気が付けば、そこは燃えていた。あの日遊んだ公園が、ある時使った滑り台が、毎日通ったあの道のりが。
僕の思い出が、この街が、全て燃えた。そして僕の意識は火の海に消えた──────。
「──────知らない天井だ……。」
なんて呟く。意識が戻ったかと思えば身に覚えのない天井が目に入り、思わず口にする。何故だろうか、こう言わねば始まらない気がしたからだ。
最後の記憶。熱い、熱い火の中。火の海。燃え盛る……そして焼き切れる程の炎。それしか頭に無かった。
────────記憶喪失。この単語が頭に浮かんだ。事実、過去が思い出せないのだ。最後の記憶の火の海。これが唯一にして最後の記憶になる。神サマとやらがいるのなら随分と意地の悪い性格をしているのだろう。
こんな事を考えていると、ギーッと、扉の開く音がした。
「あら、起きたのね?ああ、起き上がらないの。凄い火傷だったんだから。」
生きているのが不思議だった程だもの。なんて付け加えながら話す。
優しい、全てを包み込んでくれるような……そんな声色だった。
その女性は黒髪長髪の美人で……ああ、なんで僕を助けたのだろう。
疑問に思った。
何せメリットがひとつも無い。それに加え、あんな……あんな火の海の中からどうにかできるような、そんな人には見えなかった。
「不思議そうな顔をしているけれど……当てて見せよっか。ん〜、そうね……どうして助けたのか。かな?それとも……どうして助けることが出来た……かな。あ、もしかしてどっちも?」
そんなにも顔に出ていたのだろうか。自身の考えを当てられる。
「簡単な話よ。前者ならそうしたかったから。後者は…………ふふっ
信じてくれるかわかんないけれど……私って実は魔法使いなのよ?」
そう言いながら人差し指をこちらに向けてくる。綺麗な爪だな……なんて的外れな事を考えていると、突如そよ風程度の強さの風が此方に吹いてくる。まさか本当に、魔法使い……???
30過ぎまで不可侵条約を結んでいた訳でも無いだろうに。それに30過ぎには見えない。じゃあ何故だろうか。なんて割とマジめに考える。
「あの……これが、魔法……???」
「そう、これが魔法。知る人ぞ知る……って奴ね。ま、私もそんなに歴が長い訳じゃ無いのだけれどね?
あ、そうそう。貴方にもあるのよ?その魔法使いの才能」
───────────なん…だと!?
突如として知らされた事実にポカンとなる。いや待て、今まで普通の生活を繰り替えしていた僕にこんな力…無いだろう。そう疑う。
30どころか17の僕には早すぎる。じゃあなんだ、この人はもしかして
30過ぎても卒業しないんだろうなと予想しているのか!?
「そんなこと考えてないよ。それと、今更だけれど…貴方のお名前は?
私は風間アカリ。よろしくね?」
そう言うと軽くウィンクをしてくれる。なんだ、ただの可愛い人か。
そんなくだらない事を考えている暇があれば自己紹介をしろ僕。と、もう1人の僕では無いけれど、何かに急かされた気がした。早くしておこう。
「僕は……僕……あれ、僕の名は……」
─────────忘れた。否、忘れ去られた。これが正しいだろう。
燃え盛る火の中、己の記憶までもが燃えたのだ。
それに、何故か己の何かが警告を促してくれる。かの火の海で何かがあったのだと。
なればトラウマ……かは知らないけれど、気分の悪くなる火の海に飛び込もうじゃないか。と、覚悟を決めた。
己の名を探す為に。そして、火の海の中の何かを暴くため。