灯台下暗し。とは、よく言ったものだ。
大型モニターに映し出された映像。
それはとある都会の防犯カメラの一部だ。
死角ギリギリの不鮮明なその一角。拡大された極々小さなそれを見つめて唇を吊り上げた。
「見つけた」
長く探し求めていた。
人工的に生み出された最強のポケモン。
ソレを探し続け。求めて。やっとの思いで発見したのは予想を大きく外れた街の中だった。
そして、それは自分たちのアジトの直ぐ傍だったのだ。
「ミュウツー‥!」
遂に見つけた。
もう、逃がしはしない。
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都会の中心に位置する巨大なビルの一つ。
ここは一企業の持ち物らしく屋上には人の出入りもなく、喧噪も遠い。まるで外界から切り離されたように静かだ。
果たして私はいつから此処に居て。
いつまで此処に在るのか。
私が生み出してしまったコピーのポケモン達は各々自分の世界を生きているのだろう。
野生として生き、パートナーを見つける者。
人間と共存する者。
最早、彼らの行方など私の知り得る事ではない。
彼らはもう二度と誰の干渉を受ける事もないのだから。
……私のように人から隠れ住む事もなく。
『それは、仕方がないことだ』
しかし、この心許無さは堪らない。
誰にも知られてはならない虚しさ。孤独。
まるで世界にたった一人きり、取り残されるような不安。
思わず口からは嘲笑が零れ、何も持たない両手を握り締めた。
『あの赤い帽子の少年は‥何処に行ったのか‥』
いっそ追いかけてしまえば。
否。むしろあの時、湖で出会ったあの時、連れて行って欲しいと言えたなら。
そこまで考えて首を振る。
『馬鹿な』
私が行ってどうする。
あの子に迷惑が掛かるだけだ。
あゝ。この自問自答も幾度した事だろう‥
呆れた頭を冷やす為に空を仰いだ。
この世界で一人きり。
それは、決して私だけではない。
神や。幻も、また同じ。
ならば。
『ミュウ‥』
お前ならば、こんな時はどうしているんだ。
全ての始祖でもあるミュウは。
そして、神、幻と呼ばれる彼らはこの虚しさをどう慰めているのか。
悩めどヒントを得られる訳もなく、熱を求めた両手は無意識に空へと伸ばされる。
『!』
背後の扉が。
唐突に打ち破られた。
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「やばーーーいい!!!!!!!」
果たしてこの目覚ましは本当にアラームをかけてくれていたのだろうか。
窓の外は晴天。
白いカーテンはわたしの騒々しさから僅かにはためき、窓際のミュウツーぬいぐるみをほんの少し揺らした。
その隣でポテッと倒れたのはリザードンだ。
ミュウツーを囲むリザードンとフシギバナ、カメックス。
彼らはつい先日劇場公開された「ミュウツーの逆襲」のリメイク作品にあやかって揃えた宝物。
「わ!ごめん!」
倒れてしまったリザードンぬいぐるみを起こしてミュウツーの隣に再び並べ、スポーツバッグを引っ張り上げた。
「リク!あんた学校は!?」
「今行くの!」
お母さんの声を聞きながら階段を駆け下りる。
食卓に並べられた朝食は、内心複雑ながらも有り難い事に私の寝坊を見越していたようだ。
香ばしく焼けたピザトーストを齧り、そのまま玄関へと走る私の後ろでため息一つ。
「あんた。また遅くまでゲームしてたの?」
ギクッ!
「………えへへ…」
「はあ……今日は早く帰ってこれるの?」
お咎め無し!
そうと知るや冷や汗も引っ込んで、振り向くと満面の笑顔がそこにあった。
「うん!早く帰る!」
「今日はあなたの誕生日なんだから、お祝いするわよ?
「兄さんが?!わかった!」
爪先を叩いて足を押し込み、ドアを開く。
そうして、もう一度振り向いた。
「いってきます!」
「いってらっしゃい」
お母さんの見送りを背中に走り、トーストを口の中に詰め込んでいく。
現金な体は朝から調子も良くて、これなら電車も余裕で間に合いそうだ。
定期を引っ張り出し、ふと、母の言葉を思い出す。
「兄さん‥」
今日、兄が帰って来る。
大学を卒業するなり就職の為に家を出てしまった兄が今何の仕事をしているのか私は知らない。
いつも空っぽの兄の席。
それが、今日は久し振りに埋まるらしい。
年に数回しかない、家族全員揃った一家団欒だ。
そう思うと足は軽いし、頬は緩む。
「楽しみ!」
こんなに体が軽いなら階段をいつもより早く下れそうだ。と、不意に震えたスマホに気付いて探しながら、駅のホームへ続く階段を踏み出した。
あゝ。衝撃。
「へ?」
なに?
遠く聞こえる人の悲鳴。
生暖かい感触。
何より痛む体に耐え切れず、視界は暗く沈んでいく。
リク‥来て‥
私を呼ぶのは、だれ?
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