楽しい楽しい料理人修行生活 作:食戟のソーマはいいぞぉ
「ペアは決まりましたかな?それでは今からこのペアで料理を作ってもらいます」
先生の言葉が頭に入ってこない。
なぜって?
「「「「〜〜〜っ!」」」」
後ろからの視線が俺を殺そうとしてるからさ。
何あれ?怖いんだけど?俺はあんたらの親の仇か。
「えーと……よ、よろしくね?」
「ん?ああ、よろです」
とりあえずペアを組んだ人がいるんだ。迷惑かけんようにちゃんとしなきゃな。
……いや、やっぱ後ろが怖。
「さて、皆おはよう。今日ここにいるもの達は学生……ではあるが厨房に立ったのであればその身分はもう関係ない。料理人として美味な品を作る責任が生まれる。そのことを肝に銘じて今日の……いや、これからの授業に臨んでもらいたい」
そこまで話した教師は手にしていたクリップボードを開いた。
「では本日は【アクアパッツァ】。こちらを作ってもらう。イタリア料理の中でも定番のものではあるが……念の為レシピはホワイトボードに貼っておこう。制限時間は、そうだな……多めに2時間としておこう。完成した組から順に来なさい。では、調理開始!」
その言葉に一斉に動き出す生徒たち。
なるほど、アクアパッツァ……。
「……わからん、レシピ見てくるか」
「え?」
驚くペアの女の子を置いて前のホワイトボードへと向かう。
ふむふむ、なるほど……言ってしまえば、
「魚と貝のスープってとこか。おっけおっけ」
さてさっさと戻ろう。女の子がすごいキョトンとした目で見てるからね。
「よしじゃあ作ろっか」
「え?あ、うん……」
「あ、その前に……どうも橘です。橘奏。よろしくね?」
ちゃんと自己紹介しとかなきゃ。親父にも礼儀はちゃんとねとか言われてたし。
「え?あ……さ、榊涼子です。よろしく」
「そっか。じゃありょーこちゃん。早速食材取りに行こか?」
「あ、うん」
そんな会話をしつつ食材の置かれたテーブルまで来たが、
「……ふむ」
「これは」
……鮮度が悪い。テーブルに置かれた鯛を見て思った。
周りを見て見たらパッと見かなり鮮度のいい魚。この中で最も鮮度の悪い魚が残ったということか。
ま、でも、
「問題なし、だな」
「え?」
「りょーこちゃんはハマグリと野菜類持って行って」
「わ、分かったわ」
さて、あれはあるかなーと冷蔵庫の中を見る。
お!みっけ。"これ"があれば鮮度の悪い魚の臭みは取れる。
それを持って俺は小走りでりょーこちゃんの元へと急いだ。
「おまたー」
「あ、おかえり。なにしてたの?」
「ん?ちょっとね……、とりあえずりょーこちゃんハマグリと野菜類の準備頼んでもいい?魚は俺でやっとくから」
「うん、いいけど…」
さて役割分担も決まったなら早速やってくか。
まずいつも通り魚をサッと水洗い、その後腹を裂き、内臓を取りだし血合いも取る。そしてまたぬめりが取れるまで水洗い。
ぬめりが取れたらキッチンペーパーで水気を取りふり塩。魚全体に塩をかけ、満遍なくかけたなら少し寝かす。
「これでよし」
「ねえ」
「ん?」
「ハマグリなんだけど…」
りょーこちゃんが気まずそうにハマグリを出してきた。
なんだろう。そう思いつつハマグリを見てみる。なるほど、
「砂、多いね」
「ええ、どうしよう」
砂抜きはもうしてあったが俺たちが取ったのは最後に残ったハマグリたち。他と比べてまだ砂が残ってる。2時間もあれば取れる量だが、調理時間を考えると足りない。
……よし、
「これは俺に任せといて」
「……大丈夫?」
不安そうに聞いてくるりょーこちゃん。
「……信用がないな…」
「え、あ、ち、違うのよ。その……」
「あーいいよいいよ。大丈夫。とりあえず任せておいてくれれば。フライパンの方任せた」
「え、ええ」
半信半疑で包丁を握る彼女は時折こちらをちらちら見ていた。
とりあえず俺は鍋に水を入れる。
それを加熱。その間にやれることはやっとこう。
ニンニクを手に取りみじん切りにトマトは……りょーこちゃんがやってくれてたか。
さて、水の方も適度な温度になってきた。そのお湯の中にハマグリを平たく重ならないように並べる。
ハマグリの砂抜きは通常塩水で5時間近く浸すことでできるものだが、時短方法もある。それが【50度洗い】。
50度近くのお湯にハマグリを浸すことでだいたい5分で砂抜きは完了する。
ただし、その分リスクもある。お湯に浸した段階でハマグリが死ぬ可能性。そうならないようにお湯の管理。水を入れ冷やし、お湯を入れ温め、水量が多くなったらおたま等で掬って捨てる。
「……はい、ハマグリいいよ」
「え?あ、ありがとう。ちゃんと砂抜きはできてる……」
そんなことしてる間に魚ももういいだろうか。
ふりかけた塩を水で洗い流し、食べやすいようにおろしりょーこちゃんへ。
「……ありがと」
驚きが混じった声。
ちょうどりょーこちゃんが魚を焼こうとしてるタイミングで渡せた。今日は調子がいいね。
……暇だからツマミでも作っておくか。
魚の要らない部分、骨と頭。骨の部分をついてる身と一緒すり潰し、頭はスプーンで身を取り出す。それを混ぜて捏ねて丸めてつくねに。
「あ、魚にこれかけて」
「これは……ヨーグルト?」
ヨーグルト。魚の臭み成分のトリメチルアミンを分解するもの。
トリメチルアミンはアルカリ性だから酸性のヨーグルトをかけると臭みは取れるのだー。
「スープに入れる時に入れといてくれればいいから」
「……分かったわ」
「はい、白ワイン」
「え?……ありがと」
「胡椒と塩、ここに置いとくから」
「あ、うん」
さて、そろそろ出来上がりに近いな。
……、
「……胡椒、もう一振しといて」
「え?う、うん」
ま、こんなもんかな。
そのまま蓋を閉めて蒸す。
弱火で5分近く。
さらに盛り付け、パセリを散らしたら。
「でけた」
「い、一番乗り…」
りょーこちゃんが料理を運び俺がそれを後ろからついて行く。
その間、他の生徒たちからの視線が痛かった。
「……はやいな」
開口一番、教師から言われた。
「いやー、てこずった方ですけどね」
「え」
「……まあ、頂こう」
そうしてスプーンで掬い口へと運ぶ教師。
その瞬間、
「っ!」
目を見開き動きが止まる。
そうして数秒、動き出したかと思えば、スプーンを止めることなく何度も皿と口を往復しだした。
「……ふむ、すばらしい」
笑顔で言葉を吐き出す教師。
「ヨーグルト、魚の臭みを消すにはちょうどいいものだがその分魚の旨みも逃げていくというデメリットもある」
「そうですね。なので逃げた先がスープになるようにしました。その分ヨーグルトのまろやかさを魚にぶち込んで味を整えるように調整を」
「ああ、口に優しい味だ。温かみのある、それでいて纏まった旨みがガツンと来た。……よろしい、君たちには文句なし【A判定】。ただ、これ以上の評価を下せるなら迷わず私は高評価してるだろうね」
「……そすか。そいつはありがたいですね」
よし、終わった。
「りょーこちゃん。今日はありがとね」
「え、あ、こちらこそ…」
「じゃ、またねー」
そう言って俺は教室を後にした。
ちなみに作っていたつくねは一緒にスープの中で蒸らして、それをタッパに入れて来た。
……うん、美味い。
感想、評価待ってます。