名前がないほどの小さな村で、一つの生命が誕生しようとしていた。
「う“う”う“”ううツ……ツ……う“う”う“”うう」
「がんばれ!あとちょっとだ!もうすこしだ!」
「ちょっとガーラ!ベルが心配なのはわかるけど声を落としてくれ!うるさくてかなわん!」
「だがよぅ……ばあちゃん」
「お前はベルの手を握って祈っているだけでいいんだよ!」
「う“う”う“”ううツ……ヒッ…ヒッ…フーッ」
「気ぃ張るんだよベラ!もうすこしだッ!ほら、ヒッヒッフーヒッヒッフー!」
「ヒッ…ヒッ…うっ…フー」
「おまえぇ、頑張ってくれぇぇっ」
―――――――おぎゃあおぎゃあッ
――――――――――――――――――
スーゥ スーゥ
「ふぅ~~、一先ずこれで大丈夫だろうな」
「ありがとう、ティアナおばあちゃん。」
「ありがとうな、ばあちゃん。」
「いいよお、別に、人手が足りないから手伝うのは当り前さね。」
部屋の中では、しわが目立つが腰は曲がっていない老人ティアナ、赤髪でガタイのいいガーナ、赤子を抱える赤髪のベルが話をしていた。外はもう薄く明るくなってきており、もう少ししたらここからでもお日様が見えるだろう。
「それよりも、その子のなまえはどうするんだい?もうきめてあるのかい?」
「えぇ、この子の名前は―――ガベル。」
「あぁ、この子はガベル。俺らの3人目の子供さ。」
泣き疲れて寝てしまった我が子を愛おしく思いながらベルは答え、満面の笑みでティアナを見ながらガールは答える。
――――――――――――――
ガシュ ガシュ
一度振り上げたクワを思いっきり振り下ろし、少し固そうな地面に突き刺す。地面からやや傾いたクワの柄の角度を大きくしてから耕された地面から取り出してやる。そしてまた一度、クワを振り上げて思いっきり振り下ろす。
ガシュ ガシュ
「おーい、ガベルー。休憩だー。いったん休めー。」
数えるのが面倒と感じるほど土を耕していたら。遠くからまだ声変わりをしていない少年の声が聞こえた。声の聞こえた方向を見ると、小学4年生くらいの赤毛の男の子が手を振っていた。
「わかったよーリナにい。」
クワを持ってリナにいの方へ行く。まだ太陽は真上に上っていないが日差しは眩しく暑い。リナにいは空を見上げて立ち止まっている。俺を待っているようだ。
「(だるいなぁー)」
これが、ガベルが5歳の時の日常だった。
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あの女神が俺を転生させてから5年の月日がたった。
この世界で暑い時期と寒い時期を5回繰り返し過ごしたし、5歳になったことを祝ってもらったから、5年たったはずだ。
最初のころは苦労した。乳児を一度経験し、学校で赤子の成長を学ぶ機会があったから、また再び親にいろいろ世話してもらうのは恥ずかしかった。
大きい方が出た時なんて自分で処理できなかったから、粘着質な感触がお尻から伝わって声を上げた。……いや、これの反応は乳児としては正しいのだが。
また、言葉の方も苦労した。当たり前だが、この世界の言葉は前世の言語で話されていない。
俺の方に近づいて、話しかけてくるのはわかるのだが、いかんせん言葉がわからない。
だが、これは時間の問題だった。乳児の体は物覚えがいいのか、しばらくすると言葉がわかるようになってきた。
「だぁう。あう。」
「!あなたみて!ガベル、ハイハイができるようになっているわ!」
「本当か!いやあ、あいつらの時より早ぇな!」
毎日寝て、起きて、ぼーっとして、父の畑仕事見て、乳を飲んで、寝て、起きて、兄たちに世話されて、寝て、起きてはつまらなかったので、自分で歩きたいという思いが強くて、ほかの子よりも早くハイハイや歩けるようにした。
実際、兄たちに歩けるようになってから連れられた場所は、緑なんて公園と街路樹しか普段見ない前世とは違い、収穫時期の畑は作物が列を成していて面白かったし、子供の遊び場となっていた場所は花が一斉に咲く時期になると色とりどりな光景になって綺麗だと思った。
5歳になると、家の畑の手伝いを兄たちと同じようにさせられるようになった。
畑を耕すことを5歳児にやらせるのは酷だろうと、手伝いのことを父から伝えられた時、そう思いながら不満げな顔をしていたが、兄たちも通っている道、反対なんてできない。
それに、手伝い自体は太陽が上がりきると終わるので、畑仕事から解放された兄たちとほかの家の子たちと遊ぶことができる。できる……けど……。
(つまらない)
かけっこをしている友達や兄たちを見ながらそう思う。
この世界に漫画やゲームがあるはずもない、ボードゲームをしようにもそこまでは待っていたわけじゃないからすぐ飽きるだろう。
毎日毎日かけっこやチャンバラ、遊ぶ種類が少なすぎる。それに、食事は固いパンとスープが朝版の二食。
それが毎日。夜はロウソクがもったいないからとすぐ寝てしまう。
(ここはファンタジーの世界じゃなかったのか?髪の色がカラフルなのと自然が多いことしかわからないぞ。魔法のまの字も見当たらないし……。)
たまに村長の家に行って昔話を聞くことがあるが、ラノベで読んだことのあるような勇者が~~、まおうが~~、みたいなものしかない。
毎日毎日同じことばかりの繰り返し。
(楽しくない)
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それは、畑の手伝いが終わり、いつもの場所で他の子供たちと遊んでいるときだった。
「おい、ガベル。今から川遊びしようぜ。」
「うん、いいよリナにい。」
かけっこがひとまず終わり、向こうでガーベ家の長男、ゼラーニが、おれぐらいの年の子相手にかまっているのを木陰で眺めているときに、ガーベ家の次男、バレリナが川遊びをしようと誘いに来た。
別に断る理由もないので素直にうなずいてついていこう。
「で、リナにい、どこで川遊びするの?いつも水を汲みに行ってる場所?
それよりも下の方に行く?」
「いいや、それよりも上に、もっと上の場所で遊ぶぞ。」
そう言ってバレリナは腕を組み、何か企んでいる顔で俺を見た。
「だけどレナにい、上は母さんにも、父さんにも行くなって言われてたよね?
駄目だよ、そんなところに行ったら。」
「毎日毎日、刺激がねぇんだよ。ベル、お前もつまらなそうにしてたじゃねぇか。」
「それは、まあ、そうだけどさあ。」
「だろう!じゃあ行こうじゃねぇか。」
リナにいは俺がいつも退屈そうにしていたことにきづいていたようだ。
だから俺を誘ったのか。
「なになにー」「何の話してるのー」
「おぉ、バラにペト。よし、お前らも連れてってやろう。」
「何に―?」
「探検にだ」
「「たんけん!?」」
パリスさん家の俺の一つ下の双子。兄のギバラと妹のペトラが、俺とリナにいのところに寄ってきた。
ギバラの質問に、ただの水遊びを誇張してリナにいが伝えるものだから、二人は目を輝かせている。
「「いくいくー!」」
「よし!行こうじゃねぇか!」
「ねぇ、ゼラにいにこのこと伝えておかなくていいの?」
「そうしたら、兄貴に止められんだろ。内緒で行くぞ。」
まあ、そうそう危険なことに遭遇するはずがないし、今日だけ行ってもいいだろう。
クロスオーバー要素はまだ先の話になると思います。