真・女神転生 〜派遣サマナーの戦い〜   作:石川源流

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おまた


第7話

ジロキチは晴れて念願のコンプを手にした!!

やったぜ!!

 

 

(と、言いたいところだが契約している悪魔は未だゼロ。仲魔のいないサマナーなんてサマナーじゃないよなぁ…)

 

黄身のないタマゴか、カツの入っていない豚カツみたいなものだ。

とてもじゃないがサマナーとは名乗れない。

 

そんな訳で退院して早々にやってきたのが、なにやら曰くつきの廃ホテルだ。

ここは有名な心霊スポットで幽霊の目撃談も多い。

 

20年ほど前に経営が破綻しホテルは閉鎖。

その後、買い手がつかないまま放置され、屋根こそ落ちていないものの壁はひび割れ、草は伸び放題で荒れるに任せていた。

 

(ここか、DDSネットに載っていた初心者向けの異界は────)

 

コンプにより仲魔を扱えるようになっただけでなく、異能者やサマナーがネット上で集う『DDSネット』と接続できるようになった。

 

これがデカい。

 

何がデカいのかというと、悪魔、異界、その他諸々の隠された情報に接する機会を得たことだ。

悪魔の売買や交換、仕事の依頼や求人募集、交流掲示板に業界ニュースと、上げればキリがないほど表に流れない情報がDDSネットに集まる。

無論、秘匿されている情報もかなり多いらしい。

しかしながら、何らかの理由であえて隠されている情報を、駆け出しごときが手を出して、どうこうできるとは到底考えられない。

藪をつついて蛇ならいいが、ウロボロスやユルングが出てくるのがこの業界だ。ルーキーはルーキーらしく身の程を知るべきだろう。

 

(まずは戦力を充実すべきだ。【仲魔を集める】【レベルを上げる】この2点が、のし上がるための絶対条件だ)

(ハチの巣を突くのは、それからでも遅くない)

 

生い茂る雑草を掻き分け、ホテルの正面玄関までたどり着く。

 

「なになに、ご休憩……90分……6500円………………ここはもしや───!?」

 

よくよく見れば、地面にネオンの看板が転がっていた。

ピンク色の派手なものだ、目を凝らすと「ピンクのピエロ」と書かれていた。ラブホで間違いないだろう。

 

「どうして、こう、ラブホの名前は独特なんだろな。昔から不思議で仕方ない」

 

だが、そのネーミングセンスは嫌いじゃない。

下品さの中にニヤリとさせる何かがあってむしろ好きだ。

 

「なるほど、ピエロから『ピ』を抜くとエロになる」

「ピンクとエロ。スケベなイメージをダブルで重ね、宿泊客にエッチな事をアピールしているわけね」

 

昔から勉強はサッパリだが、この手のロクでもない事については頭が回る方だ。

 

秘められたメッセージを即座に読み解く。

だから一体なんなのだと突っ込まれても非常に困るが…

 

 

それはさて置き、探索を再開する。

 

「おおっ、カウンター方式か。これなら──!」

 

ラブホテルは基本的に客のプライバシーを守るために、対面で店員とやり取りする機会をわざと減らしている。

一般的なホテルとは異なり、店員と全く接しない事も珍しくない。

部屋を映したパネルを選択してそのまま部屋まで直行。プレイ終了後に備え付けの自動精算機でお支払い。これで終わりだ。

客と店員の面識が一切ない方式も多い。

 

「ラッキー、これなら普通のホテルと同じだ」

 

ホテルのロビーに入ると、右手にカウンターがあった。

ジロキチの狙いはキーボックスにあると思われるマスターキー。あれさえあれば移動に支障はない。

 

「よし、あった。これで扉の開閉は大丈夫だ。電力が必要なカードキーや全自動タイプならどうしようかと思ったぜ」

 

フロントのバックヤードを調べてみると予想通りキーボックスがあり、目当てのマスターキーは無事回収できた。

バックヤードの壁に館内の見取り図があったので、ガラケーで撮影しておく。

 

「5階建ての25室か…真に受け取るべきじゃないな。ここは異界だ」

 

 

異界化による内部の変化はよくあることだ。

むしろ変化していない場所の方が少ない。

外見が以前と変わらなかったとしても、室内は大幅に拡張されている可能性だってありえる。

探索者時代の先輩には『何でもアリだ。常識で判断すると大ヤケドするぞ』と脅された。

 

油断は禁物だろう。

見取り図を確認すると1階はガレージとロビー、あとは従業員区画だけだ。

 

「予想通り、客室は2階からか」

「………いや待てよ。1階に強い気配はなかった。ならボスは最上階にいるのか? 」

 

2階に続く階段を昇りながら、改めて探索プランを確認する。

 

異界には(ボス)がいる。

この主を倒すと異界は消滅するのだが、このラブホのように初心者専用の狩り場として『特別な事情』がある場合は消滅させてはならない。それが業界の取り決めだ。

 

 

 

よって今回はボスの討伐はなし。

仲魔集めがメインになる。プラン通りに事が進めばの話だが。

あるのだ、問題が。決して避けては通れない大問題が。

 

「悪魔は強さを重視するからなぁ。最低でも1体は確保したいが…難しいな」

 

悪魔は自分よりも強いサマナーに靡く(なびく)ことはあっても、自分よりも弱いサマナーの仲魔になることはない。

ジロキチのレベルは3。勧誘には困難が予想される。

 

強くなるためには仲魔が必要なのに、強くないと仲魔になってくれない

サマナー界隈では『仲魔のジレンマ』として有名らしい。

 

「無い物ねだりだと解っちゃいるんだが…歯がゆいな………」

 

しかし、やらねばならない。

金銭面に余裕はないし、借金の返済日も待ってくれない。

未だ底辺の身に変わりはないのだから。

 

「出来る出来ないの問題じゃない。やるしかないんだよなぁ」

 

 

 

嘆いてはいるものの、ジロキチの目には力があった。

命をチップに出たとこ勝負は毎度のこと。軽く考えるつもりはないが今更すぎるのだ。

 

2階に到着する。

少しばかり肌寒い。気温が下がったか。

 

「空気が変わったな」

 

ガラケーのエネミーソナーをチェックすると微弱な反応がある。

間違いない。悪魔の反応だ。

この日の為に用意した大型バール、通称(かな)てこバールを握りしめると確かな感触が返ってきた。

特殊鋼の無骨な手触りが今は頼もしい。悪魔との交渉が決裂すればこいつを使う事になる。

 

「そうはなりたくないが……」

 

 

たとえ悪魔といえど話の通じる相手なら、ワンチャンあるとジロキチは踏んでいる。

異界落ちする前は営業マンをしていたのだ。

取引先のオッサン連中を相手に何度もシビアな交渉を重ね、それなりの経験を積んでいる。

自信はあった。

 

「さて、どうなることやら…ッ!? お出ましか!!」

 

 

廊下の曲がり角からズルズルと何かを引きずる音がする。

ヒト型だ。だが様子がおかしい。フラフラと頭を揺らしながらこちらに近づいてくる。

 

「この禍々しい気配、こいつ人間じゃない!」

「ウァァァァ──!」

 

見つかった。こちらに向かってくる。

口を大きく開き、腕を突き出して迫ってくる様は映画のゾンビそのまま、ジロキチを捕食するつもりだ。

 

「あ〜ちょい待ち、俺の話を聞いてもらえるかな?」

「オレサマ、オマエ、マルカジリ!!」

 

丸かじりらしい。

相手の攻撃を躱しつつ、何度も話かけるてみるものの「マルカジリ!!」以外の返答がない。

 

「おっかしいなあ【ジャイブトーク】使ってんだけど…」

 

本来ダーク系悪魔に属するゾンビは意思疎通出来ないのだが、例外がある。

ジロキチの使用するジャイブトークだ。

覚醒した際になぜか持っていたスキルであり、現在唯一の所持スキルでもある。

 

このジャイブトークなら会話可能なハズだが……

 

「もしかして、会話するしない以前に知能が足りてないのか?」

 

ありえる───

話を聞かず襲い掛かってくるのは理性よりも本能に従ってるからか。

 

「は〜白けるわ。なんだよ、期待して損したわ」

「おつかれさん。成仏していいよ」

 

逃げの一手しか取れなかった頃とは違う。

重さ10kgもある金てこバールをゾンビの頭めがけて振り抜く。

スイカが破裂したような鈍い音が鳴り、膝から崩れたゾンビはゆっくりと霧消した。

 

「ヒュ〜、今までの俺とは違うぜ!」

 

明らかに一般人とは隔絶した一撃だった。

溜まりに溜まった悪魔に対するフラストレーションが霧のように消えていく。

 

「クゥぅぅ痺れるぜ、この手応は! クセになりそうだ……!」

 

当初の目的は頭の片隅に追いやられ、悪魔の討伐に意識は傾きつつあった。

もう一度フルスイングした感触を味わいたい。そう思わせる何かがバールにはあった。

 

「どうせ弱いままじゃ仲魔は振り向いてくれないんだ。多少の遠回りも許容範囲だろ。急がば回れと言うしな。さ、そんなことより探索再開だ」

 

レベル上げを大義名分にした自己欺瞞だ。

目的がすり替わっていることに気付かないフリをしながら、落書きだらけの廊下を進む。

不良の仕業だろう。

 

「心霊スポットに落書きしないと不良は死ぬのか。 カレーに福神漬、牛丼に紅生姜レベルのセット率だろ。一体なにが不良をそうさせるのか全く分からんね。ッッと!」

 

横目で落書きを眺めながら、背後をバールで突く。

 

「グェエェェェェ!?」

「バックアタックか? させるかよ」

 

ノールックで突き出されたバールは青白い火の玉【外道ウィルオフィスプ】に突き刺さる。

先程の争闘を聞きつけたウィルオフィスプが背後から忍び寄っていたことに、ジロキチは気づいていた。

 

「お前さぁ、バカだろ。光ってるのに不意打ちできるワケねーじゃん」

 

呆れきった声でウィルオフィスプに語りかける。

 

「グオオォヌケェェ…!!」

「抜けと言われて抜くバカがいるかよ、死ね!」

 

金てこバールは通常のバールとは異なり、鋭利ではないが先端は尖っている。

突き刺さったバールをそのままに、ウィルオフィスプをブーツで踏み抜く。このブーツには鉄板が仕込んであった。

それが決定打だったのだろう。青白い火の玉は苦悶の表情を浮かべながら消えていった。

 

「選り好みできる身分じゃないけど、アレはちょっとな……」

 

贅沢言うつもりはない。

ただゾンビもウィルオフィスプも、言葉は理解できても指示は理解できない知能だった。

命の掛かった場面で「理解出来ません」はさすがに勘弁してほしい。

 

「どこかにいねえかなぁ、仲魔になってくれて有能で頭が良いヤツは…………… 」

「フフッ随分お困りのようで…」

「何者だ!」

 

軋むような音を立てホテルの扉が開く。

即座に警戒態勢を取ったジロキチに、異形の悪魔が語りかけるのであった。

 




続きそうで続かない
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