その日、アルファード・E・クラウンはミッドチルダの駅前で空を見つめていた。
「恐ろしいほどの晴天だ……こんな日は書類仕事が捗るんだよなぁ」
今は休日、しかも朝の10時少し前。いつも通り社畜根性丸出しの彼は、ぼんやりと時計で時間を確認して小さなあくびをかみ殺す。
この日のために少しやるべきことを切り詰めてきたせいで少し寝不足なのだ。
(それにしても、まさか俺が高町一尉とデートとはな……。少し前までの俺じゃ想像もできない。いやこれはそういうのじゃないんだろうけども……)
そう、今日アルファードは『デート』の日。
相手が誰かなどわざわざ語るまでもないだろう。
人ごみの中で、軽やかな足音が近づいてくる。
「アルファードさーん!」
そんなアルファードの名前を呼ぶ声が一つ。その声につられるようにアルファードが顔を上げると、そこにはにこやかな笑みを浮かべる恋人―――否、偽装恋人が走り寄ってきているのが見えた。
(うお……か、かわいいな……)
淡い色合いの甘めのフリルトップスと、少し大きめのワイドシルエットのデニムは活動的な印象を与えるが、けれども女性らしくないといえばそんなことは全くない。むしろ、いつもと違って、癖のない栗色の髪もポニーテールにしているのも相まって、これ以上なく『特別なお出かけ』ということを意識させてくるようだった。
春をそのまま纏ったみたいだ、とアルファードが独り言ちる。
「お待たせしちゃいましたよね。すみません」
「いえ、高町一尉のことを待っていたらすぐでしたよ。お気になさらず」
「にゃっ」
さらっと言われたアルファードの言葉になのはが目を丸くする。心なしか彼女のほほと耳が赤い気もする。
「お、お上手ですね、アルファードさん。ちょっとびっくりしちゃいました」
「? 俺なにか変なこと言いましたか」
「あ、いえそういうつもりじゃないならいいんです! あはは、気にしないでください。うわー、しかも今の天然なんだー。うー、まだちょっとほっぺたの熱が抜けきれないかも……不意打ちはずるだって……」
「高町一尉?」
「あ、はい! すみません! もう大丈夫です! お待たせしました!」
よく聞こえなかった小声の呟きや、ぱたぱたと顔を手うちわで扇ぐ姿にアルファードはなおさら首を傾げるばかりだが、気にしないでくれと言われたので気にしないことにした。
腕時計を確認する。時計の針は予定の時間よりも、わずかに傾いている。
「さて、こうして話している時間も惜しいですし、行きましょうか」
「はい。じゃあ、いきましょう! デート!」
「……ですね。じゃあまずは―――なんですか、手なんか差し出してきて」
「つなぎましょっか、手」
「い、いや俺たちはぎそ―――」
偽装恋人、と言おうとしたアルファードだったが、目の前でなのはが唇に指をあてて「ダメですよ」と言われたのでギリギリで口を噤んだ。
他の人の目がない場所ならともかく、周囲を気にせず口にしていい単語ではなかった。
「すみません、助かりました」
「いえいえ、じゃあ繋ぎましょうか。普通の恋人ならこれくらいするでしょうし」
「そ、それはまた別件でしょう。確かに手をつなぐというのは恋人の一般的なスキンシップに挙げられるでしょうが……俺たちまでそれに倣う必要はないはずです」
「そうかもしれないですけど、ここでちょっとアルファードさんに反撃しておかないと、私負けたままな気がして」
「何と戦ってるんですか高町一尉は?」
「あ、また高町一尉! もー、いまはプライベートなんですから階級はやめてくださいって! この前も結局最後まで呼んでもらえなかったし……」
「ぐ、さ、さあ、いきましょうやることは山ほどありますよ」
「あ、ちょっと、アルファードさん! もー!」
先日のミーティングの結果、結局アルファードとなのはは実際にデートをすることになった。アルファードのうだうだこねくり回していた理屈がなのはの「でもそれ実際にデートした体験談を話した方が早いんじゃないでしょうか?」に論破された結果である。
なのはは理知的だ。「こうするのがいいと思う」という意見は妥当性があり、筋道だっている。
アルファードは効率重視だ。だから感情ではなくて、費用対効果の大きさで判断する。
故に自分よりいいアイデアは否定できず、なんだかんだ言いつつデートをすることで得られるリターンの大きさに目をそらすこともできなかったのである。
けれど、それは彼が「何も考えずデートに来た」ということを意味しない。
彼はアルファード・E・クラウン。若手きっての出世頭。管理局の社畜標本。アピールポイントは「俺は一日72時間働ける」。
アルファードはそんな彼らしく、彼らしい効率を求めたデートプランを持ってこの日を迎えていた。
「少し調べてきました」
待ち合わせ場所から少し歩いた喫茶店。そこのモーニングセットで少し遅めの朝食を口に運ぶ傍ら、アルファードが切り出した。
「ミッドの恋人対象のアンケート結果にいくつか目を通したところ、社会人カップルのデートは概ね月に3~4回程度。付き合い始めは頻度は高めで、次第に隔週程度に落ち着く傾向があるようです。
俺たちは世間的にもまだ『付き合い始め』の段階、つまり月に4回程度のデートを行うことが『普通』みたいです」
「4回ですか……けっこう多いですね」
なのはが口元に手を当てて考え込む。
「やっぱり厳しいですよね?」
「今日娘はノーヴェたち……えーっと、娘がやっている格闘ジムのコーチがしばらく面倒を見てくれていることになっているので大丈夫なんですが、毎週となると、ちょっと娘が心配かもしれないなー、と。すみません」
「いえ、謝る必要はありません。俺も同じ気持ちです。いくらこれがベストの手段と言えどもさすがに週に一回は多い。これじゃあ俺も職場に行く回数を減らさなきゃいけなくなる」
(週に一回休むだけで職場に行く回数減るんだ……)
普段どれだけ働いているのだろうか。
「なので、プランを立てました」
アルファードが眼鏡をクイッと押し上げる。そして、ポケットから携帯端末を取り出すとぴこぴこと操作して、なのはにも見えるように半透明のウインドウを投影した。
「これ……今日のタイムスケジュールですか?」
「ええ。これが俺の立てたデートプランです」
なのはが目の前の日程に目を滑らせ、とつとつと読み上げていく。
「10:00 なんとなく入った喫茶店(リサーチ済み)で談笑。
11:00 公園で軽食をつまみながらピクニック。
12:00 昼食にしようとしたものの行列で入れず、結局近くのミドナルドでハンバーガーをテイクアウト。
13:00 遊園地に行きジェットコースターに乗る。
15:00 映画館で映画を鑑賞。どのような映画を見るかもめたものの結局アクション映画に。
17:00 ウインドウショッピングをしながら各々気になった小物を購入。
……なんだかずいぶん細かく書かれてますね。時間もそうですけど、することまでこんなにはっきり……」
「ええ、なにせこれは俺たちの六回分のデートに値する出来事ですからね」
「ろっかい?」
「いいですか、よく聞いてください」
ニヤリと笑みを浮かべたアルファードの瞳には確固とした光が宿っている。
目が普段より少しぎらついているのはおそらく寝不足と、完璧な計画を立てられたという自信からなのだろう。
機動五課部隊長に「階級も並ばれちまったし俺がお前に勝ってるのはもう年齢だけだな」とまで言わせるアルファードは、いったいどのような計画を立てたというのか。
「今日俺たちは一時間ごとにデートスポットを変更し、それを一回分のデートということにします」
「え、えと、つまり?」
こてん、となのはが首を傾げるがアルファードは動じない。
この反応すら織り込み済み、彼の想定範囲内だ。
「例えばこの喫茶店で今話している状況、これを一回目のデートということにするんです。そして次に行く公園は二回目のデート、そしてその次の遊園地は三回目のデートです」
「! そ、それってつまり、今日一日のデートを細かく分けて、それぞれ全く別の日にデートしたってことにするってこと!?」
「ふ、その通りです。
俺たちは人に話せるデートの経験が一か月に四つあればいいんであって、『四回のデートをすること』事態は絶対条件ではないんですよ。そして、それは『一日に複数回分のデートを詰め込む』で解決してしまう」
得意げにアルファードが眼鏡をクイッと押し上げる。
「デートとして行うのは一回! けれどそこに数倍のスケジュールを詰め込むことで『四回分のデート』の経験をゲットする! ……これが俺のパーフェクトプランです」
果てしないバカ?
「すごい……天才……」
どうやらバカは二人いたらしかった。
「確かにこれだけスケジュールを詰め込んでいれば人に話すときの出来事には困らないですね。あ、もしかしてやることが六個あるのって、余った二つは何かあったときの補填ってことですか?」
「ですね。一応保険をかけて余分を作っておけば緊急事態にも対応できますからね。家具を買ったときにあらかじめネジが多めに入ってるでしょう? あれと同じですよ。お得でしょう?」
こいつはデートの経験を店売りのお得グッズだと思ってるのか?
「あれ、でも……」
しばらく感動したように口元を手で抑えていたなのはだったが、ふと提示されたスケジュールに違和感を覚える。
「これって、一日のデートってことで話せるでしょうか。一つ一つ自体は問題なくても、なんというか短くて話しているとき違和感が出そうというか……」
ひとつのデートプランにつき一時間。
映画や遊園地は移動なども鑑みて少し長めに取られているようだが、それでもあまり長いとは言えない。どれも必要最低限の時間しか確保されていないように見える。
だがそれはアルファードもまた理解していることだった。
「ええ、だからある程度は脚色も加えましょう。まず、最初の喫茶店ですが一時間ほど談笑したのちに、俺が爆睡して閉店まで居座ったことにしましょう」
「寝すぎでは!?」
「相当眠かったんでしょう。その間高町一尉は俺のことをほほえましく見守っていたことにしてください。初デートで眠りこける大失態、けれどそれを咎めずに見守る彼女、おそらく高町一尉の株がバク上がりするでしょう」
「あ、私へのフォローまで考えてあるんだ。じゃあ次のピクニックはどうするんですか?」
「夕方まで日向ぼっこしたことにします」
「急に雑! それに夕方だともう太陽沈んでません?」
「それはお互い本に夢中になっていたということに。別れ際『今日はあんまり話せなかったけど一緒にいれてよかった』とでも話したというエピソードを差し込めば問題ないでしょう」
「それは確かにそれっぽいですね……。じゃあ映画館は何の映画を見るかもめてしまって結局一つしか見れなかったとかはどうでしょう? 時間はー、そうですね、五時間くらい」
「別れずに一緒に最後映画を見ているあたり、仲睦まじいのが伝わります。採用しましょう」
「じゃあそのあとは―――」
「いえむしろ―――」
「―――?」
「! ――――」
話は白熱し、見事にそれぞれのエピソードを膨らませた二人は満足げに喫茶店を後にした。
その後、アルファードの立てていた予定をそのままに、なのはとアルファードは公園でピクニックすることに。
アルファードに案内されるままいくつか電車を乗り継いでたどり着いたのは、ミッド都市部から少し離れた広い公園。
近くには川が流れ、綺麗に手入れされている芝生や、いくつか置いてある備え付きのベンチなど、いかにも『それっぽい』公園である。遠くにはソフトクリームの移動販売らしきものも見えており、子どもを連れてくればきっと喜ぶだろう。
「へえ、こんなところにピクニックできるような場所あったんですね」
「高町一尉はミッド出身じゃないですもんね。ミッドに生まれたなら大体の人は子どものころに一度来てるんじゃないでしょうか。まあ俺もここらの生まれではないので人づてに聞いた話ではあるんですが……はい、高町一尉、シート敷きましたよ」
「す、すみません何から何まで……言っていただけば私も……」
「いえいえ。俺の提案で来たんですから、こうしたものも準備するのは俺なのが道理ですよ」
アルファードが自身のショルダーバックから出したレジャーシートを地面にきっちり敷くと、どうぞ、と声をかけた。
あまり大きなレジャーシートではないが、食事をする予定はないため、大人二人が座るだけなら十分すぎる広さだ。
アルファードがシートの左端に腰を下ろしたので、なのははそこからひと一人分間をあけてちょこんと座った。
右と左。離れた距離はいまの心の距離なのか、それともお互いが
もしかしたら、この距離を開けた理由を彼ら自身も説明できないのかもしれなかった。
「んー、きもちーですねー」
「ですねー。くわ……」
「あ、もーやめてください、あくびうつっちゃいそう、ふわ、んー」
出てきそうになったあくびをこらえるように、ぐ、となのはが伸びをする。
「すみません」と謝りながらも心の中では、子どもっぽいところもあるな、となのはを見ていたアルファードが、突如ぎょっとしたように固まった。
(た、高町一尉!?)
なのはが背筋をそらしたときに体の―――非常に言いにくいことだが特に胸の―――ラインが強調されるように出たのを目にしてしまった。
アルファードの視点、なのはは年下のまだ若い女の子であり、かつ童顔であるため侮っていたが、そのたわわに実ったふくらみはずいぶんと発育がよいようだった。
(―――い、いろいろと、これはまずいやろ!)
目の前のたわわからそっと目をそらして、眼鏡を押し上げた。
そして遠くでのしのし歩いている大型犬を眺めて心を落ち着ける。
「ひ、昼前ですからね。気温も安定していて、ピクニックには最適な時間帯です。現にほら、い、犬! 犬の散歩とか、親子連れやカップルなんかもちらほらいるみたいですね」
「ほんとですね。これなら娘もつれてこれるかも……今度の休み誘ってみようかな」
「はは、それはきっと喜びますよ。確か近くで自転車とか貸し出してましたし、ボールを持ってきて一緒に蹴るだけでもけっこう楽しいと思いますよ」
「う、運動かー」
少し表情を苦くしたなのはをアルファードは見逃さない。
「あれ、苦手なんですね。戦技教導隊の教導官『エースオブエース』高町なのはともあろう人が」
「からかわないでくださいっ。……でも、ちょっと子どものころは球技とか徒競走とか、運動全般苦手で。今は仕事の関係上ずいぶん動けるようにはなったんですけど、いまでも球技にはちょっと苦手意識があったりします」
「へえ、初めて聞きました。俺にとって『高町なのは』と言えば魔法戦闘なんでもござれ、というイメージでしたから」
「そういえばあんまりほかの人には言ったことがなかったかもです。さすがにフェイトちゃんやはやてちゃんたちは知ってますけど」
「はは、それはそれは。どうやら意図せず俺は高町一尉の弱みを握ってしまったみたいですね」
「む、言いふらすともなれば断固として戦いますよ。私魔導師ランク空戦S+なのでそのおつもりで」
「相手になれば俺10秒で死ぬんでマジ勘弁してください」
くすり、とどちらからともなく笑いあった。
頬を撫でる風。そんな風に乗って届くはしゃいだ子どもの笑い声。木々のこすれ合う音。川の水の転がる音ですら、いまはどこか心地いい。
ゆっくりとした時間が流れていた。
「……こんなふうに、なにもしないで過ごすのは久しぶりかもしれません」
ぽつり、とアルファードがつぶやいた。
「アルファードさん、お話聞く限りいつもお忙しそうですもんね。はやてちゃんも言ってましたけど、後方指揮の中でも部隊長補佐って特にやること多いって」
「それは俺が望んでいるのでいいんですが、なんか今の時間がゆっくり過ぎて、俺にとって心地よいもの過ぎてちょっと不安になっちゃいます」
「不安、ですか?」
「ええ。なんだかこうして足を止めていると、まだ頑張れる余地を残してしまっているような、頑張るのをやめてしまっているような、そんな気持ちになると言いますか。
……って、君に何を言ってるんでしょうね、忘れてください」
アルファードはそして、また笑った。
その横顔がなんだかすごく寂しそうで、なのはは思わず口を開いていた。
「いいじゃないですか、立ち止まっても」
え、とアルファードが目を丸くした。
「確かに走り続けるのは偉いです。それがずーっとできる人はすごいと思います。尊敬します。
でも、だからって立ち止まるのが悪いことなんてないと思います。だってそれって、これまで進んだ道を振り返って、これからまた走るために力をためてるってことじゃないですか?」
「―――」
「だから、アルファードさん―――」
あなたはすごいです。すごく頑張ってると思います、と続けようとして、止まる。
(それは、踏み込みすぎかも)
なのはが、いつもは自分が飛んでいる空を見上げて、つづけた。
「だから……きついときは、少しくらい支えます。ほら、私いちおう恋人ですし」
なのははまだアルファードのことを何も知らない。
自分の為に利用し合うように結んだ『偽装恋人』というか細い糸でつながった関係では、彼のことを理解し、彼の心に届く言葉を選べない。
(うー、でも言ってあげたい。よくがんばりましたっていって頭を撫でてあげたい~)
それでも、まだ知らないアルファードのことを親身になって考えているあたり、なんとも彼女の人の良さが現れているのかもしれない。
なのはがうだもだと考えている中、ふと、すとんと肩に重い感触が伝わった。
「え」
ちら、とわずかに首を傾けると、なのはの左肩にアルファードの頭が乗っていた。
「え」
(ええええええ~~~~~~!?!??!?!?!)
驚きの声を上げそうになったなのはがすんでのところでこらえて、心の中で叫んだ。
(ええ!? 支えるってそういう物理的なの!? でもたしかになのはがいいって言ったんだし……でも急に距離感詰めすぎじゃない!?
いやそれは私を信頼してくれたってことなのかもしれないけど……どういう感情なのこれ!?
あ、もしかしてギャグ? ツッコミ? ツッコミをしたらいいのかな? 本当によりかかるんかーい、って? む、むり……はやてちゃんじゃあるまいし……)
なのはの心は大混乱。しっちゃかめっちゃかに暴れまわる思考は体に伝わり、その振動で、ずり、とアルファードの頭が滑ってなのはの膝の上に落ちた。
(にゃ、う、うそ!? 膝!? 膝まで!? アルファードくん実はけっこう女遊びしてて私いままで弄ばれていたんじゃ―――いやというか、アルファードくんなんでさっきから無言……)
あれ、となのはが視線を自分の膝へと下ろす。
「くかー」
寝ていた。これ以上なく睡眠状態だった。爆睡だ。最近ヴィヴィオがしていたゲーム風に言うとアルファード・E・クラウンは状態異常 ねむり だった。
「な、なんだ~~~……」
なのはとアルファードは少し距離を置いて座っていた。そのせいで眠って倒れこんだアルファードの体が偶然なのはの肩に乗っかってしまったらしかった。
「そういえば今日のために仕事詰めたっていってたかも」
思い返せば今日も何度かアルファードはあくびを漏らしていた。
今日のデートの予定を立てるのにもそれなりに調査をしていたようだったし、もしかしたらその疲れもあったのかもしれない。
なのはが腕時計を確認すると時刻はもうすぐ12:15分。予定されていたスケジュールのことを考えると、もう次の場所に向かわなければならない時間だ。
「アルファードさーん、お時間ですよー」
声をかけるが起きる気配はない。
「起こさなきゃ、だよね」
すこしだけなのはが考え込んで、でもすぐに「まあいっか」と思い直した。
ずっと走り続けている人が立ち止まって、心安らかに眠れているならそれでいいと思った。
それが一番いいと、そう思った。
「アルファードさん、よくがんばりました」
そして、その頭をこっそり撫でた。まるで自分の子どもにそうするように、やさしく。
ゆっくりと、撫で続けた。
(ヤッベ、俺もう起きてるんやけどこれ起きるタイミング逃したな)
そして、そのタイミングでアルファードは意識を取り戻していた。
(あかんあかんあかんこれやらかしてもうてるやろ。最悪やなんで話してる最中に眠りこけてんねん俺は。子どもか? すくすく育ち盛りの子どもなんか俺は)
アルファードが心の中で頭を抱える。
(……ほんま、こっちが申し訳なくなるくらいええ人やな)
でも、あまりにも自分の頭がやさしくなでられるものだから、毒気を抜かれたように体から力を抜く。
そして再びやってきたまどろみにその身をゆだねながら心の中だけでつぶやいた。
(ありがとうな、
結局、二人はそのあともそのまま公園だけで時間を使ってしまい、デートのプランは全く完遂できなかった。
けれど、初デートで眠りこけるアルファードを咎めずに見守る高町なのは、というその一点だけは、ある種アルファードの予想通りに、望みどおりに終わったのであった。
『高町なのは』
滲み出るお姉さん(お母さん)パワー!
次来ることがあればお弁当でも作ろうかななどと考えている。
『アルファード』
初デートで爆睡かました戦犯。
自覚はしてないがなのはの名前を呼ぶと自分の中で彼女を大きい存在にし過ぎてしまう気がしている。