お見合い相手が「高町なのは」だった件。   作:世嗣

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高町なのはと恋人になるかならないかの関係でうだもだしたいって話。


名前を呼ばなくても君は恋人

 

 

 

 『高町なのは』。時空管理局航空部隊のエースオブエース。

 誰もが知る有名人。時空管理局の顔であり、あと若くて美人で優しい。

 まあ新人どもを鍛える教導隊では容赦なく砲撃魔法をぶち込んだり、涼しい顔して生え抜きのエース候補たちの足腰立たなくなるくらいのエッグい基礎練やらせるくらいには厳しいらしいのだが、それでも悪評は立たず誰もが口をそろえて「高町なのはは良い人だ」って言うのだから、彼女の人の良さは恐らく筋金入りなのだろう。鉄筋コンクリートのビル並みに。たぶん地震とかにも強い。

 

 そういう人々の羨望を一身に受ける高町なのはも今年で22歳らしいのだが、特に恋人などはいないらしい。モテないわけではないだろうに何か理由でもあるのだろうか。

 

 ……いやまあ、正直他人のことだからどうでもいいんだけどさ。

 

 なんで俺がこんなことを考えているのかっていうとさ、うん。

 

「じゃああとはお若い二人で仲良くね。頑張って、なのはちゃん」

 

「あはは、はい……」

 

 いま俺の向かい側のお見合いの席にいるのがその『高町なのは』だからなんだよね。なんでこうなってんの? 

 

 まあとりあえず二人になったので話でも―――うん? 

 高町なのはが急に立ち上がった。どうしました? 

 

「すみません! 私あなたとは結婚はできません!!」

 

 Oh……お見合いに来たと思ったら爆速で振られたんだが。

 

 

 

 

 

 

名前を呼ばなくても君は恋人

 

 

 

 

 

 

 お見合いに来たら爆速で振られた。こんなことある? 

 

「……」

 

「……」

 

 テーブルをはさんで向き合う俺と高町なのは。

 お互いの手元にはここに来た時に頼んだからもうぬるくなった飲み物だけ。

 

 最初に「結婚できません!」と宣言した高町なのははしばらく石化したかのように固まっていたが、しばらくすると電源が切れたロボットみたいにすとんと椅子に座った。石だったりロボットだったり忙しい人だ。

 

 俺は何かを話す前に爆速で振られてしまったわけなんですが、それでもお見合いは終わらない。どっちも何も話せてないからね。

 これたぶんしょっぱなで俺を振った高町なのはもどうしていいかわからなくなっちゃってるな。明らかに「段取り間違えちゃった……」って顔してるし。

 

 まあとりあえず適当になんか話題を振っておくか。

 

「あー、ぬるいですね。コーヒーおかわりとかします?」

 

「あ、いえ。大丈夫です。ぬるいのも、うん、美味しいですし」

 

「確かに中身が残ってるなら飲まなきゃですよね。ははは」

 

「ですねー……」

 

「……」

 

「……」

 

 会話、終了―――。

 

 空気が死んでんだが? 

 

 オイ誰だこんな状況にしたの。俺か? 俺だな。俺しかいませんね。この死んだ空気で何話すんだよ。

 ほらもう高町なのはもどうしていいかわからず意味もなくコーヒーカップの中見つめたりしちゃってるから。

 

 いやもうこうなると暇つぶしに相手の顔を見るしかなくなる。

 うーん、マジで美人だな。

 仕事の都合上で見かけたことはあったけどさすがにしっかり顔の見える距離は初めてだ。

 普段と違って結ばずおろした栗色の髪はさらさらだし、目は宝石みたいに澄んでいて、肌だって外でひよっこ局員とばかすか撃ち合ってるのがウソみたいにきれいだ。

 俺よりも二歳下なはずだがずいぶん大人びて見える。

 

 ん? なんかこっち見てる? 

 

「あの、失礼ですが……アルファード・クラウン二佐ですよね。機動五課の」

 

 おっと。

 

「すみません、ご挨拶してませんでしたか。はじめまして、アルファード・E・クラウンです。今日はよろしくお願いします、高町なのは一等空尉」

 

「あ、いえご挨拶はしてもらいました! す、すみません、上官に頭を下げさせて」

 

「やめてください。今はプライベートなんですから。

 あまり固くならないでくれるとこっちも助かります」

 

 あわあわと口を動かす高町空尉。さっきまで大人っぽく見えたがこうしてみるとなんか若々しいっていうよりも幼さも感じるな。顔が童顔気味なのもあるかもしれないが。

 

「それにしても、あの高町一尉に覚えてもらっていたなんて光栄ですね。俺、裏方なのであまり関わったことはなかったように思うんですが」

 

「以前はやてちゃん……八神二佐とJS事件の色々で伺ったときに」

 

「ああ、そういえば機動五課(ウチ)に捜査協力の打診に来てましたね」

 

 八神二佐、八神はやて。もう解散したJS事件を収束させた奇跡の部隊「機動六課」の部隊長。

 確かに言われてみれば高町一尉は彼女と二人で俺の所属する機動五課に捜査協力の打診に来た記憶はある。けどすぐに対応は部隊長に引き継いだから俺は挨拶もしてない気もするんだが……。

 

「あれ、もう三年は前のことでしょう? よく覚えてましたね」

 

「あはは、五課の部隊長さんがしてくれた紹介が面白くて」

 

「紹介、ですか?」

 

 なんだろう、仕事ができて眼鏡が似合うクールガイとか? 

 

「『どうもはじめまして。実はウチには週8出勤してくる職場の番人みたいになっているモンスターがいて、それがあの地獄の底から蘇ったのを疑うくらいのエッグイ隈をこさえたやつです』、って」

 

「初対面の人間に何の説明してんだよ……!」

 

 なんでいきなり場をあっためるジョークに自分の補佐いじってんだ。よしんば弄るとしてもさきに自分の紹介してくれや。

 

「すみませんね。ウチの部隊長いい人なんですけど、なんかゆるい人で……いやもう三年前のことを今謝ってどうするんだっていう気もしますが……」

 

「にゃはは、気にしないでください。そのおかげでこうしていまアルファードさんのことを覚えておけたんですから」

 

「にゃ?」

 

「あっ、えと、忘れてください。ちょ、ちょっと噛んじゃっただけなので」

 

「そうですか。言い間違いはだれでもありますからね」

 

「は、はいそうです。さすがに私も大人なので、そういう笑い方はしないです」

 

 ふうん……。

 

「ところで、高町一尉、にゃに飲みますかにゃ」

 

「あ、アルファード二佐?」

 

「おっと失礼噛みました。こんにゃことあるんですね」

 

「あ、あの」

 

「にゃんてことでしょうにゃ。にゃはは、困りましたにゃあ」

 

 じとっと半目で高町一尉が俺のことを睨む。

 

「アルファード二佐、私の事からかってますよね」

 

 俺が高町一尉をからかってるかだと? 馬鹿だな、そんなの答えなんて決まってるじゃないか。

 なので、俺は高町一尉へにっこりと笑って見せる。

 

「ええ、もちろん。からかってますとも」

 

「もおやっぱり! 忘れてください! 忘れて! 普段は絶対に言わないので!」

 

「にゃははって笑い方もギャップがあってかわいらしいと俺は思いますよ」

 

「あ、アルファード二佐~~~!」

 

 なんだけっこうおしゃべりな人じゃないか。

 最初はやっぱり緊張していたのかもな、そう考えると緊張が解けるきっかけは部隊長が俺を紹介してくれてたおかげともいえる……けど、なんか感謝するのは癪だし黙っておこう。

 

 さて、そろそろいいか。

 

「えーと、高町一尉、それで最初の話に戻すんですけど……」

 

「えっと……はい」

 

 高町なのはが小さく息を吐くと、いままでころころと表情を変えていた幼さを引っ込めて、最初の大人っぽい静けさを取り戻す。

 

「すみません。私はクラウン二佐と結婚することはできません」

 

 深く頭が下げられる。丁寧なことだ。

 

 しかし、最初のは冗談とか言い間違いとかではなかったらしい。

 

「……一応、理由を聞いても?」

 

 高町なのはが頷き、語り始める。

 

 いま彼女には養子に取った娘がいて、その子のことがとても大事なんだそうだ。

 その子はいま元気に小学校に通ってはいるが、まだまだ心配なことも多くなるべくそばにいてあげたいらしい。

 だから、このお見合いで俺と付き合ったり、そこからさらに結婚というのは、いまはあんまり考えていないらしい。

 

 高町なのはにとって、その娘さんは何よりも大事、ということなのだろう。

 

 納得できるし、個人的には好感さえ持てる。

 高町なのははまだ若い……が、娘さんにとってはかけがえのない存在のはずだ。

 それを理解し、娘のことを第一に考える彼女はたった二つしか年齢が変わらないなんて思えないほどしっかりしてる。

 

 俺、自分が親になる想像とか全然できてねえもんな。

 

 でもそうなると聞きたいことが出てくる。

 

「失礼かもしれないんですが、じゃあ高町一尉はなんで今日のお見合いに来たんです?」

 

「その、上司の方の勧めを断り切れず……」

 

「あー……」

 

 たぶん最初に俺たちのことを紹介してくれたあの人だな。あの人航空部隊人事部とかの人だったろ。

 目に見える……あのおばさんに押せ押せでお見合いを勧められて「私を思ってしてくれてるのに断るのもよくないかなあ」とか思いつつも断り切れず結局今日ここまで来てしまった高町なのはの姿が……。

 

「それは、お疲れさまです……」

 

「あはは、私がちゃんと断ればよかっただけなので……すみません、不快な気持ちにさせてしまって」

 

 苦く笑う高町一尉はまだどこか申し訳なさそうだ。まあ確かにこれが本気でお見合いに来てる人なら「可能性がないのにわざわざ時間とらせやがって」と思うだろう。

 うん、本気でお見合いするつもりなら、ね。

 

 正直に言おう。

 

「高町一尉、俺今超ラッキーって思ってます。俺も実は上司の顔を立ててここにいるタイプです。俺自身に一ミリも結婚願望はありません」

 

「えっ」

 

 今度は高町なのはが驚く番だった。

 

「ならどうして、ここに……?」

 

「いや話せば長くなるんですけどね……」

 

 

 上司「お前働きすぎだから恋人作って落ち着け。はいこれお見合いセッティングしたから」

 俺「はあ……(別に恋人は欲しくはないが上司の顔を立てて行くだけは行くか)」

 

 

 終わり。

 

「うん、別に長くなかったですね」

 

 シンプルだった。マジで一分で説明が終わった。

 

「そういうわけで正直俺もこのお見合い自体には乗り気ではなかったので、断ることに関してはそれほど高町一尉が気にすることはないかと」

 

「そうだったんですね。それならよかった……よかったんでしょうか」

 

「いいんじゃないですか? 特に誰も傷つくことはないわけですし」

 

 わざわざセッティングしてくれた上司たちには悪いのかもしれないけどさ。

 

「いや気持ちは嬉しいですけど困りますよね、マジで。こっちの気持ちも考えてほしいというか、いや心配してくれてるのはわかるんですけど」

 

「ああ、わかりますわかります。こう、昔私がぽろっと結婚自体は憧れてるって言ったのもよくなかったと思うんですけど」

 

「でもそれって普通では? 女性にとってウエディングドレスって憧れと言いますし。それに、それなりに大人になれば恋愛という過程自体は別として結婚という結果に憧れる時期は出てくるでしょうし」

 

「結婚という結果?」

 

 うーん、この人首傾げてる姿すらかわいいな。きょとんとした顔になると無防備すぎてなんか庇護欲がそそられる……ってそんなことはどうでもよくて。

 

 ええと、これは伝わらないとなると、うむ、なんて言ったもんかな。

 

「これは俺の話になるんですが、俺去年から局員寮の一人部屋にいるんですよね」

 

「アルファードさん寮住まいなんですね」

 

「ええ。職場に近くて便利だったので。正直一人部屋でなくても適当な局員との相部屋でよかったんですが、『部隊長補佐と一緒だと気が休まりません』と言われてしまって」

 

 そう言われては俺も拒否はできないので大人しく一人部屋で生活を始めた。

 でもそうなるとなんとなく「一人の時間」ってやつが目立つようになるんだな。

 昔は相部屋だったり隣室に同僚がいたりしてそれほど『孤独』を感じる時間って多くなかった。

 

 でも一人部屋になると自分の家に帰ったときまだ電気がついてない部屋だとか、朝起きてみたテレビの占いの順位がよくても伝える相手がいなかったりだとか、一人で仕事をしてて気づけば食事の時間を逃していたりだとか、そういう出来事が積み重なって、自分だけしかいないって事実を再確認する時間が増えた。

 

「なんでそういう時に、例えば『ただいま』に帰ってくる『おかえり』がある生活、まあつまり結婚ですが、そういう『結果』は人間という孤独であることに強い欠乏を感じる存在からすると……え、なんですか?」

 

 なんか高町なのはがめっちゃ肩振るわせて必死に笑いこらえてるんだけども……。

 

「す、すみません。ふ、ふふ、いやアルファードさんを笑いたいわけではなくて……ふ、ふふ」

 

「いやめっちゃ笑ってるやないかーい」

 

「ざ、雑なツッコミやめてください! ふ、ふふ、だめなんかツボに入っちゃった」

 

「……えろうあっさいツボに入ったみたいですね」

 

 何がそんなに面白かったんだろう。俺としてはそこまで変なことを言ったつもりはないんだが。

 

 しばらくして高町なのはは笑いを収めるとこほん、と赤ら顔で咳払い。

 そして今日二度目となる深々と頭を下げる謝罪。

 

「すみませんでした」

 

「いえ俺は別に気にしてませんが……一応なぜ笑ったのか聞いても?」

 

「えっと……」

 

「多少失礼でも気にしませんよ。むしろなにか俺が変なことを言ったのなら教えてほしいくらいです。俺、少しずれてる方らしいので」

 

 俺がお願いします、と頼むと「えっと、なら……」と高町なのはがおずおずと口を開いた。

 

「だって、アルファード二佐すっごくまじめな顔で『人と話せないのはさみしい』って言ってたんですよ? 

 こんな仕事一筋!みたいな雰囲気な人でもそんなこと思うんだなあ、案外かわいい人だなあって気づいたら思わず……すみません」

 

「え?」

 

「? だってそういうことですよね。家に一人でいるのがさみしいんですよね?」

 

「いやそうはいってない気が……」

 

「そうでしたか? 私にはそう聞えたんですが……」

 

 そうなのか? 俺、自分一人なのがさみしかったのか? 

 

 えー、なんだそれ。この歳の男が年下に指摘される事実として恥ずかしいことランキング8位くらいにはランクインしそうじゃないかこれ。

 ちなみに七位はパンケーキとホットケーキが違うものだって言われたことな。

 

 眼鏡をクイッと押し上げつつ顔を隠す。めちゃ恥ずかしいな、訳知り顔で「結婚という結果が~」とかいう話をしてた五分前の俺殴りたい。

 

「でも、こうしてお話しするとアルファード二佐は結婚したい気持ちはあるように感じるんですけど、本気で恋人探したりとか……」

 

「あー、ないですね。俺そういうの無理なので」

 

 また首を傾げられた。まあこういう話をしたらそういう反応になるか。

 

 んー、これあんまり大っぴらに話したくはないんだけど、この子にならいいか。言いふらしたりもしないだろ。

 

 

俺、地上本部の総司令になりたいんですよね

 

 

 ぽかん、と高町なのはが口を開けた。

 

「そ、総司令、ってあの?」

 

「ですね。管理局地上本部の一番偉い人です。俺、あれになりたいんですよ。しかもなるべく早く」

 

「どうして、総司令に?」

 

「いまのミッドチルダはJS事件の余波で犯罪者の凶悪化が目立ちます。

 また局員もその調査で手が足りておらず、それに比例するように局員の負傷者報告も増加傾向にあります。

 俺、そういうシステム変えたいんですよ」

 

 そして、それを変えられるのは地上本部の総司令という立場が一番手っ取り早い。

 

「だから正直恋愛なんてしてる暇ないんですよね」

 

 確かに俺はさみしがり屋なのかもしれないが、それは別にどうでもいいことだ。

 俺は地上本部の総司令、つまるところ最高権力者になりたいのだ。

 

 そのためならいくらでも残業するし、好きになれない上司に笑顔で付き合うし、別に来たくもないお見合いにだって来る。

 

 ……ちょっと話過ぎたな。さすがに引かれたよなぁ。

 

「……すごい」

 

 へ? 

 

「あ、いえすみません。ただ、アルファード二佐はすごいなぁ、と」

 

「すごい、ですか?」

 

「はい。すごいです」

 

 彼女が頷くと、まじめな顔で語り始める。

 

「私も小さいころに大きなけがをしたことがあるんです。私にとってそれはものすごくつらい出来事で。

 だからほかの人にはそういうつらい思いはしてほしくなくて、そのために後輩に自分の持てる技術を教えてあげたいって。

 それで、少しでも同じようにつらい思いをする人を減らすために教導隊でがんばろうーって」

 

 でも、と高町なのはが目を輝かせる。

 

「私、管理局のシステムごと変えるなんて考えたことありませんでした。そっか、そういう戦い方もあるんですね! 

 私、応援します、アルファード二佐のこと!」

 

 ―――。

 

「アルファード二佐?」

 

「え、あ、いえ。何でもあらへん―――じゃなくて何でもないです。なんでも」

 

 花が咲くような笑顔だった。本気で俺を応援したいって、そういう気持ちが伝わってきた。

 

 ちょっと、調子が狂う。反則だあんなの。美人は何してもいいからズルいわ。

 

 カット。こんなことで惑わされるな。俺は冷静だ。大丈夫。

 眼鏡を押し上げる。OK、いつも通り。

 

「まあ、なんというか、高町一尉にこの話を話したのには理由がありまして、少しお願いしたいことがあるんですよね」

 

「なんですか?」

 

「その……今日のお見合い、破談になったって話するの少し待ってもらえませんか?」

 

「待つ……ですか?」

 

「はい。いえわかってます。さっきまで『恋愛する暇ない』とか言ってたやつが何言ってんだって感じですよね。でもちょっと俺にも事情がありまして」

 

 先ほども言った通り俺に今回の見合いを勧めてきたのは俺の仕事しすぎを心配する上司だ。

 その人は俺がワーカーホリック気味なのを心配して何かと世話を焼いてくれる人だ。

 俺はその人の顔を立ててここに来たわけなんだが、このままではお見合いは破談だ。そりゃ俺も高町なのはもやる気がないんだから当然だ。

 

 でもそうなればあの人は次のお見合いの話を持ってくるだろう。俺にはわかる。あの人はそういう人だ。

 そして、次の人も高町なのはのようにお見合いに消極的なことは……まあないだろう。今回は超珍しい例だ。

 

 そうなると俺は毎回何かと理由をつけて断らなきゃいけなくなる。

 でもそれは上司の好意を無駄にし続けることになるし、さらにはもし断った相手が同じく局員で悪印象を持たれたりすれば最悪だ。コネとかの問題で。

 それはさっさと昇進したい俺からするとデメリットだらけだ。

 

 俺はなるべく多くの人間と知り合いつつも反感は抱かせず、昇進の最短ルートを駆け抜けたい。

 

「ので、頼みます! 今回のお見合いは『まだ付き合うかはわからないけど悪くはない雰囲気』くらいで落ち着いたってことにさせてください!」

 

 そうしたら上司のこの先の追撃とかもかわせるので! 

 

「もちろんずっととは言いません。一か月くらいでいいんです。そうしてくれたらたぶん上司の方もそれなりには安心すると思いますし、たぶんいまの恋人を作れって圧も落ち着くはずなので。お願いします! この通り!」

 

「え、わ、わわっ、すごい直角のお辞儀! や、やめてください。そんなに頭を下げていただかなくてもそのくらい全然いいですって」

 

 おお……マジか。天使だ。女神かもしれん。俺、この先一年くらいキミのことあがめられるな。

 

「それはやめてください。……正直、私の方もそういう『言い訳』ができるのはありがたかったりするので」

 

 あ、そっか。高町なのはも上司に無理やりセッティングされたんだったな。

 なら俺と置かれた状況は似たようなもんで、なるほど、俺と同じく『お見合いを勧められない理由』があるのは彼女にとっても利があることだったらしい。

 

 よし、ならば今日のお見合いはこの方向性で……。

 

「でも、それって理由としてちょっと弱くないですか?」

 

 え? 

 

「悪くない雰囲気って具体的に私たちってどういう関係になるんですか?」

 

「それは……」

 

 なんだろう。友だちではないし、ましてや恋人でもない。ガールフレンド? いやそれ言い方の問題だな。

 

「こういうのってたぶん明確に関係に名前がついてないとガードとして弱いと思うんです。

 それに『なんだか悪くない関係』くらいの曖昧さでなあなあにしておいて本当に上司さんたちは諦めてくれるでしょうか?」

 

「……確かに、少し楽観視しすぎかもしれませんね」

 

 むしろなまじ微妙に成功体験を与えてしまったせいでお見合いをガンガン勧められるようになってしまうかもしれない。

 

 これは難しい問題だぞ。これ以上お見合いが来ないように円滑に事を運ぶためには、上司に「満足」してもらう必要がある。そのためには俺と高町なのはの間に「明確に言葉にできる関係」がいる。

 

 しかし、そんなものどうすればいいんだ? 

 

 しばらく二人でうんうんと唸っていた時、ぽつりと対面の彼女が言葉を漏らした。

 それは言葉にした、というよりもいろいろ考えるうちについうっかり思考がそのまま漏れてしまった、とでもいうような

 

「いっそ恋人とでもいえれば楽なのにな……」

 

 恋人? 

 

「恋人?」

 

 あ、やべオウムみたいに反復しちゃった。

 

 かーっと高町なのはの顔がどんどん赤くなっていく。

 

「うそ、声出ちゃっ、あ、いや、ちが、それ、ちがくて……ただ、恋人になりましたって言えれば楽なのになーとかおもっちゃって、アルファード二佐なら相手として悪くない気がするっていうか、いやそういうことじゃなくて、ああもう私なに言っちゃってるの。その、な、何でもないですから! えと、わすれてくださいぃ……」

 

 彼女は何やらごまかそうと言葉を重ねていたが、どんどん墓穴を掘りまくる自分に気づいて、消え入るような声を漏らしてうつむいた。かわいいかよ。

 

 いや、そうじゃなくて。恋人……そうか、その手があった! 

 

「それですよ高町一尉! 俺たち恋人になればいいんです!」

 

「ふぇ、は、はいっ!?」

 

 変な声を上げている場合ではないですよ。いいですか、よく聞いてください。

 

「恋人! それです! 『恋人がいる』って、めちゃくちゃいいお見合いの断り文句じゃないですか!」

 

「そ、それは確かにそうかもしれないですけど、つ、付き合うんですかなのはたち」

 

「いえ、付き合いません。俺たちお互いに恋愛より大事なものあるって話したばっかじゃないですか」

 

 またもや首をかしげる高町なのは。今日だけでずいぶんこの顔を見た気がする。

 

 俺たちにはいまそれぞれ自分の恋愛よりも大事なものがある。

 それは俺にとっては『地上本部総司令になる』という夢で、高町なのはにとっては『養子にとったばかりの娘』だ。

 

 だから、俺たちが欲しいのは恋人ではなく『恋人がいるという事実』なのだ。

 

「つまり、これは『偽装恋人』の提案です。

 俺たちはこれから()()()()()()()()()()()()()()()()()、お互いが『恋人がいるという立場』だけを手に入れるんです。そうすれば、俺たちはお互いの大事なものを切り捨てることなく、自分たちの求めるものが手に入る」

 

 ……ん? ちょっとまていま俺超馬鹿なこと言ってへん? これめちゃ高町なのはに引かれてしまうんじゃ……。

 

「そうすればよかったんだ……盲点でした……天才……」

 

 あ、これ俺の杞憂だな。大丈夫俺の発想天才だわ。これが今の俺たちに必要だったのだ。

 だって高町なのはも「思いつかなかった!」って顔で口元押さえてるし、うん、やっぱこれだな。

 

「俺たちはいまから対外的には『恋人』ということになりますが、恋人らしいことは一切しません! デートもしませんし、もちろん結婚もしません! だって俺たちが必要なのは『恋人がいるっていう事実』だけだから!」

 

「す、すごい、完璧だよ!」

 

 だが不意に、高町なのはが不安げな顔になる。

 

「でも嘘とはいえ一応『恋人』ってことにするんだよね? それってずっと隠しておくのって難しいんじゃ……」

 

「ええ。だからなので適度なところで別れることにしましょう。普通に喧嘩別れにしてもいいですし、そうでなくても普通に『お互いの仕事忙しくなった』でも『音楽性の違い』でも理由は何でもいいでしょう」

 

「そんなバンドみたいな理由で……。

 でも、確かにそうですね。私たちくらいの年齢なら恋人と別れるくらいありますし、というか普通のことですね」

 

 よし、と高町なのはが頷いた。

 

「わかりました。やりましょう、偽装恋人! 私と、アルファード二佐で!」

 

「引き受けてくださいますか! ありがとうございます!」

 

 よっしゃ、これで心置きなく仕事に専念できる。

 だって偽装恋人だもんな。デートなんてないし、相手の気持ちにやきもきしなくていいし、そもそも相手を好きになることもない。だって偽装だから。

 

「……と、そろそろ仲人の方戻ってきちゃうかもですね」

 

「もうそんな時間でしたか。なら詳しいことはまた時間を設けて話し合いましょう。今すぐ付き合い始めたことにするのも変でしょうし」

 

「ですね。じゃあ……よろしくお願いします!」

 

 うお! 急に手を握ってきた! 距離詰めるの早いなおい。

 

「その、大胆ですね高町一尉」

 

「?」

 

「いやわかんないならいいです、ハイ。気にしないでください」

 

 曖昧に笑みを浮かべつつ彼女の手を握り返した。やわらかい、だけどしっかりとした手。高町なのはの手、って感じだ。

 

 ん? どうしました高町一尉。

 

「いえ、男の人の手をあんまり握る機会がなかったので、おっきいなあ、と。えへへ、なんだか照れちゃいますね、私たち本物の恋人じゃないのに」

 

 ほにゃ、と高町なのはが笑う。

 

 その微笑みが、気のせいだろうか、やたらと俺の心をざわつかせた気がした。

 

 ……偽装恋人。

 恋愛感情が絡まないけど恋人。なんていい響きだ。これが俺の求めていた関係。

 偽装なんだから、本当に好きになるなんてあるわけない。

 

 絶対に、絶対だ。

 

「これからよろしくお願いします、アルファード・クラウン二佐」

 

「ええ。お願いします、高町なのは一尉」

 

 こうして、俺に名前も呼び合わない恋人ができた。

 偽装の、お互いの利益のためにつながるだけの、そんな恋人が。

 

 ……しかし、さっきから高町なのはのことを見てるとやけに心臓がうるさいな。

 

 あとで病院にでも行ってみるか。何か病気だったりしたら怖いしな。

 

 

 

 ──のちに、アルファード・クラウンと高町なのはは管理局広報が選ぶ『ミッドチルダベストカップルランキング』で5年連続一位を取得し、殿堂入りすることになるのだが、それはまだ先のお話。

 

 ──なにせまだ『恋』が何かすらわかってないアルファード・クラウンに、そんな未来は遠すぎるのだから。

 




 
『高町なのは』
誰もが知るエースオブエース。義理の娘を大切にしてる。偽装恋人の話をする時は色々考えすぎてまあまあバカになってた。
男を勘違いさせる天然行動の達人。つよつよのアルファードが相手でなければ危なかった。

『アルファード・E・クラウン』
メガネをかけた非戦闘員の部隊長補佐。周囲が引くほどのワーカーホリック。恋愛経験値ゼロ。
ちなみにEはエレミアと読む。
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