀色の髪の女子学生です」
「小林さんが? 彼女は品行方正な学生よ。それはあり得ないわ」
どうやら、あの銀色の髪の女子学生……小林さんは教職員から良い評価を得ているようだ。
それが偽りの姿なのかどうかは定かではないが。
「いいえ。彼女が犯人です」
とはいえ、こちらも彼女が犯人であるという自信がある。
そうでなければ理事長にこのような話はしない。
「それでは、その根拠を教えてもらえるかしら?」
そんな僕の自信に満ちた口調に、南理事長は目を細めながら問いかける。
「根拠は三つ。まず一つは生徒会室内はカギによって施錠がしっかりとされていること。ピッキングでもすれば中に入れますが、誰かに見つかるリスクが高すぎます」
「なるほど……」
最初の根拠の説明をすると、理事長は感心した様子でうなづく。
今、僕は自分で生徒会室に不法侵入したことを認めてしまったわけだがそれはとりあえず置いておくことにして、僕は右手の人差し指と中指を立てながら続ける。
「二つ目が、この書類の確認欄に書かれているのが彼女の名前であること」
「でも、それは誰かが書いたという可能性も捨てられないわよ」
僕は南理事長の指摘にうなづいて肯定した。
その可能性も十分に考えられる。
もっとも、それをやって何の得があるのかについては疑問の余地があるが。
「そして最後が。僕の目」
「最後のはさすがに……」
一番大きなウエイトを占める根拠を口にした瞬間、南理事長は苦笑しながら口を開く。
確かに普通であればこれが正しい反応だ。
”普通であれば”だが。
「そうでしょうか? 僕の……僕たち一族の”目”の良さに関してはあなたも分かっているはずですよ?」
「……」
いくら父さんがここの理事とは言え、女しかいない所に男を一人入れるというのはかなり問題があるうえに、人選が必要になるのは言うまでもない。
たとえそれがここのOGの夫だとしても、だ。
ならば、南理事長は少なからず面識があるはずだ。
ここの卒業生である母さんのことが。
それに何より、あの父さんのことだ。
僕の家系が、普通とはちょっと違った力を持つ家系であることくらいは、理事長の耳に入れているはず。
それを予想しての言葉だった。
そして、どうやら僕の予想は当たっていたようで、理事長は”もし仮に”と前置きを置いたうえで口を開く。
「小林さんがこの決算報告書を書き換えたとして香月君、あなたはどうしたいの?」
「彼女にしかるべき処分を下すべきだと思います」
南理事長からの問いかけに即答する僕に、理事長は険しい表情を浮かべる。
「だけど、彼女がやったという決定的な証拠は何もない。あなたが挙げた根拠では、処分を検討することはできない」
”残念だけど、これが現実よ”と南理事長は締めくくる。
確かにその通りだ。
結局のところ僕の提示した根拠はあくまでも”可能性”の話であり、彼女がやったという証拠には結びつくことにはならない。
だが、
「彼女の関わった決算報告書の再調査をする……ぐらいだったらできますよね?」
彼女がいる機関の決算報告書の再調査をさせる口実にはなる。
「ええ。こうして書き換えた痕跡がありますからね。でもその再調査には、小林さんも加わります。仮に彼女が書き換えた本人であるならば、調査の際に問題が起こらないようにされてしまうのでは?」
それも予測済みだ。
調べる側に犯人がいればやりたい放題にできる。
そこで、僕はある”秘策”を用意していた。
「ですので、彼女にはしばらく学院を休んでもらいます」
「香月君、先ほども言いましたが彼女が犯人だという証拠がない限り、私たちは動けませんよ」
南理事長は処分という形で彼女を休ませるのではと思っているようだが、僕の考えている方法は全く違うものだ。
「ええ。ですから、彼女には風でも引いてもらおうかと」
「……」
理事長の冷たいまなざしに、僕は”まあ、冗談ですけどね”と付け加える。
「とりあえず再調査の件、よろしくお願いします」
「わかりました」
南理事長の返事を聞いた僕は”失礼します”と言いながら一礼して理事長室を後にする。
「……ここならいいか」
理事長室を後にして少し歩いたところで、周囲に人気がないことを確認した僕は手を後ろの首元に回すと首にかけていた勾玉を外す。
(これをお風呂の時以外で取るのも、久しぶりだな)
先ほど取り外した勾玉を見ながら、僕は心の中でつぶやく。
(持ち出していた資料は、決算報告書だけじゃないんだよね)
僕は心の中でほくそえみながら、懐からもう一枚の紙を取り出す。
それは現在の生徒会のメンバー表だ。
生徒会長の欄が”綾瀬 絵里”、副会長に”東條 希”と記載されているのでまず間違いないだろう。
(さてさて、小林さん小林さんはっと……あった)
小林さんの名前を見つけた僕は、メンバー表を懐にしまう。
僕が知りたかったのは彼女の名前だ。
(よし)
僕は自分を落ち着かせるように一度深呼吸をする。
これからやろうとしているのは、一歩間違えればとんでもない大惨事を引き起こすことになる危険なものだ。
それゆえに十分な注意をする必要がある。
不用意に話さないようにしているのもそのためだ。
「音ノ木坂学院生徒会・会計の小林 佐奈は、風の病気を患い二週間学院を休む」
それははたから見れば戯言。
だが、僕の場合はそうでもない。
現に、僕の言葉のすぐ後にどこからともなく風が起こったのだから。
それは、僕の言葉が現実のものになるという菓子でもあった。
(こんなものかな)
僕はうまくいったことを確認すると、取り外しておいた勾玉を再び首にかける。
僕がしたのは、単純に言霊の力を使っただけだ。
この言霊の力はかなり強力で、口にしたことを限界はあるが実現させている。
この力のために今の自分を形作る事件が起こってしまったのだが、それはこの際どうでもいいだろう。
「これで容疑者は再調査に関与できない」
一番重要なのは、適切な再調査ができるようになったということだ。
生徒会長としてであればかなりいい線を言っている彼女のことだ、しっかりと再調査をしてくれるはずだ。
……廃坑阻止のほうを優先して後回しにしていなければだが。
「よし。行くか」
時間的にもちょうど昼休みが終わる頃合いのため、僕は教室に向けて歩き始める。
この一件が、のちに自分にすべて帰ってくるとも知らずに。
ちなみに余談だが、昼食を食べていないことに異づいた僕は次の休み時間で早弁ならぬ遅弁をとることになったが、園田さんからの視線がどことなく恐ろしく感じながら遅めのお昼を食べるのであった。
「それじゃ、練習を始めます」
放課後、練習着に着替えた高坂達はいつものように屋上で練習を始める。
曲と一緒に振り付けのほうも送っておいたので振り付けを決める時間を短縮することができたのはある意味好都合だった。
おかげで西木野さんに送るメールに添付した振り付けの解説のデータの容量が、とんでもないサイズになったのは余談だ。
これまでは彼女たちが考えた振り付けを吟味して決定し、それから練習という形になっていたが、あらかじめ決めておけばその時間分練習に充てることができる。
ただし、これをやると振り付けがわからなかったり覚えるのに時間がかかってしまうというデメリットもある。
自分たちで考えた場合もこのデメリットはあるが、決められたものの場合はさらにそれが強く出てくる面がある。
でも、今回はそれが僕の狙いでもあった。
「よしっ!」
一通り通したのち、最後のポーズをとった高坂さんは後ろのほうに振り返ってほかのメンバーのポーズを見ると満足げにうなづきながら喜びをあらわにする。
練習の日程がものすごく短くなってしまったが、何とかオープンキャンパスまでには形になる可能性が高くなった。
もっとも、その大半が僕が原因なのは言うまでもないが。
「これだったらオープンキャンパスまでに何とか間に合うそうだね」
「でも、大丈夫なの? ライブをやったらあの生徒会長が止めるんじゃ」
そんな中、汗をぬぐいながらの南さんの言葉に続く形で西木野さんが若干気になった様子で疑問の声を上げる。
「そこは大丈夫だ。あれには申請をちゃんと出しておいたから」
「それにオープンキャンパスで部活の紹介があるからそこで歌を披露すれば大丈夫だよ」
僕の言葉に続いて南さんが答える。
提出の時にひと悶着があったのだが、それは言わなくてもいいだろう。
今メンバーのモチベーションはかなり高い。
この状態をキープしておけば大丈夫だろう。
だが、そんな中に一石を投じる者がいた。
「まだです」
「海未ちゃん?」
それは練習のコーチの役割を担う園田さんだった。
いつになく険しい彼女の表情に、不安そうに声をかける高坂さんの声に、険しい表情を浮かべたまま、彼女は再び口を開ける。
「まだタイミングがずれています」
(……)
彼女の指摘に僕は先ほどメモをした各々のメンバーの練習経過を記載しているノートに視線を向ける。
そこに書かれていた園田さんの手拍子と、彼女たちのステップとの時間差……タイムラグの数値は大きく、確かにタイミングがズレていた。
「わかった。もう一回やろう!」
高坂さんのその言葉で、もう一度最初からやり直すことになった。
だが、連続でやったことで最初よりはよくなっていた。
「これならいいんじゃない?」
「やっと私のレベルに追いついてきたわね」
それは彼女たちもよく分かっているようで、西木野さんと矢澤先輩はどことなく達成感のようなものを感じているような雰囲気をまとっていた。
「まだです」
だが、そんな状態でも彼女は首を縦には振らない。
「うぅ……これ以上は無理にゃ」
とうとう限界が来たのか、星空さんはがっくりとうなだれる。
「ちょっとっ。何がそんなに気に入らないわけ?」
そんな中、じれったくなったのか語気を強めながら問い詰める西木野さんに、園田さんは一言
「感動できないんです」
と、つぶやくのであった。
そして、そのつぶやきを聞いた僕は、不謹慎ではあるものの心の中でほくそ笑むのであった。
高輔がほくそ笑んだ理由は次回にて明らかとなります。
大急ぎで書き上げたため、誤字脱字がある可能性がありますので、もし見つけられましたら誤字報告機能か、感想にてご指摘を頂けると幸いです。