真・女神転生 〜派遣サマナーの戦い〜   作:石川源流

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年度末報告書が残り20ページもある。

残り3日、死ぬ気でやります!


第6話

名前:有原 ジロキチ

属性:中庸(ニュートラル)

レベル:3

所持金:0マッカ

MAG:1800

ステータス:力2 魔1 体8 速2 運1

スキル:ジャイブトーク

 

 

 

ガラケーのディスプレイに表示された自分の情報を眺める。

 

姓は有原、名はジロキチ。

親にもらった自分の名前で間違いない。

属性は混沌でもなく規律でもない中庸。いわゆるニュートラルというやつだ。

行動や選択によって属性は変わる。法に縛られない無秩序な行動を繰り返せば混沌(カオス)に傾き、法や理性に従えば規律(ロウ)になる。

 

すべては自分の下す判断と行動次第だ。

 

ただ、属性に縛られるのも馬鹿らしい。

どこの誰がどんな基準で決めているのか知らないが、自分の生き方を他人が判定するなんておかしいと思う。

青年、いやジロキチにとって、たとえ属性がカオスだからといって、カオス勢力に加担するつもりなど欠片もない。ロウも然りだ。

 

自分で人生を切り拓き、自分で成果をつかみ取る。成功すればよし、失敗したとしてもそれは自分自身が選んだ選択肢だ。

失敗すれば命を失いかねない。事実、今まで何度も死にかけた。

そんな苛酷な環境へ『否応なしに放り込まれた』のが自分だ。

 

(ハメられ、騙され、借金を背負わされ、無理やり探索させられて、死にかけた。その結果がナチュラルですってか? )

 

「属性ってそういうものじゃないですよ」と言われるかも知れないが、コチラとしては「ふざけるな!」と言うしかない。

よって今後どうなろうとも、属性についてはガン無視する予定だ。

 

(ぶっちゃけ属性は一神教臭いんだよなぁ。善か悪かみたいな、日本人には馴染みのない二元論的な極端さを感じるんだよ………)

 

ともかく属性で腹は膨れない。

そんなことよりも喫緊の課題はマッカである。

 

マッカとは悪魔たちが使用する()界の()幣である。ただ現在は無所持。我ながら0マッカは情けない。

帝愛はマッカの買い取りを日本円で行っている。借金の返済を早急に終わらせるためにも、今後はよりマッカを稼がねばならない。

 

「どうだ? 有用なスキルはあったか?」

 

 

痺れを切らしたかの様に横から遠藤の声が入った。随分長く考え込んでいたみたいだ。

 

「よく分からん。遠藤さんが確認してくれ」

「おいおい、いいのか?自分の手を晒すようなものだぞ?」

「構わん。見てくれ」

 

ガラケーを手渡す。

受け取った遠藤は確認するなり、ほぅと唸り声を上げ感嘆を漏らした。

 

「MAGの数値がズバ抜けている。そしてステータスの体もレベル3の数値じゃねえ。すごいな」

「すごいのか? そのMAGってのが俺にはよく解んねえんだが……?」

「MAGというのは生体マグネタイトのことだ。サマナーはマグネタイトを使用して悪魔を召喚するんだ。そして、この数値はその容量を示している。お前のこの1800という数字は尋常じゃない。中堅一歩手前ぐらいの数値だ」

「そうなんだ。まるで実感が無いんだけど」

 

分かったような、分からないような顔で、ジロキチは相槌を打つ。

マグの容量については知らないが、頭の容量は少ないほうだ。突然そんな事を言われジロキチは少々困惑気味だ。

 

「いや、そこは喜ぶべきところだ。 マグ保有量が多いということはそれだけ『強力な仲魔』を呼び出せるってことだ。お前の数値は尋常じゃない。中堅一歩手前ぐらいの数値を叩き出している。覚醒したばかりの駆け出しの数字じゃねえな」

 

遠藤の整然とした説明にわずかながら理解が進む。

しかしながら1つの大きな疑問がジロキチの頭を占めていた。

 

「でも遠藤さん、サマナーは自分よりレベルが高い悪魔は呼び出せない筈だ。たとえ俺のマグ保有量がどれだけ多かったとしても、レベルに制限がある以上、強力な悪魔と契約を結べないし、召喚にも応じないと思うが……」

「ああ、その認識で間違いない。通常であればお前の言う通り、悪魔が自分よりレベルの低いサマナーに従うことはない。だが、何事にも例外はある」

 

そんな話を耳にしたことはない。が、遠藤は自信満々で言い切った。それなりに確証があるのだろう。

 

「ぶっちゃけるがな、悪魔の契約はザルだ。俺のような帝愛の金貸しから見れば、あんな契約はザルすぎて話にならん」

「うわぁ……やっぱり帝愛は極悪なんだ。まさか契約の縛りも帝愛の方が厳しいの?」

 

主人公(ジロキチ)は何かを悟った目で、食い気味に遠藤を問い質す。その目は哀しみを背負っていた。

 

「クックックッ、そりゃウチだろう──!!」

 

 

「……………知ってたわ」

 

ガクリと肩を落とす。意気消沈とはこのことだ。

 

「考え方を変えてみろ。ウチよりマシだって思えば、悪魔との交渉も大したことないぜ」

「グッ、遠藤さんは前向きだなぁ(棒) 自分で悪魔よりマシだって言い切っちゃうもん」

 

喉まででかかった「お前が言うなや!!!」という言葉を必死で抑えこみ、チクリと嫌味を返してやったが、遠藤は意に介さない。

こちらの感情を無視して一方的に話を戻し始めた。

 

「一般に言われてるように仲魔に対するレベル制限は事実だ。間違いない。ただし抜け道があってな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……………マジかよ、初めて聞いたぜ」

「そりゃ知らないだろうよ。お互いの同意はまだしも、マグ保有量の高いサマナーは相当珍しい。詳しい事情を知っているヤツは少ないと思うぜ?」

 

少しずつ事情が飲み込めてきた。

つまり自分は覚醒ガチャで当たりを引いちまったってことだ。

 

「平たく言うと、マグが人一倍多い俺は、サマナーとしてかなり有利なスタートが切れるってことか。」

「ああ、その認識で合っている」

「…………………そうか」

 

 

 

異界送りにされて苦節3年。

 

臥薪嘗胆を胸に秘め、いつの日か陽の当たる場所へ帰るんだと心に誓った。

耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び、長い冬の寒さを乗り越えて、ようやく満開の花を咲かせる時がきたのだ。

すべては今日というこの日を迎えるための試練に過ぎなかった。

 

【レア覚醒】

 

神様は俺を見捨てなかった。

 

日々の食事ですら満足に取れず、空腹を抱えながら眠りにつくと夢の中でも悪魔に襲われた。

愚痴をこぼしても意味はなく、不満を述べても相手にされない。

財布の軽さと不安は比例する。返済はいつもギリギリ。精神はいつもガリガリだった。

 

「長かった。本当に長かった………」

 

肩を震わせて静かに俯く。

火傷しそうなほど熱い涙がこぼれ彼のシーツを濡らす。

ジロキチの男泣きに遠藤も感じるものがあったのだろう。いたわるようにジロキチの背中をポンポンと叩く。

 

 

 

 

「ああ、言い忘れた。マグの多いやつ悪魔に狙われる。ソッコーで死ぬから気を付けろ」

 

 

チッ。

 

一際大きな舌打ちを立て、ジロキチは苛ついた声で言い返す。

 

「………はいはい、知ってた。知ってたよ。上げて落とすのは本日二回目だわ。あ〜あぁ、寒いなぁ、天丼とか白けるんでヤメてもらっていいッスか 」

「てか、アレっしょ。話が広まっていないのも、俺みたいな体質のやつは長生き出来ないからでしょ? 」

「おそらくな、死人に口なしのケースは多いだろう。とはいえ、お前がツイてるのは本当だ。運が悪い場合だと、無自覚なまま覚醒し、何の支援も説明も受けられない新人もいるからな」

「そう考えれば俺はツイてるか…………」

 

どんな業界でもそうだが、この業界は特に生まれ育ちに将来を左右される。名門異能家系に生まれた子は圧倒的に有利であるし、名門ではない家の生まれであっても、異能持ちの家系であればある程度のサポートを受けられる。

 

最も苦労するのは一般家庭の生まれだ。

 

悪魔の脅威を教わらず、ごく普通の家庭で育ち、トラブルやイレギュラーでこの業界に放りこまれた者たちの運命は常に悲惨だ。

育成環境、関連情報、装備やアイテムのサポートなど、何一つ有効な支援をもらえず、右往左往しながらいつの間にか消えていく。

 

底辺探索者だったジロキチは当然ながら一般家庭枠である。

仕方のないことだと理解している。が、絶大な力を振る名門出の異能者の傍で地べたを這いずりながら、彼らのお溢れ(おこぼれ)を拾い集める自分の姿に、思うところが無いといえばウソになる。

 

運が良い言われても素直に受け取ることは難しい。

 

「らしくねぇな……」

 

遠藤は二本目のタバコを取り出すと、ジロキチに断ることなく火を着けた。

 

「俺の持論だが、サマナーや異能者に正解はないぜ。生まれも育ちも関係ないし、スキルやステータスも関係ない。そういう事じゃないんだよ。本当に評価されるべきところは──」

 

火の着いたタバコを口にくわえた遠藤は、こちらに断りもせず、備え付けの冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出しゴクゴク飲み始めた。

 

「おい、もったいぶらずに言えよ。てか、ここは病院だぞ?ばかすかタバコを吸うんじゃねえ」

「クックッ、仕方ない。教えてやるよ。ジロキチ、お前には3つの長所がある」

「1つ目はあんな大悪魔と対峙し大怪我しながらも生き残った点、2つ目はそれでも異界に潜ることをやめようとしない点、3つ目は意識不明に陥っても借金の返済をしようとした点だ」

「それ、ホントに褒めてるのか?」

「ああ、最高に褒めている。特に3番目はポイントが高いな」

「そりゃ、どうも。聞いて損したわ」

 

ジロキチの言葉に苦笑で応じた遠藤は、スーツの内ポケットからスマホを取り出すと、何らかのデータを表示させた。

 

「これは帝愛から金を借りている債務者の一覧データだ。社外秘だが特別にみせてやる。確認してみな」

 

遠藤からスマホを受け取ると、画面には債務者の名前がズラリと並んでいた。奇妙なことに何故か名前は赤色で表記されていた。

 

「不思議そうだな。じゃあ種明かしをしてやる。そのフォントが赤色で入力された名前は、返済を延滞しているカスと初めから返済する気のないクズ共だ」

 

上からスクロールしてみるが、赤表示の名前ばかりが目に付く。そうでない者もチラホラ目に付くものの、赤い海に浮かぶ孤島といった印象だ。

 

「いやこれ、ほとんど真っ赤なんだけど………」

「そうだ。9割以上が赤だ。しかも、それは法定金利内の真っ当な貸付けリストになる。トイチみたいな非合法じゃないものでソレだ。」

 

遠藤の表情は歪んでいた。

飲み干したアイスコーヒーが苦いだけではこうはならないだろう。

 

「よく聞け、ジロキチ。お前は少数派だ。」

「歯を食いしばってカネを返す姿勢も、酷い境遇から逃げ出さない自制心も、誰もが当たり前のように持っているようなものじゃない」

「子供の頃から「他人に迷惑を掛けるな」と言われ続け、大人になってもそれを守れる人間は想像以上に少ない」

 

否定できない。自分にも思い当たるフシがある。

金貸しとして遠藤は何十年も人間を観察してきた。その言葉には言い返すことのできない重みがあった。

 

「人間は弱い。大部分はラクな方にラクな方に流れていく。だから、会社や学校は責任と義務を強制する。そうでもしないとクズはどこまでも堕落するからだ」

「だからこそ、ステータスで人を判断するな。アナライズの結果だけが総てじゃない。『品性はレベルのように上がらない』こんな簡単なことが分からないヤツが多すぎるんだ。」

「これから先、クズ共がお前の足を引っ張るだろう。悪魔が誘惑を囁くかもしれん。だが、ブレるな。自分を貫き通せ」

 

「そういう人間はおのずと道が拓かれる」

 

遠藤は立ち上がり病室の大きな窓を開けた。風が流れ込む。

タバコの煙が徐々に消え、子供たちが遊ぶ声が遠くから聴こえた。

いつ以来だろうこんな和やかな気持ちになったのは。

 

 

 

「そう、今のお前のように」

 

いつの間にか近づいていた遠藤が、ジロキチの手を握っていた。

 

「おめでとう、ジロキチ。新しいサマナーの誕生だ。今後ともヨロシク!!」

 

差し出された手を握り返すと、どこか照れくさそうに遠藤は笑うのであった。

 




報告書を落としたら絶対に続かない。
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