ゼノブレイド2 A New Future With You   作:ナマリ

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気付いたらもうすぐ4月ですね。早すぎて嫌です

時間が欲しい


“渡航禁止命令”

 

カンカンカンッ!

突然耳元で金属のぶつかり合う音が聞こえた。それも3回も。

「起きてー! 朝だよー!」

ミントが耳元でフライパンをおたまで叩いていた。

「起きてる! 起きてるって! ってかうるさいっ!」

リュウギは布団を思いきり投げて起床した。

「だって、2時間前から起こそうとしてるのに全然起きないんだもん」

「疲れてるからしょうがないだろ?」

「でも12時間だよ? それに、そろそろ出発する準備しないといけないから」

 

宿屋森林亭の朝。宿の個室はトリゴ特有の文化を示した木製の内装。部屋の中に入るだけでそのぬくもりを感じられる。そんな中でもっと寝ていたいと思っていたが、ミントに連れられて行ってしまった。

眠たい目をこすり、朝食の用意されている机の前に座る。昨日の夜と同じ、サルベージャー達と共に食卓を囲む。

「おはようリュウギくん。よく眠れたかい?」

隣に座っているのはリストだった。既に朝食を食べ終え、コーヒーに口をつけている。

「はい。疲れも大体取れたみたいで」

「それは良かった。ほら、今日もミントが朝を作ってくれた」

リュウギの前には少し冷めてしまったアンカーテールのグリルが並べられていた。冷めているとはいえとても良い匂いが漂ってくる。

「いただきます……。旨い!? 本当に冷めてるのかこれ!?」

「ま、これもタルタリ焼きに負けず劣らずの得意料理だからね~。このためにそこで結構いい素材買ってきたんだよ?」

「マジかよ、もっと早起きすれば良かった」

リュウギはフォークを手にガツガツと口に運んでいく。朝だというのに随分な食べっぷりだ。

「とりあえず、食べ終わったら食器とかは片付けといてね、店の人がやってくれるみたいだから。それが終わったらオルゴール探しの旅に出発しないとね」

たった1分でリュウギは食べ終わってしまった。しっかりと両手を重ねて、空になった皿に向けてお辞儀をする。「ごちそうさまでした」ミントに言われた通りしっかり皿を片付けた。

「いや、本当に旨かった……。人生最高の朝食って感じ」

「褒めたって何も出ないよ。ほら、早く準備」

ミントは微笑みを返し、リュウギの肩を軽く叩いた。少しは機嫌が良くなったみたいだ。

 

「それで、ミントは彼に付いて行くのか?」

「命を助けられたし、何よりも私のせいで彼の大事なオルゴールが盗られてしまったんです。だから一緒に探すことが必要なんじゃないかなと思って」

「そうか……。それで、サルベージはどうするんだ?」

「心配しないでください! ちゃんとすぐに終わらせてアヴァリティアに帰りますから!」

ミントはリスト達サルベージャーと一旦の別れを告げていた。その頃リュウギはポーチと剣のみという少ない持ち物ながらもしっかりと準備を進めていた。

ミントと握手をするリスト。

「あっ、そういえば傭兵のリリオ、昨日から見ませんけど……」

そういえば彼の姿が見当たらない。たしか仲間たちを連れてこのトリゴの町まで逃げてきたはずだが……

「ああ、彼ならもうグーラから出たよ。仕事はあくまでサルベージとトリゴの町まで帰るまでの護衛。もちろん報酬はしっかり払った。そのせいで残金が帰る分しか残ってないが」

「そうだったんですね。お別れ言うまで待ってくれれば良かったのに」

「ははっ、またどこかで会った時に挨拶すればいいさ」

まもなく正午。もうまもなくアヴァリティアに向かう船が出航する。そうなれば再びサルベージャー仲間たちと会うことはできない。はずだったが……

 

「何? 今は出航が禁止されてるって?」

「はい、というよりグーラ全体に一時渡航禁止命令が出されているようで……」

部下のサルベージャーからの報告にリストは唖然としていた。このままではアヴァリティアに帰れない。

「渡航禁止って、いったい何があったんだろう……」

その言葉を聞いて不思議に思うミント。ちょうどリュウギが準備を終えて宿から出てきたところだ。

「俺はもう準備できたけど……、って何かあったのか?」

少ない荷物を手にリュウギが目の前に現れた。

「トリゴの町を含めたグーラ全体の渡航禁止命令が出されたんだって。理由はまだ分からないけど」

肩を落とすリスト達。アヴァリティアへと帰るための船を予約しておいたのに行けなくなってしまった。足止めされている分やどの代金なども嵩むため、ただでさえ野盗に襲われて金が無いというのに最悪の状況である。

「せめてもう少し安い宿に泊まっていれば良かったか……」

「仕方ないですよ、まさか渡航禁止になるなんて誰にも予想できませんし」

部下のサルベージャーがリストの肩を叩きながら慰める。

「とりあえず、港の方を見にいってみたらどうだ? このままここで頭を抱えてるより、何か補償とかあるかもしれないし」

リュウギのその言葉を聞いて、ミント含めたサルベージャー達はとりあえず港の方へ向かうこととなった。

 

港の方には、おそらく今日出発する予定であった客たちでごった返していた。中には困惑する者も、大声で怒鳴る者もいた。仮面をかぶって素顔を隠しているスペルビア兵が、押し寄せる人をなんとかなだめている。

「あの様子じゃ、補償は何もなさそうだな……」

「思ったんですけど、グーラって20年前にアルスト大陸になってから他の国とは地続きになったんですよね? だったら陸路で行くこともできるんじゃないですか?」

ミントがリストに提案するが、リストは苦い顔をしている。

アルストは20年前に雲海が消え、国が建てられているような巨大な巨神獣はほとんどが一つになり、巨大な「アルスト大陸」となった。グーラももちろんその一つである。

「確かにその案もあるかもしれないが、グーラはスペルビアやアヴァリティアと違って隣の国への陸路がとても厳しい。繋がっている部分が高所にあるせいで高い壁を越えないといけない」

「あー、確かにそれじゃ厳しいですね……」

結局どうしようもないことを知ったミントとサルベージャー達は落胆した。このまま解除されるまで待たなければならないのか。

その時、人がごった返している向こう側に、一人のスペルビアの要人とおぼしき人が現れた。人々に押されている兵士を後ろにかくまって、人々の最前に立つ。

「皆様、この度は私たちの不手際によりこのような処置となってしまい申し訳ありません。説明が十分になされていないことに混乱しているようなので、スペルビアの執権官である私から説明させてもらいます」

「あの人って……まさかスペルビアのメレフ特別執権官!?」

ミントがその人物に驚いた。彼女はスペルビアの特別執権官。いわばスペルビアのナンバー2だ。それほどの人がなぜここにいるのだろうか。彼女は大きく息を吸い込んだ後、ハキハキと騒ぎをなだめるように演説を始めた。

 

「昨夜、スペルビアからこちらに到着したコアクリスタルの輸送船がペルフィキオの者に襲撃されました。その際、我々の兵士が数人殺害されました。我々はグーラからの逃走を防ぐためにこのような渡航禁止措置を急遽取りました。現在グーラに駐屯している兵士たちと共にすぐに彼の者を捕まえます。それまで申し訳ありませんが今しばらくお待ちください。もちろん今回の件による損害は我々で補償させていただきます」

全て述べ終えると、メレフは深く人々に向かって頭を下げた。スペルビアの要人がここまでしているのを見たからか、騒いでいた人々は落ち着きを取り戻した。

「なんとか補償が出るみたいだな。一安心ってところか」

リュウギはメレフのこの言葉を聞いてどこか突っかかるところがあった。コアクリスタルの輸送船を襲撃したペルフィキオの者……

「まさか、その犯人って……ショットか!?」

今、グーラに居るペルフィキオと言えばショットしかいないはずだ。明確にヤツがこのグーラの中にいると分かった。

「じゃあまだグーラの中に居るってことか……。よし、ちょうどいいし探しに行こう!」

ミントがリュウギに提案するが、リュウギは苦い顔をしている。

「確かにオルゴールを持ってるのはショットだけど、また危ない目に遭わせるわけには……」

「言ったでしょ? オルゴール取り戻すの協力するって」

「だけど……」

「大丈夫、今度は危険な真似しないし!」

ミントはグッドサインをリュウギに見せるが、リュウギは変わらず苦い顔をしている。

「そうだぞミント。相手はテロリスト、それも兵士を相手にして勝つようなやつだ。彼についていくのはいいがそんな危険なことは認められない」

リストはミントに厳しくそのことを叱る。しかしミントはムスッとした顔で納得行っていないようだった。しかし、何かを思いついたのか突然どこかへ走り出していった。

「あっ、おいミント!」

リストが追いかけようとするが、ミントはすぐに帰ってきた。一枚の手配書を手にして。

「ほら! ペルフィキオのショットを捕まえるのに貢献した方には賞金10万G! 危ない事はせず、ショットの居場所突き止めるだけなんで! 賞金も貰ってくるので! お願いします!」

ミントはリストに対し頭を下げた。ミントがここまで深く頭を下げるのは珍しいことだ。

「そこまで言うなら……ただし、本当に危ない真似はするなよ? お前の身はコルレルさんからしっかり預かってくれと頼んでるんだからな?」

「もちろんです!」

「いいのかよ……。ってか、ショットは捕まえずにスペルビアに引き渡す形にするのか?」

「直接戦ったって勝算無いし。あんただって結構ギリギリだったでしょ?」

「ま、そうだな……。オルゴールさえ取り戻せればどんな形でも良い」

ミントはリュウギとリストからついにショットを追う許可を貰った。もちろん危険なことはしないことを条件にだ。

せめてこれを持っていけとリストはミントに小さなシリンダのブローチを貰った。サルベージャーのお守りとしてサルベージャーならば誰でも持っている物。ミントはまだ新人なので持っていなかったのだ。このお守りにはサルベージで良い物が引き上げられるように、事故に遭わない様にという願いが込められている。

「それじゃ、行ってきます! なるべく早めに帰ってくるんで!」

 

 


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