木坂遊介とノイン・アリューエルのデュエルが終わり夜も更けた頃、ノインの自室は深夜にも関わらず電気が灯っていた。
「結局安価のカードも使う前に終わっちゃった……はあ……」
遊介とのシーズン戦が始まって2年。シーズン毎に勝利を重ねる事は出来ていたが、いづれも勝ち越しには至る事が出来ていなかった。今朝のスレも『ワンキルコンボがドバーッと出してきた』とか『妨害とか……なさらないんですか?』等ネタ混じりのクソコメがどっと流れた。
「遊くん、私の事嫌いなのかなあ」
ノインにとって、木坂遊介は人生のパートナーとなる唯一の存在と信じて疑わないものだった。幼少期から離れず共に過ごしていた彼と結ばれるのは運命なのだと確信していた彼女が高校卒業と同時に遊介に告白するのは必定だった。しかし答えは
「えっと……気が早すぎない? それに全てに劣ってる俺なんかより同族のいい男がいると思うんだけど。というか俺じゃあノインには釣り合わないよ」
自分の耳が信じられなかった。絶対に受け入れられる告白だと信じて疑わなかったものが裏切られたのだ。自分を卑下しているが、彼女にとって彼は自分とこれまでずっと一緒にいてくれた大切な人であり、思春期に入っても自分と変わらずに接してくれた数少ない人物なのだ。それだけで彼の存在感はノインの中で大きくなっている。だというのにあろうことか自分以外の男をすすめるなんて裏切り行為に他ならない。
「遊くん……なんで……」
ノインが思慮に耽っている時、遊介は次に使うデッキの構築に取り掛かっていた。
「次は……展開じゃなくて罠ビートでいこうか。いやでも特殊勝利も捨てがたいし」
淫魔をはじめとした上位種は一度使用されたデッキをすぐに把握する。使用されたカードから他に入っているカードの予測、展開ルートから妨害の数や防ぐべきポイントまで七割まで把握される。故に勝ち続けるにはカードをより多く手に入れ、手数を増やすのが最も有効な手段である。
「お、このカード……これで決まりかな」
遊介は自分の道を決め、
昼過ぎに集合という約束から翌日。準備を万端に済ませた遊介に対し、ノインは瞼をしょぼつかせながら決闘塔に集まった。遊介はこの日も配信でスレの住民にデュエルの様子を見せるつもりであり、配信が始まって早々コメントが多く寄せられていた。
「今日は遅いな。ノイン」
「ごめんね。昨日はデッキ調整で夜更かししてたから眠くて……」
「どうする?少し休んでからやるか?」
「大丈夫、さあ始めよう!」
「「デュエル!!」」
「先攻は俺だ。俺はモンスターをセット。カードを2枚伏せる」
「昨日と比べると動きが小さい……次のターンへの布石?」
「そんな悠長な事してたらワンキルしてくるだろお前。俺は魔法カード『太陽の書』を発動!反転召喚『メタモルポット』!」
メタモルポット ☆2 地
ATK700/DEF600
「メタモルポット……またデッキ破壊!?」
「リバース効果だ。互いに手札全てを捨て、デッキから新たに5枚引く。俺は1枚、お前は5枚全て捨ててもらう」
「デッキ破壊なんて聞いて素直にやってられないって!手札の『灰流うらら』を捨てて効果発動。デッキからカードを手札に加える効果を無効にする!」
「手札から速攻魔法『墓穴の指名者』を発動。灰流うららを対象にそいつをゲームから除外し、次のノインのターン終了時まで効果を無効にする」
「うっ!そんな……」
ノインの妨害も空しく、互いの手札が全て壺に飲み込まれる。ノインは昨日のデッキ構成では妨害札を引けずに敗北したため、枚数を40枚に戻したが、相手にも妨害札を握られていては仕方がない。
「更にカードを1枚伏せて魔法カード『月の書』を発動。メタモルポットを裏守備にするぜ。そして再び太陽の書を発動。メタモルポットを反転召喚し、効果発動だ」
「くぅ……エフェクト・ヴェーラーも入れておけば……」
ノインは構成の誤りを悔いるも、始まったデュエルは勝敗を付けなければ終わらない。メタモルポットは2人の手札を飲み込み、新たなカードを吐き出した。勿論効果エフェクトのため、処理では普通にデッキから手動でドローする。
「速攻魔法『皆既日食の書』を発動し、メタモルポットを裏守備にする。カードを2枚伏せてターンエンドだ」
「私のターン!私は手札の『サイバー・ドラゴン・ヘルツ』を捨てて『サイバー・ドラゴン・ネクステア』を特殊召喚!そしてネクステアの効果で墓地の『サイバー・ダーク・キメラ』を特殊召喚する。それにチェーンしてヘルツの効果発動。墓地へ送られた場合、デッキから『サイバー・ドラゴン』を手札に加える。手札の魔法カード『サイバー・ダーク・インフェルノ』を捨ててキメラの効果を発動!デッキから『パワーボンド』を手札に加える。このターン、私は融合召喚する際、ドラゴン族か機械族の『サイバー』モンスターしか素材に出来ないけど、このデッキにはそんなの関係無い!『エヴォリューション・レザルト・バースト』を発動!デッキから『オーバーロード・フュージョン』を手札に加え、発動!墓地の『サイバー・ドラゴン』とヘルツ、コア、サイバー・ダーク・ホーン、そしてフィールドのネクステアとキメラを除外して融合!『キメラテック・オーバー・ドラゴン』を融合召喚!!」
キメラテック・オーバー・ドラゴン ☆9 闇
ATK?/DEF?
「キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は融合素材1体につき800ポイントになる。素材は6体、これで攻撃力は4800!」
「だがキメラテック・オーバー・ドラゴンはモンスターにしか連撃出来ないぞ」
「その為のさっきのカード!エヴォリューション・レザルト・バーストの発動後、オーバーロード・フュージョンの効果で融合素材を6体以上使用した融合モンスターは素材の数だけ攻撃出来る!」
少しややこしいがキメラテック・オーバー・ドラゴンの効果は『融合素材の数だけ相手モンスターに攻撃できる』と攻撃対象にモンスターを指定している。それに対しエヴォリューション・レザルト・バーストのモンスターに付与する効果は『素材の数だけ攻撃できる』と攻撃対象を指定していない。よって
「これで遊くんにダイレクトアタックできる!」
「だが、俺のフィールドには5枚の伏せカード。どうする? 来るか?」
遊介は問いかけるが、ノインは選択を間違えない。
「当然!と言いたいけどその5枚の伏せカードを見逃すわけないよね!パワーボンド発動!手札のサイバー・ドラゴン2体とサイバー・ドラゴン・コアを融合!『キメラテック・ランページ・ドラゴン』を融合召喚!そして攻撃力は倍!」
キメラテック・ランページ・ドラゴン ☆5 闇
ATK2100→4200/DEF1600
「ランページの効果発動!素材にしたモンスターの数までフィールドの魔法・罠カードを破壊する。遊くんの伏せカードを3枚破壊!」
キメラティック・ランページ・ドラゴンの首が3つに伸び、それぞれから電流を纏った光線が発射される。遊介の伏せたカードの半分が破壊される。
しかし、遊介は待っていたと言わんばかりに口角を釣り上げていた。
「伏せていた『ジャックポット
カードを宣言した瞬間、遊介の背後に強欲な壺が上部に飾られたスロットマシンが現れる。
「ジャックポット7? そのカードって……」
「そう、このカードが3枚除外された時、俺はデュエルに勝利する!」
「それが2枚」
このカードこそ遊介の狙いである。悠長にしていればデッキ破壊により敗北。速攻を狙い妨害札を除去しようとすればジャックポット7を引きかねない。遊介の勝利にリーチのかかったノインはどのように動いてもサイバー・ドラゴン特有の隙をついて高火力で叩くしかなくなった。
「でも、動くしかない!ランページの効果発動!デッキから機械族・光属性のモンスターを2体まで墓地へ送り、墓地へ送った数まで攻撃回数を増やす。ネクステアとコアを墓地へ送って攻撃回数は3回!バトル!」
「
「くっ……やっぱりあった……」
「攻撃力が決まっていないキメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は0に戻る。そしてエンドフェイズに相手は自身のモンスター全てを表側守備表示に変え、その数だけドローさせる。これで20枚切ったか?」
「残りは……これで17枚だよ」
1ターンでデッキが半分まで減るのはよくあるが、今回はわけが違う。17枚とは言っているが、メタモルポッドの効果を4回使うだけでデッキアウトとなる。しかし、ノインの手札に再び転機が訪れた。
「ターンエンド。パワーボンドのリスク。ランページの元々の攻撃力分のダメージを受ける。そして2体を表側守備表示にして2枚ドロー……!」
灰流うらら。攻撃してこない遊介にとって相性の悪いカードが手札に入った。先程無効にされたが、少なくともこのカードなら遊介を止められる。ノインは心に笑みを浮かべた。
ノイン・アリューエル
LP8000→5900
しかし、それを読めない程遊介は伊達にノインとの付き合いは長くない。
「俺のターン。カードを3枚伏せてメタモルポッドを反転召喚。リバース効果で手札は全捨てだ」
「手札の灰流うららを捨てて効果発動!メタモルポッドを無効にする!」
「……仕方ない。ターンエンドだ」
「私のターン!私は魔法カード『サイバーロード・フュージョン』を発動!フィールド及び除外されているモンスターの中からサイバー・ドラゴンを含むモンスターをデッキに戻してサイバー・ドラゴンを融合素材とする融合モンスターを融合召喚する。除外されているサイバー・ドラゴン3体を融合!」
それはサイバー・ドラゴンデッキのエース。サイバー流が多く浸透している理由の半分。超ロマンを体現した機龍。
「サイバー・エンド・ドラゴン……融合召喚!!」
サイバー・エンド・ドラゴン ☆10 光
ATK4000/DEF2800
「下手に破壊するとまずいけど仕方ない!魔法カード『ハーピィの羽根箒』発動!相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!」
立体映像によって現れた羽根が遊介のカードを払い飛ばす。この状況から遊介が動けなければノインは大幅に有利な状況に持ち込める。
しかし、そのような状況を許す遊介ではなかった。
「ノイン……
ゲームエンドだ」
「……ホントに引き運どうなってんの?」
ノインの悪態など知った事ではないと言わんばかりにジャックポット7のスロットは中心のラインで7が揃う。するとジャックポット7が輝きだし、メダル口となる箇所から大量のメダルが溢れ出す。メダルはノインのフィールドを飲み込み、ノイン自身も巻き込まれた。
「ジャックポット成功!ジャックポット7が相手によって墓地へ送られたことでこのカードを除外、これで3枚除外された。よって俺はデュエルに勝利する!」
「こんなの無理ゲーだよおおおおおおおおおおおお!!!」
586:名無しの決闘者
ええ……
587:名無しの決闘者
これは引きもあるししゃーない
588:名無しの決闘者
デッキ破壊嫌って短期決戦狙おうにも妨害積まれてるしそれを破壊しようものならエクストラウィンかまされるとかろくでもねえな
589:名無しの決闘者
最後のカードがデッキに残ってると祈りながらバック割らんといけないとかいやーキツイっす
590:名無しの決闘者
しかしこれでイッチはリーチか
591:名無しの決闘者
どうしてこんなに勝ちにこだわるんや?
592:名無しの決闘者
そら金やろ
593:名無しの決闘者
負けたら干からびるまで搾り取られるしそら(負けたくないのは)そうよ
594:名無しの決闘者
でもそれを2年も続けるってのがなぁ……何かあるやろ
595:名無しの決闘者
その辺どうなんやイッチ?
596:サティスファクションイッチ
まあ否定はせん
597:名無しの決闘者
ファ!?
598:名無しの決闘者
どんな目的やイッチ!
599:名無しの決闘者
教えてくれてもええんやで?
600:名無しの決闘者
もう待ちきれないよ!早く出してくれ!
601:サティスファクションイッチ
……いや、プライベートやし秘密で
602:名無しの決闘者
は?
603:名無しの決闘者
そこは教えてくれるもんやろ!
604:名無しの決闘者
はぁーつっかえ!
605:名無しの決闘者
ここまで引っ張っといてこれとか恥ずかしくないのかよ
606:サティスファクションイッチ
やかましい全ては明日に掛かっとるんや
607:名無しの決闘者
明日勝てばパーフェクトゲームか
608:名無しの決闘者
何かするんか?
609:名無しの決闘者
プロポーズか?
610:サティスファクションイッチ
まあそれは明日次第やから
とりあえず負けないようにデッキ調整してから寝るわ
611:名無しの決闘者
乙ー
612:名無しの決闘者
乙
613:名無しの決闘者
明日のデュエルが最後か
614:名無しの決闘者
結局デッキの使い方の参考に……なったか?
615:名無しの決闘者
面白いデッキは多いけど
616:名無しの決闘者
何の参考にもならん
617:名無しの決闘者
駄目じゃねえか
仕事始まってから疲労が抜けない。5日の疲労が2日で取れる訳無いだろ!