ラブライブ!~たった一人の男子とスクールアイドル~(凍結)   作:TRcrant

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半年以上もお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

今回から、物語が少しずつ動き始めます。
とはいえ、まだまだ序盤ではありますが(苦笑)




第39話 コーチと条件

夜、食事等を終えて自室に戻った僕は、黙々と勉強をしていた。

内容は簿記の試験に合格するためのもの。

将来のことはまだ自分でもわからない(というか決めていない)が、取っておいて損はない資格なので一度チャレンジしてみようということになったのだ。

 

「これも、高月家の悲しき定め、か」

 

高月家に伝わる″常に完璧であれ″という、家訓のことを考えると、この勉強も家訓のためにしているように思い複雑な心境に陥らせる。

 

「今日は割と静かだな」

 

今いるのは別邸。

いつもであれば中に入った瞬間に先客(?)が慌ただしく動き回るのだが、今日に限ってその気すら感じられない。

 

(まあ、いないほうが普通なんだけど)

 

いつも幽霊が周りにいる状況だったため、なんだか心細く感じてしまう。

 

「今日はこんなものでいいか」

 

勉強のほうもひと段落つき、両手を伸ばして筋肉をほぐしながら、僕は勉強を切り上げることにした。

そんな時、机の隅に置いていた携帯が着信を告げるようになり始めた。

 

「っと、電話……いや、RAILのトークか」

 

携帯を手にして画面を見た僕は、普通の電話ではなくアプリの通話のほうであることに気づき、すぐに”応答”をタップする。

このRAILというアプリは、彼女たちのプロデューサーになったすぐ後に入れるようにと言われたもので、複数人のグループでチャットをすることができたり、複数人と通話をすることもできるという優れものだ。

 

『それで、用件は何よ』

 

連絡などはすべてメールで済ませている僕としては、全く不要の産物だったが、これを機に事務所のほうでも取り入れてみてもいいのかもしれないと思っていると、電話口からものすごく不機嫌な矢澤先輩の声が聞こえてきた。

どうやトークをすることは事前に伝えられていたらしい。

 

『実は、あの後海未ちゃんから、生徒会長にダンスを教えてもらうのはどうかなって相談をされたんだ』

『生徒会長に!?』

 

高坂さんの言葉に、僕と彼女を除くメンバーから驚きに満ちた声が返ってくる。

こちら側を徹底して否定する生徒会長を、コーチとして招き入れるということは敵を自分の領地に入れるようなものであり、自殺行為にも等しいと言っても過言はないものなのだ。

 

(これ絶対に賛成されないだろうな)

 

だからこそ、反対の声が上がるであろうことは想像に難くない。

 

『でも、生徒会長は、私たちのこと……』

『嫌ってるよね、絶対っ』

 

小泉さんの言葉を引き継ぐように、星空さんが断言し、それに矢澤先輩も”嫉妬しているのよ”と便乗する。

 

『私もあの動画を見るまでは、そう思っていました。でもあの動画を見て思ったのです。私達はまだまだだと』

 

(あの動画って……あぁ、これか)

 

園田さんの口から出た単語に疑問を持った僕は、少し前のやり取りを見てみると、それらしい動画ファイルがアップされているのを見つけた。

その内容は見なくてもわかる。

この間見た生徒会長の踊っているものだろう。

 

『私は反対よ。最悪潰されかねないわ』

『私はいいと思うんだけどな』

 

園田さんの提案に、各々が難色を示す中出された高坂さんの意見に園田さんと南さんと僕を除く全員が驚きの声を上げる。

 

『だって、ダンスがうまい人がいて、その人に教えて貰うってことでしょ? だったら何も問題はないじゃん』

 

(なんと単純な)

 

あまりにも単純なその言葉に、思わずため息をもらしそうになる。

 

『私も、ちょっとだけ興味があるかな』

 

そして、高坂さんに続いて行く形で南さんも賛成の意見を口にする。

 

『香月、あんたはどうなのよ?』

「ん?」

 

それまで聞きに徹していた僕にいきなり話が振られたため、出てきたのは気の抜けたような声だった。

 

『あの生徒会長にダンスを教えて貰うことに賛成なのかってことよ』

 

そんな僕の声が気に障ったのか、いつもより若干冷たい声がかけられる。

それはともかくとして、僕は頭の中で情報を整理する。

 

(生徒会長に教えて貰えば、彼女たちのダンスのスキルアップができるのがメリットか)

 

このメリットはとてもでかい。

スキルアップができれば、今後の振り付けもさらにグレードを上げられて見栄えも良くなる。

 

(ただ、生徒会長によって部活ができない状況になる可能性もも否定できないな)

 

とはいえ、一番のデメリットはそこに尽きる。

ただでさえ彼女は邪気の塊と言っても過言ではない状態だ。

そんな人物を近づけるなど、自殺行為にも等しい。

でも

 

「賛成だ」

 

僕の出した結論は、いつもするであろう物とは真逆だった。

 

『香月、あんた本気なわけ?』

「もちろんだ。冗談でもそんなことは言いません」

 

そんな僕にかけられた矢澤さんの信じられないと言わんばかりの声にきっぱりと断言した。

 

「使える物は何だって利用する。たとえそれが気に入らない人でも」

『それで潰されたら意味ないでしょ』

 

先ほどよりもやや強い口調で矢澤さんは食い下がる。

きっと彼女の脳裏には、何らかのトラウマめいた物がよぎっているのかもしれない。

それが何なのかは一旦置いておくことにした。

 

「決してそのようなことはさせません。絶対に」

 

そんな矢澤先輩を安心させるべく僕も口調を強めて断言する。

 

『……どうなっても知らないわよ』

 

しばらくの沈黙の後に返ってきたのは、賛成の言葉だった。

 

「どうやら決まりのようだな。で、生徒会長にはいつ頼みに行くんだ?」

 

『明日の昼休みにしようかなって思ってる』

 

僕の疑問に答える高坂さんの言葉によって、決行日は明日の昼休みとなった。

 

 

 

「綾瀬絵里……か。ここまでうまくいくとは」

 

あれから少しばかり打ち合わせ(とは言っても、ほとんど雑談だったが)を行ってトークを終了した僕は、携帯を机の上に置き、閉めていたカーテンを開け窓から夜空を眺めていた。

今日はあいにくの空模様で、月が雲にすっぽりと隠れてしまっていた。

そんな夜空を見ながら考えていたのは、あの生徒会長のことだった。

放課後の練習の時、僕は生徒会長を彼女達にコーチとして関わりを持たせることを目論んでいた。

バレエの演技を見て、生徒会長ならば彼女達のスキルアップができると見込んでの物だった。

一瞬リスクのことが頭をよぎったが、何とかメンバー全員の意見を彼女をコーチとして迎え入れる方向に持っていくことができた。

全ては僕の狙い通りに進んでいる。

 

(何だろう、このモヤモヤした感じは)

 

だが、先ほどから感じている得体の知れぬ違和感が、喜びを相殺させている。

 

(彼女との接点が多すぎる)

 

最初の頃は、それほど接点がなかったので気にもしていなかったが、気がつくと生徒会長と僕達との接点は非常に多くなり始めていた。

それこそ彼女が今後の鍵を握る重要な人物であると言わんばかりに。

それが導く答えは一つしかなかった。

 

「どうやら、僕達は何者かの掌の上でうまく転がされていたようだ」

 

この状況を生み出した人物……さしずめ“脚本家“とも呼べる存在の仕業としか考えられない。

 

(誰かの掌で踊らされるのはいやだが、まあしばらくは身を任せてみるか)

 

他人に良いように踊らされるというのは非常に不愉快だが、僕では″生徒会長を利用してμ’sのスキルアップを行う″ということが思いつけなかった以上、このまま身を委ねておくのが最良であるのは言うまでもない。

 

(さて、どのように彼女を導くのか……お手並み拝見と行こうか)

 

僕は心の中で脚本家に向けて、そう呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだか緊張するね」

 

翌日の昼休み、僕達は生徒会室前に来ていた。

用件はもちろん生徒会長にダンスを教えてほしいという、ある種のスカウトのような物だ。

 

「別に中に悪魔やら魔王とかがいるんじゃないんだから」

 

まあ、ある意味鬼ではあるけど。

ちなみに、この場にはμ’sのメンバー全員がいるのだが、生徒会室前に立っているのは僕を含め、高坂さんと南さん、そして発案者でもある園田さんの4人のみである。

後の3名は少しばかり離れた階段と廊下の境目の角からこちらの様子をのぞき見ていた。

表向きは僕達が代表で話をするという理由だが、本当のところは、『怖い』だったり『面倒くさい』といった様々な理由によってそうなっているのだが、この際そのことはどうでも良いだろう。

 

「それじゃ、いくよ」

 

緊張の面持ちで、高坂さんは生徒会室のドアをノックした。

 

「………何の用かしら?」

 

来客者である僕達を見た瞬間、鋭い視線をこちらに向けながら用件を聞いてきた。

 

「あのっ……私達ダンスがうまくなりたいんです。なのでダンスを教えてくださいっ!」

「ダンスを?」

 

余程予想外だったのだろう、高坂さんのドストレートな言葉に、生徒会長は目を瞬かせていた。

 

「どうしてそれを私に?」

「それは……」

 

歯切れが悪い様子の高坂さんは、僕のほうに視線を送られる。

おそらく、理由をどのように言えば良いのかが分からなかったのだろう。

なにせ理由が理由だ。

下手に油を注ぐようなまねはしたくはなかったのだろう。

とは言え、このタイミングで振られてもどうしようもないので突っぱねようとしたが、時すでに遅く生徒会長の視線はこちらに向けられているのでもはや逃げることは不可能となってしまった。

 

(しかたがない)

 

軽く頭をひねりながら導き出した答えは

 

「あなたがそれにふさわしいからです」

 

というものだった。

自分で言っておいてあれだが、もう少しましな切り返し方にしておけば良かったと軽く後悔。

現に生徒会長は怪訝そうな表情を浮かべているし。

このままだとさらに深入りされるかもしれないので僕は畳みかけるべく口を開く。

 

「それでコーチの件は引き受けていただけるのですか? もしできないのでしたら無理にとは申しませんけどね」

「………」

 

僕のあからさまな挑発に、生徒会長は鋭い視線をこちらにぶつける。

もしこれが漫画などであれば、間違いなく僕と生徒会長の間で火花が飛び散っているだろう。

 

「相手を怒らせてどうするのです」

 

そして園田さんからはかるくとがめられてしまう始末だ。

 

「わかったわ。あなたたちの活動には全く受け入れられないけれど人気があるのは確かなようだし。そのかわり条件が二つあるわ」

 

一応形だけでも謝るべきかと思考を巡らせていると、それを遮るように生徒会長が口を開く。

 

(何だろう、ものすごく嫌な予感が)

 

条件のことを口にした際にこちらに向けられた視線に、何とも言いがたい不気味さを感じた僕は、どのような条件が出されるのかと、不安を募らせる。

 

「その条件とは?」

「まずは、私が満足のいくレベルになってもらうこと」

 

園田さんの問いかけに応える形で出された条件は、意外にもまともであった。

教わるのだからそこまでのレベルを求めていくのは当然のことだ。

逆に情熱めいた物まで感じ取れるので願ったり叶ったりの条件だ。

 

(これなら、例の件も大丈夫かもしれない)

 

生徒会長に課された残酷な運命も、もしかしたら変えることができるのかもしれない。

 

「そして最後の条件だけど……」

 

一度言葉を区切った生徒会長と、また視線が合う。

 

「この中の一人が、生徒会の仕事を手伝ってくれることよ」

「生徒会の仕事を」

「手伝う……ですか?」

 

生徒会長が出した、最後の条件の内容が想定外の物だったのか、首を傾げる。

 

「ええ。今、ちょっとした事情があって少しだけ仕事が立て込んでいる状況なの。そんな状態で私が生徒会の仕事をそっちのけにするなんて訳にもいかないし、誰か一人が手を貸してくれるのであれば引き受けることができるの」

 

そんな二人の様子に、生徒会長は補足したのだが、無性に嫌な予感がしてならない。

 

「でも、私達の中に手が空いている人なんて………あ」

「あ、香月君だ!」

 

やっぱりかと思い逃げだそうとしたが、どうやら手遅れだったようでその場にいる全員の視線が僕のほうに向けられていた。

 

「やってくれるわよね? 香月君」

「嫌だと言ったら?」

 

さすがに半分決定しているような状況で断ることはできないが、少しだけ興味があったので聞いてみることにした。

 

「この間、生徒会室で起こったことを──「ありがたく拝命しますっ!」──ふふ、これで契約成立ね」

 

脅迫すれすれのやり方で、条件承諾させて(まあ、最初から引き受けるつもりだったけど)満面の笑みを浮かべる生徒会長に、僕は恐怖心めいたものを感じずにはいられなかった。

 

「何のことだろう?」

「さあ、私にも分かりません」

「うーん、私も分からないかな」

 

とりあえず、今は事故とはいえ生徒会長を押し倒してしまったことがバレないでほしいということを、首を傾げる三人を見ながら切に願う僕だった。

 

(こんな風に笑えるんだ)

 

そんなことを思いながら、僕の生徒会の臨時の助っ人就任と引き替えに、生徒会長をコーチとして迎え入れるのであった。

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