ラブライブ!~たった一人の男子とスクールアイドル~(凍結) 作:TRcrant
お待たせしました。
第6話になります。
ようやくライブの話に入ります。
「行ってきます!」
朝、いつものように高月家を飛び出す。
服装はジャージ。
なぜならば、ランニングをするからだ。
ちなみに、CDは少し前に高坂さんの家に放り込んでおいたので、問題はない。
今頃はちゃんと彼女の手に渡っているだろう。
この姿で学院に行くようなまねはしない。
毎朝のランニングはこのジャージで行っている。
肩にはバッグの紐をかけている。
バッグの中身はただの服だ。
(やっぱり朝早いと人通りもないな)
そんなことを思いながら、僕は住宅街を走っていく。
最初は下り坂だが、十字路を右に折れると徐々に上り坂になってくる。
それが神社の裏口に通じる道であることの証だった。
(今日も快調だ)
まだここにきて二回目のランニング。
それでも、体力は衰えていなかったことに、僕は安堵する。
(前の学校では怠けてはいなかったけど、ここまで集中したトレーニングはできなかったからね)
ある意味ここに来てから僕は、いい方向に充実しているような気がする。
(父さんの思い通りになっているのはあれだけど)
そんなことを思っていると、目的地である『神田明神』にたどり着いた。
僕は社の下の部分にできた隙間に身を隠すと素早く持ってきたバックからフードつきの服を取り出す。
それは、僕が高月家の物であることを示す服で、礼装と呼ばれている物だった。
僕は礼装を身に纏うと、バッグをそのままに社の下から出て御神木に向かう。
「すぅ……はぁ……」
そして僕は一回深呼吸をすると、御神木に右手を触れる。
そして目を閉じる。
その瞬間、脳裏に地脈の状態が伝わってくる。
僕は手に意識を集中して浄化を進めていく。
浄化の速度は大体自分でも知っているので、時間は大よそではあるが把握できている。
(この神社の記録だと、一番早い巫女がここにやってくるまでの時間は30分。着替えたりする時間を加味すれば20分が安全なラインかな)
そんなことを考えながら、浄化を進めていく。
そしてある程度進めたところで、意識をゆっくりと左手の方に移していく。
それが浄化終了の合図だった。
先ほどまで消えていた音は、今では嘘のように戻っていた。
(さて、早く着替えよう)
僕は再び先ほど身を隠した社の隙間に身を隠すと、礼装を脱いでバッグに仕舞った。
そしてすぐさま社の下から出る。
(人の気配はなし)
周囲を見渡してみるが、人の姿は一切見当たらない。
どうやらうまくいったみたいだ。
「あとは帰るだけなんだけど……」
ふと御神木のことが気になった。
(ちょっとだけ。本当にちょっとだけ)
僕はそう自分に言い聞かせながら、御神木に手を触れた。
「そこの人」
「ッ!?」
そんな時、突然横から声を掛けられた僕は慌ててその場から離れた。
声のした方を見ると巫女服に身を包む、長い紺色の髪を後ろに束ねている巫女の人がいた。
「その木はとっても大事な木やから、いたずらしたらあかんよ」
「すみません。この木にもお願い事をしようと思って、どうせするなら触りながらした方がいいかなって思ったので」
関西弁で注意する巫女の人の注意に、僕は平謝りをしながら釈明した。
はっきり言ってかなり無理があったが。
「今後は気を付けますので。それじゃ」
「ちょっと待ち」
そそくさと退散しようとする僕を、呼び止めるように巫女の人は声を掛けた。
「じー……」
「あ、あの?」
振り向くと目を細めて僕の顔を見てくる巫女の人に、僕は何とも言えない居心地の悪さを覚えた。
それは恥ずかしいというものではなく、自分の心を見られているような気がしたからだ。
「見えた」
そうつぶやくや否や、巫女の人は突然ポケットから二枚のカードを取り出した。
一枚は二人の人物の姿が描かれたカード、もう一枚が月が描かれているカードだった。
それらのカードには心当たりがあった。
「”恋人”と”月”」
「お、知っとるん?」
「ええ。少しですが」
カードの名前を口にした僕に巫女の人はきょとんとした様子で聞いてきたので、誤魔化した。
「この”月”のカードは君の本質を現すんよ。そして、このカードの意味は秘密や不安なんや」
(確かに、的を得てる)
それはきっと高月のことを指しているのだろう。
「そして、この”恋人”のカードが君の運命。このカードには恋愛や結婚とかもそうやけど、”選択”の意味もあるんや。君は何らかの大きな選択をすることになる。そうカードが言っとるんよ」
「…………」
カードが伝えたい本当のことを考えてみる。
僕に迫っている選択。
(そんなの、一つしかない)
そう、それしかありえなかった。
「ありがとうございます。今後の参考にします」
「頑張ってな」
今度はあっさりと巫女の人は解放してくれた。
(にしてもタロット占いか)
随分と懐かしいものだ。
僕も昔はよくタロット占いをしていたし、カードも持ち歩いていた。
だが、あることが原因で僕はそれを封印してきた。
(しかし、見ただけでその人の象徴カードを導き出すなんて。ものすごい力の持ち主だ)
先ほどの巫女の人は、僕の顔を見ただけで将来に起こることを示したばかりか、僕を現す象徴カードを見事に当てて見せたのだ。
時間がかかりすぎだが、これはかなりの力の持ち主であることは間違いなかった。
「これは、一度ちゃんと話をした方がいいかもしれないな」
それは普通の一般人としてではなく、高月家の者として。
そんなことを思いながら、僕は自宅に向けて走りこむのであった。
放課後、ついに運命の時を迎えた。
この後、スクールアイドル"μ's"の初ライブが行動で開かれるのだ。
現在の時刻、15時30分。
時間まで30分を切っていた。
そんな中、僕は講堂の方に向かっていた。
「やっぱり広いな」
講堂に入った僕は、周辺を見渡してつぶやいた。
新入生歓迎会で一度来たことはあるので今更ではあるが、改めてみると広いということを実感できる。
(さて、いったいどのくらいの人が来ることになるのやら……)
気にするところはそこだった。
ライブをやるのだから、見に来る人がいなければ意味がない。
僕を頭数に入れないで、約10人ほどの観客は欲しいところだった。
「よし、ここと反対側と正面に設置するか」
僕がやるのはカメラの取り付けだ。
これにはちゃんとした理由がある。
(本決まりになったら撮影した映像をPV風に加工して投稿サイトにアップしよう)
近年、何事も情報戦。
特にネットの方での活動をしっかりしておいた方が、人気が出やすくなる傾向にあるのだ。
もちろん、ネットだけではなく一般の人が見るテレビや雑誌なども活用するとかなり効率的だ。
僕はステージ全体が映る両端にカメラをセットし、さらにステージの正面にもう一台カメラを設置した。
それぞれのカメラに、ライブの開始時刻3分前に自動で録画を始めるようにタイマーをセットすることも忘れない。
「さて、放送室に行くか」
全てのカメラの設置を完了させた僕は、次のプランに写ることにした。
生徒会長の挨拶でマイクを使っていたということは、そう言う設備があるということになる。
出るときに講堂をざっと見たとき、ステージの反対側の窓に人の姿が見えたのでおそらくそこが放送室のはずだ。
「問題はどうやって行くか……とりあえずステージに上がってみるか」
上がれば何かがわかるかもしれないと思い、僕はステージに上がった。
そして周辺を見渡す。
「舞台袖に通路があったりして」
そう思った僕は、舞台袖の方に歩いていく。
「暗いな」
思わず口に出してしまったが、うっすらとではあるがそれらしき通路を見つけた。
明かりがついていないが、どうすれば明かりがつくのかがわからないので手探りで通路を進んでいく。
「むっ!?」
進んだ先で道が二手に分かれていた。
「右か左か……」
何だか軽く迷路みたいな感じになっているが、ふと左を見ると出入り口であることを示すマークの看板の明かりがあった。
「右だ」
即座に右へと進んだ僕はドアにたどり着いた。
「……よし」
覚悟を決めた僕は、ドアノブに手を伸ばすとゆっくりとドアを開いた。
「って、外に出ただけ!?」
そこは講堂前の廊下だった。
どうやら僕は廊下に出るための通路を通っていたようだ。
「放送室はいったい何処に?」
結局振り出しとなってしまった僕は、探索をすることにしたのであった。
「結局、入口の階段を上がればよかったのか」
「そうだけど、一体どこを歩いてたの?」
しばらくしてようやくたどり着いた講堂の放送室にいた赤毛の女子学生が尋ねてきた。
別に親しいわけでもなく、ただ『ここが放送室で間違いないか』と聞いたら向こうが”そうだ”と答えて、そこから話が始まっただけだ。
慶介の言うとおり、話しかければ後は向こうから話題を振って来てくれた。
「ステージの舞台袖を歩いて表の廊下に出た」
「あそこって紛らわしいからね」
女子学生は苦笑しながらそう相槌を打った。
「それで、一体何の用?」
「今日ライブで使う音源を聞かせてほしいんだ。確認したいことがあるから」
女子学生の問いかけに、僕は直球で用件を告げた。
僕がここに来たのは自分で作成した音源の最終確認のためだ。
大丈夫だとは思うがもし何がしらかのミスをしていれば、すぐに修正する必要がある。
その方法は少し常識から逸脱はするが。
「別にいいけど……」
女子学生は訝しむように僕を見ると、放送室の設備を操作し始めた。
「それじゃ、行くよ」
そして流れ始めたイントロ。
ピアノのソロから始まり、一気に音が膨れ上がる。
……のだが。
「……………ごめん。もういいです」
とんでもないミスに気が付いた。
「悪いんだけど、マイクの音ラインを増やしてもらっていいかな?」
「え? どうして?」
「音源にギターのパートが入ってない。これだと曲自体に刺激が少ない」
それは、ギターパートのアレンジミスだった。
この曲のアレンジをした際に、所属している事務所のアイドルグループ用のアレンジもしていたためそれと混合したのが原因だろう。
あそこでは僕はステージで実際に生演奏をするスタイルにしているので、ギターパートを入れる必要はない。
でも、ここは違う。
そんなミスに、僕の打ち出す手は一つしかなかった。
「ラインは大丈夫だけど、何をする気?」
「ステージで演奏する」
今まで通り、生演奏をするという手しか。
「このマイクとスタンド、借りるよ。音の方ヲお願い!」
「わ、わかった!」
何とか勢いで押し切った僕は、コードレスマイクとマイクスタンド手に放送室を飛び出した。
そしてそれらをステージの端の方においておき、
先ほど偶々見つけた舞台袖の抜け道を利用して、正面の出入り口を通らずに外へと飛び出した僕は、楽器を取りに走るのであった。
「おかえりな―――「ごめん、危ないから出てこないで!!」―――せ?」
何とか10分で自宅に到着した僕は、出迎えに出ようとした家政婦の人に呼び掛けると、そのまま自室へと駆けていく。
「えっと、ギターとアンプは……あった!!」
ギターケースにしまっておいた状態だったのが幸いし、目的の物はすぐに手に入った。
「時間は………あと15時51分!?」
時計を確認した僕は、その残り時間に目を瞬かせた。
初ライブ開催の時間は16時。
つまり、残り時間は9分ということになる。
(片道10分だったから、どう考えても間に合わない)
これはかなりまずいのではないだろうか?
「だぁっ! 悩むより走る! 何とかなる、絶対大丈夫!」
自分に言い聞かせるように叫んだ僕は、確実にいらない鞄を投げ捨ててギターケースを背負うとアンプを両手で抱えて自宅を飛び出した。
「うぉぉぉぉぉ!!! ベストを尽くせ―!」
完全に体育会系のノリだが、そんなことを考えずに僕はがむしゃらに走った。
「到着!!!」
「うわ!?」
「きゃあ!?」
「な、何事ですか?!」
大声を上げて舞台に到着した僕に、驚きをあらわにするのはこのライブの主役でもある高坂さんたちだった。
時刻は15時58分。
何とか間に合わせることができた。
「こ、香月君?」
「来てくれたんだね!」
「あの、そっちじゃなくて向こうの方に」
突然現れた僕に首をかしげる高坂さんに、喜びの声を上げる南さん、そしてやんわりと出て行けと注意をする園田さん。
まったくもってばらばらの反応だった。
「待って……息を……整える……から」
事情を説明したかったが、全力疾走していたために完全に息を切らしていた僕は、少しだけ待ってもらって深呼吸をすることで落ち着かせた。
「ここにいるのは簡単に言うとみんなが歌う曲が、とても不完全な状態だったがら、修正をするためにここに来たんだ」
「えっと……どういう意味ですか?」
分からないと言った表情で首をかしげる園田さんに、僕は時計を見る。
時刻は15時59分10秒。
時間は残り50秒しかない。
「一回しか言わない。ギターパートが抜けていて曲に対する刺激がないから、ここで演奏をして緊急で付け加える。もちろん、三人のライブの邪魔にならないようにこの位置でするから安心して」
「香月君、さっぱりわからな――――」
時間がないので噛み砕かずに言ったために、首をかしげている高坂さんたちに、開始を告げるブザー音が鳴り響いた。
「えっと、それじゃ、お願い!」
「任せて」
ギターのセッティングはすでに完了済み。
チューニングができていないが、もうすることもできず勘で音を鳴らさずにすることにした。
事務所の人が聞いたら雷どころでは済まない手段だけど。
(それにしても、この幕が開いた瞬間どうなるか……心苦しくはあるけど見せてもらうよ)
幕の向こう側の状態を見たわけではないが大よその見当はついていた僕は、幕の方に一列で立つ彼女たちの方へと視線を向けた。
そんな中、閉まっていた幕がゆっくりと横に開き始めた。
そして幕が完全に開いた時に見えた観客席には
「………え?」
人の姿は全くなかった。
次回はちょっとばかりアンチ色が強くなると思いますので、ご注意ください。
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