ジュジュ様にお兄ちゃんがいたら   作:さっきのピラニア

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停滞

私の名前は乾紗寿叶。桜ノ宮女子高の二年生。

趣味はコスプレをすること。

 

そして私には兄妹がいる。

妹の心寿、そして兄の朔寿。

心寿は少し気が弱いけどとってもいい子。カメラが趣味で最近は私のコスプレの写真を撮ってSNSにアップしてくれている。

朔寿は私と同じ学年の年子だった。私はエスカレータ式の女子校に通っていたから同じ学校では無かったんだけど。で、兄の中身は一言で表すと陰キャオタク。口数少なくてそっけなくて、その上生気を感じられない。

 

兄の部屋には片隅の本棚ににアニメのDVDとゲームがギッシリと詰まっている。その要素を除くとショールームかと思う程に片付けられていて生活感は無いけれど。

 

昔の兄は今とは全然違っていた。

良くいるであろうゲーム好きのサッカー少年だった。

試合の日は兄の応援しに行って。偶に家族と旅行や遊園地に行ったりして。家ではゲームをしたりアニメを見たり。食卓では今日あった事、楽しかった事を話し合って。

私はこんな風に日常が続いていくんだろうな、仲良し三兄妹として少しずつ大人になっていくんだろうな、と曖昧に楽観的に考えていた。

 

最初は少し体調が悪い位なんだと思っていた。

精神的に病むというのは知識としては知っていた。でも実際に目の前の人間が、ましてや自分の兄がこんな風になるなんて想像していなかったのだ。

私にはその辛さは分からなかった。その苦しみは本人にしか分からないんだと思う。

 

両親は聞いても話してはくれなかった。事情は担任からある程度は聞かされていたのかもしれない。でも私達姉妹には結局はぐらかされてしまっていた。今思えば、私達も兄の用にはなって欲しく無いという気遣いだったのだと思う。それでも詳細は語られないまま、悪化していく日常をただ傍観させられたのは当時の私には納得出来なかった。

 

兄の学校へ行く頻度が1日、また1日と伸びていった。

兄は次第に塞ぎ込んでいった。部屋から出て来なくなってしまった。

心配して心寿とこっそり部屋の様子を確認したりもした。

訪れる度に兄の部屋からはモノが減っていった。

大好きだと昔言っていた選手のポスター。サッカー選手のカード。所属しているクラブのグッズ。そして、いつも部屋に転がっていたボールさえも。

それに気づく度に、兄から、そして私達姉妹からも、何かが零れ落ちてしまっている様な気がしていた。

半年程経った。兄は母に連れられて時折何処かへ出掛けていく。カウンセラーの所へ定期的に通っていたようだ。

お兄ちゃんは少しずつ良くなっているから。そう母は言っていた。

私から見たら何も好転している様には見えなかった。人が変わっしまった様に話を聞き入れてくれなくなってしまった。

あの時から停滞したまま、私にとっては前進すること無く、時間ばかりが過ぎていった。

 

 

そして兄がおかしくなってから1年が経過した。

 

 

兄の見た目をした、昔の兄で無くなってしまった人間がそこにいた。

酷い時期と比べると部屋から出て、共に食事する機会は増えた。しかし、兄から言葉が紡がれる事は無かった。

てっきりこのまま引きニートまっしぐらかと思えたが兄だが、4月から家から大分離れた高校へ入学することになっていた。いつの間に。気付けば一学年下の兄が誕生していたのだ。母に聞くと、中学時代の同級生が居ない高校がそこだった様だ。

 

一年遅れの兄の高校生活が始まり、私達は普段の生活を取り戻した。見かけ上は。

こんな家庭はあるのだろう。もっと大変な家庭もあるのだろう。そんな一般論に当てはめたところで、現状に私は納得できないし、変えたい気持ちは変わらない。しかし、決定的なきっかけは掴めないまま、日常は少しずつ過ぎていった。

 

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