楽しい楽しい料理人修行生活 作:食戟のソーマはいいぞぉ
憂鬱な気分を迎えた朝から好奇心を擽られた子供気分へと変わっていた試験。そんな気分が吹き飛ぶほどの不機嫌イライラを胸にしまいつつ廊下を歩く。
親になんて言うか。試験に落ちた訳じゃないが普通にこの学校に入りたくなくなった。
だからといってバカ正直にそう言うべきか。かと言って落ちたと嘘ついてしまったら……あのアホ両親の事だからなぁ。
自分で言うのもなんだけどうちの親は親バカなところがある。俺の料理の腕を誰よりも認めてるのがうちの親だ。そんな親に"落ちた"なんて言ったらどうなるか。確実に学園にクレームを入れる。100%、絶対。
モンスターペアレント化した親とか恥ずかしすぎる。そんなことになったら俺は確実に引きこもりになってしまう。
でもなぁ、
「試験受けませんでしたは怒られちゃうだろうしなぁ…」
そうやってうーんうーんどうなりながら歩いていると、
「お?奏じゃん」
ばったりと会ってしまった面倒なやつ。
俺は声も挙げずに反射的に回れ右してきた道を戻っていた。
「おいおいおい」
「着いてくるな」
「おーい、おーい」
「うるせうるせ」
そんなことを言いながら歩いていたが……俺は思わずその場にしゃがんだ。
直後頭上を通る影。
「うおっとっと……、避けんなよー。てかなんで背中越しであたしの動きがわかんだよ」
「……相変わらずうるせーやつ」
そんなことを呟きながら目の前に立つ1人の女子生徒を見る。
赤みがかった茶髪。猫目の黄色い目。
俺に付きまとう半ストーカーの面倒な先輩。竜胆がそこにはいた。
「えりなちゃんかぁ……、なんかまあ、運がないな」
廊下を竜胆と並んで歩く。なんでこいつは着いてきてるんだろうか。
「あの子はなー、ちょっと気難しいっつーかなんつーか。その様子だと試験も受けてないだろ?」
「……まーね」
無愛想に返事する。
そんな様子をさっきから見せてるからか、今日の竜胆は少し大人しい。
昔から俺が苛立ってるのを察知するのが早い。そうなったらいつもの奔放な態度を抑えて接してくれるからそれはそれで助かるもんだ。
……普段からそうであって欲しいけど。
「うーん……まあしょうがないか。てか、久々に奏の料理食べたいんだけど」
「……この前炒飯作ったくね?」
「それはもう1週間前の話だろー?もうリンドーさんは我慢できません!さあ!付いてくるのだー!」
そう言って腕を引かれる。
……相も変わらず強引なやつ。でもこうやってむかしから半ば強引に俺の気分転換を無理やりやらせようと言うのは……悪くはないか。
そんな事を思いつつ、竜胆に腕を引かれ先導される形で校舎内の廊下を進んで行った。
◆
「よし!試験の時の食材は?」
「卵」
「じゃあ、卵で1品よろしく!」
そう言って椅子をギシギシ鳴らしながら身体を揺らす竜胆。
やってきた場所は校舎内の厨房。冷蔵庫には食材が豊富に揃えられてるし調味料だって完璧に装備。
作れるにゃ作れるが、
「〜〜〜♪」
面倒……とは思うがたまには竜胆に振る舞うか。
となると何を作ろうか。卵…卵……、
そんなことを思いつつバッグの中から包丁の収納ケースを取り出す。
中から出刃包丁を。いつもメンテは欠かしてないから今日も輝いてる。見ただけでわかる切れ味。手にも馴染む。今日は調子がいいな。
さて、何を作るか。頭でレシピを浮かばせながらいつもの癖で右手に持つ出刃包丁をペン回しのごとく回す。
「……久々に見るなぁ、奏の包丁回し。うわー、よく回せんなそれ」
竜胆の言葉が聞こえてくる、がそれに意識を割く気もない。
頭の中には色んなレシピ。
久々に振る舞うと思った手前、オムレツなんかで済ませる気もない。玉子焼きや目玉焼き、ゆで卵なんてもってのほか。そんな手抜きは矜恃に反する。
さて、朝の時間それに合う、腹は膨れるが重くない料理。
「……あれで行こう」
「お?決まった?」
「まあ……一応お前はまだ食ったことないはず…」
そう言うと、「それは楽しみだなぁ、楽しみすぎる」なんて言いながら大きくなる体の揺れ。……そのまま椅子から滑って落ちて骨折でもしろ。
さて作るか。
手にしていた出刃包丁をしまい、バッグを手に厨房へ立った。
「出来たぞ」
「待ってましたー!」
はしゃぐ竜胆の前に皿を置く。
そこに乗せたのは1つの、
「……ハンバーガーか?これ」
見た目はただのハンバーガー。
「まあ食え」
「はいはーい。そんじゃ早速……いただきます、っと」
一言そう言うと早速手に取る竜胆。そのまま口へと運び……齧り付いた。
「っ!?」
直後ビクッと体が反応する。
口に入った1口を何度も何度も噛み締め、味わった後に喉を鳴らしながら胃へ落とし込む。
その後吐き出される吐息。……反応がいちいち大袈裟すぎる。なんで飯食う光景見て色っぽいとか思わなあかんねん。
「なるほどなぁ」
吐き出された言葉。
「これ、バンズがクレープの生地か」
「正解。クレープの薄い生地を何度も折りたたんで厚みを出してバンズにしてる」
そう言うと頷く竜胆。
「それに挟まれたシャキシャキの野菜類。それにかかってるのは…」
「ごま油だな。調理中ずっと漬けておいた」
「それだけじゃないな?ごま油の中に砂糖と……醤油辺りかな」
「油だけだとくどいしな。おつまみでよく使う組み合わせドレッシングだ」
「それに……」
そこまで言うと再び齧り付き、咀嚼し飲み込み、首を縦に振り頷いた。
「このハンバーグ、豆腐か」
「そ、肉オンリーはこの時間は重いからヘルシーにな?豆腐バーグだよ」
「しかもかかってるこれケチャップじゃない」
「おう、ケチャップの原材料のトマト。それをペーストにして乗せただけだ」
「しかも…」
そしてまたもや齧り付く。
「卵の中にはチーズが挟まれてるときた」
「まあ、気づくよなー」
「はは、流石だわ。こんなの……美味くないわけないじゃん」
そこからはもう怒涛だった。
齧って齧って齧って齧り付いて、そしてその手からはいつの間にかハンバーガーが消えていた。
「どうだ?満足?」
「大・満・足ッ!!!ありがとな、奏」
「……どいたま」
竜胆の満面の笑顔に思わず俺も口角が上がった。昔から俺の料理を美味そうに食べて……、こう見りゃ美人なのにな。
「お!奏の笑った顔とか久々に見たな!」
「……」
「あ、おい。真顔に戻るな!」
「……終わったし帰ろー」
「おい、ちょっと待てってー」
バッグを肩にかけて部屋を出るとそれに続いて竜胆も出てきた。
着いてくるなっての。
あ、俺が食おうとしてた分そのまま食わずに置いてきちまった。
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