真・女神転生 〜派遣サマナーの戦い〜   作:石川源流

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第1章 地獄の沙汰も金次第
第1話


きれいな放物線を描いた腕がクルクルと回る。断面から多量の血を吹き出しながら。宙を飛んでいった。

 

これは現実なのか?あまりの非現実さに脳が認識を拒む。しかし神経は嘘をつかない。正しく残酷な現実を脳に伝える。

焼け付く様な痛みが右腕から生じ、男の喉から獣の咆哮が発せられた。

 

「うぎゃぁぁぁぁぁ──────────!!!!」

 

呆気に取られながら事態を呑み込めずにいた男の仲間たちは、ただ茫然と口を開いて、木偶のように回転する腕の行方を見守っていた。後方に飛び去った腕は視界から消えると、後方のコンクリート柱に当たり、ベチャと嫌らしい音を立て、ズルズルと垂れ下がった。

 

「え、えっ………!!?」

 

形容しがたい困惑と徐々に湧き起こる恐怖。

ここまでわずか数秒。ほんの一瞬の出来事で集団に激震が走った。

思考の空白、意識の隙間。それは油断とはいえない程の油断であったが、炎に氷、雷と風といった超常の力をあらん限りに振るい、無造作に命を刈り取る【悪魔】との戦いにおいて、生死を分ける致命的なミスと言えるものであった。

 

「ち、ちぃ、散らばれぇぇぇえ─────!!」

 

名も知れぬ男の絶叫が鉄筋の剥き出しになった廃墟に響き渡り、蜘蛛の子を散らすように逃げようとした集団の中央に、巨大な炎弾が突き刺さる。

 

「うぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」

「熱い!熱い!熱い!熱い!」

 

直撃を受けた者は幸運にも即死、その周りにいた者は不幸にも楽に死ねなかった。

全身を余すところなく炎に炙られ、猛烈な痛みを訴えたまま地面でのたうち回って、死んだ。

 

廃墟を包む暗闇に“ロウソク”が灯ると、炎が飛んできた方向から馬に乗り中世の騎士のような甲冑に見を包んだ異形が現れた。令和の時勢に古めかしい西洋の騎士。ありえない。

だが、右手に持つ細長く鋭い槍から放たれる鈍い光は、その穂先が作り物などではないことを強く主張していた。

 

「ふむ、こんなものか?」

 

自らが起こした惨劇を一顧だにせず、まるで地を這う虫を踏み潰して何匹駆除出来るのか、何となく試してみた。

そんな意味合いを感じさる声色だ。

 

「ウウム…本気ではなかったといえ、かなり力が落ちておるな」

 

馬上の騎士は誰もいないかのようにひとり呟き、視線を手指に落とすと、身体の具合を確かめるように掌を開閉した。

グッと握り込まれた指の動きは何の変哲も無い動作であったが、生存者たちはそう思わなかった。

 

 

この騎士は()()だと。

 

「おいッ、何をしているんだ。ボサッとしないでアナライズをしろ!!」

 

遠巻きに騎士を取り囲んでいた集団。そのリーダーらしき人物が大声で部下に指示を飛ばすと、部下らしき人物が懐からスマートフォンを取り出し騎士に向けた。

出現した【悪魔】を計測し、種族や能力、大まかな強さや属性といった各種情報を収集しようとしたのだ。

「測定結果、だ、堕天使ベリス!! 対象レベルは……えっ、21……!!」

 

食い入る様に画面を見ていた男の声が上擦り、測定結果を伝えられたメンバーは耳を疑う。

絶対に勝てない。いや勝てないどころか逃げることすら覚束ない。

 

この集団を構成するメンバーの平均レベルは2である。

 

あまりにも絶望的な力の差。こんな馬鹿げた話はない。簡単な仕事だと聞いていたのに………!

最初に腕を切り飛ばされた男は薄れゆく意識の中で、荒れ狂う激情と迫りくる死と自分の非力さを呪いながら、わずか数時間前の出来事を思い出していた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「廃ビルに新しい異界が出現したので調査してこい」

 

所属する派遣会社から『拒否権の無い命令』があった。

終電に乗り、指示されたターミナル駅に向かう。中央改札口を抜けると、営業時間の終わったバス停に男達が居た。各々に面識はない。その内の1人だけ見覚えがある。派遣会社の担当だ。

 

「これで全員そろったか? よし、今から点呼する。呼ばれた者は返事しろ!」

 

安っぽいスーツをよれよれに着こなした冴えないサラリーマンといった風貌の男が、汚物を見るような視線を向け高圧的に呼び掛ける。上下関係を傘にきた横柄な態度であったが、力関係は圧倒的に向こうの方が上、逆らうことなど許されない。

 

「5番! 5番はいるか?」

 

自分の番号だ。返事をせねば。

 

「俺だ。俺が5番だ」

 

呼びかけられた男はやさぐれた感じのする青年であった。

 

長身で圧迫感のある上背は重々しく近寄りがたい空気を発し、油断なく動く視線が、周囲への警戒心を隠そうともしていない。

 

 

集まった男たちが戦々恐々といった感じならば、青年は無鉄砲に敵陣へ突撃する兵士そのものであった。

 

「クックック。お前か、まあいい。よし、これで全員揃ったな」

 

何が楽しいのか。笑いを噛み締めながら派遣会社の担当はスマートフォンを取り出し、何処かに連絡すると、集められた男達に嬉しそうに宣言した。

 

「聞け、クズども!! お前たちはギャンブルや風俗で身を持ち崩した、借金で首が回らない多重債務のクズ共だ。本来であれば地下のタコ部屋で、肺を粉塵にやられる恐怖に怯えながら一生を過ごす運命だった」

「だが、しかし!! 我々“帝愛スタッフ”は博愛精神にあふれた素晴らしい会社だ。お前らのような見下げ果てたカスどもに地上で生きるチャンスを与えた」

 

ツバを飛ばす勢いで皆に語りかける担当の目は爛々と輝き始め、冴えないサラリーマンは人の皮を被った“悪魔”へ変貌を遂げていた。

「いいかクズども、お前たちは本当に運がいい。今回の異界探索はなんと情報収集のみ。新しく出現した異界を封魔の鈴を持って調査するだけ! アイテムやマッカの回収は無し。すばらしく簡単な仕事だ。良かったな、喜べ!! 」

 

異界とはこの世ならざる場所。この世とあの世の狭間。

常識では考えられない現象が多発し、人の世に隠れ住む悪魔が大手を振って歩く『超危険地域』のことである。

では、なぜそんな危険な場所に人員を送り込むのか、疑問に思うだろう。答えは至極単純である。

 

とんでもなく儲かるからだ。

 

異界のアイテムは人理を超えた超常の力を持つ。

炎や雷の力を秘めた石、一瞬で怪我を癒やす薬、ウワサによると御伽話にある不老長寿の秘薬すらあるという。そういった現代技術ではとても再現できない物品は天井知らずの値がつく。それを狙おうというのだ。

 

派遣会社“帝愛スタッフ”は多重債務者を地下送りにするよりも、異界で貴重なアイテムを回収させた方が儲かることに、いち早く気付き方針を転換。人命軽視で彼らを強制的に従事させ、莫大な利益を上げていた。

 

「話は以上だ。何か質問があるか? 何も無ければさっそく異界探索を開始しろ」

 

集められた派遣社員たちは一様に不安そうな面持ちであったが、背に腹は代えられない。ここで拒否したとて、待っているのは終わりのない熾烈な取立てである。

 

何十年も借金に苦しむか、ここで一攫千金を狙い、異界に潜るのか。

選択肢のどちらを選んでも地獄であることに勘付いているのは、青年ただ1人であった。

 

内心の葛藤をよそに、1人また1人と異界に消えていく。

そんな彼らをみて「前回は俺だけしか生き残れなかった」とは口が裂けても言えなかった。

 




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