ラブライブ!~たった一人の男子とスクールアイドル~(凍結) 作:TRcrant
第3話になります。
ようやく原作キャラが登場します。
途中で書いていた小説のデータが消えたときは挫折しそうになりましたが(汗)
高輔の去った理事長室。
「行ってしまいましたね」
「ええ。先ほどはお恥ずかしい場面をお見せしてしまって」
南理事長の言葉に相槌を打った高輔の父親、高月 宗次朗(たかつき そうじろう)は恥ずかしそうに頭を下げた。
「いえ。構いませんよ。なかなか素晴らしいお子様ですね」
「……まあ、私の息子ですから」
南理事長の称賛の言葉に、宗次朗は視線をそらしながらつぶやく。
「堂々としていて、物怖じしない性格は、確かに高月理事の息子であることを証明しています。それに本人は否定してましたが、性格はとてもよさそうに感じられました」
「あいつは、昔から自分をダメ人間だと思って修練をしていましたから。それに、口でどうこう言っても困っている人は放っておけないタイプですから」
息子を自慢する口調の宗次朗だが、その表情はあまり明るいものではなかった。
「だが、それによって、コミュニケーションの方が問題になってしまいましたが」
「ここでそれが解決できればいいのですが」
高輔の知らない場所で交わされていたやり取りを知る者は当人以外にはいない。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「はぁ。やっと出られた」
理事長室を後にして、そのまま校門の外まで出ることができた僕はため息をつく。
途中で迷いかけたのは、誰にも言わないと僕は心の中で決めた。
「さてと………」
僕は周囲を見回す。
運がいいことに周囲には人の姿は見当たらなかったので、僕はフードを脱いだ。
上着を脱げばいいのだが、手に抱えるのが面倒臭いので、着たままでいいだろう。
「亀沼が来る前に行こう」
運転手である亀沼は、頑固というわけではないがきっと歩いて帰るのに反対するだろう。
そして説得にもかなりの時間がかかることが予想できる。
なので、見つかる前にその場を立ち去ることにしたのだ。
「えっと……本家は神田方面だったから……こっちか」
そして僕は本家に向かって歩き出そうとした時、持っていた携帯が振動したので、立ち止まるとポケットから携帯電話を取り出した。
「っと、メールだ」
どうやらメールが届いたようで、僕はメールアプリを立ち上げて確認する。
「って、あいつか」
差出人を見た僕は、文面を確認する。
件名はなかったが、内容の文面は非常にわかりやすかった。
『今日発売のCDを予約したので、下のお店に受け取りに行ってください』
それがメールの文面だった。
「確かに研究用で見たいと言ったのは僕だが、無償で提供するとかぐらいしてくれてもいいんじゃないか?」
メールの相手に愚痴をこぼすが、当然相手には聞こえているはずもなく僕は指定されたお店がある、秋葉原方面に進路を変えるのであった。
「予約をしたって、初回限定盤かよ」
所定のお店に向かった僕は予約されていたCDを受け取り、代金を支払った。
そのCDは限定CDよりもさらに生産枚数の少ないA-RISEの初回限定盤CDだった。
「あいつら、絶対に売り上げを上げようとしてるよな。確実に」
(まあ、何だか握手会への参加券があるみたいだし、いいか)
A-RISEとは、UTX学院のスクールアイドルだ。
歌やダンスなどが非常に優れており、その美貌からファンの数は非常に多い。
UTX学院に魅力を感じられた要因が、このスクールアイドルであった。
彼女たちは学院の名前を背負い、活動をしている。
その一番の特徴は、オーディションによって選ぶこと。
毎年開かれるオーディションで、優秀な者3名をA-RISEに加えるのだ。
よって、毎年メンバーは異なる。
ちなみに、現在の3名は入学当初からオーディションで常に上位に食い込んでいるため今年はメンバー変更等はなかったはずだ。
UTXでは前代未聞なんだとか。
閑話休題。
そのA-RISEの初回限定盤CDを僕は0.9万円で手に入れることができた。
別に、ファンとかではないのでそれほどくないが。
「さて、手に入れる物は手に入れたんだし帰るか」
徐々に暗くなり始めようとする秋葉原の街を見ていた僕は、本家に戻るべく踵を返そうとしたところで
「ねぇねぇ、いいじゃんかよ」
「だから、結構って言ってるにゃ!」
どこからか争う声が聞こえた。
僕は少し気になったので、声の方に視線を向けた。
そこには金髪のチャラそうな男二名に絡まれている黄色っぽい茶色の髪を右斜めに分けた髪形の少女と、オレンジ色のショートヘアーの少女の姿があった。
どう見ても、嫌がっているのは明らか。
(ここは無視した方がこちらの安全は確実なんだろうけど……)
そんなことができない性分のため、僕は彼女たちの方に向かって歩いた。
「いいじゃねえかよ」
「は、離してッ」
相手が行動を起こしても対処の出来る射程距離に入った時には男たちの行為はエスカレートして茶色の髪の少女の腕をつかんで強引に連れて行こうとしていた。
「おい、お前ら」
「あん?」
僕は声を掛けると、男たちは鬱陶しそうな表情を隠すことなくこちらに振り向いた。
「あんだ、てめえ?」
「その子は、君の友達か何かか?」
念のために、僕は確認を取った。
もしかしたら少しだけ乱暴な性格の知人の可能性だってある。
知人であれば、僕はそのまま帰るつもりだった。
「ンなこと、おめえには関係ねえだろ」
「…………お前たちはどうだ? 知り合いか何かか?」
「ち、違います」
男の返答にもなっていない返答に、声を掛けられていた少女たちに尋ねると茶色の髪の少女がか細い声ではあるが答えてくれた。
とはいえ、声は良く聞こえてはいなかったが、首を横に振っていたので、まず間違いないだろう。
「なるほど、知人ではないということは分かった」
そこで息を一つ吐き出す。
(ナンパ野郎というのは絶滅しかけているから希少なんだろうけど)
それとこれとは全く関係がない。
「知人でもない少女が嫌がるにもかかわらず、しつこく言い寄りあまつさえ強引に連れて行こうとするなど言語道断。天が許そうとこの私が許さない」
「何わけのわからねえことをごちゃごちゃと―――」
とうとうかんしゃくを起こしたのか、男の一人がこちらに向かって拳を振り下ろそうとかけてくる。
それを躱すことなく、僕は右手を前に掲げると手を軽く右斜め下の方向に動かした。
「がっ!?」
「は?!」
その瞬間、まるで男は払われたような形で地面を転がった。
もちろんだが、僕は男には一切手を触れていない。
「このガキ。何を―――ごふっ!」
今度は上から押さえつけるように手を動かす。
「なんだ、これは……立てねえ」
それだけで、まるで押さえつけられているように立ち上がることができない。
「目には見えない力で、押さえているだけ。気功術もどきだよ。厳密には違うけど」
高月家はもともと『神田明神』という神社の神主の家系だったため、そう言った力は昔から強いのだ。
今は別の側面の方が強くなっているので、そう言ったイメージはないが。
さらに言うと、その別の方が多忙となり神主としての仕事を満足にこなせていないというのもある。
「んのやろっ!」
「あーぁ、出しちゃった」
激情した男の一人が刃物を取り出すとこっちに向かって突進してくる。
周りからは悲鳴のようなものが聞こえるが、僕は冷静だった。
先ほどかったA-RISEの初回限定盤CDの入ったお店の袋を男の前に掲げる。
「なっ!? くそ!」
ナイフと袋がぶつかった瞬間、嫌な音が聞こえた。
(こりゃ、CDはあきらめたほうがいいかな)
僕は心の中で苦笑する。
「糞ガキがぁっ!!」
「はぁっ!」
気が反れたために、地面に這いつくばっていた男が立ち上がり、同じくナイフを取り出してこっちに向かってくる。
それを僕は右手を払う。
「はっ?!」
甲高い音と共に折れたナイフを見た男の動きが止まった。
「この私にナイフを向ける度胸は認めよう」
「ぎっ!?」
僕は袋を右手に持ち変えると男の腕をつかんだ。
「ならば、こちらもお相手しようか? 文字通り、”全力”で」
「ひぃっ!?」
僕が睨み付けただけで、折れたナイフを投げ捨てて男は仲間を見捨てて逃げて行った。
「腑抜けが。さあ、どうしてほしい? ためしに腕の骨を折ってあげようか?」
「ぁ……が」
さらに握る力を強めると、男の顔が苦痛にゆがむ。
「選べ。このままおとなしく帰るか、それとも首の骨を折られるかを」
「か、帰る! 帰るから!!」
男の返答を聞いた僕は、掴んでいた腕を話した。
すると、そのまま逃げるように走り去っていくのであった。
「ふぅ。一件落着」
「あ、あの……」
逃げ去る男の姿を見送っていると、後ろの方から少女の声が聞こえた。
(あー、そう言えばまだ問題が残ってたよね)
会話をするくらいはいいのだが、いかんせん間が悪い。
急いで家に戻らないと、父さんが何かあったと勘違いして捜索隊を出動させかねないのだ。
「積もる話もあるとは思うが、こっちも急いでいるんだ。だから、申し訳ないけれど」
僕はポケットからフラッシュを取り出すと、二人の方に振り向いた。
「きゃ!?」
「にゃ!?」
そしてフラッシュを二人に向けて焚くことで二人に目を閉じさせる。
その隙を狙って、僕は先ほど見つけたビルとビルの隙間に身を滑らせると、そのまま走っていく。
後は無我夢中だった。
とにかく、追いかけられていると仮定してそれを振り切るように走っていく。
どのくらい走っただろうか、気づけば大きな通りに戻っていた。
「よし……ここまでくればいいかな」
念のために周囲を見渡すが、先ほどの少女たちの姿は見当たらなかった。
追いかけられてもいなかったことに、ほっと胸をなでおろす。
(二人の少女には悪いことをしたけれど、これも僕の平和のため)
ただでさえ目立っているのに、話をしていたらどんな拍子で自分に関することを話すかがわからない。
だからこそ逃げたのだ。
「とにかく、行くか」
そして僕は今度こそ本家に戻るべく僕は秋葉原の街を後にするのであった。
「暗くなってきたな」
季節的にもまだまだ昼が短いので仕方がないが、暗くなると少しだけ気分が落ち込んでしまうものだ。
尤も、一番落ち込む理由は
「どこにあるんだ!」
今現在絶賛迷子中であることだろう。
事の発端は、『神田明神』の前までやってきた時のことだった。
「あ、そうだ。ここでバイトをしてくれている巫女の人にお礼をしよう」
そんなことを思い出したことで始まった。
神主の役割がまともにこなせなくなってしまい、このままではまずいということで最低限のことをしてくれるバイトを募集したところ、一人気丈にも応募してくれたので採用となったらしい。
現在では数人の巫女が神社で活動をしている。
僕はその人たちにお礼をすることにした。
(やっぱり神社だから和菓子かな)
和菓子となれば、どこかのお店で買う必要がある。
初回限定盤CDという予想外の大出費はしたが、まだまだ手持ちに余裕はある。
問題は、和菓子屋がどこにあるのかということだ。
スーパーは論外。
こういうのはやはり、ちゃんとした和菓子専門店の方がいいのだ。
近年は便利になった物だ。
携帯電話に土地名と関連する単語を入力して検索をすれば、知りたい情報を入手できるのだから。
僕は和菓子屋である『穂むら』へと向かうことにしたところまでは良かった。
そこから迷いに迷って今に至る。
そもそも、神田にいたのは小さいころだけだ。
土地勘があったとしても、すっかり忘れている。
坂道を上っては降りて、とにかくひたすら歩き続けた。
その結果……
「本当にあった」
僕の目の前にはいかにも”老舗”といった雰囲気に包まれているお店があった。
名前は『穂むら』で、間違いはない。
口コミによれば、ここの和菓子はとてもおいしいとのこと。
(よしっ)
僕は気合を入れて入口の戸を開いた。
ガラガラと音を立てながら戸が開く。
「ごめんください」
「あ、いらっしゃいませー」
声を掛けると、正面のカウンター内で作業をしていた明るい茶色っぽい色の髪をした人が応じた。
(同い年くらいだし、もしかしたら手伝いかな?)
親孝行だなと思いながら、僕は引き戸を閉めて中に足を踏み入れる。
中は和風な作りで、和菓子店としての雰囲気をさらに引き立てていた。
「うーん」
次に迷うのは、どれを買えばいいかだ。
ここには色々な和菓子がある。
お団子やらお饅頭やら。
何を選べばいいか悩んでしまう。
(そうだ。ここの人のおススメにしよう)
和菓子屋の店員なのだから、おススメを聞いた方が早いし確実だろう。
「すみません、ここのおすすめの和菓子ってなんですか?」
「え!? えっとですね………」
僕の問いかけに、少女は驚いた表情を浮かべるがすぐに考え込み始める。
それから40秒、2分と時間が過ぎていく。
(あんたが悩んでどうする!)
と突っ込むわけにもいかず、だがこのままだと小一時間は待たされそうな気がしてきた。
「あー、えっと……これでいいです」
結局5分ほど経って、僕はお団子を選んだ。
「あ、すみません」
「大丈夫なので、これを3セットください」
「はい、畏まりました」
何とか和菓子を見繕うことができた。
「ありがとうございました」
「何とか買えた」
目的は無事にこなせたが、店員が悩むというのはいかがなものなのだろうか?
何だか心配になってきた。
(まあ、いいか。関係もないだろうし)
そして僕はもう一度神田明神へと向かって歩き出す。
「誰かまだ残ってるかな?」
そんな不安を抱きながら。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「いけないいけない」
うちは、少し慌てていた。
「財布を忘れてしまうなんて」
いつものバイトを終えて帰っていたうちは、途中で財布をバイト先で忘れていることに気付いたからだ。
それだけならば、特に慌てる必要はない。
他に理由があった。
「あそこ、夜になるとめっちゃ、恐ろしいんよ」
朝の内は大丈夫なんが、日が暮れると神社自体が全く別の恐ろしい場所変わるのだ。
何となくではあるが、そのことに気付いたうちは日が暮れる前に神社につきたかったのだが、結局日が暮れてしまい、でも、お財布は大事なものなので取りにいかないわけにもいかず、急いでいたのだ。
「…………よし」
いよいよ問題の『神田明神』につながる階段に足を踏み入れた。
「あれ?」
だが、うちはおかしな感覚を感じた。
なんというか、今までは階段を上がっていく度に重い雰囲気がすぐにうちに襲ってきていたのが、まるで嘘のように感じられなかったのだ。
(なんで?)
そんな疑問がうちの中で渦巻く。
やがて、階段を登り切り本殿の方に視線を向けたうちは、それを見つけた。
御神木に手を当てている人影を。
「そこの人、それはとても大切な御神木やから、いたずらしたらあかんよ」
うちは、その人影に注意をするべく声を掛けた。
「………いたずらではない」
うちの言葉に手を当てていた人はそう答えた。
声からして、男の人やろか。
その時、月の光が周囲を照らし出した。
そしてうちが見たのは黒いフードをかぶっている不審な男の人やった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「あちゃー、やっぱりいないか」
すっかり日も暮れ、人の気がなくなった神社を前に、額に手をやった。
やはり迷子になったのがかなり大きかったようだ。
「仕方がない。お土産は明日の朝に渡すと……ん?」
諦めて踵を返そうとした僕は、吹き付ける風に首をかしげる。
その風が妙に気になった僕は、フードをかぶり顔を隠すと御神木へと歩み寄る。
そして、静かに手を木の幹にあてた。
「ッ!」
すぐにあの懐かしい感覚が僕を襲う。
昔、遊び半分で御神木に触った時と同じ感覚が。
(なにこれ)
感じたのは淀んだ空気だった。
それは一種の感覚のようなものだった。
僕がいま感じているのは、この神社がフォローする土地に流れる力の通り道である地脈の異常だった。
(これは、サボりすぎたかな)
僕には昔からこういった人とは違う力がある。
幽霊も見ようと思えば見えるし、話もできる。
これも、人づきあいが悪い要因の一つだったりする。
小学生のころ、このことでよく”ペテン師”やら、”変人”等と言われたものだ。
それは当時の僕にとっては”見えることが普通”だったため、とてもショックで、周りにいる人が怖く感じた。
考えてみればおかしな話だ。
幽霊よりも生きている人が怖いだなんて。
今では少しはましになった方だが。
ちなみに、僕は慶介にすらこのことを言ってはいない。
閑話休題。
(このまま放置するのはダメだし)
現在、この神社の敷地は負のものを呼び込む危険地帯と化している。
まだ神様を祭っているのでぎりぎりのラインでもってはいるが、これ以上悪化すればそれもどうなるかわかったものではない。
本来神社は聖なる場所とされ、負のものが入ることはできない場所のはずが、逆に呼び込んでしまうという最悪な状態だ。
このままではここに訪れた人たちに不幸をもたらしたり、最悪の場合は憑り殺される等の悪影響が発生する可能性がある。
現に、日が沈んだ今周辺の空気が重いのが証拠だ。
今こそ、神主の家系である僕の出番だ。
(よし、やりますか)
僕はこの状態を改善するべく行動を起こすことにした。
先ほどから御神木に当てている手に自分の中にある熱を集め、それを御神木に注ぎ込むようなイメージをする。
これは地脈の浄化という行為らしく、本家の蔵にあるのを小さな頃に読んだことがある。
これで地脈の穢れを取り除くのだ。
ただ、この浄化はかなりの時間を有する。
この神社のフォローをしている区画だと、24時間休まずにやって3か月はかかるだろう。
まず不可能だった。
なので、適度な場所で止めて、毎日浄化をしていくしかない。
(このくらいでいいかな)
「そこの人、それはとても大切な御神木やから、いたずらしたらあかんよ」
大体ではあるが浄化をひと段落した時、ほんわかとした口調の女性の声が聞こえた。
「………いたずらではない」
御神木から手を放しながら、僕は女性の方に振り向くと言い返した。
まだ薄暗く、女性の顔は良く見えなかった。
だが、月の光が僕たちを照らし出したことで、顔の方が見えてきた。
黒っぽい髪を両サイドで結んでいる女性だった。
口調と同じく包容力はかなりありそうだった。
どこがとは言わないが。
「一体ここで何をされていたんです?」
「少し確認したいことがあったので、それをしていただけです」
僕の返答に、女性は訝しむような視線を送る。
「……私は、ここで巫女をしとる者です」
「これはどうもご丁寧に。私は高月と申します」
女性の自己紹介に、私は苗字を口にした。
ここの神社の巫女ならば、これだけで通じるはずだ。
「っ! 神主さん?!」
思ったとおり、ちゃんと通じたようだ。
「こっちに戻ってきたので、ご挨拶をしようと思ったのですが、道に迷ってしまい遅くなってしまいました。明日からこちらに戻る旨、ほかの巫女さんにお伝えしていただいてよろしいですか?」
「あ、はい」
名前を告げなくても、これだけの効果があるというのはある意味すごいものだった。
僕の申し出に先ほどまで訝しんでいた女性が、二つ返事で相槌を打つのだから。
「あ、これつまらないものですが、どうぞ。他の巫女さんと食べてください」
「ご丁寧にどうもありがとうございます」
とりあえず女性に先ほど和菓子屋『穂むら』で購入したお団子を手渡すとお礼を言われたので首を横に振った。
「いえ、これでも足りないぐらい、貴女方には感謝しております。それでは、またご縁があれば」
そう告げると、僕は彼女の横をすり抜けて階段を下りた。
(ここまでくれば家まであとちょっと。がんばろー)
僕は自分にそう言い聞かせるようにつぶやくと、本家の方へと向かうのであった。